61話 過去も
「どのくらい入ってた?」
「四年と半年だ」ガズウィスは、おおらかな社会の一員でいることに満足している。「子供は守られながら育つもんだからな」
「ああ、少年法か。早く戻ってこられたわけだ」
運送用の小型トラックの運転手と化したギミィは、相変わらず事故とは縁がなさそうな運転をする。咥え煙草をやめれば非の打ち所がない。
少年刑務所から解放されたガズウィス。その隣にハンドルを握るギミィ。人生の分岐点にはいつも悪い偶然が糸を引いている。二人は並んで、雨粒とワイパーが躍る景色を見ている。
「おまえはなんで堅気になってんだ?」
「堅気は最高さ。ちゃんと給料と休日が決まってるんだ」
行き場のない紫煙が車内を漂う。空調が死んだあのホテルでは大量の火薬がはじけた。同じ煙でも紫煙は物憂げに流れる。
「カートライトを仕留めたのは俺だよ」
「賞金は貰えた?」
「今まで忘れてたよ」
ギミィが声を上げて笑う。屈託のない、カラッとした声だ。
「俺が取りこぼした幸運がおまえに回ってくるかもしれないぜ、ギミィ」
「この不運に帳尻が合うような大きな幸運が?」そう言って、やはりギミィは笑っている。
ガズウィスの拳銃がギミィの脇腹を狙っている。
「俺の首にいくらの値がつくか、期待してな」
腕が少し疲れたので、いっそ撃ってしまえば楽だと思ったが、ガズウィスは黙っている。奪ってでも欲しいトラックに運転手が乗っているのなら撃ち殺しても構わないのだが、その運転手がギミィだったせいで、少々頭を使う派目になってしまった。
「ネロ、変わってないな」
「どうでもいいさ」
歩道に目をやれば、黒い傘が雨を受けながら佇んでいた。ガズウィスを待つ次の同行者だ。
「ここでお別れだ」
ギミィはガズウィスの指示通り、傘を目印にトラックを停め、歩道に降り立った。虎目石の会にいた頃から従順な男だった。
「口封じをしなくても?」
「しないよ」
雨空の下で濡れ鼠になりつつあるギミィの背中。ガズウィスが思い描いた心象は、無力感に侵されたドブさらいのそれだ。ギミィは、今は亡きネロ・ソネットの幻影を連れて、少しずつ遠ざかっていく。
見送るのを遮るように黒い傘が横切った。ガズウィスは運転席に移動し、ハンドルとペダルを確認した。
「ねえ、遅いよ」
エンジュリーア・メアリスには今でも自動車爆弾の破片が埋まっている。異物まみれの体でのそのそと助手席につく。
「痛むか?」
「雨だからね」
滴る傘をダッシュボードに投げ出すエンジュリーア。感情のない横顔を背けて窓を少し開ける。
「煙草臭いの平気?」とエンジュリーアが尋ねる。
「慣れた」とガズウィスが答える。「今でも嫌いだけどな」




