2-12 万事休す!? 戦場で落ちる橋
最後尾のケンタウロスを抜き去り、いよいよ勝ちが見えてきた異世界トラック。
しかし、そんな喜びも束の間、リリーと竜哉の目の前に、想像もつかない事態が降りかかる!
古代から現代まで、地政学的な行政境界は分水嶺、もしくは川が多くを占める。
帝都アタガメイと副都エーガス、その行政境界も例に漏れず、平野を突っ切る大河イマゴムが、誰が見ても分かる境として存在していた。
川幅、数十メートル。
悠然と流れる大河には、いくもの橋が掛かっていたが……俺たちが選んだのはアマヤラム橋。
帝都と副都を繋ぐ最短距離に据えられた橋は、大河イマゴムでも屈指の、頑丈な橋だった。
行き交う人々はひっきりなし、この国でも有数の、交通・物流の大動脈である。
――――その橋が……燃えている!
アマヤラム橋、橋脚は石積み、橋桁は鉄骨で組まれた立派な橋だが、床版は木造だった。
燃えにくく頑丈な木材でも、可燃物には違いない。油をぶっかければ、最終的には燃え尽きる。
「ここまでやるか! ケンタウロス商会!」
この平野に住まう人々にとって、無くてはならない重要な生活インフラなのに!
その大事な公共財さえ、躊躇なく焼け落とすなんて!
「負け犬の遠吠えが心地いいな! 異世界とらつく!」
迷惑のこの上ない焦土作戦を指示した顧問弁護士、モダスオペランディ――川向うから吠える!
「これではもう、そのクズ鉄は渡れまい!」
そこへ、泣きっ面に蜂。
先程、トラックに追い抜かれたはずのグルペット(=最後尾追走)ケンタウロスたち、
「迂回だ、お前ら! 上流の吊り橋へ向かえ!」
「分かりやしたオペランディさん!」
落ちこぼれ組の彼らも休息で復活を遂げ、上司の指示に従って進路を変えた。
「クッ!」
確かに、小さな吊り橋でも、ケンタウロス一頭づつなら渡りきれる。
この異世界トラックの図体では絶対に無理だが。
「ゲームオーバーだ、リリエンタールのご令嬢! ここが貴様らの、絶望の川だ!」
してやったりのオペランディ、高らかに勝利宣言をして、去っていった。
☆
「まさか……ここまでするとは……」
燃え盛る橋を前に、俺たちは言葉を失った。
もはやトラックに行き場はない。
上流か下流へと迂回するにしても……近場の小さな吊り橋ではダメなんだ。このトラックの重量を支えられる頑丈な橋でないと。
現実問題、そんなにも迂回したら、荷運び勝負には勝ち目がない。努力も徒労に終わる。
俺たちが副都エーガスに到着する頃には、セリヌンティウスの首はとっくに落ちている。
(これは…………積んだか?)
潔く負けを認めるしかないのか?
もはや打つ手もないか?
(でも……)
よく頑張ったよリリー、お前はよくやったさ。
(公道での)試運転まかりならぬ、とかいう理不尽な条件でも、可能性は見せたじゃないか。
あと少しで勝てそうなところまで運んできたじゃないか。このトラックでさ。
充分だよ。
負けであっても、立派な負けだ。胸張ってフランチェスカの工房へ帰ろう。
スガワラさんだって褒めてくれるよ。
「そうね……スガワラなら」
「うん」
「絶対諦めないと思うわ! この程度の障害では!」