第15話 ドキドキ!ドライブデート大作戦 5
それから俺たちは「海ほたる」を出て、アクアブリッジを通って千葉県南部に向かう。
アクアトンネルとは打って変わって、青空と海に挟まれたアクアブリッジの眺めは最高。
青の真っ只中を走りながら、ミアとの会話も前より弾むようになってきた。
「これからどこに向かうの?」
「千葉に入って、まずは昼食にしよう。漁業が盛んだから海鮮がうまいんだ」
「海のさかな……川で捕れるのとは違うんだよね?」
「そうだな。一概には言えないけど、海魚は川魚より脂が乗ってて濃厚な旨味が特徴って感じか。川魚はさっぱりした淡白な味が多いから、新鮮に感じると思う」
「ほう……それなら見せてもらおうか。海水魚のポテンシャルを」
「なんでちょっと強そうな言い回しなんだよ」
ミアとの掛け合いを楽しみながら、トラックを走らせること数十分。
着いたのは、港のそばにある海鮮屋だ。
オーナー自らが漁で捕った魚を出しているから、新鮮さは折り紙付き。店の前にはトラックも余裕で停められる広々とした駐車場があって、ドライバーのあいだでも評判のお店だ。
リストに記帳してしばらく待つと、イセエビやヒラメの入った生け簀のある、広い店内に案内される。
「すごい、まだ生きてる。……このペラッペラのやつは可食部あるの?」
「可食部って……。ヒラメはうまいぞ。刺身にするとコリコリした弾力があってだな」
「薄いのに、弾力がある……」
そう言いながら、なぜか自分の胸元に視線を落とすミア。
こうしてあらためて見ると、ミアはスレンダーなモデル体型といった感じだ。レティさんのような出るところが出ているナイスバディとはまた違った、しなやかな魅力がある。
かといって、それは女性的な魅力が乏しいということを意味しない。
服の上からだと分かりづらいが、胸元には確かな曲線が――って何を見てるんだ俺は!?
「……触るの?」
「触らねえよ!」
ちょっとだけ気まずい思い(全面的に俺が悪いんだけど)をしつつ、通された席でメニューを見る。
ミアは「ハヤトと同じのにする」と言うので、これは責任重大だ。
ええと、どれどれ、今日の刺身のラインナップは……アジ、マグロ、ワラサ、タイ、それにヒラメか。
よし――ならば俺の選択は、こうだ!
――刺身5点盛り、ごはんセット(あら汁)、さんが焼き。
注文から程なくして、運ばれてきた刺身を見て、思わず唸る。
「新鮮すぎて輝いてるじゃねえか……!」
醤油をつけて、ワサビを乗せて……ああ、思わず笑っちまうぐらいに、旨い。
まずは刺身5点盛り。豪華な内容なのに手頃な値段でコスパ最強のメニューだ。その日に捕れた魚でラインナップが変わるだけあって、味も当然ながら最高。
アジとマグロの濃厚な旨味に、淡白な味わいながら歯応えで魅せるタイとワラサ、そしてヒラメの弾力が次々と楽しめる。
醤油の味でごはんが進み、それを魚介の旨みが溶け出したあら汁で流し込むと……ほう、と幸福感に思わずため息が漏れる。
そんな俺を見て、ミアもおそるおそるといった様子で、刺身に口をつける。
「あう」と、どうやらワサビが効きすぎたようだ。
つーん、という刺激に耐えて、涙目で刺身を嚥下する。
「ワサビ、慣れないうちは効くよな」
「うん。……今の私、ドジっ子みたいでかわいかったね」
「それ自己申告するやついるんだ……」
「かわいくない?」
「……まあ、かわいいけど」
そのあとは適量を掴んだのか、ミアはぱくぱくと刺身を平らげていく。
とくにヒラメが気に入ったようで、口に運んでから目を丸くしていた。
「ワサビには驚いたけど、認めざるを得ない。海水魚は、かなりやる」
「気に入ってもらえたならよかったよ」
それから俺たちは千葉の郷土料理である「さんが焼き」も楽しんだ。
アジを細かくたたいて作った「なめろう」に、しその葉を乗せて焼いてある。レモンを絞り、大根おろしを乗せて食べると、濃厚なアジの旨味とさっぱりした後味がたまらない。
親父はこの「さんが焼き」が大好物で、『本当は日本酒とやりたいんだが運転があるからなぁ。なあハヤト、いつかお前が免許を取ったら父さんに「さんが焼き」で日本酒を呑ませてくれよ』なんて冗談めかして言っていたっけ。
それからも箸は止まらず、俺たちはあっという間にお昼を完食してしまった。
「ヒラメ最高。ヒラメしか勝たん。ヒラメは友達」
「いや、友達なら食べるのはまずくないか?」
「そんなことはない。ヒラメは私の一部になって、永遠に生き続ける」
だからその、胸元に視線を落とすのやめろって。つい見ちゃうから。
……ヒラメ、お前――そこにいるのか……?
とにかく、ミアは海鮮を楽しんでくれたみたいだ。
「こんなおいしい店、よく知ってたね。トラッカーだから?」
「それもあるけど、親父に連れてきてもらったことがあってさ。小学生の俺に『ヒラメはうまいだろ〜!』って、いま思うと玄人向けすぎるよな」
「……ハヤト、お父さんの話をするときいつも嬉しそう。大好きだったんだね」
「う、俺、そんなに楽しそうにしてたか?」
「してた。トラックにアダマンタイト使ってるって聞いたときよりも」
「……まあ、そうだよ。俺はずっと親父に憧れてきたから。いつか親父みたいなトラッカーになってやる、ってさ。……ミアにも、その、大切な人っているのか?」
幸せの鐘を鳴らしたときの、ミアの姿が思い浮かぶ。
するとミアは、首から下げたペンダントを愛おしげに握り締めた。
「いるよ。……今は、会えないけど」
「あっ、ごめん! そりゃそうだよな、ミアは向こうから来てるんだから……!」
「気にしないで。長い話になっちゃうから、いつか話すね」
慌てる俺に、ミアは穏やかな笑顔を見せてくれた。
きっと、そのペンダントをくれた人は、ミアにとってすごく大切な人なのだろう。
「それよりデートの続き。次はどこに連れてってくれるの?」
「お、おう……。腹も膨れたことだし、ちょっと運動でもどうかと思ってさ」
「ふむ。その心は」
「――山、登らないか? といっても階段あるし、あんまり高くはないんだけど」
「いいよ。脚には自信がある」
……確かそれ、脚線美のほうじゃなかったか?