37. クラッシャー米田
よりにもよってこんな場所である人物と遭遇してしまった。いや、偶然では無いだろう。
まさか自宅からわざわざ付けて来たのか?
それってストーカーじゃん、キモッ!!
そんなコトを思っていると周囲の目を気にせず両手を広げて大声で喋り出した。周りの人は何だ何だと集まって来た。
「皆さぁーーーん、聞いて下さぁ~い!」
太った男、米田はまるで選挙スピーチをする人の様にパフォーマンスを始めた。
「そこの女は三年前に起きた【バス事故】の事故を起こした真犯人でーーーすっ!!」
周囲の人がザワついた。
その様子を見てニヤける米田、イケる! と思ったのかそのまま続けた。
「その女は人を殺した殺人鬼です、気おつけて下さぁ~い!」
言った、言ってやったと鼻の穴を大きく広げ吸った酸素をフン! と鼻から出した。満足感が身体中を走り満たされ顔が恍惚に歪んだ。
勝った! と・・・・・・
だが、直ぐに違和感に気づき辺りを見回すと静まり反っている。武藤蘭香の顔は無表情のまま此方を見ている。
「何だ、何なんだその反応は、この女は人殺しなんだぞ!」
周囲はヒソヒソとし始めた。
「何、あの人ヤバくない?」
「酔っぱらいが女の子に絡んでるよ」
米田は自分が思っていた反応と違うコトに絶句した。きっと米田の頭の中では私を誹謗中傷して周りから叩かれるのを期待していたんだろう。あわよくば、私から弱味を握りお金をせしめようと考えていたんだろう。
しかし実際は違った、それはそうだろう。
誰が酔っ払いの言葉なんて聞くと思う、周囲の目からは太った酔っ払いが女の子に絡んでいるという構図にしか見えない。
バカな人だ、何で上手くいくと思ったんだ。その前に金寄越せって大声で恐喝してたじゃん。
「ちょっと貴方、止めなさい子供相手に!」
白髪混じりの年配女性が心配して米田に声を掛けた。
「うるせぇーーークソ婆、他人が口出すんじゃねーーーよ!!」
おいおい、クソはないだろう。さっきまで味方に着けようとしていた人達に向かって他人はないだろう、思った様にいかないからってキレんなよ。
「おい、お前が人殺しだって警察にバラられたくなきゃ俺に従え、金を出せ!!」
米田は無茶苦茶な要望を言って恐喝だけでなく脅迫までして来た。バラされたくなきゃも何も、もう言ってるじゃん。
ハァ~と呆れてタメ息をついた。
「で? 何がしたいのさ、オッサン」
「オ、オッサンッ?!!」
いや、どう見てもオッサンでしょアンタ、薄い頭皮に不摂生で油ぎっしゅで出物だらけの顔や皮膚にヒゲ面、ちょっと動けば揺れるご立派な太鼓っ腹、こんな風貌した人を、お兄さんなんて呼べる訳無いだろ。見た目以上に老けてみえるのは不衛生によるものだろう。
「ガ、ガキが調子に乗るんじゃねぇーーーっ!!」
プルプルと顔を真っ赤にして、また私の腕を掴みに掛かろうと突進して来た。
ブチッ!
「触るんじゃねーよ、オッサン!!」
向かって来る米田の懐に入り下から顎を撃ち抜くアッパーをお見舞いしてやった。
「ヘブボォッ!!」
顎を撃ち抜かれた勢いで米田の身体は背中から地面に崩れ落ちた。
「ヒィ~・・・・・・ヒギィィ~・・・・・」
痛みと殴った時に舌を噛んだのか泣きながら若干口元から血が出ていた。
「ひゃったなぁ~、ひゃりひゃがったなぁ!」
略: やったな~、やりやがったなぁ!
地面でのたうち回り痛みとお酒の生で呂律の回らない口で、まだ何か言っている。
「け、けいひゃつひいっへ、うっはへへやふっ!」
略: け、警察に言って訴えてやる!
「ふたはこひひはぁーっ、はまーひろぉ!」
略: ブタ箱行きだーっ、ざまーみろ!
ヒャハハハ~と気持ち悪い笑い方をする米田を私は見下ろした。
私の表情を見た米田は笑いを止めて顔色がサァーと変わった。
「ヒィッ~ヒィィ~ッ!!」
丁度良かった、最近運動不足で欲しかったんだよね、サンドバッグが・・・・・・
手を組んで指をポキポキ音を鳴らし悲鳴を上げて逃げる米田に近づいた。
「ほ、ほうりょふばぁ! へ、へいはふはぁはまっへはひほぉ!」
略: ぼ、暴力だ! け、警察が黙ってないぞ!
「ヘブッ!!」
米田の顔を踏みつけ、もう一発お見舞いしようと拳を振り上げた瞬間、誰かに声を掛けられた。
「おーい蘭、何処だ?」
寸前の処で止め我に還った。
「に、義理兄さん!」
いかんっ! 人を殴っている姿なんて義理兄に見られたらマズイ! 義理兄には大人しい妹風で通しているのに、猫被っているコトがバレる!
私の名前を呼んで探す義理兄が此方にドンドン近づいて来る。
考えろ、考えろ蘭香!
この場を乗り切る策を案を考えろ!
考えるコト数秒、私が出した答えは・・・・・・
「義理兄さ~~~ん!」
と言って義理兄に抱きついた。
「ら、蘭っ!!」
いきなり抱きつき義理兄も驚いている。
「助けて義理兄さん、あの人が金寄越せって言って迫って来たの~!」
ちょっとベタで胡散臭いけど私は敢えて猫を被りを通した。
ついでに涙ぐんで目をウルウルさせた。
「大丈夫か、何もされてないか?」
何も、・・・・・・
「お手洗いから出た時、急に腕を掴まれて~・・・・・・怖かった~・・・・・・グスッ」
やり過ぎかな? なんて思っていると義理兄がフリーズして固まっていた。
「に、義理兄さん?」
「ほ、ほとほぉひぃ~はらはぁ~ふってふぁ~びっひはぁ~!」
略: 男に身体売ってる◯ッチが!
「ヒィッヒィッヒィ、ほ、ほんほぉ~ひせはぁなぁ!」
略: ひっひっひ~、ほ、本性見せたな!
いや、さっきから何言ってるか分からんし、何なのこのオッサン?
そんなコトを思っているとガンッ!! という音がした。
ガンッ?
音のした方を見ると鉄で出来た施設のオブジェがポッキリ折れ曲がっていた。
義理兄が素手でオブジェを殴り破壊した音だった。
「ーーーっ!!!」
もしかして義理兄に猫被って助けて貰おう作戦はマズかったか?!!
冷や汗が流れて止まらない。破壊したオブジェを見たら何故か、前に殴られふっ飛ばされたルーサーという男性のコトを思い出してしまった。
「おい、お前ーーー」
低い声で義理兄は米田を睨みつけた。
「ヒィッ!!」
ビビった米田は小さく悲鳴を上げガタガタと震え出した。
「俺の義理妹に何してる!」
「アババッ、アババ~・・・・・・」
義理兄の顔が怖かったのか目から涙が流れ失禁したのかズボンが濡れた。
あ、気絶したのか動かなくなった。
大の大人でも怖いんだな義理兄の顔って・・・・・・
「すいません、何かありましたか?」
誰かが呼んだのか施設の警備員二人が現れた。
「えとーーー、この状況は?」
困っていた警備員に私から事情を話すと気絶した米田の肩を支え連れていった。
暴れる様なら警察に通報して下さいと伝え後は警備員に任せる事にした。
あ~あ、折角の休みが台無しになった。帰ったら栗山刑事に連絡入れよう。