2-10 絶体絶命を駆け抜けろ!
卑劣なり! ケンタウロス商会!
せっかくハーピーから近道を教えてもらったのに、そこを待ち伏せてくるとは!
狭い隘路を通るトラックを狙って石を落としてくるんだから、たまったもんじゃない!
どうするどうなる異世界トラック?
「ぶ……仏恥義理?」
果たして「それ」がトラッカーの美学に適合するのか? ちょっと間違ってないか?
……などと議論している暇はない。
今まさに、俺たちの眼の前で、トラックの進路が塞がれようとしているのだから!
「備えろリリー!」
掛け声なんてどうでもいいんだ。俺とリリーの選択は『GO』だ。
たとえ命尽き果てようとも、前のめりに倒れよ、異世界トラック! 風を切って疾走れ!
突き進めば願いは叶うさ!
立ち止まらない! 振り返らない!
知らない街まで俺たちは止まらないぜ!
「いくぞー!」
保ってくれボイラー! 聖剣の刀鍛冶の鍛造術を信じるぞ、ルーシー!
もしここで爆発なんて起きてしまったら、俺やリリーの身だって危ないんだ!
「そいや!」
もう加減なんて分からないから目分量で放り込む! 握り込んだ『火種』を全て炉の中へ!
そして、すかさず火室の扉を閉じたのだが…………
「……どうだ?」
ボイラーは平常のままだ。
グリップを掴みながら、息を呑む俺とリリー。僅かな燃焼ラグが永遠にも思える。
すると……
バン! ババン! ――――ズッガーン!!!!
「フッ!!!!」
息が出来ない。突然、後方の壁に叩きつけられて、一気のGだ!
まさにロケットロコモーション!
地峡をぶっ飛ばす水平発車だ!
「はっ!」
ホンの数秒――偏った血流が戻れば、意識も戻り、
「リリー! 大丈夫か!?」
天井の運転席へ確認すると、
「大丈夫……」
少なからずダメージを負っている声だが、意識があれば、これ幸い。
「舵を頼むぞ!」
切り通しだって、完全な直線ではない。適切な修正舵を当てないと壁に激突だ。特にこのロケットダッシュの勢いでは、コースアウトは死を意味する。崖に突っ込んで自爆ENDだぞ?
「OK竜哉! リリーにお任せ!」
自分の命だけでなく、積んでいる荷や俺の命も預かる運転士の責任。
代われるものなら代わってやりたいが――――これが彼女の選んだ道。
「頑張れ! もう少しだ!」
スーパーマリオダッシュしたダンキチ号、気がつけば先が見えた!
切り通しの出口だ!
「行け! リリー!」
ガガガガガガガガガガガガ!
外側のフレームを岩壁に削りながら、なんとかコーナーを転回するべく舵を切るリリー!
徒歩なら無視できるほどの緩いカーブも、なにせこの図体、繊細かつ豪快な操作が求められる。
「仏恥義理よ! 仏恥義理れ! ダンキチ号!」
バカン!
遠心力に抗えず、アンダーステア! 外側が岸壁に擦れ、派手にスッ飛ぶフレームの一部!
(ヤバい! それ以上、擦ったらボイラーに被害が及んじまう!)
目を覆わんばかりのコーナリングだったが――
「ちぇすとー!」
間に合った!
設計上、舵角の取れないトラック初号機でも、ギリギリのところで脱出に向けた最適角度を採ることが出来た!
「リリー!」
あとは駆け抜けるだけだ!
ところが、
「通してたまるか! 投げろ投げろ! 投げられるものは全部落とせ!」
ケンタウロスたちの投石も激しさを増す。
(これは、やるしかないか……)
「最後にいくぞ! リリー!」
「よろしくてよ! ファイトォー!」
「火種、いっぱ―つ!」
ドッカーン!!!!
煙突や機関の継ぎ目から赤い炎を吹き出しながらも、トラックは狭い地峡を駆け抜けた。
これでもか、と降ってくる落石の雨を掻き分けて。