26話 三叉路
引渡すと言われたものの、釈放されたビルダをリド達が自力で拉致しなければならない。その段取りを待機場所に向かう車の中で確認する。
「撥ねたのを捕まえるのが手っ取り早いが」
今夜はリドが運転席についている。撥ねる際は周囲に察知されないように注意する。ブレーキ音を立てては駄目だ。尚かつ相手が大怪我を負わない程度に痛めつけ、車も損傷させてはならない。一筋縄ではいかない微妙な運転操作が求められるので、リドがハンドルを握る。
「ビルダが拘置所の警備員に気づかれない場所に移動したらしかける」
「はい」
毎度のことながら、ギミィは緊張しない。こういう人間は少なからず存在するが、決まって何かが欠けている。虎目石の兵隊に囲まれた状況でボルガスを仕留めたロットロンも同類だ。
待機場所に到着し、リドは窓を少し開けて煙草を吸った。歩道を車内から監視する。噂では、拘置所周辺に脇道がほとんどないのは襲撃を警戒してのことらしいが、そのおかげでビルダの移動経路は明確だった。リド達は拘置所正門からしばらく進んだ三叉路で待機している。ビルダは必ず目の前に現れる。
リドは煙草の火を消した。角から出てきた男。あれがビルダに違いないと直感する。しかし、街灯に照らされたビルダは立ち止まり、顎を突き出して左右を確認している。リドは舌打ちした。
「警戒しているな。周りに人はいるか」
「いないようですが、暗くてはっきりとは」
「そのまま周りを窺え。……いや、銃を抜いておけ」
ビルダがリド達の車を意識していることは明らかだった。ビルダの顔の大半は逆光で生じた影に潰されており、それがリド達の方を向いている。車内灯を点けていないのでビルダにリドは見えていない。
ビルダが歩み寄ってくる。両手を頭の高さに掲げながら。その意図が読めても、リドは警戒心を保ったまま車外に出た。事の次第によっては懐に携えたナイフを抜く心積もりがある。
街灯を背に受けるビルダは近くで見るとかなりの大男だ。
「あんた、虎目石だな?」
「人違いだ」
しらばくれたリドを無視して、一方的にビルダは嘲笑うように話した。
「自分が売られたことくらいわかってる。他に釈放される理由がない」
「事情は把握していると言いたいわけか」
リドはビルダの腹を殴った。続けざまに顎を殴る。もう一発顎に叩き込もうとしたものの、ビルダが膝をついてうずくまったので、靴底で頭を蹴った。抵抗せずにやられるがまま地面に倒れたビルダがリドの怒りを刺激した。この無様なチンピラを怨敵と呼ぶことは屈辱だ。ナイフを抜きそうになった所で我に返り、普段の自制心が戻って来た。深く息を吐き、それでも落ち着かず、唾を吐き捨てた。
「生意気な口を叩くな、ドブネズミが」
ビルダはろくに回らない舌を動かして、「……投降したいと言ったら聞き入れてくれるか?」と尋ねた。苦々しく、それでいて我慢強く振舞いだ。リドも同じ態度を示さねばならない。
「おまえ次第だろうよ」
ギミィが大男のビルダを後部席に押し込むのに少々時間がかかった。ビルダの受け取りは予定通り完了した。




