49話 戦支度
「これ、勝手に爆発しねえだろうな」
「雑なもんを作るなよ」
兵隊達の無駄口が飛び交う。
「この線切ったの誰だ! 短すぎるぞ!」
「炸薬、これでいい?」
「何度も聞くな」
「どーすんだよ、この線!」
兵隊達の尻と手榴弾の材料が所狭しと床を埋め尽くしている。それらに混じったネロも手榴弾の製作を手伝う。空き瓶に火薬を詰め、導火線から着火する簡素な手榴弾だ。狭いホテル内での使用を想定し、巻き込まれを防ぐため威力を抑えてある。
第二分隊が潰された影響で一部の訓練が中止になり、兵隊の外出制限が厳しくなった。緊張するエルボー軍とは裏腹に、ホテルは平常時の営業を続けた。客の流入は変わらず、兵隊が神経を尖らせて監視に当たった。この不合理な状況は兵隊が知らない裏の事情を窺わせた。
ネロにとっては一つだけ良いことがあった。バッツが別室に移ったので、部屋を独占できるようになった。エルボー軍は一般客を装った敵を警戒し、新たに客室を借りた。これで三階の全室と二階の半分を治めたとされる。バッツは二階の新しい部屋、もっとも衝突が起きやすい前線に就いた。
「なあ、作った手榴弾はどこに保管するんだ?」と誰かが声を上げた。
「湿気がない場所だろ」
「乾燥してるならどこでもいいのか? 自分の部屋でも?」
ネロは、冗談ではないと思いながら耳をそばだてていた。誰もすぐには返事をしなかった。火がなければ安全だと理解していても、素人手製の爆発物には寝つきを悪くさせる不気味さがある。本来、そんな危険物を携帯して殺し合いをすること自体が馬鹿げている。すると次は、いざという時に爆発するのかという疑問が浮かぶ。
「とにかくだ。どこに置けばいいのか、カートライトさんに確認しろ」
「ネロ、行ってこい」
思わぬ指名に不満が湧き起こった。「自分で行けよ」と小声でぼやく。
「ガキの仕事だ」
このむさ苦しい空間を抜け出す好機と捉えて、ネロは腰を上げた。
「ハハッ! こいつはいい!」
ロットロン・ドゥーイッヒ。虎目石の会の面子を幾度も潰した賞金首。借りを作らされたのはネロも例外ではない。その怨敵がカートライトと対面して茶を啜っていた。
「弾に嫌われてるガキだな? こんな場所で会えて感激だぜ」
今でもリーエン地区を逃げ回っているものとネロは考えていた。それと同時にエルボー軍の人間が苦もなく地区を行き来ている実状を思い出す。
脳から余計な血流が抜けるような感覚のおかげで、冷静にロットロンを観察できた。大きな口を縁取る無精髭。ちぢれた長めの髪。警戒心は皆無だと判断した。
「今し方合流した、第二分隊の生き残りだ」
カートライトが割って入った。その顔はネロに向いている。
「おまえ達の事情は把握している。だからといって、報復は認めない。互いに同志であると肝に銘じろ」
「心得てますぜ、カートライト将軍」
「ネロ、おまえはどうだ」
「ああ、……仰せの通りに」
歯を覗かせたロットロンの唇がわずかに歪んだ。それを与えうる限りの苦痛で更に歪ませてやりたいとネロは思った。




