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敗者達とネロ  作者:
6章 長い髪のリド
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30話 テイザーの息子

 空き家が襲撃される可能性は杞憂と化していたが、連絡係として四人が空き家に残り、リドを含めた七人がエバンスと合流した。エバンスが求めた人手は十人だったが、浮浪者を恫喝できる大人数が集まれば不満はないようだった。リドはジェイルを目の届く所に置いておきたいと考え、彼も同行させた。

 待ち合わせ場所にはエバンスとその部下が待機していた。エバンスが近寄ってきたので、リドは車を降りた。

「こっちは二人遅れます。すぐに来ますので」

 エバンスは父親に似ている。厚顔無恥で、心理的に他人と対等に係われないのだ。

「時間くらい守らせろ」

「次からはそうさせます。それとも置いていきますか?」

「いや、待つ」

「わかりました」

 エバンスの機嫌が悪かったのは不本意な仕事のせいだろう。リドが耳にした話によると、エバンスは浮浪者の相手を嫌がっている。今までは睨みを利かせても、本格的に処理しようとはしなかった。

「難しい仕事ではないんですがね、あいつらはしっかり働いてくれるでしょうね?」

「どういう意味だ」

「あの車の中にいるのは、ボルガスさんが集めた役立たずどもでしょう」

 エバンスはリド達が乗ってきた二台の車を顎で指した。見下したように笑っている。

「相変わらず口が過ぎるな、エバンス」

 だが、リドには否定のしようがない。エバンスの目の前にいるのが、今の虎目石の会でもっとも愚かな十一人の内の七人だ。リドも例外ではない。

「馬鹿のお守りをさせられて、リドさんが不憫ですよ」

 その皮肉にリドは怒りを覚えた。

「なんで俺がおまえに同情されなければならないんだ」

 エバンスの顔が若干強張った。それがリドには反抗的に見えた。

「そう熱くならないでください。これから仕事なんだ」

 エバンスの穏やかではない態度を反面教師とし、リドは怒り抑えた。この青二才が真面目に取り合うに値しない男であると思い出す。

 リドは一服することにした。次に、話題を変える。これから行う仕事についてだ。浮浪者の居住地区と化している公園に行き、敵を捜索する。何も問題が起きなければ浮浪者をリーエン地区から追い出す。

「浮浪者の中にロットロンが紛れ込んでると思うか」

 エバンスも煙を吐き出す。

「いや。もう何度もさらってるわけですし。今頃、ノイーが匿ってるんじゃないですか」

 リドにとって興味深い発言だった。

「根拠はあるのか」

「ボルガスさんを殺したロットロンは商会の英雄ですからね」

 エバンスが質問の意味を汲み間違えたので、リドはわかりやすい表現で質問し直した。

「ノイーが関係している根拠はなんだ」

「それを疑わない馬鹿はいませんよ」

 会長の息子の言動は特殊な重みを持って受け止められる場合がある。エバンスはそのことに無頓着で、しかも、推測と事実を混同させかねない物言いをする。リドは忠告する気が起きない。すれば、またお互いが気分を害すのだとわかっている。

「浮浪者は自警団を解散したのか」

「連中はいまだにガキ共と揉めます。拾い集めた酒瓶で武装してますよ」

 浮浪者と、バッツという青年が仕切る不良集団の諍いにリドは複雑な関心を持っていた。きっかけをさかのぼればネロに突き当たるのだから。

 ネロが起こした通り魔事件で不良集団の内輪揉めは激化し、やがて分裂という形で沈静化した。その後、どういうわけか、一部の者達は犯人が浮浪者であると決め付けて攻撃し始めた。

 浮浪者はささやかな自警団を結成して対抗したが、それが虎目石の会を刺激した。どんな理由、規模であれ、武装化した集団を虎目石の会は認めない。ましてや、抗争時から今日まで、浮浪者とエルボー商会の関係を疑い、威圧的な調査をしてきた。そして、あらゆる疑いが事実無根の言いがかりにすぎなかった。つまらない間違いを重ねてきた虎目石の会は嫌気が差し、疑惑の元を断つ、つまり浮浪者排除に乗り出した。

「バッツが絡んでるなら、おまえが間に入ればいいだろう」

「まさか」

 心外だったようだ。エバンスはバッツと面識がある。バッツが無視できない程度の発言力もあるはずだ。

「度が過ぎるようなことがあれば、おまえが止めろ。ガキがはしゃぐと目障りだ」

「……リドさん。親父さんの昔馴染みだから礼は尽くしますがね、俺に小言を言うのはやめてください」

 不快感をぶつけられたリドは、またしても怒りを覚えた。礼を尽くすなどと、よく言えたものだ。その厚かましさがエバンスの資質だ。

「俺も説教臭くなってな。殴ってでも目を覚まさせたい馬鹿もいる」

「なら、殴ればいい」

 リドとて、仕事前に喧嘩をするほど耄碌していない。エバンスを無視して車に戻った。しばらくの間、誰とも言葉を交わさず、煙草を吸いながら、遅れて到着した二人がエバンスに殴られるのを眺めていた。

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