50話 鎖の部隊
ヴェレンを乗せた車がナイルス・アリーの事務所に到着した時、駐車場にはかなりの空きがあった。すでに駐車している四台に加え、あと五台は置ける駐車場を無視し、正門の前に乗り付けた。警備員は黒曜石の会の長の登場に狼狽し、彼の意図を汲み取れなかった。
ヴェレンが窓を空けて命じる。
「ナイルスは? すぐに呼んで来い」
呼び出されたナイルスは表情が強張っていた。抗争の過労がたかってか、以前よりも目の下が弛み、老けて見える。この男が明日の朝、エルボー軍の第三分隊への襲撃を指揮する。
「ヴェレン会長、どういったご用件でしょうか」
内心では穏やかではいられないはずだ。ヴェレンの訪問はテイザーすらも知らない。
ヴェレンはナイルスの腕を人懐っこく叩いた。
「急な話があってな。まあ、乗れよ。中で話そうぜ」
ナイルスが迷いを見せた。空いている席は後部座席右側のみ。ヴェレンの隣だ。座席以外の理由もあっただろうが、「早く乗りな」と急かされるがまま、車内でヴェレンと肩を並べた。
「失礼します」
発進する車。悠然とナイルスを事務所から引き離していく。
「ヴェレン会長、一体どういうことですか?」
予知していたのだろう。ナイルスは冷静さを崩さなかった。
「少しの間、俺の所でゆっくりしてもらう」
「ですが、私は――」
「今の仕事には飽きたろう?」
ナイルスが言い淀む。本心を見抜かれたからか、ヴェレンの目的を理解したからか、定かではない。両方ということもあり得た。
「テイザー会長はご存知なんですか?」
「ああ、おまえは心配しなくていい」
ナイルスが「ヴェレン会長、ところで」と躊躇いがちに発言した。
「何故あいつがここにいるんです?」
助手席からではナイルスの顔は見えないが、さぞ怪訝な表情をしていることだろう。
「こいつはな、俺の孫娘を父無し子にしたクソ野郎を一人で殺そうとしたんだ。他の恥知らず共はさっさと諦めちまったらしいが」
「クソ野郎というのはボルガスを殺した奴ですか」
「ま、拾ってやったわけよ」
「ご厚情、痛み入ります」
リドが振り向くと、顔面蒼白のナイルスが睨み返してきた。ナイルスが怯えるような悪い事態は起こらない。殺し合いを終わりにする時期に来ているだけだ。
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黒曜石の会による拉致の知らせがテイザーの元へ立て続けに舞い込んだ。虎目石の会でも腕利きの兵隊達が次々と拉致された。
そして、警察が敵に回った。黒曜石の会と連携するかのように、会員の逮捕に乗り出した。逮捕者の中にはベイド事件に関与した者達も含まれていた。
指揮能力と経験に優れた兵隊を狩り尽くされ、虎目石の会は封殺された。
自分が逮捕されていないのは、相応の理由があるとテイザーは見ている。組合が渋っているからだろう。いかなる暴露であろうとも、幹部が警察に語る言葉は組合の不利益になる。とはいえ、殺害か拉致で口を封じ、テイザーが不在になれば、虎目石の会の統率が瓦解しかねない。現状では捨てるべき選択だが、組合がテイザーの死を望んでいることは明白だった。
テイザーは自らの敗北と破滅を認めた。




