表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/48

3-2 少女よ、黒い大志を抱け!

今後の方針について、

金策を優先するか、被害に遭った村々の復興を優先するか、で意見が対立するフランチェスカと竜哉。


壊れたトラックの修理方針も決まってないのに、そんなんで大丈夫か?

【冬騎王】よ?

「「リリー! なんとか言ってやって! この分からず屋に!」」


 すれちがい宇宙(そら)の、俺とフランチェスカ、

 意見が割れれば、最後に頼るのはスポンサー様の『御聖断』である。

 結局、【冬騎王】はリアンベルテ・リリー・リリエンタールありきのチームなのだ。

 リリーの志が駆動力となって、グルグルと回るスクランブルエッグなのだ。

 そもそも、彼女が最大の資金提供者(スポンサー)でもあるワケで。

 困った時は大旦那の意向に沿うのが、最も穏当な解決法である。


 金策が先か、贖罪が先か。

 ヒートアップした僕らとは対照的に、リリーは素っ気ない。

「そうね……」

 エーガスの城門に引っかかり、動かぬオブジェと化した初号機に登り、

「錬金術師先生、とらつく(・・・・)を復活させる、最速の方法は?」

 リリーはフランチェスカに尋ねた。

「そうだな……初号機は操舵系が壊滅したけど、機関部は残ってる。それを出来る限り流用するにしても、このスケールのフレームを修理するのは相当の手間だな。これを直すのなら、弐号機を組んだ方が早いんじゃないか……とは言っても、弐号機のルノアールエンジンは開発途上だから、まだ想定通りのパワーが出せてないし、現状で組むとなると、荷台は大幅に縮小しないと……」

「それでもケンタウロスよりは積めるでしょ?」

「三~四匹分くらいは積めるんじゃないか? 今の段階でも」

「いいわ。それで。直ちに弐号機を組んで堤防再建の資材運搬に当たりましょ」

「それはいいとしてお嬢、管領にギャラの増額交渉は……」

「必要なし」

「え"ー!!!!」

 フランチェスカは露骨な不満顔だ。

「錬金術師先生!」

「はい?」

とらつく(・・・・)は荷を運んでこそのとらつく(・・・・)よ。荷を運べないとらっかー(・・・・・)は、タダの豚よ」

「お嬢……荷さえ運べれば、タダ働き同然でも構わないと?」

 こくり。

「え"ー…………」

 貴族の金銭感覚は、全く以て理解不能――――そんな顔したフランチェスカに対し、

「錬金術師先生、わたくしはとらつく(・・・・)野郎でありたいの」

 まるで波止場立ちするマドロスばりに、傷だらけのボイラーへ足を乗せたリリー、

 思い入れたっぷりに、己の信念を語り始めた。


「スガワラは言っていたわ――荷物は場所に運ぶんじゃない、人に届けるものだ、って」

 いや、己というよりも、スガワラさんから伝授された生き様か。

「同じ空の下で、わたくしが運ぶ荷を心待ちにする人がいるの。彼らの元へ、迅速に確実に荷を届けることがとらつく(・・・・)の役目なの。存在意義なの。レゾンデートルなのよ!」

「…………」

「確かに荷運び業者など、名も残らぬ、タダの縁の下の力持ちかもしれない……

 でもね! それは、なくてはならないロジスティクスなのよ!」

 修羅場をくぐった戦友(トラック)の車体を愛おしげに撫でながら訴える。

「このリアンベルテ・リリー・リリエンタール! 運びたいのは笑顔です!」


 大破したトラック初号機の上で、大演説のお嬢さん。

 ハーピーの村でもらった鮮やかな羽根飾りを頭に乗せて。PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCKな姿を誇示しながら。

 その勇ましいスピーチに、野次馬の見物人たちからも拍手が飛ぶ。


「竜哉! わたくし、社会の歯車になりたいわ!」

「え?」

「スガワラは言っていた――『社会の歯車とは蔑みの言葉だと。つまらない人間を嘲う言葉だと。搾取される側が自嘲する言葉だと。

 オレが子供の頃は、そんな使われ方をしていたが――

 でも、それは違うんじゃないかと思った。

 自分が大人になって思った。

 歯車が寸分違わず動き続けるから、「社会」という精密時計は美しく動作する。

 そんな大切な部品が蔑まれる理由など、一体どこにあるのか?

 オレは歯車に成りたい。

 他では代用できないような重要パーツになって、皆に貢献したい。皆を喜ばせたい。

 輝くマニュファクチュールの一部として人生を捧げたい。

 トラックならそれが出来ると思う』ってスガワラは!」

「…………」

「社会の歯車で何が悪いのか? あなたも! あなたも! あなただって! 皆の笑顔に貢献できる一人一人が英雄なの!」

 リリーは野次馬の市民を指しながら、訴える。

「このわたくし、リアンベルテ・リリー・リリエンタールも、そうありたい!」


「リリー」

 やっぱりキミは、スガワラさんの魂を受け継いでいる子だよ。

 きっとスガワラさんも喜んでいるよ、草葉の陰で。

「竜哉!」

 仮初めの演台となった初号機、そこから飛び降りた彼女を全身で受け止める。

 軽いな。

 こんな小さな体で、少女は大志を抱いている。

 今まで(この世界では)誰も見たことがない大型輸送機械を、認めさせてやろうと決意してる。

 支えなくては。

 俺がリリーを支えるんだ。

 彼女の想いを、俺が叶えてやらなきゃ。

 淡口竜哉――お前は、そのために異世界(ここ)に居るんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ