27話 報復
名前は。
「ビルダ・エヴェンガー」
エルボー商会との関係は。
「顎で使われながら、コソ泥のようなことをやった」
会員だな。
「そうだ」
タバスカンホテルを襲撃したか。
「部隊に参加しただけだ」
どういう形で関与した。
「大したことはしていない。ロットロンを迎えに行った時、敵に応戦しただけだ」
襲撃に関わった奴らの名前を言え。
「ロットロン・ドゥーイッヒ。モーデル・ウェールセンキュラー。アドール・アインス。それと俺だ」
おまえ達はどこから来た。どこに潜ってる。
「それは言えない」
リドは、隣に座っているビルダの顔を手の甲で殴り、彼の頭を窓ガラスに強く押さえつけた。暗い車内でも見えるようにナイフをビルダの目線にかざす。
「おまえがどう扱われるかは、おまえ次第だと言った」
ビルダの手足はそれぞれ警察で用いられるものと同等の手錠で束縛してある。このような状況に陥った人間は大抵臆病をさらけ出すものだが、ビルダが感情を乱すことはなかった。
「わかってる。でも、すべてを話せば、俺は用済みになる。自分の寿命を縮めたくはない」
「駆け引きが出来るような立場だと思うな。おまえに『殺してくれ』と言わせるのは簡単だぞ。半端な態度はやめろ」
ビルダの鼻から吐かれた息がリドの手にかかった。興奮を押さえつけようと努めているのがわかる。ビルダが改めて口を開くまで数秒の沈黙があった。
「あんた、ロットロンの賞金に興味ないか?」
小賢しいことにビルダは話をそらすつもりだ。しかし、ロットロンの名を出して、リドの興味をうまく引いたのも事実だった。
「だったらどうだっていうんだ」
「奴のことならいくらでも話す。俺も奴が憎いんでな」
ビルダが本当に語りたいことはロットロンについてだ。そう感じさせるような怨嗟がこもった口ぶりだった。
ロットロンはどこにいる。
「わからない。ただ、奴はこの地区を出るつもりだった」
奴をどう思う。
「……ロットロンがすべてを台無しにした。裁きを受けるべきだ」
ロットロンは何をした。
「襲撃部隊に志願して、計画にあれこれ口出ししていた。ほとんどの連中はロットロンを信用していなかったし、嫌っていた。あいつは虎目石にいたことがあって、しかも気味が悪かった。だが、奴の力量を試すとか、他に適任者がいないとかの理由で奴が襲撃を実行した。
そしてあろう事か、その場の気分でボルガスを殺しやがった。予定外だ」
ボルガスを狙っていたわけではないのか。
「ああ」
襲撃の目的は。
「ホテルに放火して、捕虜が逃げる隙を作る。それだけだ。ロットロンさえいなければ、それだけで済んだんだ」
襲撃の後はどうなった。
「悪夢としか言いようがない。ロットロンに賞金がかかり、俺達は孤立無援になった。
それで、撤退の是非を話し合った。ロットロンは撤退に賛成していて、反対していた仲間を殺した。部隊はバラバラになり、各々で逃げた。昨日のことだ。
他の奴らがどうなったかは知らないが、俺は襲撃とは別の容疑で警察に捕まった。迂闊だったが、もう諦めがついた」
今後も商会は攻撃を続けるのか。
「俺は何も知らされていないが、攻撃は続くはずだ。もっとも、計画されている作戦はロットロンのせいで見直されるだろう。それと、エルボー商会はもう存在しない」
どういう意味だ
「商会は戦争で滅んだ。残党は戦いに特化した組織に変わろうとしていて、自分達を軍と呼んでいる。エルボー軍だ」
エルボー軍の規模は。
「いくつかの組があって、俺達の組は六人だった。それ以上はわからない」
何か言いたいことはあるか。
「虎目石に投降したい。ロットロンと、奴を起用した連中を俺は信用できなくった。可能な限り情報を提供する。その代わりに俺の安全を保障して欲しい」
ビルダは、今から向かう収容所でも尋問を受ける。この荒唐無稽な証言の裏づけが取れるまで、時間がかかるだろう。
だが、リドにとっては明確になったことがある。ボルガスが狂人の戯れに付き合わされて死んだのだと聞かされると、視界が塞がっていくような無力感を覚えた。それは、ビルダが語った真相を受け入れた証に他ならない。
リドはロットロンへの恐れと憎しみを改めて自覚した。悪意が研ぎ澄まされ、いっそこのナイフをロットロンの腹に突き立てたいと願った。ボルガスが負った傷、それ以上の苦痛を教えてやるのだ。




