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3-8 メッセージ・イン・ナ・ボトル

またもや断酒の禁を破り、

またもや一夜の過ちを冒してしまった竜哉。


しかし、お相手の女性メンソレータムは、なにやら訳アリの方だったらしく????

 さわやかな朝の空気が台無しですわ。


「我がナソパは、奴隷解放宣言を提案いたしたい、と考えておるのです」

 意識高い系のランチミーティングじゃないんですから……


 静かで格調高い、イーゲイム王城の賓客用ダイニングルーム。

 参加者が一同に介し、優雅に朝食を戴く席で、

 せっかくの食事が不味くなるようなことを、小太りの王族が言い出した。

 何も、今でなくとも……


「そもそも、この現代に於いてなお、奴隷などという前近代的なシステムが残っていることは、恥ずべきことです。そういう認識を我々は共有せなばならない! 近代人として!」

 口を開くだけで室内の温度が上がってしまいそうな弁士は、ナソパの第一王子だったか?


「そう思いませぬか、皆様!」

 あ、暑苦しい……

 いつまで身勝手に喋るつもりだ、ナルシストが…………潰すぞ?

 などと――――思っても口には出せない。

 出してはいけない。

 なぜならばわたくし、リアンベルテ・リリー・リリエンタールは、アタガメイの代表としてイーゲイム(ここ)に来ているのだから。


 ★ ★ ★


 折角わたくしたちトラック秘密結社『冬騎王』が、新型とらつく(・・・・)の制作方針と、輸送ルート構築の話題で胸を躍らせていたのに……

 夏管領レディオシャック・レオパードの呼び出しは、本当に厄介な話だった。


「すまぬリリエンタール嬢、自分の代わりに隣国(イーゲイム)へと赴いてはくれぬか?」

「は?」

「『世界秩序会議』へ出席して欲しいのだ、自分の名代として」


 なんとレディオシャック、ラーメンの食べ過ぎで通風を発症したらしく。

 王城の執務室まで来るのも車椅子の状況では、隣国へと出張るなど無理な話ですわ。

「なに、名ばかり大袈裟な会議だが、実際は周辺諸国の親睦会よ。半病人の管領などより、可憐な御令嬢の方が喜ばれるというものさ」


 ★ ★ ★


 そんなこんなで、わたくしリアンベルテ・リリー・リリエンタール、

 退屈な馬車の旅を経て、訪れた隣国イーゲイム。

 王城離れのゲストハウスで一泊した後、出席者全員、顔合わせの朝食会。

 参加者は周辺各国から十数名の大使(あるいは、その代理人)が出席なさっていたのだけれど、

 平均年齢は、ざっと見て五十歳前後。

 夏管領レディオシャックの言った通り、「親睦会」の雰囲気が相応しい集まりでしたわ。

 わたくしとナソパ公エンツォ王子の二人で平均年齢を押し下げているようなメンバーの中で、


(勘弁なさってよ、空気読めない王子……)

 若気の至りにしても、勇み足が過ぎる。

 ナソパ公エンツォ・ピンタ!

 こんな早くからヒートアップされては、社交界向けの愛想笑いも出来ないじゃないの。


「素晴らしい!」

「よく仰ったナソパ公エンツォ・ピンタ王子! そなた啓蒙君主の鑑!」

「見事な見識よ! 敬服いたす!」

 などと、一部の参加国から称賛が飛ぶ。朝食のワインを掲げ、賛同の意を表す者も。

「ありがとう皆様、ありがとう」

 そのリアクションにご満悦のエンツォ王子、

「従来、この『世界秩序会議』では、何かしら強制力が及ぶ決議を採択したことはない。それが、この会議の慣習でございましたが……

 方々! このエンツォ・ピンタは訴えたい。そろそろアップデートなされるべきではないか?

 お題目を唱えるだけの儀礼の会ではなく、建設的な提案を交わし合う協議へ!

 お集まりの方々!

 我々こそが世の進歩に寄与する、オピニオンリーダーにならんことを!」


 小太りのナルシストは、汗を飛ばしながら熱弁した。

「およばずながら、このエンツォ・ピンタが口火を切りましょうぞ!

 我がナソバ新自由主義国はこの会議において、法的拘束力のある共同宣言を提案する!」


 は?

 (法的拘束力のある)共同宣言?

 そんなの、わたくし聞いていなくてよ、レディオシャーック!!!!

 「単なる親睦会」と仰ってたくせに! 嘘つき! バーカバーカ! ハーゲ!



 ☆ ☆ ☆



「これを御覧ください、竜哉さま」

 メンソレータムが手にしたボトル――それは「間違いの元」。

 昨晩、ついうっかり飲み干してしまった蒸留酒の空き瓶を彼女、思い切って救護テントの床へ叩きつければ――

「ん? それは?」

 割れてしまったボトルの底から、光る板が……

「魔術円盤です」

 メンソレータム、シングルCDサイズの銀円盤へハンドパワーばりに念を込めると……うっすらと何か……人の像が浮かび上がってきた!

『……おね……がい……』

『わたくしを……』

『運んで下さい……』

『我が国イーゲイムは、危機に瀕しています……』

『どうかわたくしを……』

 ノイズまみれブラウン管っぽい、途切れ途切れの映像だったが……確かに、そう聴こえた。

 王族のドレスで着飾った美しい女性が、救いを求める記録だった。


「これは……?」

「イーゲイム国の第一皇女殿下、アオイ・クレアトール様でございます」

「えっ? じゃ、これが噂の【奴隷姫】?」

Featuring, The Police / Message in a Bottle


注)「ハーゲ」とは、アタガメイ語で「訴えてやる!」という意味です。(ひどいフォローだ)


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