51話 終わりの始まり
「あ?」
突然、テレビが消えた。ネロは持て余した時間を映画の特集番組で消化するつもりでいたのだが、番組がめぼしい新作を紹介していた途中で打ち切られた。電源を入れなおしても反応しない。プラグは抜けていない。
苛立って振り上げた手でテレビを叩きそうになった。代わりに、その手で静かに受話器を取り、テレビの故障を従業員に伝えようとした。そして、内線は繋がらなかった。
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二台のトラックがホテルの正門を塞ぐ形で停車した。外部から攻められた際にはバリケードとして利用できる。コンテナの床を踏み鳴らしながら虎目石の会の兵隊達がぞくぞくと降り立った。突撃銃を突き出して、無言でフロントへと駆け込んだ。
護衛を伴ったテイザーを最後に、深紅色の腕章をつけた二三人の兵隊が集結した。先発隊の浸透作戦によってフロントの制圧が完了していた。敵の二つの死体が初動の成功を物語る。続いて、ホテル内の電力供給を掌握したことと、エルボー軍に察知された様子はないとの報告がなされた。
テイザーは、手にした突撃銃の感触に懐かしさと煩わしさを感じている。
「四班と三班は何人たりとも出入りを許すな。警察の先手を打て」
この部隊は、黒曜石の会が相手にしなかった雑魚の寄せ集めにすぎない。期待が持てないことをテイザーは承知している。
「全員、計画通りに動け。散れ」
自らが率いる一班の部下達を振り返る。テイザーを除いた八人の兵隊達は、面構えだけは戦慣れしたふうに振る舞っている。
「血がたぎっているようだな」
「はい」と応じた兵隊が目を泳がせた。本音が透けて見える。
「せいぜい楽しめ」
先行する二班の後ろにつき、一班も動く。
今まで、血が流れる手段を選んできた。今更、それが誰の血であっても厭わない。自分のものだとしても。
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リドはヴェレンの執務室に呼び出された。
ヴェレンが好ましくない知らせを伝えようとしている。ヴェレンの感情を消した面持に不吉なものを感じ取った。
「テイザーが部下を連れて、コーコンホテルに攻め入った。商会の分隊を無視して、直接本隊と刺し違えるつもだりだろうよ」
ヴェレンが微笑んだ。他人を励ますような、人好きのする笑顔だ。
「テイザーを殺してこい。警察の手に落ちる前にな」
「わかりました」
戸惑いを覚えない自分に溜飲が下がる思いだった。テイザーとの決別が確かな実感となり、澄んだ心持で命令を受け入れた。
「ジャル・ハインが協力を申し出た。奴を使ってホテルに潜り込め」
この期に及んでジャルの企みに付き合うのは不本意だった。いまやジャルは本分を忘れたクズだ。しかし、リドとて同類といえる。追放された身であっても、テイザーを殺すことは、築いてきた自己と虎目石の会を否定するに等しい。
「おまえがテイザーを殺すことは特別な意味を持つんだ。いいな、おまえは道理を忘れるんじゃねえぞ。奴に踊らされて死んだ連中を弔ってやれ」




