35話 追いつかれた男
リドは建ち並ぶアパート沿いを進んだ。途中で血痕は途切れている。前方にアパート同士の隙間に入る曲がり角がある。車が通れない程狭く、日当たりの悪い道だ。もし、そこから迎撃されたら弾を貰いかねない。
肩甲骨で壁に触れ、曲がり角を覗き込んだ。その先は十字路になっており、地面と壁に血痕がある。
リドは地面に発砲した。そして、敵の銃声が続いた。ロットロンが挑発に乗った。
十字路に拳銃を突き出す。ロットロンが応射しようと顔を出した瞬間を狙う。だが、片手撃ちで命中させるのは難しい。
リドは細道に躍り出た。両手で拳銃を握った。右の角から表れた拳銃を撃ち落とし、追撃を加えるために走る。
ロットロンじゃない。
死角から足元に倒れてきた男はロットロンではなかった。くたびれたコートを血で汚し、息絶えつつあるこの男をリドは知らない。
背中を壁に預け、ロットロンの気配を探す。左右からの攻撃を警戒し、反撃で応えようとする。だが、十字路で姿を晒したリドは死を覚悟した。ロットロンの銃弾に撃ち抜かれるのだと想像した。
死の予感と檻のような細道に捕らえたリドは動けなくなった。恐ろしい時間が流れる。ただ、無念だった。
「クソめ」
銃弾は飛んでこない。人が動いている気配もない。
リドの中で張り詰めていたものが霧散していく。
自分が追いかけていた男はロットロンではなかった。ロットロンはここにはいない。右の手足を血まみれにした男とリドだけがここにいる。
「ロットロン! ……クソ野郎め!」
警察車両が鳴らすサイレンの音はとうに聞えなくなっていた。リドは警察に追いつかれた。
**
ロットロンは、死体の首筋に絞殺の跡をつけたことを忘れていた。気休めでも隠さなければならない。髪を掴んで頭を持ち上げ、襟を立ててから腕枕に頭を戻した。
まさに道端で寝ている浮浪者だ。ベンチに寝かせたり、新聞を被せたりすれば尚良いが、そんな労力を注ぐ余裕はない。あくまで、死体の発見を遅らせるための演出だ。
死体には、ロットロンが着ていた服を着せてある。その古着は浮浪者に紛れる際に用意した。今、ロットロンが着ているのは、死体から奪った警官の制服だ。帽子がいささか大きいが、目立つほどではあるまい。
ロットロンとて、警官を手にかける日が来るとは思っていなかった。賞金首が警察に扮すると見抜く者がいるなら、是非会ってみたいものだ。
モーデルとボンドはどうなっただろうか。モーデルについては想像に難くない。虎目石の会と警察の目を存分に引いているはずだ。それを期待して、神経衰弱のモーデルにアドールの拳銃を持たせた。
ロットロンは、自分には死ぬに相応しい瞬間と、殺されるに相応しい敵が現れると信じている。しかし、上等の舞台に上った誰もが役不足だった。だから、ロットロンは今も生きている。殺した警官から奪った制服に身を包み、今も生きている。
ロットロンは問い続ける。殺し続ける。止まりはしない。




