魔女のオフィは余命50年になったので、人間と結婚します
「……今、なんと?」
前国王からの引き継ぎ式を終え、王位継承争いで見事玉座を手に入れた第2王子は、その勝利にふさわしくない、不機嫌な顔をする。
ハバード国が出来た頃、秩序が乱れ、病が流行り、災害に見舞われていた。この国がここまで大規模に発展出来たのは、初代国王が魔女と契約を交わしたからだと言われている。
その古くからのしきたりに従い、国は年に一度、感謝の意を込め、衣や食べ物、宝石といった贅沢な奉納品を捧げてきた。見張りがいる中、たった一晩で奉納品が消えることで、魔女との契約がまだ続いていることを確認するねらいもある。
過去に盗難を疑った愚かな兵が、奉納品を納める部屋に隠れ潜んだこともあったが、どんなに屈強な者でも、翌朝には口がきけないほど瀕死の状態で発見される。そしてそのひと月、不敬を働いた報いなのか、疫病や日照り、他国からの急な侵略など、大きな災いに見舞われるのだ。
そのくらい、魔女の契約は強い魔法なのだ。
人間が大きな利益を望めばその分代償が伴い、契約内容が大規模であるほど魔女は魔力を手に入れる。国家の安泰を長年願うなど、どれほどの代償と力を魔女に与えたのかなど、考えるのも恐ろしい。
だからこそ、この新たな王は、戴冠式の祝いの場に突然現れた自称魔女を無下に出来ないでいた。
その女は、王を前にもう一度言葉をかける。
「契約の900年が終わった、と申したのだ」
その眼差しは小娘と呼ぶには落ち着いており、物静かに淡々と話している様は、威厳に満ちている。
長い黒髪は腰まであり、真っ赤な瞳をもつ小柄な身体。かつて歴代の王が捧げたであろう国宝級の宝石を身につけていることを除けば、その姿は、どこにでもいる貴族の娘のようだ。その気になればすぐに身柄を拘束することも出来そうだが……王となったばかりのセバンスは慎重に対応する。
この国において魔女に対する敬意は絶対だ。万が一魔女だと偽って名乗った場合、その罪は重く、酒の場の勢いでの戯れだもしても鞭打ちの処分となるほどだ。
新国王の戴冠式でそのような偽りを言えば、極刑級だということはこの国の誰もが知っている。
もう1つ、セバンスが彼女を邪険に出来ない理由があった。彼女が言った「900年」とは、王族しか知らない魔女との約束の期間なのだ。
そして、その期限が今年だということも当たっており、ただの小娘が、その具体的な数字を口にするには偶然では片付けられない。
「…………お前が魔女だと証明出来るのか?」
セバンスはあくまでも立ち位置は上から、だが口調は強くなりすぎないように話す。
「このハバード国が今日まで続いてきたのが証拠だろう」
「……少し時間をもらっても?」
「今日が約束の900年だ。私は契約通り、この国の発展と安泰を提供した。今度はそちらの番だろう」
「今、貴方が嘘をついているかもしれないという理由で拘束することも出来るが?」
「そうか……ではそうしてみろ。その瞬間、契約不履行となるだけだからな」
ーーーードクンッ
彼女は初めて笑みを浮かべる。それに反応するかのようにセバンスの心臓に一度、ゆっくりと大きな脈が打たれる。
かつて、魔女と契約を交わした時、初代国王は魔女に問うた。
「契約の代償に、あなた様の条件をのみ、我が一族の心臓を代々握らせましょう。王族の命をあなた様が自由に出来るのです……もし、私の子孫があなた様に不敬を働いたその時は……」
すると魔女は、表情ひとつ変えずに答えた。
「その時は契約不履行となり、お前の血を引く王族が全員灰になるだけだ」
「人の一生は短く愚かです。900年の月日は、言い伝えさえ無下にされることがあります」
「そうか……では、お前の子孫がこの言葉を聞いた時、心臓に大きな鼓動を一度打つとしよう。そうすれば、その命が私の手に握られていると分かるだろう」
初代国王はそれに同意し、代々このやり取りを語り継がせてきた。
セバンスはこれ以上、疑う必要はなかった。全ての条件が、目の前に立つ彼女が間違いなく魔女であると証明しているのだ。
「それでは……」
魔女はゆっくり姿勢を変えると、第2王子、そしてこの瞬間新国王となったセバンスに一歩近づく。
衛兵が動こうとしたが、セバンスが手で制す。
「それで、私の夫になる者はだれだ?」
甘くゆっくりと囁く。なぜかその声は会場にいる全員の頭にも響きわたる。まるですぐ後ろで言われた錯覚すら感じる。
「…………っ」
セバンスは言葉に詰まる。今日は待ち望んだ晴れの舞台だというのに、その注目を目の前にいるこの魔女に取られてしまった。王としての初の仕事が、魔女の夫探しなど、そのプライドが許さない。だが、契約を破れば灰になる。脈が打たれた以上、それが本当か試すほど愚かでもない。
「……あなたに釣り合う夫を必ず選びましょう。今日は一度この場からお引き取りを……」
「ならぬ」
セバンスの言葉を遮り、その高いヒールを玉座に振り落とす。
「なっ!?」
「約束は今日だ……今決めないのなら、契約通りになるまで……」
その表情は冷たく、一切の迷いはない。立場は完全に彼女が上になってしまっていた。
「しかし……今すぐ決めると言うのは……」
「この場には、国中から集まった地位も財もある有能な男達なのだろう? これ以上の顔合わせの機会などあるまい……だが、そうだな。こちらとしては、魔法を使わなくて良いという条件さえ満たすのであれば誰でも良いが、こういうのは男の方から申し入れるのがこの国のやり方なのだろう? その作法にのっとってやろうではないか」
「魔法を……使わない?」
「900年働いてきたのだぞ? これ以上この国に尽くせと? これ以上話を引き伸ばそうとするなら、今お前たち王族を灰にするまでだ」
しまったとセバンスは焦る。ここにいる全員に今の言葉を聞かれてしまった。弱味を握られたも同然。これでは、無理に命じても従わないだろう。何より魔女自身が自主的な求婚を要求しているのだ。
相手は900年以上生きる魔女だ。何を考えているか分からない上に、魔法を使わないとなれば、一緒にいるメリットもない。新国王に取り入ろうと、まだ若い息子を連れてきた貴族達は慌てて我が子を後ろに隠す。
「……分かった。ここで名誉あるこの申し出を受けたい者がいれば名乗りでよ。王自らの祝いとして、望む領地、権限、身分、祝い金を好きなだけ贈ろうではないか。それに……王家の秘宝を1つ与えても良い」
ハバート国が出来た時、その君臨する王は3つの宝を天より授かったとされている。代々伝わる王家の秘宝のうち1つを持つということは、この国において、王に継ぐ絶対的な地位を持つことに等しい。
セバンスは、魔女の機嫌を損ねないよう、自ら立候補するよう圧力をかけたのだ。跡継ぎを差し出せば、未来永劫その圧倒的な地位を保証する見返りを与えると……
「…………っ!?」
誰もがこの条件に揺さぶられる。当然、当事者である方はたまったものではないが。生贄も同然の条件ではないかと必死で首を横にふる。
「私が、夫となりましょう」
「…………っ!!?」
セバンスは顔を歪める。この場で誰よりも先に声を挙げたのは、権力争いで負けた第1王子のフィードだったのだ。
「…………」
黙ってフィードの元へ向かおうとする魔女に、セバンスは慌てて止める。
「お待ちください……その男は、あなたに相応しい者ではありません。地位も名誉も剥奪され、国外追放されると決まっているただの負け犬です」
「……地位も名誉も住む地全てお前が喜んで用意すると申しただろう? 先ほどの言葉は偽りか?」
その睨みに何も反論は出来ない。まさか、目障りだった第1王子がここで名乗りをあげて出てくるとは……宴のあと、初の王命は彼の追放宣言をと楽しみにしていただけに、まさか自らこの国で絶対的な地位を与えるようなことになるとは……
「…………」
何も言い返せないセバンスに、魔女は背を向ける。自ら名乗り出たその男の元へ近づき、問う。
「名は?」
「フィード・ハル・モルダです……あなたの名を聞いても?」
そう言いながら、フィードは片膝を床に着き、彼女の左手をそっとつかむ。
「……オフィ」
「オフィ、私の妻となってくださいますか?」
フィードの正式なプロポーズに、魔女は微笑む。
「いいだろう、オフィ・モルダ。今日から私の名だ」
黙って見ていたセバンスは、このまま、フィードの思うようにはさせまいと、腹をくくる。
「お待ちください……僕が……いえ私があなたの夫となるのはいかがでしょう」
オフィの元へ詰め寄ると、彼女の手をとる。
「私は、この国の王です。誰よりも……あなたに相応しい最高の地位と名誉があります。私の妻に……」
だが、オフィはその手を振りはらう。
「この国の王は、既婚者に言い寄るのか?」
「何を……」
「私は先ほど、オフィ・モルダとなった。お主の耳は飾りものか?」
「っ!? まだ結婚は……」
「彼が私に結婚の申し出をし、私はそれを了承した……契約は完了だ」
「そんな…………」
これ以上の発言は許されない。結婚を契約だと言うのであれば、邪魔は不可能だ。
「では……妻と暮らす新たな住まいとして、南にある渓谷を頼もうか。あそこなら、食料も資源も豊富だからゆっくりと過ごせるだろう。身分に関しては、今のままで構わない」
今のままの身分でいい。それは、第2王位継承権を持つということだ。王族としての全ての権利を得、更に国宝を1つ手にする。王に継ぐどころか、いつ彼が反逆してもおかしくない状況を差し出してしまうことになる。
「〜〜くっ」
魔女を味方にしながら、王位継承権を持つ兄がこの国の最も豊かな土地に居座るなど、これ以上の屈辱はない。だが、セバンスは自分が言った条件をひっくり返すことも今さら出来ない。戴冠式での出来事は全てこの国の記録として残される。国中の上位貴族を集めたこの場で、自ら出した条件を無効とすれば、王としての信用はガタ落ちなのだ。
「いいだろう……」
「それではオフィ、行こうか」
フィードは手を差し出す。うなずくオフィの手を握ると、全員が注目する中会場をあとにする。
そのまま外にいた馬にまたがると、オフィを自分の前に座らせ、かけ声とともに走り出す。毛並みの綺麗なその馬に、王家の紋章がかけられていることに気づく。
「私の馬だ。まずは先にこいつを見せしめにでもしようと用意していたんだろうな。まったく……どこまでも用意周到だというべきか。今回は大いに役立ったがな」
「それで……まさかこの馬で新しい住まいに……」
「っく……」
「……なんだ?」
「くくっ……いや、失礼。セバンスのあんな顔が見れるとはね。せっかく王にのぼりつめたというのに、晴れ舞台でまさかあんな屈辱を受けるとは思ってなかっただろうな。くくくっ……君のおかげで追放されずにすんだよ」
新しい夫はひとしきり笑ったあと、こちらを見て感謝する。
この男も王族だよな? 自分も灰になるかもしれなかったというのに、なぜ楽しんでいるんだ?
人間をずっと見てきたが、王族がこんなにも感情を表に出すのは初めて見る。こうも初対面の、それも魔女にフランクは感じだっただろうか?
夫となった男を改めて見る。
年は20代半ば程だろうか? 未婚にしては年がいっているが、王位継承争いの渦中でそれどころではなかったのだろう。金色の髪に紫の瞳が整った顔をより際立たせるように似合っている。おそらく、モテる部類になるはずだ。
まぁ、顔の良し悪しは私にはそれほど重要ではない。どうせこの整った容姿も数十年もすれば崩れることに変わりはないのだから。
夫となる男はこちらの返事を待つかのようにじっとしている。
まさか私の言葉を待っている? 返事をした方が良いのか? それともただの沈黙か? うぅむ、考えを読みとれば早いのだろうが、面倒だな。
契約は終わった。もう新たな魔力は得られない。だが、そもそもオフィは魔法を使う気がない。
900年も働いたのだ。そろそろ休みたい。
「……感謝されることはない。それより、ちゃんと前を見ろ。ぶつかるぞ」
「っ!! そうだな」
慌てて木を避ける。綺麗に整備された道が、いつのまにか森にさしかかる。
目的地は決まっているのか、ずいぶんと近道をしようと視界の悪い獣道を走る。おかげでようやく大人しくなった。
それにしても……魔女と結婚したというのに、先ほどからこの男のテンションはなんなんだ。やたらと話しかけてくるが、夫婦に会話は必要なのだろうか。少し面倒だな。
「……それで、その南の地まで馬でいくつもりか? 先ほども言ったが、私は魔法を使うつもりは……」
「ハハハ、それもいいな。だけど、馬が疲れるから馬車で行くよ。今日は少し寄りたいところがある。それに、すぐにでもあの場から出て行きたかったからね」
まぁ、確かに歓迎されてはいなかったな。
「……問題ない」
むしろ時間があと50年も残っているんだ。寄り道するくらいがちょうどいい。
魔女の寿命は1000年ある。その魔力で若く美しい姿を保つ魔女だが、余命50年のタイミングで契約が出来なくなるのだ。新たな魔力を得られなくなった魔女は、その残りの魔力を削りながら余生を過ごす。徐々に身なりに消費する余裕もなくなり、最後には老婆のようになる。
そして、身を守れなくなった魔女は魔女狩りにあう。魔女の生き血で不老不死を求める者、力を得ようとする者、その存在への恐れから排除しようとする者、とにかく魔女の最期は悲惨なものと決まっている。
「一生あなたを守る」
派手好きな西の魔女が拷問による痛ましい最期を遂げたと聞いた時、驚くべき場面に出くわした。人間の男が、条件もなしにひざまずき、その一生を捧げると誓っていたのだ。
あの男、何も取引きなしで誓っただと!? それも、あんな一方的な条件を差し出すとは……
結婚とはなんと素晴らしい契約だろうか、老いると分かっていながらも、生涯をかけてその安全を保証してくれるとは。
―――人間の男と結婚しよう―――
そうすれば魔力を使わずに、安全に楽に暮らせるではないか。
まずはもっとも力のある種族、王との契約をもちかけた。国を栄えさせることを条件に、50年、人間の結婚相手を差し出させればいい。
900年、他の気ままな魔女のような自由を失う代わりに、安全な生活を手に入れた。食べ物も金銭も何不自由なく暮らせる。まぁ、自然の流れを無視する国の管理はその分魔力の消費も激しかったが、何世代にもわたる王族の命をかけた契約は、一国を掌握しても十分すぎる魔力を手に入れられた。
「おーい? 聞いている?」
フィードの声に我にかえる。
しまった……夫の話を聞いていないなど、妻失格と思われてしまうかもしれない。だが、嘘も良くないはずだ。
「…………なんだ?」
「あれ? やっぱり聞いてなかった?」
まずい、ここは謝った方が良いのだろうか。だが、魔女が人間に頭を下げるなど……いや、もう妻になったのだからその方が自然なのか……
表情にこそ出てないが背中に冷や汗をかく。
困った。人間は嘘を悪とするというが、些細なことでも気にさわるだろうか?
ちらりと彼を見ると、あまりにも分かりやすいその態度に思わず笑い出している。
「くっくっく……僕の言うこと聞いてなかったようだね。分かりやすすぎるというか……新鮮だな」
「……新鮮?」
「嘘でも聞いていましたと言うものだろう? ほとんどの者が王位継承争いで簡単に寝返ったというのに、君は正直者だ」
「…………」
「余計なことも言わなさそうだ」
「よく喋るな」
「まあね。感情を殺せ、誰も信じるな、で生きてきて、そのまま一生が終わりかけたんだ。今を楽しまないでどうする」
「……そうか」
王族が、それも第1王子が王位継承争いで負ければ、追放され、その命を狙われるのがオチだ。敵国に捕まればリンチに遭い、友好関係の国に向かうにもその前に暗殺されるのが定番だ。
血生臭いのぅ。初代国王とやらはすべてを差し出して国を良くしようとした人物だったが、まぁ後継どもからすれば勝手に自分たちの命を差し出した迷惑男扱いかもしれんな。
国が豊かになるほど、王位継承争いは醜くなる一方だった。
「それに、伴侶を選べるなんて、これほど贅沢な自由はないからね」
「っ!?」
「この国の妻の選び方は……少なくとも貴族ともなれば自分の利益になる相手を選ぶ。まして、王族ともなれば大臣達によって全て管理されるからね。まさかこんなに可愛い妻とのんびり余生ライフを送れるなんて、あいつには感謝しないといけないかもな」
「……余生?」
今の身分をそのままにと望んだ時、てっきり反逆でも考えているのかと思っていた。こちらとしては城での生活もまんざらではないが、政には興味がない。
「当然、反逆なんて考えるわけないだろう。あの条件はただの嫌がらせだよ」
「…………ふっ」
「んっ、笑った?」
「…………」
「否定しないね」
今まで見てきた王族とは思えない。己の欲の為に身内でさえ排除する者が多いというのに、嫌がらせとは予想外の回答だ。魔女を魔女と恐れないやりとりに、なぜか歯痒くなる。
たかだか20数年しか生きていない小僧に押されるとは。
「あぁ、着いた」
「ここは……」
「初代国王との契約の場、であってるかな?」
今のハバード国から少し離れた森の上。以前はもっとたくさんの岩が積み上げられ、築かれていた古城は遺跡と化し、今となってはかろうじて城跡の基盤がところどころにある程度になっている。900年の間に周りの木の方が高くなったようだ。だが、そこから一望できる景色は変わらず、まるでこの国を見渡せてしまえそうだ。いつのまにか日が傾き、星空へと変わっていた。
今日が終われば、私の魔女としての契約も出来なくなるな。
初代国王と交わした握手を思い出す。
「言い伝えでは、初代様はここで君に国の未来を託したそうだが……今日からは違う。2人の未来を誓い合う場にふさわしいだろう? オフィ、君が望むことは必ず叶えると約束する」
「そうか。私がこの結婚に望むことは1つだけだ。私はもう魔法は使わない」
「分かっている。私からも望むことは1つだ」
夫となる男は、契約ではなく、誓いだと言う。
まぁいいだろう。契約だとしても、その効力はもう数時間で終わるのだから。人間のいう誓いとやらはよく分からんが、私の望みどおりになることに違いはない。
「なんだ?」
「この結婚に、愛を望む」
「…………?」
あい?
「オフィ、この神聖な場において、君を生涯かけて愛すると誓う」
急に両手を握りこちらを見つめるフィードに、何が起こったのか理解出来ないまま彼は続ける。
「そして、君にもいつか愛して欲しいと願う。さぁ、君も誓って? オフィ、夫となるフィード・ハル・モルダを愛すると誓いますか?」
「???」
これが、人間でいうところの契約の儀式なのか? それで生涯の安全を保障してくれるのであれば簡単なものだ。
「誓おう……」
オフィの言葉に満足気に笑うと、そのまま続ける。
「では、この国の第1王子の名にかけて、誓いのキスをもってここにいる2人を正式な夫婦とする」
「………………!?」
気づけば彼の顔は重なるように近く、唇が触れたのが分かった。
「さて、これで問題なく夫婦になれたね」
「これが人間の夫婦では必要な手続きなのか?」
「結婚に必要な条件は1つ。王より許しを受けた司祭か王族自ら許可をする。第2王位継承権を持つ王子直々の許可なんて貴重だぞ? 今回は私で条件を満たしているから、これで正式な夫婦だ」
「……そうか、てっきり先ほどの口付けで唇でも噛んで血の契約を交わすのかと」
「そんなこと、人間はしないよ!?」
「分かった。では、これから短い間だが宜しく頼むぞ。夫よ」
「えっ、ちょっ……今の笑顔は最高……」
「? それより、誓いとやらの中身は毎日するのか?」
「うん? まぁ、少しずつ気持ちが増えていけば良いのかと……って、何を!?」
「いや、人間の愛し合うとは服を脱いでするのだろう?」
「えっ、ちがっ!! いや、そうだけど、待って!! オフィ、落ち着いて。私の望む愛はまずは気持ちから入るものだ」
「ふぅ。やはり小僧にはまだ早かったか……」
「違うからね?」
2作目の短編です。
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