10話 後始末
「改めて聞くが、投降するか」
「投降する」
ベルンは毅然さを取り戻していた。
「もう満足だろう」
リドに尋ねられても、ネロは何も答えられなかった。ただ、座り込んで息切れを整えて疲労を我慢していると、顔や口内の傷と肩関節が痛みだした。
見張り役が若い方の首筋の脈を測り、まだ生きていることを確認した。殺そうとしたのかどうか、ネロ自身にもわからない。死んでも構わないという心積もりで執拗に頭を攻撃したが、無意識に拳銃を撃たなかった。どうでもいいことだが、説明できないことだった。
若い方の顔面は艶やかな鮮血にまみれている。そのせいで一瞥しただけでは捻じれた鼻以外の傷が目立たない。
「ネロ、そいつを運べ」
「……はい」
気絶している荷物がまったく姿勢を保とうとしないので、疲労困憊した体では立ち上がるだけでも難しい。荷物の頭を首筋で支えるが、乾いていない血の感触が気持ち悪い。服も汚してしまった。
部屋を出て、階段を降りる際は転ばないように慎重になった。もし転べば、先に降りているリドを巻き込むし、落とした荷物が死んでしまうかもしれない。だが、生かしておく意味があるのだろうかと疑問に感じた。捕虜にすぎないのだから。
「こいつ、どうするんですか」
「医者に診せる」
「そこまでする必要があるんですか」
「温情を示すんだ。元商会の奴らを刺激しないようにな」
半殺しにしても止めに入らなかった割には、妙な気遣いだ。
一階に下りると、リドがカウンターの中にいる老婆に声をかけた。はっきりと、よく通る声だ。耳が悪い年寄りは珍しくないし、店内は騒がしい音楽が鳴っている。
「お騒がせしました。椅子を弁償します。改めて埋め合わせをしますので、他に不都合があれば言ってください」
穏やかな老婆だった。目の周りに深い笑い皺を作って、はっきりとした発音で話した。
「リドさんは、相変わらず義理を通しておられるのね」
「出入り禁止になりたくないだけです」
「いつでもいらしてくださいな」
ギャングと老淑女。並んで会話している様子がなんとも奇妙だった。老婆は終始朗らかに微笑んでいた。
外では、ギミィが車の横に突っ立っていた。
「大丈夫でしたか?」
「見ての通り、一人だけそうじゃないのがいる」
「彼、寝かせといた方が良いですね」
若い方をトランクの中で寝かせることにし、リドとベルンが後部席に座った。続いて運転席にギミィが。最後に助手席についたのは周囲を警戒したネロだ。車の乗り降りを狙われたという話はたまに耳にする。
ネロ達は、最後の余計な一仕事を片付けるために病院を目指した。
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椅子の弁償代、フクロウへの迷惑料、若い方の治療費の半分。それらはネロが受け取るはずだった報奨金でまかなわれた。
苦笑いしながらその話を聞いていたギミィは、財布から出した二枚の紙幣をネロに渡した。
「タクシーでも捕まえなよ」
そしてネロは、自分が暴れまわって血で汚した部屋を清掃するためにフクロウへと狩り出されるのであった。




