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2-14 アース、ウォーター&ファイアー

勾配の緩やかな平野に広がる、砂利底の浅瀬に目をつけ、

一か八かの渡河を試みる異世界トラック!


アイシクルポリンの氷結能力を使って、ギリギリの綱渡りで挑むが……

最後の最後で、氷結に巻き込まれてしまう竜哉、

果たして、大丈夫なのか?

「…………竜哉! 竜哉! 返事なさい、竜哉!」

「あ? ……あれ?」

「なんて危ないことなさるのよ! 天に召されたかと思ったじゃない!」


 あ、そうか……

 俺は至近距離でアイシクルポリンを破裂させたから、逃げ遅れて固まってたんだっけ……

「助かった、のか?」

「バカ! 竜哉のバカ!」

 泣きながら抱きついてくるリリーをなだめながら、周囲の状況を伺うと、

(よかった)

 トラックは無事にイマゴム渡河を果たせた。

 俺も生きている。

 川の水で溶かされたので、氷結時間は、さほど長くなかったようだ。

「やったぜ…………成し遂げたんだ、俺たち……」

 溶けた「流氷」浮かぶ浅瀬でリリーを抱き締め、生き残った喜びを噛み締めていると……


 ゴ……

 ゴゴ…………ゴゴ……

 ゴゴゴゴゴ……

「ん?」

 なんだこの地響き? 本能的に身の危険を感じるような……イヤ~な(きし)み。

「嫌な予感がする! とにかく離れよう!」

 俺はリリーの手を引き、川岸へと一目散に走った!


 ☆


「おぅふ……」

 その不気味な地響きは「ダム」の決壊音だった。

 アイシクルポリンを割って敷設した「氷の道」は大河イマゴムを一時的に()き止め、巨大な即席ダムを形成してしまっていた。

 それが一気に溶け出し、貯まっていた水が水塊となって下流へ流れ出したのだ。

「うわぁ……」

 その水量たるや。

 さすが「大河」イマゴムである――川岸を越えんばかりの巨大波が流れ下っていく。

 中洲の樹木などをゴリゴリと薙ぎ倒す様は、アマゾンのポロロッカも()くや? と思えるほどの暴力的な流れだ。

 こ、これがそのまま下流まで到達したら…………とんでもないことになってしまうのでは……?

 ちょっと洒落にならないくらいの甚大な被害が……


「み、見なかったことにしよう! リリー!」

「そうね! 竜哉!」


 今更、俺たちに出来ることは何もないのだ!(※震え声


 ☆


 心に大きな棚(東京ドーム級の)を作って、俺たちは荷運びレースに復帰した。

 最大の難関である大河の渡河を果たせば、あとは副都エーガスまでは緩やかな上り坂だ。

 やることは一つ、ケンタウロス商会の最後尾ランナーを捕まえるのみ。

 一人でも追い抜けば、俺たちの勝ちだ。

 副都までの距離と、ボイラーの残り耐久度を秤にかけながら、慎重に速度を増す。


「見えるか? リリー!」

「いえ、まだよ。見えないわ!」

 もう少し速度を上げていかないとダメか……ケンタウロスの尻尾を捕まえるためには。

 火室へ放り込む石炭の量を増やし、巡航速度を上げる。

 ――すると、


 ブフワッ!!!! ボフォン! ボフォフォフォ!


「うぉっ!」

 エキゾーストパイプから豪快にバックファイアが吹き出した!

「み、ミスファイアリングシステムかな……?」

 そんなワケはない。

 この異世界トラック初号機、動力は蒸気機関であるが、なるべく「正しいトラック像」に近づけるために煙突もエキゾーストパイプ【風】に取り付けてある。雰囲気を出すために、俺がフランチェスカに頼み込んで誂えてもらった仕様だ。フランチェスカは「蒸気排出口は上部設置が最も合理的」と最後まで譲らなかったが、トラックを名乗るために、なるべく機関車臭を消したかったのだ。

 それがスガワラさんの=リリーの美学に沿うものだと信じたから。

 だがそれが――――仇となった!


「アカーン!!!!」

 手筒花火級の威勢の良さで、ブハブハと火の粉を撒き散らすトラック!

 だもんで枯れ草なんかは、ひとたまりもない! 景気よく派手に着火し、延焼していく始末!

 かといって、今更、火室から石炭を取り出しても焼け石に水だし……


「竜哉! あれ!」

「あ? …………ああああ!!!!」

 リリーに指摘され、トラックの進行方向を眺めると……村が!

 大都市の石造り建造物ではなく、木と草で作った、いかにも燃えやすそうな集落が!

 しかし、ここから分岐するバイパス路などあるはずもなく……

 ああもう本当に蒸気機関、急に走れないし急に止まれないし急に曲がれない。ままならないよ!


「もう、こうなったら!」

 ある程度の犠牲は仕方がない! トリアージすることこそ現実的な解決法だ。

 俺は更に石炭を火室へ放り込み、あとは天に祈った。

 なるべくなら被害が小さく済みますように、と。


 蓄音機のボリュームを最大に回し、住民へ退避を呼びかける。

 アーメン。南無阿弥陀佛。

 歌姫ダイアン・レインズフォードの爆音ソングを露払いにして集落へ突っ込んでいく、異世界トラック with ミスファイアリングシステム。

 一刻も早く村を抜けるべく、運転手リリーは細かく修正舵を当てながら、田舎道を駆け抜ける。

 バフッ! バフッ! ブボボボボボ!

 容赦なく「エキゾーストマフラー(※煙突)」から火の粉を撒き散らしながら。


 ゴーッ!

 異世界トラックはスピードを落とさず、疾風のように集落を駆け抜けた。

「大丈夫……だったか?」

 おそるおそる後方を確かめると……


 炎上である。

 大炎上である。

 村のあった場所から白煙が朦々と立ち上り、もはや建物が一軒も見えない。

「や、やっちまった……」

 やはりこの手筒花火級の火の粉は、危険すぎた! 無防備な木造家屋じゃ耐えられない!

 これもまた、公道試運転さえ出来ていれば抽出できていた問題点のはずなのに!


「ゆ…………」

「ゆ?」

「許すまじ、ケンタウロス商会!」

 あいつらの横槍さえ、なければ、こんな悲劇は起こらなかったんだ!(※心に棚を作れ)

 そうだろう? リリー!(※そうでも思わないと自我を保ってられない)

 なけなしの良心がミスファイアリングシステムで爆発しそうだ!(※本音)


「今から一緒に、これから一緒に!」

「殴りに行くのね竜哉! 商会の連中を一人残らずボッコボコね!」

「おうよ!」

「ワルい! 超ワルいわ竜哉! それでこそ悪役令嬢とその一味よ!」

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