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 第三章 懐尽きて

「ま……まさかこんなに早くその日が来るとは……」

 あたしはその場に崩れ、広い椅子の開いている場所に両手を置いて項垂れた。

「限りあるものは、いつかは尽きちまうもんだもんな」

 落胆するあたしにかぶせてマイトがため息混じりに呟く。

「十年間の不幸の年でなければ、この財政難を乗り切ることも、あるいはできたのかもしれませんがね」

 財布を見て苦笑し、淡々と事実を述べたのはクロード先輩。

 そう。メアリの屋敷を抜け出してから三日後、ついにあたしたちの旅費は尽きてしまったのだ。

「あぁぁぁぁっ! もうっ、どうするのよ!? 野宿するのはまだ構わないけど、馬車を維持するにもお金が必要よ? 早急にどうにかしないと!」

「わかってますよ。だから少しずつお金を節約して、何とか凌いできたんじゃないですか」

「そうそう。俺たちだって、仕事を得るための努力はしてきただろう?」

 半狂乱になるあたしを、二人は口々に慰める。

 確かに彼らの言うとおりだ。

 狭い部屋で三人で泊まることになっても文句は言わなかったし、町に着けば着いたで伝説や伝承の調査と同時並行で護衛などの仕事を探した。

 しかし、だ。そううまく話が転がってくるわけがない。よりたくさんの資料が集まっているだろう首都を目指して動いていただけに物価はどんどん上がる一方。出費はかさむだけかさんで、その結果、三日目の昼食が済んだ時点で小銭しか残っていなかった。店を出て戻ってきた馬車の中、その事実を聞かされての反応がこれである。

「がぁぁっ! このままじゃ、他の選出者に襲われたり不慮の事故で資格を失ったりする前に、餓死しちゃうわよっ!」

 絶望のふちに立たされて頭を抱えるあたし。このままでは本当にまずい。何が何でもお金を手に入れなければならない。

「人間、そう簡単に餓死したりはしませんよ」

 よしよしと頭を撫でながらクロード先輩は落ち着かせようとしてくれるが、全く効果を感じない。

「だが、のんきに構えている場合でもないよな。どうにかして金策を練らないと」

 腕を組み、うーんと唸ったマイトだったが、すぐに困ったような顔をして固まってしまう。もともとそういう頭脳労働の向かない彼のことだ、そもそもあたしは期待していない。

 ――とはいえ。これは大変困った事態なのだ。このまま野垂れ死にするようなことになるのは嫌だ。絶対に避けねばならない。

「賭博に手を出すにしても、賭けるものがないですからね」

 ため息をついてクロード先輩が言う。

「大損する可能性もあるものね」

「そこは幸運の女神様がついているミマナ君の力でどうにかなるかと」

「そ……そういうもん?」

「俺は賭博は反対だぞ。公に認められているものでも好きじゃない」

 真面目な顔をしてマイトが反対する。

「オレだって勧めませんよ? そういう商売の裏には、好からぬ事件が隠れているものですから」

 クロード先輩は肩を小さく竦めて答える。

「えぇ。あたしだって嫌よ。あたしみたいな女の子が出入りするものでもないでしょ?」

 首都に近付いているからだろうか。繁華街には賭博を行っているらしい雰囲気の建物がちらほら見られるようになっていた。農村であるあたしの住む地域は仲間内でちょとした賭けを行うことはあっても、娯楽施設としては存在していない。珍しくて興味はあったが、その独特の空気が近くに行くだけでわかってそれ以上首を突っ込もうとは思えなかった。

「確かに、近付かない方が身のためだと思いますよ」

「で。賭け事はナシだとしてもよ。今夜から飲まず喰わずの生活でどこまでやっていくつもり? どうにもならないでしょ? 何ならこの馬車、売っちゃう?」

「き、気軽に言ってくれますね、ミマナ君。この馬車は我が家の馬車なんですからね?」

 あたしの発言に口元を引き攣らせ、クロード先輩が指摘する。

「えぇ。町長の馬車よね。慰謝料代わりにありがたくここまで使わせてもらったけど、維持費がかかるわ。歩いてでもここからなら大丈夫でしょ? 地図を見る限りでは町と町の間隔は短そうだし」

 町が栄えている証拠だろう。舗装された街道、そして要所要所に設けられた宿場町が続く。徒歩での移動も可能だと思えるくらいには互いの町は近い。

「いやいやいや。そういう問題じゃないですから!」

 大きく首を振って反論するクロード先輩。この馬車は彼の財産でもあるのだろう。簡単に手放せないに決まっている。

「――悪かったわ。冗談よ」

「全く冗談に聞こえませんでしたよ」

 あたしがふぅっと小さく息を吐いて言ってやると、眼鏡の位置を直しながらクロード先輩はほっと胸を撫で下ろしたように呟いた。

「だが、最終的にはそこもどうにかしないと、だよな」

「そこもって……」

 マイトもこの馬車の利用方法については思うところがあったようだ。クロード先輩の心配げな様子にそれ以上の台詞を続けはしなかったが、マイトは黙って馬車の天井に視線を向けていた。

 すると。

 トントン。

 何かが叩かれた音が聞こえてきた。

「ん?」

 窓の外を見るが、何の姿もない。

 ――気のせい?

 財布にお金がないという危機的状況により、幻聴でも聞こえるようになってしまったのだろうか。

 トントン。

 しかし、再び音がした。それも、あたしだけが聞いていたわけではないらしい。同時に窓の外を見やり、あたしたちは顔を見合わせた。

「何の音?」

 窓の外を見る限りでは人の姿はない。風もなく、むっとした暑い空気があたりに満ちているだけの場所だ。風に運ばれてきた何かが馬車を叩いているとは思えない。

 さらに馬車の壁を叩く音がして、そしてか細い声が聞こえた。

「すみませーん……」

 その小さな声は幼さが滲んでいる。

「なんでしょう?」

 扉を開けたのはクロード先輩だった。そっと扉を開けてやると、そこには十歳を過ぎたくらいかと思われる背の低い少女が立っていた。赤毛を二本の三つ編みにし、頬にそばかすが散っている可愛らしい顔が不安そうにこちらを見上げている。

「どうかしましたか?」

 にこやかな表情でクロード先輩が問うと、少女は一度顔を伏せ、そして上げると問うた。

「あの……この馬車……首都に寄る……その……予定はありますか」

 たどたどしくも一生懸命な様子で言い切ると、今にも泣き出しそうな様子でじっと見つめてくる。

「えっと……」

 何と返事をしたら良いのかわからなかったらしく、クロード先輩はあたしに視線を向けた。

 果たしてあたしは。

 確かに首都には行くつもりだ。一番読みたい資料は偉い人でないと見せてもらえないかもしれないが、小さな町の図書館や資料館よりはずっと役に立つ本を読むことができるだろう。じっとしているよりは向かって確認するのが手っ取り早い。

 とはいえ。

 今はそこに行くための資金がない。予定は未定だ。彼女の問いに良い返事ができそうにない。

 すると少女は何を考えたのか、提げていた鞄から一枚の紙切れを取り出した。

「ボク……この手紙を届けて……薬を……手に入れなきゃ……いけないんです。……お兄様が……病気にかかってしまって……その治療に必要で……」

 必死さが伝わってくる。マイトが何か言いたげにしているが、しかしこの状況ではどうすることもできないとわかっているのだろう。口をパクパクさせるだけで声にならない。

 クロード先輩はというと、差し出された紙切れを手に取り、目を通していた。あたしがちらりと見たところではその文字を読むことができなかった。図形の入り混じる特殊な文字だ。おそらく、魔術に関したもの。こればかりはクロード先輩の専門だろう。

 しかししかし。

 あたしはやってきた少女を見る。身なりのきちんとした少女だ。メアリがそうであったように、柔らかくて触り心地の良さそうな生地でこしらえた涼しげな服を着ている。持っている鞄も形のしっかりしたもので、どこかの腕の良い職人が作ったものに見えた。そんな良いところのお嬢さんといった雰囲気の少女が、どうしてあたしたちに声をかけてくるのだろうか。馬車くらいなら自分の家にありそうなのに。

 あたしたちが黙っているのを見て、何か思いついたらしい。はっとした顔をして、再び鞄から袋を取り出した。じゃらじゃらという音がする。

「あの……お金なら……支払います。……連れて行ってくださるなら……そこまでの旅費、……これで足りるかわからないですけど……ちゃんと払いますから……」

 それを聞いて、クロード先輩は読んでいた手紙から視線を上げ、少女に目を向けた。

「君、あまり他人を信用しちゃいけませんよ。この手紙も、その袋も、見ず知らずの人に見せるようなものじゃない」

「……え?」

 叱るような響きを持つ声に、少女はきょとんとして首を傾げる。

「オレたちが悪い人間だったらどうするんです? この手紙も、その袋も取り上げられてしまったら、君は困るんじゃないですか」

 手紙をつき返すように渡され、少女はおろおろとしながら答える。

「で、でも……お兄さんたち、悪い人に思えなかったから……それに……お金……必要なんですよね……?」

「!」

 あたしたちは少女の円らな瞳に射抜かれて硬直する。

「外まで……聞こえていましたよ……? どこかに向かう途中だって言うことも……それで……あの……その……立ち聞きは悪いとは思ったんですけど……」

 あたしは自身の額に手を当ててため息をついた。

 ――一番騒いでいたのはあたしだ。

「首都まで……片道で良いんです……どうか……連れて行ってはくれませんか?」

 彼女の願いは真剣そのものだ。彼女の目的と、あたしたちの利益はちょうどよくつりあっているように思える。あたしが他の選出者に狙われるような事態にさえならなければ、安全に少女を送り届けることはできよう。

 あたしはクロード先輩に決定権を渡すべく視線を向ける。この馬車はクロード先輩のものだ。動かしているのも彼であるので、あたしがどうこう言える立場でもない。

「そうですね……」

 クロード先輩はそう呟いて一度両目をつぶって何か思案した。そして口を開く。

「君、その服装や手紙の内容から考えるとたいそうな家のお嬢さんとお見受けします。そんな君がどうしてオレたちのような流れ者に声を掛けるのです? 屋敷の人間に馬車を出してもらえばよい話ではないでしょうか?」

 あたしが引っかかっていた疑問に、クロード先輩もぶつかったようだ。探るような問いに、しかし少女はやんわりと微笑んだ。

「ボク……妾の子なんです……。それなりの服や食事は……その、……ちゃんと用意してもらえるんですけど……召使いも少なくて……馬車は頼んで借りるだけ……。今回はお兄様の病気が……ボクにもうつっているんじゃないかって疑われて……本家から馬車を借りることができず……こうして親切な誰かが……通りかかるのを……待っていたんです……」

「病気、ね……」

 手紙に何が書かれていたのだろうか。クロード先輩は何か思うところがあるような、そんな曇った表情を一瞬だけしたが、結局はいつもの穏やかな顔を作った。

「……わかりました。首都に連れて行って差し上げましょう」

「本当ですか?」

 了承の返事に、少女は目をきらきらと輝かせる。

「ただし、本当にオレたちには金がない。旅費は君の持つそのお金が頼りになりましょう。それでも良いと言うなら案内しますよ?」

「はい! たいしてありませんけど……まずは前金としてどうぞ!」

 ほいっと差し出される小さな袋。クロード先輩は大事そうに受け取ると、口を開けて中身を確認する。そして一枚、取り出して光に晒した。

 ――金貨……?

 大きな金貨だ。きらきらとした宝飾品のような輝きを放っている。あたしたちがふだんお目に掛かることのないような金額のものらしい。

「これ……一度崩さないと使えませんよね?」

 やはりたいそうな金額のもののようだ。クロード先輩が訊ねると、少女は首をかしげた。

「そういうものなんですか……? ボク、お金はこれしか見たことなくって……」

 その台詞に、クロード先輩は苦い顔をして続ける。

「……君、相手がオレたちだったことに心から感謝すべきだと思いますよ。あと、その手紙も、この金貨が入った袋が他にもあるようでしたら、絶対に他人には見せないこと。いいですね?」

「は、はい……首都に連れて行ってくださるなら……その約束……必ず守ります」

 こくっと真面目な顔をして頷く少女。

「では、この車の中で待っていてください。両替をしてきます。そのあとすぐに出発しますから、静かにしていてくださいね」

 そう告げて、クロード先輩はあたしに残りの金貨が入った袋を手渡すとあたりを警戒するようにして去った。

「お……お邪魔します……」

「えぇ、狭い車ですけど、どうぞ」

 場所を空けてやると、少女はあたしの隣にちょこんと腰を下ろした。まるで人形のようだ。

 ――しかし、この袋の中身はどれほどの価値があるのかしら……?

 その答えは、しばらくして戻ってきたクロード先輩の懐を見てすぐにわかった。あの一枚で、ここまでのあたしたちの旅費と同等の価値があったのだと理解するのに時間は掛からなかった。

 そしてあたしたちは新たな仲間、ステラ=アスターを加わえ、首都を目指す。



 安堵したのだろう。ステラは馬車が動き出すとすぐにあたしに寄りかかったまま寝てしまった。甘いいい香りがする。香水をつけているのだろうか。

「――まだ幼いのに大変だな」

 すやすやと寝息を立てているステラを見ながら、正面に座るマイトが呟く。

「そうね。……でも、ちょっと無防備じゃない? 知らない人たちが乗っている馬車の中でこうもすぐに眠っちゃうなんて」

「それだけ信頼されているってことだろ?」

「それとこれとは話が違うわよ」

 そう答えたものの、実にマイトらしい思考であたしは心の中で小さく笑う。彼は本当に楽観的で、他人を疑ったり悪く言ったりすることは好まない。

 あたしの返事に、マイトはよくわからないという感じに首をかしげた。

 ――可愛い寝顔だな……。

 本当にお人形のようだ。長いまつげが伏せられている様や、ほんのりと赤く染まる血色の良い頬、ふっくらと柔らかそうな唇。あどけないその顔を見ているとなんだか和む。

 ――ま、ここのところずっと、マイトやクロード先輩の顔を見て過ごしているんだもんなぁ。こういう女の子を見ていて気持ちが安らぐのも当然といえば当然よね。

「――そういえば、あの手紙、何が書いてあったの?」

 ステラを見ていて思い出す。御者台に向けて問うと、クロード先輩は返事をした。

「あれは呪術を解くために必要な材料の一覧ですよ」

「呪術? 病気じゃないの?」

 重々しい口調で告げられた意外な内容に、あたしは再び問う。

「えぇ。彼女が嘘をついたのか、それとも単に知らないのかはわかりませんがね。書いてあったのは、かなり高度で厄介な呪術に関したものです。早く解除しなければ、それこそ命に関わるような」

「じゃあ、もしもこの子の兄貴がその呪いに侵されているんだとしたら、急がないとまずいんじゃないか?」

 割って入ったのはマイト。確かにそのとおりだ。あたしも同感である。

「そうですね。……本当に、そうであるなら」

 言葉を選ぶように、クロード先輩は告げる。その言い方に妙な引っかかりを感じて、あたしは問う。

「何か気になる点でもあるの? あまり乗り気じゃないみたいね」

「メアリの件でちょっと神経質になっているだけですよ。あなたを危険に晒したくないですから」

 クロード先輩が肩を竦めたのがその影からわかる。

「そういうことなら、まぁ、わからないでもないけど……」

 あたしは再びステラの寝顔を見た。穏やかな寝顔を見ていると、彼女を警戒する気持ちはまったく起きない。むしろ庇護したいと思えるくらいだ。

「彼女が敵か味方かどうかは置いておくとして、いつ他の選出者たちが襲ってくるかはわからないのですから、警戒は緩めないようにしてくださいね」

「う、うん……」

 ――気にし過ぎよね、きっと。

 クロード先輩の発言で嫌な気配を感じ始めていたがそれには言及せず。あたしたちを乗せた馬車は首都へと向けてひた走る。



 日が暮れる少し前。

 茜色に染まるにぎやかな街にたどり着いたあたしたち四人は、ステラからいただいたありがたい軍資金を用いて宿に泊まることになった。もちろん贅沢はできないので質素な宿だ。

 しかし、ここで注目すべきは宿の質素さではない。今夜は二部屋ある。つまり、男女で分かれて眠ることになったということなのだが、これはこれでありがたかった。

 宿をとった後の夕食。食事を始めるなり、ステラがあたしを見て問う。

「あの……ミマナお姉さんたちは……どうして一緒に旅を? 観光旅行ってわけじゃ……ないですよね?」

 喋るときは緊張してしまうらしい。ステラはか細い声でたどたどしく台詞を告げると、首を小さくかしげた。

 ちなみに、席順は丸い机の右から順にマイト、クロード先輩、ステラが座っている。

「えぇ。ちょっとこの世界に伝わる伝承を調べるためにね」

 選出者の話はあえて伏せる。他の選出者の耳に入って急に襲われたら嫌だし。首元も布で覆って隠しているのだ。メアリの時のようなことは避けるに限る。

「それで首都に……大きな図書館がありますものね。……でも、何故伝承をお調べに?」

「ちょっとした探究心ですよ。それに、仕事で必要な知識なもので」

 ステラのさらなる問いに答えたのはクロード先輩。不思議そうな視線がクロード先輩に注がれる。

「お仕事?」

「はい。町の祭りの起源を調べるように言われまして。オレたちはその調査隊なのです」

 眼鏡の位置を直しながら、しれっとクロード先輩は答える。

 ――その癖を知っている人間からすると、嘘をついているのがバレバレなんだけど。

「調査隊なのに……予算がないんですか……」

 い、痛い。

 なかなかの鋭い指摘にどう答えるのかと気になりながらクロード先輩を見やると、今度は眼鏡に触れずに続けた。

「オレたちの住む町には、言い伝えに従って祭りが行われています。言い伝えというのは『十年に一度、年頃となる少年あるいは少女を町から一人選び神に差し出せ。選択が間違いでなければ、町に幸福が訪れるだろう』というもの。聞いたこと、ありますよね?」

「は、はい。聞いたことくらいは……」

 こくっと真面目な顔をしてステラは頷く。

「そのお祭りで、どうも前回選んだ相手が悪かったらしく、町は今までにない財政難でしてね。あいにく予算が出せない。――次も同じように選び間違えると危険だからと、こうして調査に乗り出したと言うわけですよ」

 眼鏡に触れそうになるところを我慢したらしい。クロード先輩は水を飲んでごまかした。

「そ……それは大変ですね……町の命運がかかっているって、ことですよね」

 納得してくれたらしく、ステラはうんうんと頷いて言う。

「この調査だけで未来が決まるわけじゃないですけどね」

 並べられた食器から温かな湯気が立っている。クロード先輩は食べるように手で促し、ステラはようやく食事を始める。食べ始めると、彼女は一言も喋らなかった。そう躾けられているのかもしれない。

 で、あたしたちはというと。

 こちらもこちらで黙々と食べていた。――というのも、泊まる部屋は質素ではあるが、食事にはお金をかけたためだ。正確には、質よりも量をとったと言うべきか。

 節約のために値段が高めになりがちな肉や魚の料理を避けていたため、ここに並ぶ魚の姿をした焼き物や肉だとわかる大きさの塊がしっかり入った煮物が久し振りすぎて、あれこれ議論する気になれなかった、というのが最も正しい状況説明だろうか。あたしもマイトも育ち盛りの格闘系。身体が肉や魚を欲しているのに食べられなかったのだから、その抑圧状態から解放されて気持ちが高ぶってしまうのは仕方あるまい。

 そして、そう経たないうちに皿は空っぽになった。

「ごちそうさまでした」

 手を合わせて食事を作った人たちや料理になった動植物たちに感謝を告げると、食器をまとめる。すぐに店員さんがやってきて、皿をさげていった。

「はぁ……満腹。いっぱい食べたわ」

 空腹状態が続いていたわけではないが、食べたかったものをたらふく食べられて幸せである。ステラには感謝だ。

「よほどお腹が空いていらしたのですね……」

 口元を上品な仕草で拭いながらステラが珍しそうな顔をして呟く。

「あぁ、いや、そういうわけじゃないのよ?」

 誤解されてしまい、あたしは慌てて否定するがステラは不思議そうに首をかしげただけだった。

「おや?」

 そこで急にクロード先輩が立ち上がり、あたしの髪紐に手をかけた。

「な、何? クロード先輩」

「いえ、なにか埃か何かがついていたように見えたものですから。でも違ったみたいですね。ついでに結い直しておきました」

 ぽんぽんっと軽くあたしの頭を叩くと、クロード先輩は自分の席に置きっぱなしになっていた荷物を手に取る。

「別にこのあとすぐお風呂に行くつもりだったからよかったのに。でもありがとう」

「いえ」

 クロード先輩の珍しい行動に一瞬戸惑ったあたしだったが、とりあえず礼を言って笑顔を作る。マイトがどこか不満げな表情をしていたが、そこは指摘しないようにしよう。変にこじれて喧嘩になったら厄介だ。今夜は同じ部屋に二人だけになるのだし、仲が悪くなったり気まずい雰囲気になるのはよろしくない。

「――そんなわけで、あたしは部屋に戻ったら風呂の支度をするつもりだけど、ステラちゃんはどうする?」

 この少女は大衆浴場を利用したことがあるのだろうか、などと疑問に思いながら問うと、彼女は首を横に振った。

「ボクはあとにします。……食事のあとは、その……読書をしながら休むことにしていますので」

 その返事が彼女のふだんの日課を指しているように聞こえなかったのは、あたしの気のせいだろう。やんわりと断られて、それであたしは素直に頷く。

「わかったわ。じゃあ、先に行くことにするわね」

「俺もさっさと風呂に行こうかな。休みたいし」

 小さくあくびをして、マイトが言う。つまり、彼はあたしの護衛というわけだ。まぁ、行き帰りを共にするだけで、一緒に入るわけではないのだが。

「それなら荷物の番はオレがしましょう。先に行ってきてください」

 これまでなら合わせてくるクロード先輩だったのに、彼は珍しくそんなことを告げた。

 ――荷物の番が必要なほどの大金ってことかしら?

 ふと、ステラから渡された金貨の入った袋のことを思い出す。金貨一枚があたしたちのここまでの旅を支える金額に匹敵するのだから、あの袋の中身は相当な金額になるはずである。

 ――ってか、そんだけあれば財政難も案外と何とかなったりしないかな?

 もしかしたら家も建つんじゃなかろうか、そんなことを妄想していると、頷くマイトに気がついた。彼もクロード先輩の予期せぬ言動に驚いているらしく、返事にわずかな動揺が感じられた。

「――では、部屋に戻りましょうか」

 クロード先輩の号令で、あたしたちはそれぞれの部屋に向かったのだった。



 あたしたちが泊まることにした宿の浴場は、部屋や食堂がある本館から少し離れたところにある。この町には温泉水の流れる川があり、そこに風呂を設けているためだ。風呂と本館が離れているためにここの宿泊費は安いらしかった。

「うんうん。温泉ってなんだか良いわね」

 角灯で照らされた浴場の入り口が見えてくると、温泉特有の鼻につく香りが強くなってくる。食後の時間なので混雑しているんじゃないかと思ったが、意外とすれ違う人は少なかった。

「はしゃぎすぎて転ぶなよ?」

 隣を歩くマイトが笑いながら注意してくる。どうもかつての合宿での出来事を思い出したらしい。

「もう子どもじゃないんだから、そんなことで転んだりしないわよっ!」

 初めての合宿のとき、合宿所の広い風呂場に感動して走り回り、結果、滑って派手に転んだ。以来、参加のたびにその話をされるはめになったわけだが。

 あたしは小さく膨れて、ぷいっと横を向く。

「――そうそう。マイトこそ、女湯を覗くんじゃないわよ?」

「俺が覗くと思うのか?」

 意外そうな感じに逆に問われ、あたしは小さく肩を竦める。

「思ってない。決まり文句だから言っただけ」

「そう。なら良かった」

 入り口にたどり着く。あたしたちはそこで立ち止まり、向き合った。

「風呂から出たらここで待ち合わせだ。独りで勝手に帰らないこと。いいな?」

「わかってるわよ。心配性ね」

 マイトに仕切られるとなんだか面白くない。今まで頼られるのはあたしで、頼ってくるのはいつだってマイトだったのだから。

 ――もう彼が頼ってくれるような日は来ないのかな……。

 どこか胸の奥が苦しくなって、あたしはくるりと向きを変える。

「じゃ、またあとでね」

「お、おう」

 分かれて扉に向かう。この妙な気持ちを勘付かれていませんようにと、ただひたすら願った。



 脱衣所にも誰もいなかったが、風呂場自体にも人はいなかった。

 ――貸切かしら?

 木製の板に囲まれた空間は湯気で煙っている。石で仕切られた湯船にも人の姿はない。十数人が一度に入れそうな充分な広さがあった。

「珍しいわね……」

 食堂にいた人の数を考えると、今の時間に風呂に入ろうと考える人もいると思うのだが。それとも、食事の前に入浴を済ませてしまった人が多いということだろうか。

「ま、どっちでもいっか」

 呟いて、身体についた汗や埃を流す。この暑さの中馬車に乗っての移動は蒸して仕方がない。きちんと汚れを流しておかなければ、すぐに臭うことだろう。そんなことを考えて、ふと思い出す。

 ――なるほど。ステラの香水は汗の匂いを紛らわすためか。

 ただのお洒落ではなさそうだという事に気がつく。良いところのお嬢さんであれば、たしなみということだろう。貧乏な農業主体の町の娘のあたしには似合わないものだ。

 ――大体、香水なんてつけていたら戦闘の邪魔だし。存在が丸分かりじゃない。

 接近戦を好むあたしが、自分の位置をわざわざ敵にばらすようなことをするのは得策ではない。やはり女のコらしさはあたしには不要だ。

 ――マイトはあたしのことを好きだって言ってくれるけど、どこが好きなんだろ? クロード先輩もあたしに異性として見てくれ、だとか言っていたけど……。

 二人のことは人間として好きだ。正直者だし、真面目だし、あたしを裏切るようなことはしないと信じられる。それぞれに見習いたいと思うところもあるし。

 しかしそれは、異性として好きかと問われればまた話は別だ。何がどう違うかはうまく言葉で説明できないが、違うといったら違う。そう感じるのだから間違いない。

 ――いや、ルークも変なこと言っていたけどさ……抱かれたいかどうかも、異性としてどうこうとも違う気が……。

 うーん、と唸って、あたしは熱い湯船に浸かる。ずっと座ったままで固まっていた身体がほぐれていく。

 ――まぁ、メアリの一件で、マイトにしてもクロード先輩にしても、あたしを抱いてみたいとは思ったことがあるらしいと判明したわけだが。

 あたしは大きく伸びをする。そしてふと自分の胸に目を向ける。ほのかに赤く、柔らかそうな膨らみが二つ並んでいる。なんとはなしに掴んでみて、掴めるだけの大きさはあることを確認する。

 ――なんで女の子に生まれてきちゃったかなぁ……。あたしは、マイトとも、クロード先輩とも、ずっとこのままの関係が良かったのに……。

 男の子だったらきっと、こんなことを考えなくても良かったはずだ。ずっと仲良く、隣で笑い合うことができたはずだ。戦場でも、きっと並んで戦えたはずだ。

 ――寂しいな……。

 近くにいるはずなのに、遠くに感じられる。男の子と女の子はこうも違うものなのだろうか。

 あたしはずぶずぶとお湯の中に沈む。口元を沈めて息を吐き出すと、ぶくぶくと泡が立った。

 と、そのときだ。

 あたしはさっと立ち上がって近くにあった桶を投げる。桶は中空で静止した。

「そこにいるのは誰?!」

 浴槽と壁を作っている板との間。その中途半端な位置にあたしの投げた桶が止まっている。

「このまま無視されるかと思っていたが――さすがは僕が選んだ選出者だな、と言っておこうか」

 やがて姿を現したのは黒尽くめの男、ルーク。

「あ、あたしがなかなか一人にならないからって、女湯に登場する?!」

 慌ててあたしは白く濁ったお湯の中に身体を沈める。彼の台詞からすれば、最初っからそこにいたようなので隠すのは遅すぎるような気がしないでもないが――恥ずかしいもんは恥ずかしいもんねっ!

「見張りだよ、見張り。覗きに来たわけじゃない。他の選出者に襲われるかもしれないからな」

「へ……変態……」

「どう思われようとも構わんよ」

 答えて、彼は桶を指先でくるくると回し始める。視線をあたしから別の場所に向けたのは彼なりの配慮のつもりだろうか。

「――あの……くつろげないのですが……」

「だろうな」

「だろうな、って、あんたねぇ!」

 しれっと返してきたルークにあたしは睨んで文句をつける。彼は回していた桶を止め、ぽとりと水面に落とした。

「君が休めるかどうかは、あいにく僕には関係ない。しかし、ここを貸し切り状態にしたのは僕の力なんだが?」

 ――ん、それはどういうことだ?

 あたしは苛立ちを抑えて思考を働かせる。

「――用事でもあるの? あたしは聞きたいことがたくさんあるんだけど」

「なら、僕の用件は後回しで。先に君からどうぞ」

 勧められて、あたしはまずどこから聞こうかと考える。そこでまずこれを訊ねることにした。

「――陽光の姫君って名乗る選出者に出会ったわ。サニーとメアリの二人組よ。彼ら、星屑の巫女には先を越されるわけには行かないって言ってどっかに消えちゃったわ」

「あぁ、他の選出者に会ったのか」

 ルークの口調からは感情が読み取れない。初日に出会ったときと同じように顔も布で覆っていたので、表情も不明だ。

「で、聞いておきたいんだけど、ルークは陽光の姫君と星屑の巫女のどっちに神を倒して欲しいわけ? そのうちまたどっちかには会うと思うんだけど、どう対応したらいいのかわからなくて」

 良き使いを神の側近にしたいと願っているとルークは告げていたはずだ。ならばどちらがその相手なのか知っておきたい。無駄な衝突は避けるに限る。

「月影の乙女である君の目にはどう映った?」

「どうって……」

 まさかそんな台詞で返されるとは思っておらず、あたしは言葉を詰まらせる。

「サニーはあなたを敵視しているみたいだけど、星屑の巫女たちには絶対に抜かれたくないといった感じもあったわね。――それに、まだあたしは星屑の巫女に会ってないし、どうと言われても……」

 そう答えると、ルークは自身の口元にそっと手を添えてくすくすと笑い出す。常にどこか冷たい空気をまとっている彼には似合わない笑い方だ。

「――なるほどね。他に、サニーは何か言ってなかったか?」

「他に? えっと……」

 あたしは懸命に思い出す。あんまりあの日のことは思い出したくないが、ルークから情報を引き出せるのなら致し方ない。

「あたしが自分のことを保険のようなものだって説明したら、ルークが考えそうなことだとか何とか言って、慌ててどこかに向かったの。たぶん、星屑の巫女を探しに行ったんだと思うんだけど――」

「そうか。いやはや、彼も物分りの良い男だね。計画通りといったところか」

 嬉しそうな声でルークは言う。あたしはその台詞に引っ掛かりを覚えた。

 ――計画?

「……ルーク、あなた、本当は何を企んでいるの? それに、どうやって神を倒せばいいのよ? あたし、何も聞いてない」

「君は君のままで構わないよ、月影の乙女」

 そしてルークは水面を歩き出す。その動きをじっと目で追っていたが、唐突に消失。その気配はすぐあたしの真後ろに現れた。

「!」

 首筋に触れられて、あたしは身体をびくりと震わせる。しかしそれ以上身体を動かすことはできなかった。殺気に似たピリピリとした空気が、あたしから自由を奪う。

「大分満ちてきたようだね」

 彼が指先で撫でているのがあの痣であることに気付く。確かに、最初に見たときよりは広がっているように思えた。まるで、月が満ちているかのように。

「満ちてくると……どうなるわけ……?」

 ごくりと唾を飲み込んで訊ねる。触れていた指がそっと離れていく。

「――神を倒せるだけの力が手に入る」

「じゃあさ……今回の選出者の全員がその資格を失った場合、この世界はどうなってしまうわけ?」

「さぁ、僕は知らないな。前例がないんで」

 なるほど、前例がないという理由なら頷いてもいいかもしれない。そう思いながらも、あたしはさらにその質問に付け加えた。

「でもさ……興味があるんじゃないの? 選出者全員が神を倒せなかった場合の台本がどうなっているのか」

「――実に面白い問いだ」

 少しだけ間があって、愉快げなルークの声が返ってきた。あたしは精神を集中させて、気合で振り向く。

 そこにあったのは太陽と同じ色の髪と空色の瞳を持つ整った顔。彼の頭を覆っていたはずの黒い布がいつの間にか取り払われている。

 あたしは彼がどうして顔を晒したのか疑問に感じながらも、台詞を紡ぐことを優先した。

「あなたの目的は神の代替わりじゃなくて――んっ!?」

 言いきる前に、あたしは口をふさがれた。

 完全な不意打ち。

 だって、ルークが口づけをしてくるとは思わないじゃない。この状況下で。

「――余計な詮索は無用だよ?」

 夏の空に見えていたはずの彼の瞳に、真冬の凍て付く曇り空のような色が滲む。彼の両手はあたしの頬をしっかりと固定し、顔をそらすことができない。

「何故、神の使いが男性で、選出者が女性なのだと思う? ――僕でも君から選出者としての資格を奪うことは可能だということを肝に銘じて置くといい」

「……」

 明らかにルークは今期の選出者の争いに乗じて何かをしようと企んでいる。

「……そ……それだけの力を持っているならさ、殺せばいいんじゃないの? そんな回りくどいことはなしに、一思いに命を奪えば?」

 心臓が強く脈を打つ。緊張しているのは、ルークに口づけをされた所為だけではあるまい。真実に近付いて身の危険に晒されている――そういう危機感から来るもの。

「それができるなら、僕は君を選ばない」

「……どういう意味よ?」

「この状況でもなお、君は僕に問うのかい?」

「問うわよ。あたしは本当のことが知りたいだけなんだから」

「良い瞳だ。僕はそういう愚かな人間の目がたまらなく好きだよ。非力であることを知っていながらも、挑まずにはいられないところが、とてもね」

 ルークは口の端を上に持ち上げて笑みを作ると、あたしの頬から手を離して立ち上がる。

「――あまり湯に長く浸かっていると逆上せるよ? あの少年も気にしてここにやってくるんじゃないかな」

 確かにその通りだ。あたしは湯船の縁にもたれかかるようにしてルークを見上げる。

「時機が来たらまた顔を出そう。それまではくれぐれも資格を失うことのないように」

 引き止める言葉が浮かばなかったあたしは、消えていくルークを見送ることしかできなかった。



「お、お待たせ……マイト」

「お前、どんだけ待たせ……って、大丈夫か?」

 出てくるなりふらついていたあたしを、マイトは素早く支えてくれた。もたれるように彼の肩を借りて、あたしは苦笑する。

「ははっ、考え事していたら、うっかり逆上せちゃって」

 正確には、動けなかったのだ。ルークが去ったあともそこに残っていた彼の気配が、あたしの動きを鈍らせてくれた所為で。でも、そんな心配掛けるようなことはマイトには言えない。何もなかったわけではないが、マイトには関係のないことだ。

「考え事だなんて、らしくないことをするからだろ?」

 彼はあたしが告げた考え事の内容については言及してこなかった。クロード先輩なら探ってくるところだろうが、マイトはそういうところが基本的に抜けている。

「そうかもしんない」

 だからあたしは苦笑して頷くだけ。マイトのそういうところが、あたしは安心できる。余計なことを聞いてこないそんなところが。

「ったく……あんまり長く外に出てると、クロード先輩が小言を言ってきそうだからな。さっさと戻りたいところだが――歩けるのか?」

 扉を出てすぐにふらついたあたしだ。マイトが心配するのもごもっともである。

「心配ないわよ、風に当たれば」

 そう答えて歩き出したあたしだったが、どこか足元がおぼつかない。

 ――め、目が回る……。気持ち悪い……。

「はひゃっ」

 小さな段差に躓いたところを、マイトの大きな手があたしの腕を掴み抱き寄せられる。

「無理するな」

「あ、ありがと。でも、宿までそんなに距離ないし、平気――」

「――避けるなよ」

 言って、彼はあたしを軽々と持ち上げた。いきなり抱きかかえられて、あたしは慌てる。

「何言ってるのよ。あたし、避けてないしっ! 平気だって言ってるでしょ? 下ろしなさいよっ!」

「俺じゃ、頼りにならないか?」

「……え?」

 不安げな表情。寂しげな感情も滲んでいる。

 あたしは暴れるのをやめて、ただじっとマイトの顔を見つめる。

「最近のお前、クロード先輩の方ばっかり見ているような気がしていたから。伝説や伝承の話なら、確かに俺よりも先輩の方がいいんだろうけど……でも、そういうのさえ、嫌なんだよっ」

 マイトはあたしの方を見てくれない。でも、一生懸命なその気持ちはとても強く伝わってくる。

「……マイト、妬いてるの?」

「わかんねぇよ! 俺、格闘訓練でお前が他の男と話しているのはどうとも思ってこなかったのに、今はとにかく嫌なんだ」

 ――どうしたらいいんだろう。

 あたしは戸惑い、困っていた。どう答えたら良いのかわからない。明確な答えが、見つからない。それはあたしが逆上せていて、頭が回らないからだろうか。今じゃなかったら、彼と向き合って答えることができただろうか。

「なんだろう……俺は、自分の気持ちを伝えることさえできれば、ミマナが俺のことを好きになってくれると思っていたんだ。当然お前は俺を好いてくれている、他の男よりもずっと好きでいてくれるだなんて、そんなことを考えていたんだ――でも、そうなるとは限らないよな……やっぱ、馬鹿だよなぁ、俺」

 マイトの想いはどこまでも真っ直ぐで。どこまでも純真で。邪な気持ちのなさが、ひたむきなその感情が――それがときには痛みを生む。

 ――なんで、あたしは彼の気持ちに答えることができないのだろう……。

「――お前の気持ち、わかっているつもりになっていただけなんだよな」

「!? そ、それは違うよ、マイト」

 どんどんと心の距離が広がっていくような気がして、思わず叫んでしまった。マイトの顔がこちらを向く。

「マイトは誰よりもあたしのことをわかってる。わかろうって努力してる。その気持ちはあたしにも伝わっているわ」

「だったら、なんで俺を頼ってくれないんだ? 避けるんだ? 俺に弱さをさらけ出してくれたって良いじゃないか! いっつも自分でどうにかしようって肩肘張って、一人で頑張って……俺はそんなミマナをかっこいいって思っている。すごいって尊敬してる。お袋さんが倒れたときだって、ミマナは文句言わずに一生懸命世話してた。本当はもっと格闘技の勉強をしたい、この世界のことを知りたいって思っていたはずなのに、それを押し殺してでも精一杯看病して。自分の思いを悟られないように注意してさ」

 ――マイトは……ずっとあたしのこと、見ていてくれたんだ……。

 嬉しい気持ちと同時に、どこか苦しさが広がっていく。

「そんなお前を、俺は見ているだけしかできなくてもどかしかったんだ。対価を求めずに行動するお前が好きで、だからこそ心配で仕方なくて。――だから、俺はお前のそばにいたい、そばで支えてやりたいって思うんだ。力尽きて倒れてしまわないように、お前が自由に動けるように」

 ――あたしは……そんなマイトに……気付いていなかった。

「なぁ、ミマナ。俺は、お前を支えるには不足しているのか? 頼りにならないのか?」

「ごめん……」

 視界が歪む。涙で、歪む。

「ごめん……マイト……」

 どうして涙が出るのかわからない。混乱しているからだろうか。この場をごまかしてしまいたいからだろうか。答えを先延ばしにするために逃げ出してしまいたいからだろうか。

 だとしたら――あたしは卑怯だ。

「あたし……わからないんだ……だから、ごめん……」

 口を開けば「ごめん」という単語しか出てこない。何に対して謝っているのか、どうしてそんな言葉が出てしまうのかわからないのだけど。でも――あたしはひたすら謝っていた。

「――もういい」

 そんなあたしを見て、マイトはつらそうな顔をした。ぎゅっと引き寄せ抱き締められる。もう互いの顔は見えない。

「俺の身勝手な思いばかり押し付けて悪かった。今はそれどころじゃないんだよな、ミマナは」

 優しい声。そうやっていつも、彼は自分の気持ちをしまいこんでしまう。できるだけ表に出さないように、そう意識しているみたいに。

「――戻るぞ。宿に着く前に、その泣き顔をどうにかしておけよ?」

「うん……ごめん」

「俺に対して謝るの禁止。俺はお前に謝られなきゃならんことをしたつもりはない」

「う……うん、わかった。――ありがとう」

 あたしは両手でごしごしと目を拭う。マイトに抱きかかえられたまま宿に戻ることになったのはちょっと恥ずかしかったし照れくさかったけど、でもマイトの心地よい好意に甘えるのも悪くない、そう思い込むことにした。



 宿に戻って顔を合わせたクロード先輩から早速小言が降ってきたけれど、あたしたちはそれを右から左に流してそれぞれの部屋に戻った。

「お帰りなさい、ミマナお姉さん」

 ステラは薄暗い角灯の置かれた部屋で本を読んでいた。寝台にうつ伏せに寝転び、持ってきていたらしい本を広げたまま、あたしを見て微笑む。

「ただいま。次、お風呂どうぞ」

 甘い芳香で室内は満ちている。それはステラが身につけていた香りとは違う種類のように感じられた。

「はい」

 ステラはあたしの勧めに素直に頷き、本を畳んで起き上がる。彼女の寝台の近くの棚に風呂の支度ができていた。

「ねぇ、ステラ?」

「なんですか?」

 荷物を持つと、彼女はあたしを見て小首をかしげた。

「この香り、ステラがやったの?」

「え、あ、はいっ……匂い、強すぎましたか? ……疲れを取るのに……良いからってお母様が……。嫌でしたら、変えますけど……」

 彼女なりの気配りだったようだ。申し訳なさそうにもじもじとしながら小声で告げるステラに、あたしは近付いて頭を撫でる。

「ううん。別に構わないわよ。馴染みがないもんだから、ちょっと驚いただけ。このままで良いわ」

「勝手すぎましたね……次はちゃんと、聞いてから使いますから……」

 ステラは恥ずかしそうにちらっとこちらを見やり、荷物を抱えて部屋を出て行った。

 ――言い方が悪かったかな……。

 彼女の小さな背中を見ながらちょっぴり反省する。咎めたつもりはなかったのにそう捉えられてしまったのが残念だ。あたしのふだんの態度がいけないのかもしれない。

 ――優しく言えるように気をつけよう。

 そしてふとあたしは寝台に残された本を見る。ステラがさっきまで読んでいた本だ。

 ――どんな本を読んでいるのかしら?

 童話か何かだろうか。そんなことを考えながら本の表紙に目を向ける。その本は苔のような深い緑色をしていて、使い込まれているらしく表紙も背表紙もところどころがかすれている。銀色の文字で書かれている題名らしきものは、しかしあたしには読めなかった。魔導文字のそれに似ている。

 ――彼女も魔導師ってこと? いや、彼女の母親が魔導師なのかもしれないけど。

「あの……」

「うわっ!?」

 急に話し掛けられて悲鳴を上げてしまう。声の主に目を向けると、扉のそばに立っていたのはステラだった。

「ボクの持ち物……できるだけ触らないでください……怪我をすると……その……いけないので」

 ――怪我?

 変なことを言うなあと思いつつ、あたしはバクバクしている胸を押さえてこくこくと頷く。

「あぁ、うん。わかった。触らないわ。もちろん、盗ったりしないわよ。安心して」

「あなたが盗むとは……思っていませんけど……念のために……」

 そう告げると、彼女はかすかに笑みを浮かべて扉を閉めていった。

 ――ってか、気付かなすぎでしょ、あたし。感覚鈍りすぎ。

 ルークやサニーは格上の相手だから後ろを取られるのは仕方がない。他のことで手に負えない状況下なら、まだ頷ける。だけど、ステラに気付かないのはあたし的にどうなのよ。

「はぁ……」

 あたしはため息をついて自分用の空いている寝台に寝転ぶ。

 ――もう、寝よう。

 身体も冷え始め、逆上せていたときの気持ち悪さは引いている。その所為だろうか、今度は強烈な眠気が襲ってきた。あたしも疲れているのだろう。

 そう経たないうちに、眠りに落ちていった。



 眠っていたはずだった。

 心地よい甘い香りの中ですやすやと眠っていたはずだ。

 しかしあたしはぱちりと目を開け、素早く体をひねる。

 とすっ。

 何かが落下するような音。そして腕に痛みが走る。

「くっ……」

 斬られた。腕に熱さと痛みが広がり、おかげで目が冴えていく。

「ステラ……?」

 寝台に突き立てられた短剣。それを握っていたのはステラだった。

「――よく……避けられましたね」

 聞き覚えのあるか細い声。冷たい目があたしを見下ろしている。蒸し暑い夜なのに、空気が冷え切っていた。すさまじい殺気である。

「この術なら……眠ったままで殺せるって……聞いていたのに」

 言って、彼女は短剣を引き抜く。あたしはそれを見ながら寝台を転がり、瞬時に起き上がった。切られた腕に手を当てると、ぬめっとした嫌な感触が伝わってくる。傷口は深くなさそうではあるが、さっさと手当てをしておいた方が良さそうな怪我だ。

 ――ま、動くには動くから、我慢できそうね……。

 冷や汗が頬を、背中を伝う。

「ステラ……どうしてこんなことを……?」

 急に襲ってくる理由がまったくわからない。寝込みを襲い、確実に命を奪うことを狙っていることに納得できない。

 すると彼女は幼いその顔を冷たく凍らせた。幼い少女がするような表情でもなければ、昼間の愛らしい様子は微塵もない。突き放すような視線に、あたしは警戒しつつ回答を待つ。

「まだ……気付かないのですね……」

「気付かないって、何を?」

「ミマナお姉さんは……だいぶ幸福な家庭で……お過ごしだったようですね」

「何のこと?」

 ふっと小さく笑うと、ステラは上着の釦を外して開く。その幼い身体にはぼんやりと淡い光を放つ細かな痣が広がっていた。

「ボクが、星屑の巫女なんですよ」

「え……?」

 いきなりの告白に、あたしの思考はついていかない。寝ぼけている所為なのか、それともこの部屋に満ちた香りの所為なのか。

「あ……でも、ちょっと待ってよ。あたし、ステラと戦う理由なんてないわ。あたし、ステラの邪魔をしようとは思っていないしっ」

 とにかくこの戦闘を避けたくて、あたしはステラに呼びかける。できることなら、彼女のような少女とは戦いたくない。怪我を負わされたこの状況下でも。

「ボクの邪魔をしない? ならば……早急に死んでください」

 短剣が無秩序に振り回される。洗練されていないその動きには無駄も多いのだが、しかしそれが先を読むのに苦労する。

「どうしてあたしたちが戦わなきゃいけないのよっ?!」

 あたしはステラに危害を加えることができずに、その剣戟を避けることに集中するだけ。当たりやすい胴体を狙った攻撃は格闘技を習ってきたと言うのに避けきれず、肌に無数の切り傷を生む。一つ一つの傷は浅いが、こうもあちこち斬られてばかりはいられない。

「お兄様を助けるため……です」

「どういうこと?」

 壁に追いつめられた。ステラはそこで停止し、短剣を構えたまま上がった息を整える。そして続けた。

「陽光の姫君に奇襲されて……神の使いであるお兄様の機転で……陽光の姫君の選出者としての資格を……奪うことには成功したのですが……ほぼ相打ちでお兄様がボクを庇って……呪いを受けてしまったんです……」

「じょ、状況は理解したけど、どうしてそれがあたしを殺すことに繋がるのよ? あたしはステラちゃんたちを邪魔しないって言っているでしょ?!」

 説得できないものだろうか。あちこち斬られてその形を維持していない上着を押さえながらあたしは言う。

「わかっていませんね」

 だが、あたしの思いは通じないようだった。ステラは冷たい笑みをこぼす。

「ボクは今すぐにでも神を倒して……お兄様を神の側近にしなくちゃいけないんです」

「だから、あたしを放っておいて、さっさと神を倒せば良いでしょ?!」

 あたしの台詞に、ステラの瞳に炎が宿った。殺意の炎。

「――他の選出者がいる間は、神の座への道は閉ざされたままなんです……ボクは、確実にミマナお姉さんを殺さなきゃいけない。できるだけ早く。……そうじゃないと、お兄様の身体が持たないから」

「なん……て……?」

「神の側近になれば……永遠の命が手に入る……そしたら、お兄様は助かる……だから」

 悲しげな、その運命を恨むかのような表情を浮かべるステラ。その顔がかすんで見える。

 ――あれ……。

 息が必要以上に上がっている。脈が乱れて動悸が激しい。それは運動を続けていたからだろうか。

 ――違う……これは、まさか。

 かくんと膝をつく。身体の様子がおかしい。

「……やっと効いてきたみたいですね」

 ――毒か……。

 状態を確認するためだろう。ステラはあたしに近付いてきた。あたしはもう動けない。見上げて、彼女の顔を確認するだけだ。焦点が定まらず、この薄明かりの中での彼女の姿は捉えきれないのだけども。

「念には念をとお兄様は言っていましたけど……その通りですね……」

 身体を支えることすらままならなくなって、その場に崩れる。呼吸が浅く、ぜぇぜぇという音が出てしまう。

 ――眠りを誘う香を焚いただけじゃなく、短剣に毒を塗っておくだなんて用意周到ですこと。

「あなた自身には恨みはないのですが……これもお兄様のためなんです……許してくださいね、ミマナお姉さん」

 ステラの掲げられた短剣が角灯の光に照らされ妖しく光る。

 ――終わったな……。

 何もかもを受け入れるつもりで瞳を閉じかけたとき、扉が勢いよく開いた。

「ミマナっ!」

「ミマナ君っ!」

 ――マイト、クロード先輩……、来るならもっと早くしなさいよ……。

 振り下ろされる短剣。しかしあたしは奇跡的に避けていた。

 ――ううん、奇跡じゃない。これは、魔法。

「あと少しだったのに……なんで……?」

 クロード先輩が得意としている強化系魔法、それが作用した結果だった。

 ――だけど、もう本当に限界かも。

 意識を保っているだけでもやっとだ。次をかわすのは偶然を利用しない限り厳しい。

 しかし、すぐに追撃は来なかった。マイトがステラの短剣を奪い、身動きを封じていたからだ。

「ミマナ君、大丈夫……ではなさそうですね……」

 抱きかかえられ、クロード先輩の着ていた白い上着を被せられる。あたしの血で赤く染まってしまうのを申し訳なく思いつつも、されるがままだ。心配そうな彼の顔を見ていると、胸が苦しい。

「唇が真っ青、かなりの汗……毒ですか。それもかなり回ってしまっている」

 息が上がっているときとは異なるヒューヒューという呼吸。身体がいうことを全く利かなくてだらんとしている。痛みが感じられないのが不思議だ。

「ふふ……。そこまで毒が回ってしまったら……時間の問題ですよ……」

 蒼白な顔で笑みを作るステラをマイトは締め上げる。幼い少女に対して容赦ないのは、あたしの危機を前に焦っているからだろうか。

「解毒剤くらい持っているんだろ? 出せよ!」

 必死な気持ちが声に乗せられている。そんなマイトの気持ちをあざ笑うかのように、ステラは答える。

「手遅れだって……言っているじゃないですか……」

 勝ち誇ったような笑い。しかしそこには後悔の念もわずかに感じられる。きっと人を殺したことがないのだろう。

「嘘をつくなっ! 持っていないわけがないじゃないかっ! どうせ鞄に隠しているんだろっ!?」

「押さえていて下さい! マイト君」

 その答えに逆上して、押さえつけていた手を緩めそうになったのを、クロード先輩が叫んで制止した。

「挑発に乗せられてはいけません。オレが、救ってみせますから」

 あたしを空いている寝台に運び、そっと下ろす。

「先輩、だが、あんたは――」

「独学の魔導師を、馬鹿にするもんじゃありませんよ」

 クロード先輩の瞳が閉じられる。集中が始まると、すぐに部屋の空気が変わった。殺意による冷たい空気から、それとは別のどこか穏やかな暖かな空気へと。

 ――妙な感じね……ほんの少し前まで、寒くて仕方がなかったのに……。

 誰かに抱き締められているかのように温かくて心地よい。ただ寝台に横たわっているだけだと言うのに、それがとても不思議だ。

 聴きなれない旋律。独特の発音。単語として認識することもできない意味不明な言葉の羅列。クロード先輩によって紡がれる不思議な歌に合わせ、あたしの身体を光る文字が埋め尽くしていく。

 ――これが、クロード先輩の魔法?

 呼吸が落ち着いてきた。激しかった動悸も穏やかになっている。痛みも戻ってきて、あたしは思わず顔を歪めた。

「――なんとか危機を脱してくれたようですね」

 あたしの様子に変化が見られたからだろう。クロード先輩は呪文を唱えるのをやめ、あたしに顔を寄せて額を撫でた。声はまだ出せず、頷くことしかできない。

「くっ……」

 解毒されてしまったことに腹が立ったらしく、ステラは年に似合わない苦々しい表情を浮かべた。

「やっぱりボクじゃ……お兄様の役には立てなかった……」

 落胆するステラの身体に広がっていた痣が消えていく。つまりそれは――選出者の資格を失ったことを示していた。

「あぁっ……お兄様……」

 戦意喪失と受け取ったらしい。マイトはステラを解放した。少女は自分の身体を抱くように腕を回し、その場にぺたりと腰を下ろしてすすり泣く。

「――星屑の巫女、君の仕事は終わった」

 どこからともなく響く声。それはルークのものにしか思えない低い声。

「神の使いである君の兄、レイは今しがた息を引き取った。彼を見送りに行くと良い」

 ステラの周りに瞬時に展開される魔法陣。それはメアリとサニーが使用していた転送魔法に似ており――光が収束すると、、幼い少女の姿は消えてなくなっているのだった。

「――意外と優しいところがあるんですね」

 呟いたのはクロード先輩。彼は窓に近い暗がりに目を向けた。

「僕は昔からこうだよ、クロード」

 その暗がりに浮かび上がるように姿を見せたのはルーク本人だった。

「……知り合いなのか? クロード先輩」

 互いを知っているらしく言葉を交わすクロード先輩とルークに、マイトは警戒している。今がどういう状況なのかわからず混乱している中、それでもあたしを守ろうとしている彼の背中は本当に頼もしい。

「ま、簡単に説明するなら、オレが本当の神の使いで、彼が偽物――もとい、先代の神の使いってことですよ」

「なっ……なんだと!?」

 叫び声に似た声を上げて、マイトはクロード先輩とルークの両方を交互に見る。

「今期の選出者もついにミマナ君だけになりましたし、今夜はゆっくり休みましょうか」

「これが休める状況か?! 眠れるわけないだろうがっ!」

「ならば、寝かしつけて差し上げましょう」

 一言そう告げると、マイトは静かに床に崩れ、横になった。あたしの場所からは見えないが、寝息が聞こえる。

「ミマナ君も、しっかり身体を休めてください。話はそれからにしましょう」

 促すようなクロード先輩の声に、あたしの意識はまどろみに誘われる。


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