2-6 対決! ケンタウロス商会 vs 異世界トラック 2
いよいよ始まる、ケンタウロス商会 vs 異世界トラックの荷運び対決。
しかし、初っ端から、トラブルがリリーと竜哉たちを襲うのです。
対決当日。
スタート地点=帝都アタガメイ徴税倉庫前。
長々とした春管領エウスカルテル・エウスカディの挨拶も終わり、
見物客が「早く始めろ!」と野次る中で、いよいよ荷運び競争が始まる!
…………ところだったのだが、
俺たちは完全に忘れていた。
トラックはデカい。積載能力はケンタウロスの比じゃない。百袋の小麦だって、悠然と目的地へと移送できる。
そういうスーパーマシンなのだ。リリーが求めた性能の通りならば。
だが……
「何やってるの? あいつら先に行っちゃったわよ! 竜哉!」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
そうなのだ。
積み込む手間を忘れていた。
一袋数十kgの小麦を、百袋も積み込まねばならない。しかも四人、どう考えても体育会系には見えない四人で。
一応俺は元の世界でも鍛えていたし、農作業で肥料袋や俵を運んだ経験もあるが……
「重ゥイ!!!!」
ここまで本格的な肉体労働は未体験だ。過去イチのハードワークだ!
「キリキリ積み込みなさい! 出発できないでしょ!」
一人運転席から檄を飛ばすリリー、俺を含めた【冬騎王】メンバー四人はヘロヘロなのに。
あれだ、大阪城の石垣とかピラミッド建設とか、(その様子を描いた絵で)石の上で音頭を取ってる輩が描かれていたりするが、あれは実際に引いてる側からすればブチ殺したくならないのか? と首を傾げたものだが……実際には応える気力すら失われるもらしい。
使命感だけで体を動かそうとしても、脚が動かない。担いだ荷を落としそうになる。
運送業とは、本当に体力勝負。身に沁みて理解させられる。
「遅くなりました、皆さん!」
そこへ現れた仮面の女。歌劇場の歌姫ダイアン・レインズフォー……ではなくて、謎の歌い手Xが生歌で俺たちを鼓舞してくれる。
マスカレードマスクで人相を隠してはいるが、現在、王立アタガメイ歌劇場で絶賛公演中の「バスティーユの薔薇」の衣装のまんまである。
それに気づいた見物人たち、ヤンヤの喝采。
「おい、フランチェスカ」
「はっ!」
地獄の積み込み作業をエスケープしかけた彼女を、俺は見逃さない。
「お前、何するつもり?」
「ちょっと資金稼ぎなど……」
いにしえの駅弁売りスタイルで抱えた盆には……いつの間に作ったのか? 【謎の歌い手X】の応援グッズ(※王立劇場未公認)が山積みじゃねーか!
「アホか!」
目先の小銭稼ぎしてる場合じゃないよ!
この小麦袋を積み込まないとトラックは出発すら出来ないのに!
「おやおや? 不戦敗ですかフランケンシュタイン工房殿……いえ【冬騎王】の皆さん?」
強烈な皮肉交じりに声を掛けてきたのは――ケンタウロス商会顧問弁護士、
モダスオペランディ!
「この調子では、積み込みが終わる前に商会が配達を終えてしまうのでは?」
見届け役の春管領エウスカルテル・エウスカディも呆れ顔だ。
「くっそぉー!」
☆
火事場の馬鹿力+歌姫ダイアンの応援で何とか積み込み作業も果たし、
「よし! 行くぞリリー!」
いよいよ発車だ! 絶対に遅れを取り戻してやる!
……と、意気込んだものの、
「ダメよ竜哉! 動かない!」
「動かない? そんなはずはないだろう!」
工房からここまでは、ちゃんと走ってきたんだから!
「一旦、機関を止めたからボイラーが冷えてしまったんだ竜哉! 今全力で温め直してるから!」
フランチェスカは一発で不調の原因を見抜き、すぐさま対応に取り掛かる。
「あーもうなんだよ!」
今出ました、の蕎麦屋の出前じゃないんだから!
よ~うやく荷を積み終わったと思ったら、今度はボイラーかよ!
「なんとも融通が効かなぬものだな、とらつくなる自動馬車は?」
他人事の口調で、管領エウスカルテルが評するが、
あんたの! 話が! 無駄に長かったせいだろ!
と言いたい気持ちをグッと抑える。
権力者の心証を悪くしても、何の得もない。
それは異世界であろうと現代であろうと通じる鉄則である。チカラを持ってる大人には、根回しとゴマすり。無駄な反抗はご法度である。
「よし、十分温まった! 圧力OK!」
「ダンキチ号、ヨーソロー!」
もはやケンタウロス商会は全ての荷を運び去り、その影も見えない。
兎と亀の逸話だって、もう少し手際がいいんじゃないの? ってくらいのドタバタ進水式。
積み込みで疲れ果てたタンユー・ルーシーは俺たちを見送る気力すら残っていない。
「旅の安全を祈る!」
「行ってくるよ、フランチェスカ!」
前途多難!
こうして俺とリリーの処女航海は幕を開けた。