40話 火と野次馬
「どこ行くんだ?」
「どこか」
目的を定めずにネロとギミィは歩く。見慣れたバス停で下車し、歩き慣れた道を進んだ。途中でギミィがビールを買った。
「なあ、これからどうすんだよ」
「ネロこそどうするんだい?」
「さあな」
ギミィが高らかに瓶を傾け、ビールを呷った。ギミィが酒を飲むのは珍しい。
「絶対に間違っていない生き方がある。わかる?」
「さあな」
「愛に向かって進むことだ」
突拍子のない問いを投げてくるギミィに理想的な答えを求めてはいけない。
「それで身を滅ぼす奴が腐るほどいるぜ」
「人間が間違えるからさ。愛は間違えない。俺の神様から教わったんだ」
「たまには真面目な話をしろよ」
「これからどうするんだい?」
「知らねえってさっきから言ってんだろ」
ギミィが顔を赤くしている。酒に弱いのだと一目でわかった。それでも、一口目と同じ勢いで飲む。顎と瓶を高く上げ、派手に喉を鳴らす。
「過去には新しい意味を付け加えることができる。みんな忘れがちだ」
ネロは反射的にギミィを睨んだ。それをギミィは平然と受け止める。挑発的ですらあった。
「不安なんてものは古傷と想像力の産物だ。想像力が乏しいから君は素敵なのさ」
そう言ってギミィは視線をビールに移した。反応に窮したネロは下を向いた。馬鹿に酒を加えると何を言うかわからないと改めて実感した。
「あげる」
ビールを突き出された。ネロは酔払いの相手が面倒なので、もう帰りたくなってきた。
「自分で飲め。いらねえから」
「リドさんと呑む約束をしたんだ。だから、ネロが代わり」
ネロは瓶をぶんどり、ギミィの頭上で振った。執拗に中身を吐き出させようとするが、思いの他勢いが悪い。ギミィはビールを浴びながら、声を上げて笑っていた。
「さっきから調子に乗ってんじゃねえよ」
残ったビールを呷るネロ。有難味のない飲み物がぬるくなり、どうしようもない飲み物と化している。
二人は何も話さずに歩き続けた。もうネロはどこかに向かっているのかなど気にしない。ギミィにも目的がないのだ。
意外な程平凡なこの街をネロは嫌悪した。武装警官が巡回しているわけでもなければ、血の一滴も落ちていない。なのに、ネロも、リドも、エンジュリーアも自由になれず、何かをすり減らし、死の影を振り切れずにいる。
この街に火を放る者が存在するのだから、それは自分であっても良いのだ。その理由をネロは持ち合わせている。だが、ギミィは違う。火を眺めるだけの野次馬だ。カートライトの野望にも、終わりの見えない抗争にも巻き込めない。
ギミィがくしゃみをした。日差しは穏やかだが、季節は冬に移りつつある。ビールが染みた服は体を冷やすだろう。
ネロは酔いで火照った頭で考えた。自分に間違った生き方をさせようとしているものが何なのか。




