37話 起こす者
「商会にいたと嘘をついていたそうだね。なぜそんなことを?」
事がある度に放言してはいたものの、どこに耳があるかわかったものではないとネロは思った。
「当ててみな」
「嫌がらせだろう。裏切り者に踏みつけられるのは屈辱的だ」
同じ穴の狢といことか。感性も似通っている。
「君の嫌がらせと報復は矛先を違えていた」
ネロはどう反応すればいいのか迷った。なんとなく白けて、カートライトから目を逸らす。
「僕は、どうして誰も君に関心を持たないのか不思議だった。君が何者であるか、誰も気づいていないようだ。そして、君は自分の特異性に関心がない。何故なら、エルボー商会こそが敵だと信じ込まされたからだ」
ネロは小説を弄ぶ。裏表紙にページが積もっていく。音もなくペラペラと紙が倒れていき、しおりを挟んだページで止まった。
「商会が作った極めて危険なドラッグが虎目石の市場に流れ、しかもテイザー・ハークの息子が犠牲になったとされていた。だがそれは、テイザーが事実を歪曲して打ち立てた、商会潰しの口実だ」
刑事は病室の備品同様に、一切主張しない。パニーノが硬くなり、サラダのドレッシングは底に流れていく。
「そのドラッグに商会は関与していない。なのに、人知れず生きていた犠牲者は今も商会を恨んでいる。……こんな間違いは正さなくてはならない」
ネロは小説を閉じた。
「それで?」
「ガズウィス・ハークには力がある。ドブさらいのネロとは違う。その力を貸してほしい」
「死人を生き返らせたい? あんたに何が出来るんだ?」
「君の報復を正しい形で達成させる。虎目石を滅ぼす」
「馬鹿馬鹿しいぜ」
「君の無軌道な生き方に指針を示す人が、この病院にいる。会って来るといい」
カートライトが去ったあと、刑事が口をつけていないパニーノをネロに差し出した。ネロはそれを無視する。口の中が乾いて仕方がない。




