2-5 対決! ケンタウロス商会 vs 異世界トラック
一触即発!
異世界の流通を一手に担うケンタウロス商会、縄張りを荒らすな! とカチコミをかけてきた!
どうする竜哉、リリー?
このままトラックは破壊されてしまうのか?
「――春管領様!」
持ち回りでアタガメイの政を治める四管領家、その一つ。
エウスカディ家の当主にして、春の治世を担う男――エウスカルテル・エウスカディ。
アタガメイの民なら皆が知る「春の王」である。
「困るね、私の任期中に揉め事は。他の季節にやってくれないか」
眉目秀麗な青髪のダンディ、渋いバリトンボイスでガレージを支配する。
「春管領様……恐れながら、私めが説明をば」
一斉に頭を垂れ、跪いたケンタウロス商会を代表し、顧問弁護士モダスオペランディが上奏を願い出る。
「騒ぎの発端は、フランケンシュタイン工房なる賤民どもの企てにございます」
「ほう?」
「とらつくなる怪しげな馬車を用い、このアタガメイの流通秩序を侵そうと企む不埒な輩、この際、是非とも、管領様の賢明な御沙汰を戴ければ幸いにございます」
「オペランディ」
「は」
「我が盟友の娘を不埒者と申すか?」
「えっ!」
「ここに御わすは、恐れ多くも冬管領、オットー・リリエンタール様の御息女なるぞ!」
ここぞとばかりに虎の威を借るフランチェスカ!
印籠をかざした格さんばりの威風堂々で、パトロンを持ち上げた。
「ま、まさか!」
完全に俺たちを侮っていた顧問弁護士、一気に血の気を失って、
「冬管領様の御息女とは……誠に失礼を……!」
権威に対しては文字通り平身低頭の顧問弁護士、床に擦り付けんばかりに頭を下げる。
「そう畏まるな、オペランディ」
弁護士の滑稽なまでの豹変にも、春管領は悠然と語る。
「私は何も、騒ぎの責を誰かに問うつもりなどない」
「はぁ……」
「腹の虫が収まらぬのなら、決着をつければよいではないか。荷運びの者らしく――なぁリアンベルテ嬢?」
☆ ☆
後日、正式に書面で、春管領エウスカルテル・エウスカディの調停案が届いた。
その書面曰く、
「小麦百袋を帝都アタガメイより副都エーガスまで届ける、か……」
すり替えなど出来ぬよう、小麦には着色し、袋にもナンバリングを施す。
「運搬手段は自由。互いの商会が保有する全てのリソースを使い、先に全ての袋を、エーガスの徴税蔵まで収めれば勝ち、か……」
管領謹製の調停案をフランチェスカ、タンユー、ルーシー、そして俺とリリーで検討する。
「つまり我らがダンキチ号 vs ケンタウロスの荷運び人全員ってことね!」
リリーは早くも武者震いで臨戦態勢だが……
果たして、このルールで勝ち目はあるのだろうか?
「小麦の袋ってどのくらいの重さなのさ?」
「それよそれ」
フランチェスカはガレージの隅に積まれた麻袋を指した。
試しに持ってみると……うわ! 重い! 何十kgあるんだ? これ、腰を痛める重さだ……
「ケンタウロスは一度に二俵運べるらしいぞ」
すごいなケンタウロス。さすが一馬力。
「でも、これを担いでエーガスまでは、さすがにキツいのでは? かな~り距離ありますよ?」
「手ぶらで歩いても、一日がかりだべ~」
というタンユー&ルーシーの疑問に、
「宿場ごとのリレー方式なら、要員が休み休み行けるんじゃないか?」
なにせ商会は、この工房へ殴り込みを掛けてきた者たちだけでも三十人弱。その時、配達に従事していたであろう人数を含めれば……
「人海戦術を目一杯駆使してくるだろうな……」
それこそ臨時雇で仲間を掻き集めてくるかもしれない。
「あの顧問弁護士なら、やりかねない」
「「「うむ……」」」
既得権益を保持するためなら、どんなことでもやってくる。
フランチェスカ、ルーシー、タンユー、そして俺が警戒するところは同じだった。
「――なにを弱気になっているの? 竜哉」
ただ一人、このプロジェクトのオーナーを除いては。
「わたくしがとらつくに求めた性能を忘れたのかしら?」
・帝都アタガメイより港町アカッサまで一刻で到着すること
・荷台は馬二十頭を積めること
「確かに……」
その性能が本当に実装できているのならば、ケンタウロス商会なにするものぞ! ではある。
ではあるが……
「一度も試走できてないのに、いきなりぶっつけ本番で大丈夫か?」
「楽勝よ!(要求スペックが正しく実現できているのなら)」
「楽勝……かな?」
「頑張ってくれたじゃない、錬金術師先生、絵師様、聖剣の刀鍛冶、そして竜哉、あなたも」
「リリー……」
「あんなに頑張ったのだから、必ず報われる! わたくし、そう信じています!」
ぺかー!
その時、俺たち【冬騎王】は女神を見た。
神々しい後光が差す聖人を見たよ、リアンベルテ・リリー・リリエンタールに。
こんなお嬢の、どこが悪役令嬢だと言うのか?
☆ ☆ ☆
「遅ぉぉぉぉぉい! 何やってるの竜哉! 早く早く!」
「鬼! 悪魔! 人でなし! この悪役令嬢!」