2.白猪との戦闘
10メートルほどの間合いで、三人と一匹が向かい合う。
後ろ歩きをするような調子で三人が後ずさるが、その分猪が距離を詰める。
このままでは埒が明かないと、司が口火を切った。
「穂高」
「ん?」
「Go」
「マジ?」
どうやら拓斗に単身突撃させるつもりのようだ。
「大マジだよお前この中で武術経験あんのお前だけやぞ」
「ちょっと待とう?武術って言っても空手だし辞めてから何年経ったと思ってるの?」
「0と1には無限倍を超える違いがある...」
「その理論で言うなら登も空手経験あるだろ」
「一年持ってねえの知ってんだろ有段者」
「そうだぞ大人しく行けよ」
竹内も加勢し始める。どうやら本気ですべて拓斗に押し付けるつもりのようだ。
「絶対俺は行ってやんねーからな!行くときはお前らも道連れにしてやるよハハハ」
「は?もうしょうがねえな...行ってやるか」
「登が行くなら仕方ないな」
「結局三人でかよ」
「「どうぞどうぞ」」
「お前らァ!!」
そんな悠長で古典的な譲り合いを待ってくれるはずもなく、しびれを切らした猪がついに突進をかけてくる。
狙いはこの中で最も身長の低い拓斗だ。
「うおっとぉ!!」
「ハハハ猪もお前が良いってよ!」
「引き付け役よろしく」
「やるしかないか!」
腹を決めたらしい拓斗が猪に大して左足を前に出した半身の姿勢を取る。
「突進してきた鼻を蹴っ飛ばすのがいいらしい!うちの兄曰く『サッカーボールを蹴る感覚』だってよ!」
「簡単に言うなぁ!」
猪が後ろ足で土を蹴る。その直後、ありえないスピードで走り出す!
「うおっと!!」
とっさに足を動かし回避する拓斗。
「何だ今の」
「これは...」
それを見た他二人もその異常な足の速さに驚きを隠しきれないでいる。
「それはヤバい!穂高!頼むから3分持たせろ!」
「無茶言うなあ!」
猪は減速できなかったのか、かなり離れたところにいる。
しかし、また後ろ足で地面を蹴っている様子を見て、そんなことは意味がないと拓斗は気づく。
「っしゃ来い!」
拓斗が構える。その瞬間、猪がまたとてつもない速さで走ってくる。
先ほどより距離が離れているからか、拓斗は幾分かその動きを捉えることができていた。
目で見ても確実に車より速いとわかるほどには速い。しかし拓斗は、偶然か狙ったのかその鼻にぴったりと足を合わせ、蹴りぬいた。
「いよっしゃ来たぁ!」
「やるじゃねーかお前!」
思わず称賛の声を上げる司。しかし猪は大きく堪えた様子もなく、少し距離を取ってまた力をためている。
「んー大して効いてなさそう」
「耐えられそうなのが分かったからちょっとこっち集中するね?」
「え?待って?」
司は何かを作っているようだ。周囲の背の高い草や木の陰にちゃっかり隠れている。
「まじかー」
半ば諦めつつ猪の方に集中を向ける拓斗。するとそのとき、横合いからちょうど手ごろな石が猪めがけて飛んできた。
猪は反応しきれず直接そのわき腹あたりに石をもらう。
「僕の方は準備OK、その辺のボール大の石かき集めてきた」
「おおサンキュ、ここしのごう。登がなんかやってるし」
「了解」
二人が声を掛け合うと猪も驚きから復帰できたようで、悠一に向かって後ろ足で土を蹴り始める。
「って俺かぁ」
「そりゃそうだろ!っと」
それを予期していたのか拓斗はすでに猪に向かって走りこんでおり、すんでのところで猪に蹴りを入れることができた。
「俺がとりあえず壁やるから援護よろしく」
「り」
さらに仕切り直し。拓斗を挟んで猪と悠一が対角にいる。猪は度重なる失敗に冷静さを欠いているようで、懲りずに突進を続けようとしている。
「ほいっと」
拓斗が慣れたように蹴りを入れる。
「ほいっと」
その穴を埋めるように悠一が石を投擲する。
奇妙なまでに完璧な連携の前に、猪は大きく踏み込めないでいた。
そうして数分、動きはあるものの半ば睨みあいの様相を呈していたころ、また石が飛んできた。
今度はサッカーボールの半分ほどの大きさで、投げられないほどではないが重量はしっかりあるように見える。
その石は猪を少しかすって後方に落ちた。
猪の視線の方向が変わる。
その先には、司がいた。
「やーい!お前んち、おっばァ!?!?」
何か気を引こうとして放ったであろう言葉を遮るように、厄介な人間二人に溜まっていたストレスをぶつけるかのように猪が司に向けて突進した。
司は猪を本気の跳躍で避けたようだ。
そしてその瞬間、猪が甲高い悲鳴を上げた。
「よっしゃ成功」
司はガッツポーズをしている。悲鳴を聞きつけた二人が司の後ろを見ると、
そこには不自然に地面に突き立った、とがった木の棒に貫かれて絶命した猪の姿があった。




