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オマケ 裏話 一緒にご飯

「お店、検索しますね」


なんて言って、ルリアはスマホを取り出して操作する。

図書館を中心に、五店舗ほど見つかった。

その画面をルリアはミカゲへ見せる。

ミカゲが、画面をよく見ようとルリアに身を寄せる形になった。


(ち、ちかい、でも……)


またも破裂するんじゃないかというほど、ルリアの鼓動が激しく脈打った。


(すこしくらい、いいよね)


すこし、もう少しだけ近づきたかった。

だから、スマホの画面をミカゲがよく見えるように、ルリアもミカゲへ身を寄せた。

ミカゲの肩に、ルリアの肩が触れた。


「!!」


ミカゲは驚いて、ルリアを見る。

手を繋いでいた時よりも、ずっと近くにルリアの顔があった。


「どこに、しますか??」


ルリアの瞳がミカゲを映していた。

真っ直ぐに、嬉しそうに、楽しそうに。

ルリアはミカゲを、ミカゲだけを見ている。


「う、あ、じゃぁ、ここ行くか」


ミカゲはルリアのスマホに視線を戻した。

あのままだと、彼女の瞳に吸い込まれてしまいそうだった。

いつかの【寄り道】での光景が思い出される。

自分だけを見ればいいのに、と。

そんなことを思った。

今、ミカゲのその子供じみた独占欲と願いは叶っていた。

彼女はミカゲを見ていた。

ミカゲだけを、その瞳に映していた。


「ここですね」


ルリアは、ミカゲが示した店を確認した。

肩を抱き寄せたら、嫌がるだろうか。

でも、まさに触れられる距離にルリアはいるのだ。

ここでふと、ミカゲは数分前のやり取りを思い出す。


(そういや、なにか言おうとしてた、よな?)


ルリアがなにか言いかけていたことを思い出す。

だから、


「なぁ、さっき」


ミカゲはルリアに先程、何を言いかけたのか問おうとした。


「はい?」


ルリアはルリアで、ミカゲを見ようとした。

結果。


ゴツン。


ルリアの頭が、ミカゲの鼻にクリティカルヒットした。


「あ、あわわわっ!!

すみません、すみません!!」


「へーきへーき、なれてるから」


鼻を抑えつつ、ミカゲは言った。

喧嘩の時よりは全然痛くない。


「それより、冷泉こそ当たったところ大丈夫か?」


「うぅ、はい、おかげさまで」


恥ずかしさここに極まれりで、ルリアは支離滅裂な返しをした。

なにを言っているのか、たぶん自分でもよくわかっていない。


「と、とりあえずラーメン食いに行くか」


「あぅぅ、はい、ほんとすみません」


そんなこんなで向かったのは、ガッツリ系のラーメン屋だった。

店に入ってから、ミカゲは激しく後悔した。


(また、やっちまったァァァ!!!!)


明らかに食の細そうなルリアが食べ切れる量を出す店では無い。


(いや、量少なめでとか言えば、案外少なくしてくれるか?)


だが、サイズを選べる店ならまだしも、そうでないと金額が変わらないというのもよくある話だ。


「わぁ、美味しそう。

ミカゲさん、何にします??」


通された席に向かい合って座る。

それから、立てかけてあったメニューをテーブルに置いてルリアが聞いてきた。


「そうだなぁ」


内心焦りながら、ミカゲはメニューに目を通す。

サイズは並盛りか大盛り。

あとはサイドメニューやトッピングメニューが端っこに載っていた。

空き始めた時間だが、そこそこ客はいる。

隣の席の客が注文したラーメンが運ばれてきた。

店員が注文を確認している。

どうやら隣の客は並盛を頼んだようだった。

実物を確認してみる。


「…………」


目の前の少女が食べるには、やや、いや、かなり苦戦しそうな野菜ラーメンがそこにはあった。

しかし、この時ミカゲは他のことにも気づいた。

いや、フリーマーケットを冷やかしている時から気づいてはいた。

他の客たちの視線が、ルリアに向けられていた。

コソコソと、可愛い、綺麗、妖精みたい、そんな言葉が老若男女から漏れている。

見ていないのは、ラーメンに挑んでいるガチ勢らしきもの達だけだ。


(やっぱり、可愛いし、綺麗なんだよな)


場所がラーメン屋だろうと、オシャレなカフェだろうと関係ない。

そこだけが、まるで別世界のようになる。

急に現実に引き戻された。


(なんで俺、こいつと一緒にラーメン食いに来てるんだろ?)


好かれたいとか、自分だけを見てほしいとか。

なんの疑いも、痛さも感じずにいた。

けれど、はたして自分がルリアに釣り合うような男かと思うと否だった。

彼は、どちらかというと恐れられる存在だった。

そうでなければ、生意気だ、と喧嘩を売られる存在だった。

その喧嘩を買って。

喧嘩を売ってきたやつは、殴ってきた。

倒してきた。

いくら、偶然が重なってルリアを助けたからといって、彼女のような存在とここまで親しくなるような、なれるような人間ではない。

そんな自覚が彼にはあった。

普通の女子なら、まず彼の外見でビクつく。

怖がる。怯える。警戒する。

けれどルリアは、ミカゲを見ても怯えなかった。

怖がらなかった。警戒しなかった。

それどころか助けてくれたお礼とともに、特攻服を返しに来た時もそんな様子は欠片もなかった。

それが不思議でならなかった。

その後、【寄り道】でルリアがアルバイトを始めた。

店でルリアと顔を合わせることが多くなった。

ミカゲ自身も、ルリア目当てで店に通っていた。

それは否定できない。

でも、少しでも彼女が怖がるようなら店にはしばらく行かないようにしようとも考えていたのも事実だ。


「どうしました?」


ルリアがミカゲを見た。

四阿の時のように、彼女の瞳の中にミカゲが映っている。


「いや、べつに」


ルリアはミカゲのことを怖がらなかった。

それは、演技ではなかった。

上辺だけのものではなかった。

それがわかるからこそ、ミカゲは不思議でならない。


(なんでルリアは、俺と普通に会話しようとおもったんだ)


聞こうかとも考えたが、やめた。

結局、彼女がお嬢様で少し変わっているから、としかミカゲの中で結論が出なかった。

それから、二人はそれぞれラーメンを注文した。

それぞれ別々のラーメンだった。

やがて運ばれてきた二つのラーメン。

ここでルリアは、


「ミカゲさんのラーメンも撮っていいですか?」


そう聞いてきた。

ミカゲはスマホを持っていないが、時々兄や妹と外食すると、その度に二人が料理の画像を撮影していたので、とくに気にすることなく、その申し出を了承した。

そして、彼はそういう撮影に疎かったため、ルリアの構えたスマホがラーメンを撮影するには、やや正面を向いていることに気づかなかった。


パシャパシャと、シャッター音が鳴る。

すぐに撮影は終わった。

そして、二人はラーメンを食べ始めた。


意外にも、ルリアは普通盛りのそれをペロリと平らげていた。

もしかしたら、彼女はかなりお腹が減っていたのかもしれない。


そして、ルリアが何を言いかけたかも、聞けず終いだった。


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