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敗者達とネロ  作者:
終章
60/62

59話 幕引き

「あの抗争はどのように評価されるのでしょうか」

「正しく評価を下すにはまだ時間がかかるでしょう。こちらも手探りに近い状態ですから」

 抗争は、テイザーによって一度行われた勝利宣言が虚ろなものとなった二ヶ月間の後、コーコンホテルの戦闘を経て、手打ちのない幕引きとなった。虎目石の会と、エルボーを名乗る組織は消滅した。それらの残存する構成員と財産の多くが警察と司法に委ねられ、わずかなおこぼれが関係深い組織に分配された。

 虎目石の会の消滅は大きな損失となって組合を揺さぶった。事実上の敵対組織であるノイー協会の進出によって、リーエン地区の勢力図はいまだに混沌としている。

「ただ、我々は新しい仕事に備えなければ」

 政府内に反社会的勢力の有用性を検証する動きがある。端的にいえば、ギャングは影の警察としての可能性を期待されているのだ。そして、ゆくゆくは首輪をはめた従順な警察犬へと教化される。

 倒錯した青写真かもしれない。それでも、カートライトは検証実験に賛同し、エルボー商会内部の協力者として抗争に関与した。

 抗争への介入という前例のない試みに検証実験の指揮者達さえもが翻弄され、カートライトの任務は事ある毎に修正された。最終的にノイー協会の庇護の元で虎目石の会の自滅を誘発することが目標となり、早期終結と被害抑制が優先事項となった。追求すべき検証は曖昧なまま、秩序回復という喫緊の使命に押しやられてしまった。

 与えられた職務と権限の重さに耐え抜いたとは言い難い。カートライトはそのような自己評価を下している。

「前向きではないのですか」とマークレイに問う。

「前向きですとも。憂鬱でもありますが」

 検証実験に携わる多数派の本音をマークレイは代弁している。社会の害悪から新しい価値を創出する探求心。戻れぬ道を進む不安。それらが交錯している。

 そういえば、とこともなげにマークレイは言った。

「なぜノイーが商会を支援し続けたのかがはっきりしました」

 ノイー協会の動きは、いくつもの覆された想定の中でもとりわけ不可解で注視に値するものだった。エルボー商会を代理に仕立てたとはいえ、組合にあからさまな敵対行為を仕掛ければ双方の破滅に繋がると誰もが考えていたはずだった。

「ベイド・ロスはノイーの間諜でしたよ」

 カートライトの思考に二つの可能性が浮かび上がり、即座に一つに絞られる。

「テイザーはそれに気付いていなかったのですね」

「間諜を殺されたノイーからすれば、暗に宣戦布告されたようなものです。皮肉という他ない」

「ベイドが犠牲に選ばれた理由は?」

「今は不明です。当事者の二人が死亡していますし」

 なんとも空虚な気分にさせる話だ。いつでも現実は人間をせせら笑っている。ガズウィスに撃たれた腹の傷も、街を離れるにあたって捨てるカートライト・カーキスの名も、喜劇の一部にされてしまう。

「ジャルが抜けた穴は私が埋めますから、愉快な話も不愉快な話もたっぷりと耳に入ってきます。何かわかれば、お伝えしますよ」

 喜劇が観客のみならず演者をも楽しませるものであるとするならば、マークレイは演者であることを拒みはしないだろう。

「いいえ、しばらく休暇を取りますので」

 名前を変え、経歴を捨てて新しい人間になる。その様は皮肉にも物語を跨いで活動する演者のようだった。

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