第11話 それぞれの思惑
「ピピピッ……ピピッ」手を伸ばして頭上のスマホのアラームを止める。
あぁ、今日はちゃんと目覚ましで起きたみたいだな。いやぁ、夢の中であんなに動いて、疲れた気がするけど、頭はスッキリしてるな。実際は、ぐっすり寝てるんだもんな。
私はいそいそと支度を整えながら考える。夢の中で倒した奴らは、今どうなってるのだろう……。
いつもの様に学校へ行く。教室に入ると、すかさず黒板を見る。今日は何も書いていない。
教室にいる生徒を見回しながら席に着く。
やっぱり、気の抜けたようになってる人が、増えたみたいだ。昨日の黒板の文字が効いたな。能力を持てることに気付き、夢の世界を制してやろうと思った奴が何人もいるのだろう。
見ると、私が倒したヤンキーの2人、バスケ部の2人は、それぞれ気の抜けた顔で宙をみている。
うわぁ、しっかり現実に影響が出ている。少し、心が痛むが、アイツらが襲ってきたんだ、やるしかないよ。
私は自分に言い聞かせる。
そのヤンキー、鬼頭と中条を見て、四天王達が何やら話しているので、そっと聞き耳を立てる。
「ほら、見てよ、アイツらやられたみたいね」
バカにしたように 北薗 麗華が、ヤンキー2人を指差す。
「本当だ、いい気味ね」
南曇 妃毬が笑いながら相槌を打つ。
「父に言って、繁華街の警備を強化してもらおうと思ってたけど、必要なくなったみたい」
あー、北薗の父親は市議会議員なんだっけな?繁華街のヤンキー撲滅は賛成だけど、北薗の父親は選挙前だけ愛想振りまいて、普段は偉そうにしてるだけって、もっぱらの噂だ。そんな行動力は無いだろう。知らんけど。
二人の会話にクイーンこと美樹丸 柘榴が反応する。
「なぁに、あの2人の顔。いつもの不愉快な威圧感が消えて、なんてマヌケ面なのかしら!フフッ、笑っちゃうわね」
「ホント、笑っちゃいますねクイーン!ブフッ!」
「やっぱり悪は滅ぶんですよ、ザマァ無いですね」
クイーンの言動に、必死に相槌を打つ北薗と南曇。
確か、地主であるクイーンの父親が、北薗議員の後援会長なんだっけな。あと、芸術家の南曇の父親の大きなアトリエも土地を貸してるんだっけ?そりゃあ、頭が上がらないよな。
こういう、ゴシップ的な話は、みんな良く噂をしているので、友達のいない私の耳にも、嫌でも入ってくる。
「あー、そんな事よりさぁ、オレのレオパーが今朝から元気ないんだよぉ」
何やら、西園寺 妖が騒ぎ出す。相変わらず声がデカい。
「何ですレオパー?」
隣りにいる東翔宮 凛が、話しかける。
「ヒョウモントカゲモドキのレオパーだよ、黄色いボディーに黒い斑点が美しいんだ」
「あなたトカゲも、飼ってたの?一体何匹飼ってるのよ?」
「ヒョウモントカゲモドキは、トカゲじゃなくてヤモリだよ」
「それは、どちらでもいいわ……」
うっ、忘れもしない黄色い体に黒い斑点。やっぱりコイツのペットだったんだ。
本当に何匹いるの?もう、会いたくないんだけど。
「あー、レッジーに続いてレオパーまで、もっと高い餌じゃないとダメなのかな」
「妖さん、それはだって、夢で使役してるから……上から見ましたよ誰かを襲ってるところ。どこかで反撃されたのではありませんか?」
「えっ、誰か襲ってるって、何の事?」
「……あっ、いえ、何でも無いわ、勘違いみたい」
何やら東翔宮は北薗と南曇に目配せする。
ん、何だ?西園寺は、夢の事分かってないようだな。人によって夢の事を覚えてなかったりするのか?
そんな事を考えてるとチャイムが鳴り、担任の橋田が教室に入って来た。
橋田は教室を見回すと、普通に朝のショートホームルームを進める。
こんなに、様子のおかしい生徒が増えてるのに、何も触れないのか。本当、やる気ないよね。
授業も淡々と進める。橋田だけなのか、この学校の特性なのか、わからないけど、授業中ずっと教科書を読んだり、プリントを配ったりとかで、生徒を当てて発言させたりはしない。当てられるプレッシャーが無いから楽だなぁなんて思ってたけど、やっぱ変だよね?おかげで無気力の生徒が増えても授業に影響は無い。
それに無気力と言っても、先生に言われた事は、しっかりやるようだ。チラッと覗いて見たら、数学のプリントとかも、ちゃんと解答できてるみたい。
――最後の授業が終わるチャイムが鳴る。今日は1日中、授業そっちのけで、クラスメートの様子をチェックしていた。
まず、いつも教室の片隅でダンス動画とか撮ったりして騒いでる陽キャグループの3人、岩永 瑠衣、榊 悠里、向坂 千尋。コイツらは全滅、3人とも揃って大人しくなった。ちょっと申し訳ないけど、静かになって良かった、なんて思ってる。
それと、おかしいのが漫研の連中。全部で8人の結構な勢力なんだけど、その内の半分の4人が無気力状態で、それについて残りの4人がずっと言い合いをしていた。
あとは、比較的大人しい人が、何人も無気力状態になってる。
ハンドメイドの坂本 重美とか、華道部の古峰 由紀乃とかだ。夢の世界を制覇してやろうなんて思わない普通の人は、攻撃なんかされたらどうしようもないだろうな。
逆に嫌にピリピリして、周りを警戒している人もいたな。
成績トップの沢渡 美加とか、学級委員長の上條 亜来もそうだ。
恐らく、夢の世界をわかっているのだろう。
帰りのホームルームも終わり、帰宅しようと支度をしていると、机に「ガッ」と衝撃が走り、危うくペンケースを落としそうになった。急いで教室を出ようとした、陸上部の早見 唯が、ぶつかったのだ。
早見は立ち止まって私の顔を見る。
「唯、何してんの!早く行って『練習』するよー」
教室の出口で同じ陸上部の松田 麻砂美が呼ぶと、早見は見下すような目をして、何も言わずに立ち去った。
何なの、ぶつかっといてあの態度!もう、敵同士って訳か?本当にこの学校にはろくな奴がいないな。
決めた!もう、夢で会ったなら、誰だろうと容赦しない、会った瞬間に叩き斬ってやるんだ!私が夢の世界を制覇してやる!




