表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/48

2-4 異世界トラックは異世界に不要である

行政トップ、春管領への根回しに失敗したリリーに続き、

今度は、工房がケンタウロスの群れに襲われてしまう始末!


どうするどうなるトラックの試運転?

無事に公道デビューできるのか?

「おい! 詐欺師ども!」

 ケンタウロス商会は荒々しく通告する。

「我らケンタウロス商会は、とらつく(・・・・)なるガラクタの運行を認めない!」

「なんだと!」

「当然だ! こんな怪しげなガラクタに、客の大事な荷を任せられるか!」

 そうだそうだ! と気勢を上げるケンタウロスたち。

「荷運びは遊びじゃねぇんだ! ド素人はすっこんでろ!」

 工房のガレージに飛び交う怒号。文字通りの【打ちこわし】でトラックを粉々にするつもりか?

 しかし!

「好き勝手にバラされてたまるか、糞餓鬼がぁ!」

「遊びでとらつく(・・・・)作ってんじゃねーんだよ!」

「タマ獲ったろかい!」

 フランチェスカは謎の白煙を上げる紫色の液体入りビーカー、

 タンユーは鮮血色の絵の具が付いたパレットナイフ、

 ルーシーは修理途中の欠けた刀を振りかざし、

 徹底抗戦の構え。

「みんな……」

 気まぐれ貴族の珍妙オーダーでも、誠心誠意が職人の心意気。私的権力の横暴には、体を張って抵抗する。

 勇ましい……勇ましいな、異世界のアーティスト。

 これくらいの抵抗意思を示さねば、「自由」など簡単に蹂躙されてしまうのだ。現代人が忘れてしまった自由への闘争だ。

 だけど!

 相手はざっと二十~三十人はいるぞ?

 こっちは俺を入れても四人しかいない。多勢に無勢もいいところだ!

 どう考えても勝ち目はない! 怪我しないうちに降参する方が、どう考えたって正しい!

 なのに……

 誰一人、逃げようなんて考えはないらしい。


「どんなことをしても【作品】を守るぞ! おめーら!」

「「やらいでか!」」

 目が血走ってるフランチェスカ・タンユー・ルーシー。

「こちとら、職人の名誉とプライドを込めて、作ったものだぞ!」

「おいそれと壊されてたまるかぁー!」

 気持ちは分かる!

 気持ちは分かるが、気持ちだけではどうにもならんだろう、三人娘よ!


(ああもう、どうしたらいいんだ?)

 なんとか穏便に済ますことは出来ないか?



「いやはや、困った人たちですね……」

 一触即発の鉄火場に、遅れて登場したケンタウロスは……より人間に近い馬人間だった。

 耳と尻尾は馬のものだが、脚は二足歩行。高級感溢れるスーツを着用していた。

 その出で立ちから、鉄砲玉のケンタウロスたちはブルーカラーで、人間寄りの馬人間はホワイトカラーだろうと推察できる。

 野蛮な圧力で俺たちを散々脅した後で、有利な交渉に持ち込もうという算段だな。初めから計算づくなんだろう。

「ご紹介が遅れました、私ケンタウロス商会顧問弁護士モダスオペランディと申します」


「なにも、我々も荒事を望んでなどおりません、フランケンシュタイン工房の皆さん」

 理知的な眼鏡の馬人間は切り出す。

「我々が訴えたいのは、ただ一つ――――誰が(・・)、現状の変更など求めているのか? ということです。分かりますか?」

 上から目線の論破ビームを放ちながら、商会の顧問弁護士は説いた。


「このアタガメイに於いて、荷運びはケンタウロス族が一手に担ってきた仕事です。

 なにしろ我らケンタウロス族は、馬の走破力と運搬力、そしてヒトの知性を兼ね備えた存在、

 分かりますか? これがどういうことか?

 荷運びという仕事に於いて、人を圧倒するチカラと、トラブルに対して臨機応変な対応力を持つ人材なのです。

 荷運びでは道中、様々な想定外が起こりうる。

 天気や、荷の異常、走破を妨げる各地域の事情、荷主の要請……届け先が遠くなるほど、不確定要素が積み重なっていく。

 だが!

 そんな場合でも我らケンタウロス商会ならば心配ご無用!

 それぞれ運び手に与えられた裁量の内で、最善を判断できる即応性がある!

 日時・時間・ルート……臨機応変な対応で、安全に荷を届けることが出来るのですよ!

 しかも、それに伴う駄賃の計算や、料金の回収も可能。荷の毀損にも対応できる。

 ただの馬畜生に、そんなことが出来ますかね?

 我がケンタウロス商会、アタガメイの流通の担い手として、自他ともに認めるナンバーワン!

 それが揺るがぬ事実です!」


 確かに、単純な体力勝負でも人間はケンタウロスには敵いそうもない。

 四つ脚の生み出すパワーは、まさに一馬力。喧嘩しても、まず組み合った時点で負けそう……

 それが大挙して押し寄せているんだから、有力寺院の僧兵強訴も()くやのド迫力だ。


「そんな現状で誰が(・・)革命など求めているのです?」

「……!」

「我々ケンタウロス便で、誰が不都合を感じているというのか?

 いると仰るのなら、具体的にご教示戴きたい! フランケンシュタイン工房殿!」


「ぐぅ……」

 正直、ぐうの音も出ない。

 弁護士モダスオペランディの正論は俺たちの口を(つぐ)ませる。

 存在しないもの(=トラック)を求める者など、それこそ、この世界には存在しないのだ。


 余裕綽々で眼鏡を直しながら、顧問弁護士は続ける。

「いいですか、フランケンシュタイン工房殿。我々とて鬼じゃない。傍若無人な要求を呑ませるつもりなどありません」

 よく言う!

 鉄砲玉の集団に工房を襲わせておいて、その言い草はない。

「公道を走りたいのなら、どうぞ走って下さい。荷運び業を担いたいのであれば、客から注文を請け負えばよい」

「え?」

「ただ、我々の業務を妨げることは切にご遠慮願う。国内のあらゆる街道に於いて商会の通行(・・・・・)最優先する(・・・・・)こと――それを約束戴きたい」


「なん……だと!?」


「当然の話ではありませんか? 我々は古くから、責任ある荷運び業として人々の暮らしに貢献してきたリーディングカンパニーですよ? 我々こそが道を優先されるべき権利がある」

「そうだ!」

「俺たちに道を譲れ!」

「新参者は脇にすっこんでろ!」

「こんなウドの大木が道に転がってたら、危なっかしくていけねぇ! どいてろ鉄クズ!」

 非難轟々のケンタウロスたちを野放しのまま、顧問弁護士は続ける。

「ここは共存共栄と行きましょう、フランケンシュタイン工房殿。ただし序列は序列として(わきま)えて戴かなくては。それはマストです。先達に対する礼儀というものでしょう」


「何が共存共栄だ!」

「従属だろ! お前らが望むのは!」

 商売の美味しい部分は、お前らには決して渡さぬ。それでもいいなら参入してもよい。商会の主張は、そういうことだ。

 自分たちは参勤交代の殿様で、俺たちには地べたに平伏せと言っている。

 商会は俺たちをフェアな競争相手と見ていない。


「このとらつく(・・・)最大のアドバンテージは巡航だ」

 さすがフランチェスカ、本来この世界に存在しない機械なのに、本質を見抜いている。

「それが、いちいちケンタウロスと遭遇するたび避けていたら、商売上がったりだよ! ふざけるな馬野郎!」

 商会の条件を呑んでしまったら、「港町アカッサまで一刻」という触れ込みも不可能となる。

 それは呑めない話だ。

 拝金主義フランチェスカの儲け話も崩れてしまうから。


「――そうよ錬金術師先生!」


 ケンタウロスの強訴へツッパる俺たちに、援軍現る。

「それでいいのよ、錬金術師先生! 竜哉!」

「リリー!」

 我ら異世界トラックプロジェクト【冬騎王】の盟主にしてパトロン、

 リアンベルテ・リリー・リリエンタール嬢の御出座(おでま)しである!

「お聞きなさい、お馬の弁護士さん、

 とらつく(・・・・)とは、自由よ! 自由でなくてはいけないの! イージーライダーよ!」

 ちょっとそれは意味的にどうかと思うけど、まぁ分かる。

 トラック野郎は何にも縛られない風来坊でなくてはならない。

 余計な(しがらみ)に囚われず、己が走りたい道を自由に走る。

 だからこそリリーはフランチェスカの軌道路線案を却下したんだ。

「そうだよリリー!」

 それで正解だ、スガワラさんの魂はそこにあるよ、リリー!


 まぁ、みんなキョト~ンとしてるけど。

 ケンタウロスたちは元より、

 フランチェスカもタンユーもルーシーも、首を傾げながら賛同しているけど。

 でもいいんだリリー!

 キミが分かっていれば、それでいい! トラックとは、そういうものだと。


 しかし――

 こんだけキッパリと【拒否】してしまったら、それこそ全面抗争しかないじゃないか。

 冬騎王 vs ケンタウロス商会、血で血を争う仁義なき権益争いに!

 勝ち目ねぇよ! こんな人間のレベルを超えた種族が相手では!


 だが、仲間たちは殺る気マンマン。

「フヒヒヒヒヒヒヒ! 地獄を見るぜぇ……お前らに地獄を見せてやるぜぇ……」

 錬金術師の秘蔵庫から薬品を取り出すフランチェスカ、ああ、ダメだ、それを使ったら人が死ぬ奴だろ? 敵味方問わず。ノーマスクで化学兵器を使う気か?

 タンユーはパレットナイフをバルログ持ちしてるし、

 ルーシーも製鉄炉から赤く焼けた焼印とか取り出してるし、

 こんなのマズいって!


「みんな落ち着け! そんなことしたら、双方痛み分け程度じゃ済まないぞ!」

 両者を割って自制を呼びかけるも、

「やりなさい! 家事と喧嘩はアタガメイの華よ! 悪の華よ!」

 リリーが焚きつける始末!

 そんなところで悪を主張しなくていいから! お嬢様を野蛮な大乱闘に巻き込むワケには!


 とはいえ――殺る気満々の三十人(ケンタウロス商会)と五人(冬騎王)を、俺一人で止めるのは無理な話。

 このままズルズルと血戦が始まってしまうかと思いきや……


「――あいや待たれい」


 そこへ現れた【救世主】とは……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ