表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/48

3-13 皇女の決意は、猫免許

隣国イーゲイムの皇女、アオイ・クレアトールから、直に依頼を受けたリリーと竜哉。

異世界トラック試作弐号機の出番だ!


……試走もしてないのに?

そんな準備で大丈夫か?

「状況を整理しよう」

 ドライバー:リアンベルテ・リリー・リリエンタール、

 ナビゲーター:淡口竜哉、

 俺たちが駆るトラック試作弐号機は、異世界初の内燃機関動力による「馬車」だ。この世界の法に照らし合わせれば、おそらくそういう乗り物だ。車検も自動車税も存在しないが、税金をかけられるのなら馬車に相当する扱いだろう。

 しかし、馬換算で税金をかけられるとしたら、何頭分払わんといかんのだ?

 腐っても小型トラック級の車体を駆るのだから、数十頭分か?


 しかもこいつ、飼料代もかかるしな……スライム生物に毎日毎日。

 ・蛍光ポリン(電飾)

 ・アイシクルポリン(吸血鬼の棺の冷却)

 ・ハイドロポリン(ショックアブソーバ代替)


 最初のは完全にリリーの趣味(スガワラの趣味)だし、もう二番目とか悪魔的すぎて説明もしたくない(事故の際、被害者を吸血鬼化=不死化させて搬送する)けど……

 三番目は本当に重要。

 極上の乗り心地を達成するためには、不可欠の要素だからね。

 こいつ抜きで、長距離ドライブとか絶対にしたくない。

 それくらいの重要パーツなので、餌やりは欠かせないのよ。


 そんな異世界トラック試作弐号機、

 今回もまた、試走なしのぶっつけ本番。

 失敗したら外交問題になりかねないような『極めて重要な荷物』を運ぶミッションとか、正気の沙汰ではない気もするが……リリーがやると言えばやるしかない。俺は、それを支えるだけだ。

 いや……

 さすがにちょっとヤバい気がしないでもないが……今回は。

 だって荷物は「人」なんだよ? それもVIP中のVIPであるお姫様だ。

 『荷物』アオイ・クレアトール――――イーゲイム王国第一皇女である。

 何か遭ったら「ごめんなさい」じゃ済まないぞ?


「それでも……成し遂げなくちゃいけないわ」

「皇女さまの願いだから?」

「いいえ」

「違うの?」

「かつて懇意にして頂いた、学友の望みだからよ」


 リリー……理解ってきたじゃん。

 それだよ。そのさりげない人情味が、トラック令嬢の情けだよ。スガワラも納得だよ!

 その答えには満点をあげたい。


 しかしだ……

「現実は、そう簡単じゃないぜ、リリー……」


 アタガメイ王国とイーゲイム王国の間には、アレ(・・)がある。

 トラックを毛嫌いし、不浄のものとして排斥した、あの(・・)教皇が支配する辺境領が。


「ええ、マチルダ辺境領」

 地図を見返せばマチルダ領、鋭角の二等辺三角形っぽいフォルムで、国境の川沿いに続いてる。

 どうしたって、この辺境領を通らないと、アタガメイの都までは抜けられない。

「あの頭の固い教皇の、目の前を通って行こうっての?」

「もちろん」

 いやぁリリー……それはさすがに蛮勇が過ぎるのでは?

 狂信的な宗教指導者とか、何をしてくるか分からないよ?

「いいえ竜哉。それでも行くのよ」

「ほんとに?」

「ええ、これは輿入れ行列なの。であれば、裏道なんて通っちゃいけないの。堂々と陽のあたる道を歩んでいかないと。嫁入りする側の正統性をアピールしないと!」

 そ、そういうもんですか? 政略結婚って?

「何のためにアオイは、とらつく(・・・・)に依頼してきたと思っているの、竜哉?」

「それは……」

「後ろめたい方法でお国入りしたくないからよ。堂々と胸を張って、突破してみせたいのよ。立派なお嫁さまとして!」

 い、勇ましいー!

 なんて勇ましいんだ、異世界の姫さまたち!

 いや、平和ボケした俺たちが知らないだけで、王族とは元々、そんな覚悟がキマってる人たちだったのかもしれないが。


「いわば、アオイは【なめ猫】なのよ! 竜哉!」

「は????」

「【全日本暴猫連合 なめんなよ】なのよ! 【なめられたら無効】なのよ!」


 い……いやぁ……いったい何を教えてるんだ貴族の令嬢に、スガワラさん……

 そんなの若人は知らないよ。何年前だよ?

 まぁ、意味は何となく合ってるかもしれないけど、ミームとして古色蒼然だわ!


「それにスガワラなら、逃げたりしない」

「リリー……」

「スガワラも言ってたもの。『自分、何百台のマッポに囲まれても正面突破でした』って」


 いやいやスガワラさん! さすがにそれは盛りすぎでしょ!

 たかが暴走トラック一台に、警察車両何百台は有り得ないよ!

 純真な貴族の娘さん、信じちゃってるじゃない、あなたの盛りすぎ武勇伝を!


「大丈夫、竜哉……このとらつく(・・・・)なら、何とかなる」

「リリー」

「わたくしとわたくしを支えてくれる人たちの結晶だから、このとらつく(・・・・)は!」


 それは確かに。

 トラックなんて影も形もないこの世界で――ここまでのものを造り上げたのは、情熱の(たまもの)だ。

 マッドサイエンティストと刀鍛冶とペンキ絵師が、五里霧中からの試行錯誤で造り上げた、奇跡の逸品と言っていい。

 その端緒は、リリーがスガワラを信じたからである。

 スガワラの伝授したトラック野郎()の生き方に、共鳴して心酔したからこそ、俺とリリーはこの道を疾走っている。いろんな人の想いを載せて、荷を運べている。

 ならば――殉じるべきか、その『美学』に。その『生きざま』に。


「分かったよリリー、それで行こう」

 喧嘩上等! 御意見無用! なめられたら無効!

 我ら【冬騎王】、マチルダ辺境伯領をまかり通る!

 首を洗って待ってろ、教皇グレゴリー・タスツーシン! 逃げも隠れもしないぜ、俺たちは!


 ☆ ☆ ☆ 


 イーゲイムとアタガメイを隔てる、大河エーマット。

 深い峡谷に架けられた頑丈な石橋を渡り切ると――そこはマチルダ辺境伯領。

 さぁ、鬼が出るか蛇が出るか?


「なんだこの馬車は!?」

「馬が牽いていないのに動いているぞ!?」

 国境の関を仕切る役人たちも、初めて見るトラックに目を白黒させている。

「この鎧の下に、馬を隠しているのか?」

 ロングノーズのボンネットを叩いたり開けようとしたりする役人に向かって、

「気安く触らないで頂けるかしら、あなたたち?」

 ホーン代わりの蓄音機から歌姫ダイアンのレコードを流せば、群がる役人たちも後ずさる。

「控え控えぃ!」

 助手席から降りた俺は、ボンネットの突端を指さした。

 そう、古いダイムラー車ではお馴染みのスリーポインテッド・スターの位置だ。

「この紋所が目に入らぬか!」

 言ってみたかった!

 日本人が人生で一度は言ってみたい台詞、トップテンに必ず入るアレだ。

「はっ! ははーっ!」

 悪代官のように土下座……まではいかないが、まことやんごとなき家紋を前に、役人たちは完全に気圧されてた――そう、それはリリエンタール家の紋章だったからだ。

「通らせてもらうわ。よろしくて?」

 いくら辺境伯領とはいえ、アタガメイ王国の一部、

 天下の四管領家に逆らえる者など、いるはずがない。



 ごめん――いた。

 前言撤回。

 少なくとも、一人いるのだ、このマチルダ辺境領には(・・・・・・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ