20話 第二の契機
耳障りなブレーキ音を轟かせながら、車が横滑りする。フロントを壁にこすりつけながら停車した。
リドは建物の影に極力身を隠しながら発砲した。襲撃者と車の窓を狙ったが、リドの技量ではまるで命中しない。
敵も助手席の窓から応射してきた。ドアを盾にしているので狙いが付いていない。
襲撃者は流れ弾に臆すことなく、後部席に走り込んだ。
「ネロはどうなった」
リドは足元のギミィに尋ねた。
「倒れてます。動きません」
好都合だ。これで誤射する可能性がなくなった。
車は元来た方向へと引き返そうとしている。運転手の焦りが手に取るようにわかる。荒いハンドル操作で車体の向きを変えようとしている。
「相変わらず、長い髪が似合ってるな! リドォ!」
一瞬、誰に呼ばれたのかわからなかったが、このしゃがれ声をリドは覚えていた。
「てめえ! ロットロンか!」
「ハハッ!」
エンジンに鞭打つかのように車は走り出す。後部席の窓からロットロンとおぼしき男が顔と拳銃を出し、乱射した。
「あいつ! ネロを狙ってますよ!」
「撃ち返せ。窓ガラスを狙え」
加速した車は瞬く間に離れて行き、銃撃戦は幕を閉じた。
リドとギミィは倒れているネロに駆け寄った。素人目では明らかな外傷は確認できないが、昏睡している。リドはネロを担いだ。
今頃ホテルの前では、監守達が次の攻撃を警戒しているだろう。彼らは、ボルガスと二十人近い収容者と従業員を九人で守らなければならない。それでも警察が到着すればホテル付近は安全地帯になる。
「早く戻るぞ。そろそろ警察が来る」
「救急車もすぐ来ますかね?」
「当然だ」
ボルガスが刺傷され、ネロも負傷。襲撃者には逃走され、一部の収容者が脱走した。リドは苦々しい敗北感に苛まれながら、ネロを担いでホテルへと急いだ。
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襲撃事件の死者はボルガスと、外で見張りをしていた二人を含む三人になった。また、脱走者が二人出た。
ホテルの被害は出火現場付近の壁と一部の内装を焼けた程度で済んだ。火元からは見張り役の一人とおぼしき焼死体が発見された。
負傷者はネロのみだった。致命傷は免れたものの、入院せざるを得ない大怪我を負った。
そして虎目石の会は、賞金首にロットロン・ドゥーイッヒを加え、抗争の緊張から冷めつつあった情態を一夜で強硬化させた。




