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スーパー・レイディ

〈新涼を朝摑めども晝逃がす 涙次〉



【ⅰ】


 ベルゼブブの蘇生をふいなものとしたカンテラ一味の活躍があつた譯だが、今度は「冩眞家【魔】」が蘇つて來た(前々回參照)。「シュー・シャイン」づてに、是非悦美と話がしたい、と云ふ。彼は多藝な男であつた。人間名を多々良龍と云ふのは既に述べたが、その名義を使つて様々な事に手を染めてゐる。華道、茶道、香道、お琴、書(冩経)、和歌... 中世の堂上人もさながら、と云ふ多才さである。然も、それらは單なる余技ではなく、ちやんと師範の免狀を得た上での話。



【ⅱ】


「その多々良さんがわたしに何の用かしら?」と悦美。平涙坐が、「まづ、わたしが面談をしてみませう」と云ふ。涙坐の齎した情報に依れば、多々良の持ち藝を全て悦美に傳授し、スーパー・レイディとなつて慾しいのださうだ。日本を代表する淑女が、カンテラ一味にゐる、と云ふのは痛快な事ではないかと、かう云つてゐる。悦美‐「折角だけどわたし興味ないわ。だつてこの儘君繪の母であり、一味の秘書である方が、樂しいもの」。つれない返事と云へばつれないのであるが、これは子育てとキャリア・ウーマンとしての日常とを兩立させてゐる女性としては当然の事だらう。



【ⅲ】


 だが二回めの面談で多々良、「だうしても諦めがつかない。私は悦美さんに、皇室の女性をも凌ぐ存在になつて貰ひたいのに...」と食ひ下がつた。悦美「皇室だなんて畏れ多いわ。涙坐ちやん、面談を打ち切つて頂戴」。そこから多々良の涙ぐましい努力が始まつたのだつた... 彼の努力とは、【魔】らしく、自分を悦美が無視出來ぬやう、彼女が覗く鏡と云ふ鏡に映り込む、と云ふもの。これには、さしもの豪胆な悦美も參つてしまつた。何せバスルームにも鏡はある。で、当然の事ながら、カンテラ・じろさんに話は引き継がれた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈流星が僕の黑子(ほくろ)の數ほども降つて來る夜長風呂をする 平手みき〉



【ⅳ】


「出齒龜【魔】め」と特にじろさんはご立腹である。だが、自分は悦美と一緒に風呂に入る譯でなし、そこら邊はカンテラに任せた。ところがカンテラは、「鏡から【魔】を引つこ拔く」と云ふ術を心得てゐない。じろさんもほゞ、勘頼りでやつてゐる「秘術」なので、カンテラにやり方を教授する事は難しいのであつた。やるチャンスがあるなら風呂、と云ふのに、惜しい事。



【ⅴ】


 悦美、「いゝわ。3人でお風呂に入りませう。お父さんに裸を見られるぐらゐなら、恥づかしくないもの」じろさん(ヤらしい表現になるが)まさかの、熟れ切つたボディの我が娘と一緒のバスタイム、だうしても鼻の下が伸びてしまふ。だがそれは、カンテラの逞しい筋骨を見て冷ます、と云ふ事で・笑。そんな事も知らず、多々良はバスルームの鏡に現れた。



【ⅵ】


 じろさん、はつと氣を持ち直し、*「古式拳法」の教へ通り、鏡に手を突つ込んだ。その儘多々良を引き摺り出す... カンテラ、脱衣所に置いてあつた差し料、傳・鉄燦を取り、「しつけーんだよ! しええええええいつ!!」と多々良を叩き斬つた。洗ひ場に血飛沫(しぶき)が飛んだ。多々良、The end。また蘇生されても困るから、じろさん、秘術を用ひ、多々良の遺骸の関節を全て外し、シャツのやうに折り畳んでしまふ。その儘テオが管理する、今回から導入の、對【魔】用大型フリーザー(安保さん製作)に入れ、遺骸を冷凍保存する事にした。



* そんな事まで、「古式拳法」の秘傳書には書いてある。「(かゞみ)ヨリ魔ヲ抜キ出スノ術」と。



【ⅶ】


 じろさん、愛娘との入浴、と云ふ夢から醒めて、「テオどん、あと宜しくな」‐テオ「凍らせて置けば大丈夫ですよ!」。因みにいつもは裸で暮らしてゐるテオには、人間の衣服つて何て邪魔つけな物なんだらう、さう云ふ関興があつた、らしい。ぴゆうちやん、「僕ハ裸ヂャナイヨ。チャント* ちよつき着テルモノ!」・笑。



* 当該シリーズ第33話參照。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈必然と偶然の合はい秋の雲 涙次〉


 

 今回は当然の事ながら収入は派生しなかつたが、涙坐にだけは特別に、カンテラのポケットマネーからボーナスが下りた。ぢやまた。


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