表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗者達とネロ  作者:
7章 少年期の終わり
40/62

39話 ネロの隙間

 保険に加入していないネロは請求された高額な医療費を借金という形で解決した。手続きを進めていく中で、自分が何者の名を騙っているのかを知らないことに薄気味悪さを感じた。まともな人間は戸籍を手放したりはしない。

 入院で使った生活用品は置いて帰りたくなるようで、やはり必要なものだ。ネロは物も金もろくに持っていない。

 退院したら、開放感に酔った勢いでうまいものを食いに行こうと決めていたが、それは刑事とカートライトが現れる前の話だ。今は監視されているかのような緊張感がある。晴れて退院、とは言いがたい。

 病院を出て、上目遣いで晴天を見上げた。顔を正面から逸らすことが隙になるといわんばかりの神経質な仕草だった。

 見覚えのある同僚の姿にも警戒心が働いた。正門にギミィがいた。

「入院生活ご苦労様。それとも息抜きになった?」

「忘れたいくらい充実した休暇だった」

 ふーん、と口角を上げるギミィ。

「入院費は?」

「踏み倒すよ」

 ギミィは、何を納得しているのか、二回頷き、次にまっすぐな視線をネロに向けた。

「早速だけど、悪い知らせを聞いてもらおうか」

「もう結構だ」

 ギミィが歩き出したので、ネロもそれに続いた。おそらく、駐車場に向かうのだろう。

「リドさんが失踪した。殺人の容疑で警察に追われてる。どうやらロットロンの足跡を見つけたらしい」

「ロットロンを殺したのか?」

「殺されたのが誰なのか、俺の耳には入ってこなかった。でも、ロットロンが死んだなら、広く知れ渡るよね」

 ドブさらいに精を出すリドの従順さには呆れ返るが、ロットロンに関する仕事ならネロも積極的に協力したいと思う。病院に押し込まれた償いをさせ、賞金も頂く。

「おまえは一緒に行かなかったのか?」

 リドが逃げているのなら、ギミィがほっつき歩いているのはおかしな話だ。

「リドさんの暴走を予見できたら、一人で送り出しはしなかったね」

「どういうことだよ、それ」

「言葉の通りなんだよ。リドさんは復讐に囚われて暴走した。だから、虎目石はリドさんを追放したよ。庇護するつもりはないようだ」

 リドはボルガスの仇を憎み、殺そうとするという刑事の想像は実現していた。あの時のネロにはリドの復讐心を理解できなかったが、今は違う。エンジュリーア。テイザー。カートライト。彼女達のことが脳裏をよぎり、今も処理しきれていない怒りと悪意でリドに共感できるのだ。

「ネロがいない間に、俺達はロットロンに二度目の敗北を喫した。奴を見逃してしまった可能性があるし、一人殺された。今回ドジを踏んだ準会員は全員クビを切られたよ。俺も君もさ」

「俺は関係ねえよ」

「収容所の件を思い出しな。でも、半分はとばっちりさ。クビだけ済んで良かったよ」

 なんの愛着のない組織でも、稼ぎ口を一方的に奪われるのは気分が悪い。自由が利く身になったことも、今は歓迎できない。まるでカートライトと刑事の思惑が作用しているかのようだ。

「警察からも死人が出たのは知ってるかな?」

「いや」

「今の虎目石はヤバい」

「破滅を手繰り寄せている?」

「そうさ。戦争を再開させるかもしれないし、他所や警察から締め付けられるかもしれない。そろそろ下りる頃合だろう?」

「まったくだ。付き合ってられるかよ」

 ギミィは微笑んでいたが、それがネロにはやけに湿っぽい表情に見えた。

「堅気になれってね、リドさんに言われた」

 それが簡単にできるのなら、最初から虎目石の会で働くわけがない。リドも十分わかっているはずだ。

「リドさんはどうすんだよ」

「どうもしない」

 お節介焼きにしては割り切った台詞だ。違和感すら覚える。

「放っておいていいのか?」

「もし再会できるとすれば、塀の中だ。俺達に居場所を知られるようじゃ逃げ切れるわけがない。そしてなにより、リドさんは一人でけじめを付けたいんだろうさ」

 やはり湿っぽく語るギミィは、リドとの今生の別れを覚悟したのだと、ネロは察した。

「警察に追われながらロットロンを追うのか」

「復讐だからね」

 ネロは誰に対してでもない苛立ちを吐き捨てる。

「復讐で何が解決するってんだ」

「珍しい。綺麗事を言うじゃないか」

「正しいことだけじゃ生きていけねえって、それだけの話だよ」

「ハハッ、いいぞ。リドさんが聞いたらどんな顔をするだろう」

「うるせえよ」

 気づけば駐車場を通り越し、ギミィがバス停を目指していた。思い出してみれば、ドブさらいでよく乗った車は虎目石の会のものだった。

 ネロは移動の足と稼ぎ口と上司を失った。随分と身軽になったものだと覚束ない頭で考える。あとは、担いでいる邪魔な荷物も捨ててしまえれば、さぞ楽になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ