47話 私の戦争
「今回も虎目石の蛮勇には驚かされたよ。いつまで戦争を続けるんだ?」
ヴェレン・ラガートは、虎目石の会がエルボー商会の分隊を潰したことを快く思っていない。他人の抗争が自身への悪しき報いとなるのではないかと危惧している。暴力の行使は多方面に影響を及ぼす。特に抗争開始から時間が経ち過ぎた現在では、より刺激的に伝播し、人々の磨り減った神経を強く緊張させる。
「我々がどれだけ我慢を重ねてきたか想像したことはあるか?」
無意味な皮肉が続く。テイザーはヴェレンが俗物であることを理解していると同時に黒曜石の会の会長であることも理解しているので、少しばかり受話器を置かずに辛抱した。
「私の戦争だ。誰が何を言おうと妥協はしない」
「やはり勇ましいな、君は」
テイザーはヴェレンから具体的な用件を聞き出そうとし、遮られた。
「総会なんだがな、先月と同様に今月も出席を自粛してくれないか?」
思わず一瞬奥歯を噛み締めた。
「ふざけるな。協議すべきことが山積している」
テイザーが先月の総会を欠席した理由は、エルボー商会の攻撃を懸念した上での配慮に他ならない。エルボー軍が死に体となった今、出席を自粛つもりはない。分隊潰しの報復が行われるなら迎え撃つ覚悟と準備がある。
「だがね、本当は外出したくないのでは?」
「商会のネズミが私を脅かしているとでも言いたいのか」
「君を狙ったネズミが、誤って別の誰かに噛み付いたら困るだろう?」
状況は一ヶ月前と変化していないとヴェレンは言っている。だが、それは詭弁だ。
「そんな戯言を言っているのはおまえだけか」
「俺が伝えたのは、虎目石を除く組合の総意だ。この戦争の落とし所は我々が決める」
「私の戦争だと言っている」
「君の手に余るさ。虎目石の勝ちは消えた。ノイーが商会の後ろについた時点で」
排除通告と忌々しい名を聞かされたテイザーは額に熱がこもるのを感じた。抗争の泥沼化はノイー協会の干渉に起因するのだから。
「ネズミを根絶やしにすれば、すべて解決する。その程度のことだ」
ヴェレンの噛み殺した笑いにライターを擦る音が混じった。煙を向けられた受話器が悠々とした呼吸を拾った。本当の屈辱を与えるには言葉は不要だ。
「君も疲れを溜めているだろうし、今日の所は失礼しよう。また連絡するよ」
ヴェレンが言い終える前に、テイザーも葉巻を炙ろうとしていた。だが、やめた。引き出しにしまったままにしてある紙巻を探した。
抗争の初期、テイザーはエルボー商会の孤立を画策した。今日ではベイド事件の名で知られるそれは、ある程度の成果を上げた。だが、孤立無援になったかに見えたエルボー商会は、陰でノイー協会からの支援を受けていた。
抗争の表舞台に引きずり出そうにも、強大なノイー協会は虎目石の会の裁量で相手にできる敵ではなかった。組合はノイー協会との緊張を深刻化させることに消極的で、影響力が現状の程度に留まっている限りは、その動き黙認するという方針を打ち出した。同意したテイザーにとっても苦い決断だった。
ノイー協会が仕切るホテルがエルボー軍に隠れ家として提供されていると伝えられた日、虎目石の会は対応を即断できなかった。真の抗争終結が遠退いたことを認めざるを得ないのだった。




