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1-8 異世界の免許=殺人許可証だった

リリエンタール家が贔屓にする画工工房へ、(トラックを彩る)絵の依頼に赴いた竜哉とリリー。

しかし、アッサリと袖にされてしまい、

ムシャクシャした二人は、異世界スーパー銭湯で気分転換することにしたが……

 この異世界スーパー銭湯、大浴場は一つの湯船で繋がっている。

 ローマ浴場並みの巨大浴槽を、女湯、男湯、ムフフの湯で仕切っているのだ。

 それらを鳥人ブブカでも越えられないくらいの壁で隔ててる。

 が。

 向かって奥側の壁は全ての風呂に(またが)っている。

 そこには、長大な壁画が描かれていた。

 この国随一の名峰であるベスビオ富士が、雄大な構図で。

 風呂場の壁という悪条件なので、画工イーサンゲンチのような伝統的な手法では、すぐにダメになってしまうだろう。貴族の豪邸に掲げられる絵とは描き方からして違うのである。

 確かに、貴族の肖像画のような繊細なタッチではない。刷毛で豪快に塗りたくられたような粗野な筆使いではある。

(でもコレって逆に良くないか?)

 トラックの壁面に描かれる絵は、美術館に展示される芸術作品ではない。

 街中でスレ違う一瞬で、目を惹くようなインパクトがあればいい。

 万人に一瞬の爪痕を残す、刹那的な衝撃があればいいんだ。

 そうだろ? スガワラさん?

 あんたの美学ならば「それでいい」と言ってくれるはずだよ!


 矢も盾もたまらず風呂場を飛び出すと――――まるで示し合わせたようにリリーと落ち合った。

「「……!」」

 サムズアップを交わしながら。


 ☆ ☆ ☆


 スーパー銭湯の責任者に職人を訊き出し、その足で工房へ向かうと、

「そりゃ描き甲斐のありそうな仕事じゃねぇか! オラにやらしてくれよ!」

 ペンキ絵職人タンユー・カノープスは快諾してくれた。


「よっしゃ!」

 これで絵は何とかなる!

 リリーとハイタッチして、セレブレーションだ。やったぜ、リアンベルテ!

「これでまた一歩、【とらつく】完成に近づいたわ!」

 満面の笑みのリアンベルテ。

 やはり彼女には笑顔がよく似合う。この子のためなら、かぐや姫的な無理難題でも、解決してやりたくなる。


 ところが……


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

「え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”」

 仮組みの車台に実験室のボイラーを載せて、「とりあえず動く」程度に汲んでみたトラック試作一号機は、問題山積みだった。

 走る大問題児だ。

 最低なのは乗り心地だ。

 路面の凹凸をそのまんま拾ってしまい、ガッタガタである。ガッタガタ。


「やっぱり軌条が妥当だよコレは……」

 試験走行を見守ったフランチェスカも苦笑いだ。

「これ、思った以上に酷いな……」

 当然の話、ナーロッパ世界に舗装道路は存在しない。

 古代ローマ由来の石畳が敷かれている道もあるが……それは幹線道路に限られる。

 現代人が思い浮かべるようなアスファルト製のフラットな道とは違い、雨が降れば水たまりが出来て、ボッコボコに掘れてしまう土の道である。


 しかも、

「なんだこれー!」

「煙を吐いとるぞ? 飯でも炊いておるか?」

「村人全員に振る舞えるほどのピザ窯らしいぞ!」

「まだ~? ピザまだ~? 食いたい~ピザピザピザー!」

 ワラワラと寄ってくるの、村人たちが。何の警戒心も抱かず、試作一号機の前に立ちはだかる。


「危ない! 危ないって!」

 いくら試作一号機が徒歩程度の速度しか出せないからって、質量は軽く数トン越え。

 アルファードやヴェルファイアよりは確実にデカい。

 下敷きになったら相当に危ないぞ!

「おい、近寄るな! 危ない!」

「うるせー、ピザくれピザ。ケチケチすんな!」

「ピザくれないとイタズラしちゃうぞ?」

 などと季節外れのトリック・オア・トリートで居座ってしまう異世界キッズ。

「ダメだって、そこ触るな、火傷するぞ! ボイラーだめ!」

「うるせーピザよこせ」

 こんな調子である。


「まぁ、仕方ないよな……」

 このままでは埒が明かないので、リリーが自腹でピザをケータリング。

 晴れの走行試験のはずが、村人との和気藹々ピクニックみたいなことになっているンゴ……

「だって皆、知らないのだもの、【とらつく】などというものは」

 概念が存在しないんだ。

 たとえば、1903年12月17日以前の人間にライトフライヤー号を見せても、それが何なのか、何をする機械なのか、理解できる人はいないだろう。

 この世界に於ける【トラック】も、それと同じだ。

「このままでは試験走行すら、ままならない……」

 それじゃ開発は滞る一方じゃないか。


「「どうしようか…………」」

 村人たちが楽しい野外ピザパーティを繰り広げる横で、難しい顔で額を突き合わせる、俺、リアンベルテ、フランチェスカ――


 ☆


「ホレホレ! 避けろ避けろ! 避けないと喰われちまうぞー!」

 取り敢えずの解決策。

 それは、帆船のフィギュアヘッドよろしく、試作一号機の舳先(へさき)に吸血鬼を括り付けることだった。

 あの吸血鬼である。ノーグロードから追ってきて、街の魔除けに激突して墜落したアイツ。

「吸血鬼だぞ~怖いぞ~」

 しかしながら、さすが吸血鬼。縛って納屋に放り込んでおいたのに、普通に復活した。不死の存在って本当だったんだな……異世界こわい。

「キシャー! キシャー!」

「にげろぉー!」

 子供たちは遊び半分だが、それでも一号機の前に立ちはだかることはなくなった。

 まぁ、一応は目論見通りである。

 しかし……

「付け焼き刃にもほどがある……」

「ええ、そうね竜哉……」

 ――俺もリリーもジト目でクソデカため息である。


 俺とリリーは知っている。

 トラックとは【巡航するもの】だ。

 離れた街と街とを繋ぐ流通手段であるなら、巡航は必須。

 つまり、街から出て街道を走ることになれば、誰も避けてくれない。

 気づいたら撥ねられている、そういう事象が多発することになる。


「このままじゃ……異世界の運転免許は、殺人許可書に等しい……」

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