オマケ 裏話 手を繋いで歩く
二人はフリーマーケットを冷やかしながら、手を繋いで歩いた。
そうして、フリーマーケットを抜け、しばらく進むと図書館にたどり着いた。
そこで、ミカゲとルリアは二人同時に繋いでいた手を見て、ハッとして離してしまう。
お互い視線を明後日の方に向けて、
「つ、ついたな」
「え、えぇ、着きましたね」
「そ、それじゃ、は、はいる、か??」
「は、はい」
なんて会話をした後、図書館に入っていく。
今まで繋いでいた手を、お互いがそれぞれ見る。
ミカゲは、
(折っちまいそうなほど、細くて小さかったな)
なんて思って、心臓がバクバクしていた。
ルリアは、もう片方の手で繋がっていた手に触れ、
(凄く、ガッシリしてた。もうちょっとだけ繋いで居たかったな)
と、少しだけ残念そうだった。
トクントクンと、ルリアも心臓が高鳴っている。
そして二人の顔は赤かった。
それから二人は館内で、本の海を漂った。
ルリアに導かれて、本棚の間を行ったり来たりする。
気になった本をいくつか手に取って、借りようと決めた。
その時に気づく。
「あ、貸出カード無い」
図書館は利用しないが、借りるのに貸出カードが必要だということは知っていた。
そのため、そう呟いた。
「では、作りましょう」
ここで、ルリアはチャンスだと思った。
また、彼と手を繋げる。
ルリアは自然な動作で、ミカゲの手に触れると優しく握って、引っ張る。
「こっちです、ミカゲさん」
なんて言って、受付へ連れていく。
ルリアの心臓は爆発寸前のような音を出す。
(この音が、彼に聞こえていませんように)
そう願いながら、ルリアは受付に立ってミカゲが貸出カードを作りたい旨を、受付にいた職員へ説明した。
職員は嫌な顔も、驚いた顔もせずにミカゲに椅子へ座るよう促す。
手も離れる。
さて、そんな二人の様子を間近で見ていた職員はというと、
(付き合いたてかな?
二人ともかわいいなぁ)
ポーカーフェイスはそのままで、ホッコリしていた。
そうして貸出カードを作って、本を借りる。
それから時間を確認する。
正午を少し過ぎていた。
(どうすっかな)
(どうしよう)
二人は同時に悩んでいた。
((この後のこと、ぜんぜん考えてなかった))
図書館に、ルリアオススメの本を借りに行く。
これしか決めて居なかった。
お互い、友人と来ていたなら昼食でも食べに行こうかとなる所だ。
しかし、二人は友人でもなんでもない。
この数時間だけ過ごして、友達っぽくなったものの、だからといって、一緒にご飯を食べにいっていいものか分からなかったのだ。
目的は達したのだから、ここで別れてもいい。
二人はちらりと、お互いを見た。
そして、視線があってまた外れる。
と、ミカゲが図書館の奥に開けた場所があることに気づく。
そこには大きな窓ガラスがはめ込まれていて、外の様子がよく見えた。
その横には扉があって、好きに行き来できるようだ。
そこは、芝生があり、遊具やベンチ、四阿が設置されていた。
親子連れがその遊具で遊んだり、レジャーシートを敷いて持参した弁当を広げて食べていたりする。
ミカゲはもう一度、ルリアを見た。
(朝、早かったよな)
なんて内心で呟いて、館内の本を読むために用意されている椅子も確認した。
全て埋まっていた。
「……奥、公園になってるんだな」
なんとはなしに、呟いた。
ルリアが答える。
「あ、はい」
「ちょっと行ってみるか、ル――冷泉も来るか?」
「ふぇっ?!あ、はい!!」
二人は、公園に出た。
館内から見た時よりも、多くの子供や家族連れがいることがわかった。
ミカゲは少しだけ目を細める。
でも、湧いてきた感情に蓋をする。
そして隣に立っている、ルリアを見た。
「ほら」
ミカゲはまた、手を差し出してきた。
「ぶつかると危ねーから」
ミカゲはぶっきらぼうに、短く言った。
公園には子供達が、楽しそうに走り回っている。
前を見ずに、ただただ楽しそうに鬼ごっこをしている子達もいる。
中には、全く別グループの子たちと衝突事故を起こしてる子達もいた。
「ありがとうございます」
ルリアはミカゲの手を取った。
今度はお互い同時に、手を握った。
ゆっくりと、どちらともなく歩き出す。
少し歩いて回るのかなと思ったら、ミカゲは四阿に向かっているようだ。
そこには、子供に付き合って体力を削った親達がぐったりとベンチに座っていた。
幸い、隅が空いていたので二人は並んでそこに腰を下ろす。
「……今日はありがとな」
ミカゲは淡々と礼を口にした。
ルリアも返す。
「いいえ、私も来たかったですから」
『貴方と一緒に』と言えないのは、人の目があるからか、それとも気恥しさからか。
それから2人は借りた本を読み始めた。
心地よい風が吹き抜け、楽しそうな声が響く。
やがて、短編を1本読み終えたルリアが意を決してミカゲを見た。
そして、
「……ミカゲさん、あの」
――また、一緒に遊びに行きませんか?――
ルリアが勇気を振り絞って、言葉を紡ごうとした時。
きゅうるるる~、と可愛らしい腹の虫が鳴いた。
カァァと、ルリアの顔が赤くなる。
ルリアの腹の虫だった。
「腹減ったな。
時間があるようなら、飯でも食いに行くか?」
ルリアは、顔を赤くしたまま、小さく頷いた。
「よし、何食う?」
「ミカゲさんは、何食べたいですか?」
「俺?
そうだなぁ、久々にラーメン食いたい」
言った後で、ミカゲはやらかしたことに気づいた。
(馬鹿か、俺は!!
ルリアみたいな子がラーメン食いたがるか?!)
基準が妹や、情報番組からの物になってしまうが、若い女性はオシャレなカフェでの食事に憧れているらしい。
実際、ミカゲの妹は友人と出かけるとコーヒーショップなどに寄ることが多いらしい。
ドキドキと、ルリアの反応を待つ。
「ラーメン、いいですね!
私も久しぶりに食べたいです!」
ルリアの反応は予想外のものだった。
「あ、いいのか??」
「はい。前に兄と食べたきりだったので。
ほら、一人だとああいう店って入りずらいじゃないですか。
でも、ミカゲさんとなら入れますし」
そんなわけで、昼はラーメンに決まったのだった。