意地
カルが向かった先は、自らの屋敷だった。
門扉を抜け玄関の扉を開けると、そのまま室内へと歩いて行く。
「こっちに来い」
絨毯の敷かれた暖炉のある部屋。
ソファーに腰を落とすと、室内に入ってきたエルフを、カルが改めて見つめる。
「警戒する必要はない。この家には俺しか住んでいないからな。好きな所に座ると良い」
くつろいだ様子を見せながら、腰を落とすようにとカルが促す。
「どうした? まぁ、立っていたいのなら、そうすれば良いが……」
座ろうとしないエルフを見て、軽く肩を竦めてみせる。
「まずは名前を聞こう」
「……」
問いかけに対する無言の返事。
「名乗りたくない、か……では、勝手に俺が名前をつけよう。名前が無いと呼ぶ時に面倒だからな」
「好きにしろ」
敵意を剥き出しにした返事にも、カルは臆する様子は微塵も見せない。
「そうだな。では、ベルタだ。今から、お前の事はベルタと呼ぼう」
「ふんっ」
名づけられた事が馬鹿馬鹿しいとばかりに、ベルタが小さく鼻を鳴らす。
「およそ奴隷らしくない態度だな。以前の主なら、鞭で打ちのめされていたというところか?」
「っっっ!」
カルの言葉に、ベルタがピクッと僅かに身を震わせた。
「図星か。だが、俺はそんな事をするつもりはない。お前は貴重な商品、だからな」
「下衆め……っ!」
敵意と軽蔑だけで塗り込められた言葉が吐き捨てられる。
「どうとでも言ってくれ。お前を買ったからには、俺の役に立ってもらう。それがルールだ」
「貴様の言いなりにはならん!」
「ほぅ、では、どうする?」
シンプルに問い返されたベルタが、グッと言葉に詰まってしまう。
「お前を娼婦にして、客を取らせる事も俺には出来る。お前は俺の所有物だからな」
ベルタの反応を楽しむように、カルが口もとを歪めて笑う。
「私にそのような事をさせるつもりなら……覚悟しておく事だ」
ギラリと光った瞳に殺意が浮かぶ。
その殺意が本物である事を理解したカルが、満足そうな笑みを浮かべる。
「なにがおかしい……何故笑う」
「俺の見込み通りだと思ってな。では、少し話を変えようか。俺がお前を買った目的は何だと思う?」
「私に分かる訳がない」
「お前の才能を見込んでの事だ。この帝都で、週末に闘技大会が開かれていることは知っているな?」
「知らん」
「そうか……では、その闘技大会の事から説明しなければならんな」
帝都の臣民達への娯楽の一環として、帝国主催の名の元に闘技大会が催される。
賞金をかけ闘技者達が闘技場で戦う。
どちらが勝利するかは賭けの対象にもなっており――
週末になると、闘技場には歓声と罵声が一日中こだまする事になる。
唯一許された公式の賭け事なので、誰でも賭け券を買う事は許されていた。
ゆえに、老若男女が熱狂し、闘技者は奴隷の身でありながらも、一種の尊敬と莫大な人気を得る存在となっていた。
強ければ強いだけ、その名声はあがり、年に一度催される皇帝の御前で催される大会で優勝する事になれば――
奴隷の身からも解放され、栄えある皇族直属の近衛兵に抜擢される事も許された。
御前闘技会で優勝した闘技者を所有する事は、所有者にとっても名誉なことであり、貴族や大商人たちは、競って優れた闘技者を手に入れようとしていた。
下は貧民から、上は貴族まで――
帝国全体を熱狂させているのが、闘技大会であった。
「そして、俺は、その闘技者を育成する闘技師といった訳だ。俺が何の為にお前を買ったのかは、もう分かるだろう?」
「私に……無益な戦いをさせようというのか?」
「そういう事になる」
「断る」
断固とした口調で、ベルタが呟くとそのまま顔を背けてしまう。
「闘技者になる事は、お前にとっても悪い話じゃない筈だぞ」
言葉を続けるカルだったが、聞く耳を持たないといった態度のまま、ベルタは頑なに心を閉ざし続ける。
「闘技会に出ないというのであれば、俺はお前を娼婦にでもして、金を稼がせなければならんのだがな」
「勝手にすれば良い。私は……誰の命にも従うつもりはない」
「そうか……まぁ、よく考える事だ。お前の部屋を教えてやるついて来い」
ソファーから立ち上がったカルが、扉の方へと向かう。
だが、ベルタは微塵も動こうとはしない。
「安心しろ。お前を押しこめたりするような事はしない」
そう告げると、カルが居間を出て行く。
その背中を憎々し気に睨みつけていたベルタだったが――
僅かに戸惑うような表情を一瞬だけ浮かべた後、思い切ったように足を踏み出す。
カルとベルタが向かった先は、二階にある一室だった。
「以前に、俺が育てた闘技者が使っていた部屋だ。今日からここがお前の部屋になる」
質素ではあるが、机、椅子、ベッド、タンスと、日常生活に必要なものはある程度が備え付けられていた。
部屋全体も、それなりの広さがあり、奴隷が使うような部屋とはとても思えない。
室内を見回し、その待遇に対して戸惑いを見せるベルタ。
「浴室とトイレは一階にある。食事は、さっきの部屋で食べる。掃除や洗濯、食事の準備は通いのメイドがしてくれる事になっている」
「何故だ……奴隷に何故、ここまでする」
「言っただろう? 俺は、お前を闘技者にする為に買った。闘技者は、戦う事こそが仕事だからな」
「私は無益な戦いなどしない。そう言った筈だ」
「なら、娼婦だ。娼婦は男を取るのが仕事だからな。仕事以外の事をする必要はない。ただ、それだけの事だ」
サバサバとしたカルの態度に対して、ベルタが不思議なものでも見るような顔になる。
「食事が出来れば通いのメイドが教えにくる。それまでは好きにしていろ」
「私を……拘束しないのか?」
「拘束? この街からは出られないのは分かっているだろう?」
カルの視線が、改めて首輪へと向けられる。
「この街で、惨めに彷徨いながら生きるつもりなら好きにすれば良い」
そう言い残すと、カルが開いたままの扉から出て行く。
その後ろ姿を見送ったまま、ベルタはギリッと強く奥歯を噛みしめていた。
ベルタが買われ、カルの家に迎え入れられてから数日が過ぎた。
「食事を取っていないようだな」
この数日の間、ベルタが食事の席に現られる事は無く、メイドが部屋へと運んだ食事にも手はつけられていなかった。
部屋を訪れたカルが見たのは、少し頬のこけたベルタの姿だった。
食事を断っている為に、屋敷に連れて帰って来た時よりも生気は弱々しくなっていた。
だが、反抗心と敵意だけは、鋭く光る瞳に未だ強く宿っている。
「断食をして死を選ぶつもりか?」
単刀直入な問いかけにも、ベルタは返事をしない。
「いや、お前に死を選ぶ気などさらさら無い事は分かっている」
「何……っ!? 私を侮辱するつもりか!?」
挑発的な言葉に反応したベルタが、怒気を燃え上がらせる。
「死を選ぶつもりなら、俺を殺せば良い。そうすれば、主従の刻印が反応して、お前も死ねる。そうだろう?」
ベルタの反応に身構える事無く、余裕を見せるカルが、短刀をベッドの上に放り投げる。
「俺を殺すつもりなら、いつでも殺せた筈だぞ?」
この数日の間、ベルタの自由が拘束される事は無かった。
同じ屋根の下で生活するカルが、何ら警戒する事無く日々の生活を送ってきた事は、ベルタも気づいている。
屋敷の中には、カルを殺す為の武器など、いくつもあった。
そして、今、ベッドの上には放り投げられた鈍く光る短刀がある。
その光に吸い寄せられるように、ベルタが短刀を手に取る。
「そうだ。断食などとまどろっこしい事をしなくとも……心の臓を一刺しすれば、簡単に死ねる」
ベルタが手にした刃がカルの胸元へと向けられる。
怒気に覆われていた切れ長の瞳から、スーッと感情が消えていく。
身震いするような冷徹さに、常人であれば後退り膝を震わせていたかもしれない。
だが、カルには臆する気配は微塵も無かった。
「っっっ!!!!」
ヒュンッと風を切る音と共に、鋭く短刀が突き出される。
その切っ先が胸元へと埋め込まれそうになった瞬間――
「くっ!!!」
尖った先端が直前で進行方向を変える。
刃によって服が切り裂かれ、胸元をツツッと鮮血が垂れ落ちる。
「どうした? 切るんじゃなくて突き刺さなければ殺せないぞ?」
皮一枚を切られてもなお、カルから余裕が消える事は無い。
「くぅっ!!」
小さく苦痛の声を漏らしたベルタの胸元が、カルと同じように切り傷を浮かばせる。
主従の契りが交わされた今、主が受けた傷は、従者にも刻まれる。
そして、主が受けた以上の痛みが従者には与えられる。
褐色の肌を鮮血が濡らし、ポタポタと床に血だまりを作っていく。
カランッと金属音を響かせ、握っていた短刀を床に落とすベルタ。
カルの威圧に負けたかのように、ベッドの上に腰を落とす。
「食事を持ってこさせる。それと怪我の治療もちゃんと受ける事だ」
そう言い残すと、カルが踵を返し部屋を出る。
しばらくすると治療箱を持ったメイドが部屋へとやってきた。
座り込んだまま言葉を発しないベルタを、メイドが無言のままに治療する。
されるがままになっていたベルタの治療が終わると、、今度は別のメイドが食事を持ってきた。
食事を置いたメイドが一礼して部屋を出て行く。
「私は……死ぬわけにはいかない……まだ死ねない……」
スープから立ち上る湯気を見ながら、絞り出すような声で独り言つベルタ。
死への決意が出来ていない事を見透かされていた。
短刀を向けられ切りつけられても、たじろぐ気配さえみせなかったカルの様子を思い出すと――
死の決意も無いままに断食をしていた自分が、カルに負けてしまったように感じ、ベルタが悔しげに唇を噛みしめる。
「そうだ。まだ死ねない……死ぬ訳にはいかないのだ……」
先ほどと同じ言葉をもう一度呟くと、ベルタは数日間の空腹を満たすように、食事を口に運んでいった。
食事を取るようになったベルタではあったが、その頑なな態度が変わる事は無かった。
以前の主による折檻や調教にも耐え、手に負えないと売りに出された強靱な精神と誇りをもつベルタ。
その誇り高いベルタが奴隷の身に堕とされてもなお死を選ばない。
その理由はベルタしか知りえない事だった。
「大分、調子の方は良いみたいだな」
食事を取るようになってからのベルタは、カルが買い取った時よりも、生き生きとした精気を表に出すようになっていた。
「貴様には……関係の無い事だ」
会話をする事も忌々しいといった口調だが、食事を与えてもらっているという恩義は感じているのか――
カルの問いかけを無視する回数は減っていた。
「そう言うな。少しくらいは話し相手になってくれても良いだろう」
「何故私が、貴様の相手をしなければならない」
「ははっ、だが、お前も暇なんじゃないのか? どこに出かけるでもなく、一日中部屋の中にこもりっぱなしだ」
「この街の不浄な空気を吸いたくないだけだ」
「そうか。確かにエルフにとっては、人の多いこの街は息苦しいかもしれないな」
ベルタ自身、会話を続けるつもりは無いのだが――
カルがごく自然に話をあわせてくると、自然と口が滑らかになってしまう。
「だったら、街の外に出てみるか?」
「何、だと……?」
街の外に出る。
その言葉を聞いたベルタがピクッと反応を示す。
「首輪をしていても主と一緒ならば外には出られる。どうだ? 今からでも出てみるか?」
「……何を考えている」
カルの意図が分からないと――
警戒を見せるが、街の外に出たいという誘惑に刺激されてしまったのか、ベルタがコクリと小さく喉を鳴らす。
「主と一緒に街の外に出る事は、それほど珍しい事じゃないだろう? 他の奴隷達だって出ているさ」
「他の奴隷の事などどうでも良い。貴様が何を企んでいるかと聞いている」
「ははっ、人聞きが悪いな。何も企んでいないさ」
両手を広げ肩を竦めながらカルが快活に笑う。
「まぁ、無理強いはしないがな。で、どうする? 行くか? 行かないのか?」
促すように問いかけてくるカルを、ベルタが探るような視線で見つめ返す。
瞳に滾っていた敵意が幾分か弱まり、逡巡するように黙り込んでしまった。
そんなベルタの反応を面白そうに見守ったまま、カルが返事を待っている。
「……行こう。もうずっと森の空気を吸っていない」
以前の主に買われた時は屋敷の外に出る事すら許されなかったのだろう。
人で満ち満ちた街の空気にうんざりしていたかのように、ベルタがカルの提案を受け入れる。
「少しは素直になってきたようだな」
「黙れ」
軽口に対してぴしゃりと跳ね付けるように吐き捨てると、そのまま真一文字に唇を引き結び黙り込んでしまう。
だが、歩き出したカルの後をついてくるベルタの足取りは――
押し隠そうとしても零れ出てしまうかのように軽やかだった。
帝都の門は、日の出から日の入りまで開けられている。
帝都への出入りは認証魔法によって管理され、敵国の者が迂闊に忍び込めないようになっていた。
門兵たちが警護するゲートを、一人ずつ順番に通り抜けていく。
その際に奴隷は、主と一緒に抜ける事を義務付けられていた。
「おぉ、カルさんじゃないか。今度の闘技者はエルフなのか?」
「あぁ、なかなか見込みがありそうなんだが、デビューはもう少し先になるかな」
「昨年の御前闘技会の優勝で、あんたの名前も上の人たちには知れ渡っているだろう。専属のオファーがあったりするんじゃないのか?」
「まぁ、ね。だが、俺は一人の方が気楽だからな。貴族様のご機嫌伺いは性にあわないようだ」
「はははっ、あんたらしい。分かっていると思うが、奴隷が外に出ていられるのは日の入りまでだ。気をつけろよ」
「分かっている」
門兵と言葉を交わしたカルが手続きを済ませ、ベルタと共に門を抜ける。
「っっっ」
門を抜けるまでの間、首輪の内部から毒針が飛び出してくるのではないかと気が気でなかったのか――
額に汗の玉を浮かばせたベルタは緊張に顔を強張らせっぱなしになっていた。
だが、無事抜けた事を確認すると、小さく息を吐き出し歩みを緩める。
「どうした? 怖くて腰が抜けたか?」
「ば、馬鹿を言うな……」
言い返す声にも、どことなく力がこもっていない。
「門兵の話を聞いていたから分かると思うが、逃げようとは思わない事だ。日が沈めば、その首輪が反応してしまうからな」
「分かっている」
忌々しそうに首輪を見たベルタだったが、その顔がすぐに緩み始める。
帝都内と違い、門を抜ければ一気に木々に繁る緑の量が増えていく。
その事は、軋んでいたベルタの感情を和らげる効果があったのか――
足取りが軽くなっているのは、もう隠しきれなくなっていた。
「どこか行きたい場所はあるか?」
「この辺りの事はよく分からん。だが、出来るだけ人の居ない場所に……後は、木々が多い場所に……」
「はははっ、色々と注文をつけられるようになってきたじゃないか」
「だ、黙れ……貴様が聞いたから答えただけだ」
カルの軽口に、ベルタが少しムキになって言い返す。
「日の入りまでは、まだ十分に時間がある。散策としゃれこもうか」
歩き出すカルの後ろを、ベルタが大人しくついていく。
舗装されていた道が、土の道へと変わるにつれ、緑が更に色濃くなっていく。
辺りに人家は無く、高く伸びた木々が生い茂る森へと、カルとベルタが向かっていく。
「どうだ? お望み通り、人気の無い緑の多い場所だ」
「……この匂い……この空気……随分と久しぶりだ」
立ち止まり新鮮な空気を大きく吸いこみ、感慨深そうに呟く。
自然の中へと溶け込む事への喜びに、褐色の肌が打ち震えている。
「ほぅ、街に居た時よりも、随分と穏やかになっているじゃないか」
警戒心は緩めていないが、刺々しさは薄らいでいる。
カルのからかうような言葉に反論をしかけたベルタだったが、すぐに思い止まったように言葉を飲み込む。
「少し、一人にさせてもらえないだろうか?」
自然の中に溶け込むのを誰にも邪魔をされたくない。
その想いを声に出すが、カルに対する強い拒絶感は滲んではいない。
礼儀正しくお願いをするように、僅かばかりだが頭も下げる。
「良いだろう。好きにすれば良い。俺も、適当に時間を潰しているとしよう」
一人心を落ち着けようとしているベルタを残し、カルが静かにその場を歩み去る。
「しかし……時間を潰すにしても、何もないな」
ベルタと違い、森林浴を楽しむ趣味のないカルにとっては、どうやって時間を潰すかが問題になってくる。
「やれやれ……」
森の中を進むと、小川のせせらぎが聞こえてくる。
草を踏み分け音のする方へと向かうと、少し拓けた場所にたどり着く。
腰を据えられそうな岩を見つけると、その場に腰を落とす。
「さて……どうなるかな」
大金をはたいて買ったベルタは未だに反抗的であり、言う事を聞く気配は無い。
奴隷が言う事を聞かないという事実は、主にとって苛立ちを感じさせる筈だが――
不思議とカルからは、そういった苛立ちの気配は感じられなかった。
むしろ、今の状況を楽しんでいるかのような、軽い笑みすら口もとに浮かんでいる。
「あんた、こんな所で何してんだぁ?」
不意に背後から聞こえてきた野太い声。
振り返ると、矢筒を背負い弓を持った猟師の姿がカルの視界に入ってきた。
「ちょっと休憩を、ね」
「旅の人かね?」
「いや、帝都から来た」
「ほほぉ、帝都か。あそこは賑やかで良いだねぇ」
「あぁ、だが賑やか過ぎるからな。少し、気持ちを落ち着けたくてここまで来た訳だ」
「そうかそうか。だけど、あまりここには長居せん方が良いだ」
辺りを見回しながら、猟師が少し声を潜める。
「この近くに野盗共の寝床があるそうだで、殆ど人も近づかんからな」
「だが、爺さんは大丈夫なのか?」
「ははっ、オラだって危ないのは分かってるだが……ここは人が近づかん分、獲物が多いでなぁ」
野盗との遭遇を恐れ猟師もあまり近づかないが故に、獲物が豊富にいる。
「オラのような年寄りになると、獲物を探すのだけでも一苦労だで。それに、オラは金目のものは持ってないだでな」
危険を冒してでも森に入らなければ、生活が成り立たないのだろう。
「あんたも、早く帰った方が良いだよ」
そう言い残すと、猟師が森の中へと消えていく。
「野盗、か……」
野盗の話を聞かされたカルの脳裏にベルタの姿が浮かぶ。
武器を持っていないベルタと野盗が遭遇をすれば、どうなるか……。
一瞬、深刻な顔になりかけたカルだったが、すぐにまた口元を緩めて笑う。
「それはそれで、どうなるかを見てみたいな。腕を確かめるには、ちょうど良い」
本気で心配をするつもりは無いのか、カルは岩に腰を落としたまま、また川面へと視線を戻してしまった。