第2話
どん、と夜空に大輪の花が咲いた。赤や青の光が池の水面に揺らめき、観客たちの歓声があがる。
真琴はその歓声の中で、ただひとり硬直していた。
暗がりの水面に、確かにあったのだ。白く浮かぶ小さな手。
見間違いだろうかと瞬きをしても、次の瞬間にはもう消えていて、そこにはただ水面を照らす花火の光しかなかった。
「どうした? 顔色悪いぞ」
隣で俊が心配そうに覗き込む。
「……いま、池に……」
言いかけた言葉を、真琴は飲み込んだ。説明したところで信じてもらえない気がしたのだ。
その夜、花火が終わり、人々が帰路につく頃になっても真琴は胸のざわつきを抑えられなかった。
村の道を歩きながら、俊がぽつりと言った。
「なあ、真琴。毎年、花火のあとって誰か行方不明になるんだ」
「……え?」
「村の連中は、みんな事故とか言うけどな。おかしいんだ。池に入ったわけでもないのに、ふっと消えるんだよ」
真琴は立ち止まった。俊の横顔は冗談を言っているようには見えない。
「……俊、それ、どういう意味?」
問いかけると、俊は苦笑して肩をすくめた。
「信じなくていいさ。ただ──俺は何度か見たんだ。夜の池で、誰かが手を振ってるのを」
背筋に冷たいものが走った。
花火の光の中で見た、あの小さな手。
真琴は言葉を失い、夜気の中にただ立ち尽くした。