トリドシ終了
古来から人間という種に密接に関連し続ける要素がふたつある。恋愛と競争だ。私はそのふたつの普遍性を悟り、同時にもどかしさを感じた。なぜ悟ったのかというと、それは私がそのふたつを今、同時に心の中に抱えているからであった。
広明は私じゃなくて、その隣の笑顔を見ていた。
「よく食べるよね、里沙さん」
ちょっと嬉しそう。それがなんだか私には快くない。
「んん……っ。いやぁ、ヒロの作る玉子焼きは絶品だからね! 店出せるんじゃない?」
私の想い人が作った卵焼きを豪快に平らげていくうちの姉。食器がガチャガチャと鳴る。身内だからこそ恥ずかしい。もっとマナーとか気にしてくれないかな。
広明は嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとうございます」
笑顔がかわいい。いや、ほんとなんだって。
「遥香、どうかな?」
嫉妬したり見とれていたりしていると、広明が私に上目遣いで尋ねてきた。準備できていなかった私はたじろぎながら、
「うん、すっごい美味しいよ。ありがとう」
「良かった」
彼の顔全体にふたたびスマイルが広がった。なにこの人かわいい。
「お、そろそろじゃん?」
姉がテレビのデジタル時計を見て言う。
「あ、ほんとだ」
広明もそれに続く。
「カウントダウンしようか、三人で」
それからは目で会話した。
次第に呼吸のリズムが同じになっていく。
さん、に、いち。
「新年おめでとう!」
打ち合わせてなかったけど、私たちの言葉が重なった。最初に噴き出したのはやっぱりお姉ちゃん。それから思わず私も笑ってしまった。広明も、そんな私たちを交互に見て微笑む。
「短かったなあ、一年」
広明が思い出すように言った。
「そうだね。あっという間だったよ」
私も広明のまねをして、上を向いて応えた。
「次は戌年だね、ヒロ」
「なにその顔、作らないよ何も」
「えぇー、楽しみが減るぅー」
「もう、遥香どうするこの人?」
「そんなお姉ちゃんには後片付けをちょっと多く負担してもらいます」
「妹様やめてくだされ! 妹様やめてくだされ!」
「ほら、お姉ちゃんうるさいよ」
「のわぁぁぁぉぁ、さいきん妹が冷たいよぉ」
右足にすがり付いてくるお姉ちゃんを適度に無視しながら、私と広明は顔を見合わせる。そして、笑う。
恋とかそういう単純じゃないことも私にはあるけど、こういうのも結構いいなと思った新年だった。