2-1 異世界ビールは冷え冷えゴックン
ここから第二章です~
いよいよ走り出す異世界トラック……その前に、ひと悶着ありそうな雲行き?
「名前を付けよう!」
とりあえず完成したトラックを前に、フランチェスカ・フランケンシュタインは提案した。
「いいね!」
スガワラ氏の愛する国産デコトラとは似ても似つかない、どちらかといえばアメリカ横断ウルトラトラック的なフォルムと、外燃機関駆動の車を、果たしてトラックと呼んでいいの?
正直、悩むところではあるが……
製作に参加した錬金術師フランチェスカ、鍛冶屋ルーシー、絵師タンユー、
そして何より、発起人リアンベルテ・リリー・リリエンタールの笑顔が、そんな逡巡も帳消しにしてくれる。
いいものだ。
皆が力を合わせて何かを成し遂げることは、一人より、ずっと達成感が深い。
苦労が報われた、という幸福感を分かち合える。
(皆の力を合わせて……か……)
裏を返せば、その「輪」から勝手にドロップアウトしてしまった奴は裏切り者だ。
皆が同じ頂目指して必死になってるのに、勝手に「イチ抜けた!」とか退場する奴は最低のメンバーと謗られても仕方ない。
(どうして俺は……)
返す返すも、後悔ばかりが先に立つ。
(どうして俺は、あんなことをしてしまったのか……)
俺が余計なことをしなけりゃ、こんな喜びを仲間と分かち合えたというのに……
「どうした竜哉? 暗い顔して~?」
早くも祝杯を煽ったフランチェスカが絡んでくる。
「いや、何でもないよ」
「せっかくレインメーカー号が完成したんだぞ? もっと喜べ異邦人!」
「レインメーカー号?」
「この大型輸送機械に相応しい名前だろ? これほどの荷を積み込める馬車は、この世界には存在しない! つまり、他の馬車には出来ないことが出来る! =大儲けだろうが!」
おお、守銭奴の目だ。捕らぬ狸の皮算用で脳が沸騰しているぞ、フランチェスカ。
あくまでこれはリリーの物であって、お前の物じゃないのに。
それに対し、
「いいえ! これはラブクラフト号!」
絵師タンユー・カノープスは反論する。
「誰が見ても一番目立ってるのはこの絵ですよ。これがこの馬車のアイコンなのです!」
と(気が大きくなった酔っぱらいの)自画自賛、鼻高々。
しかし、タンユーの言い分も分かる。このトラック、後ろ半分は荷台になっているが、
その荷台の両側は、巨大キャンバスで飾られているのだから。
こりゃ目立つよ、否が応でも目立つさ。
しかもモチーフは異教の神と来た。
「ラブクラフトとは、こやつら邪神の創世神にして人間でもある、最凶の存在なんですよ!」
いや~教会関係者が関わっていなくて本当によかった。
タンユーの邪教趣味は、異端審問で焼かれても文句が言えないくらいの、罰当たり発言である。あぶないあぶない。
「拙者的にはヴァルバニール号がよいのではないかと……」
と鍛冶屋ルーシーは提案する。
「ヴァルバニール――王家継承の証たる神器! 誉高き聖剣の名ですゾ?」
ああ、ルーシーは由緒ある聖剣の刀鍛冶の家系なんだっけか?
職人の誇りってヤツかな。
いずれにせよ、ここまで大規模なフレームを作り上げたのは立派なものだよ。
「竜哉は? 竜哉だったら何て命名する?」
「そうだなぁ……ソリオとかどうかな?」
「ソリオ?」
「スペイン……異邦の言葉で「王座」「玉座」を意味する高貴な名前さ。リリエンタール家のご息女が所有するに相応しい名だろ?」
「それも悪くないけど……やっぱりレインメーカー号だろう」
「いや、ラブクラフト号ですね」
「ヴァルバニール号で決まりでござる」
「ソリオ、いいと思うけど……」
四人が四人とも譲歩の気配なし。
ならば、どれを選んでも恨みっこなし、とリリーの方を伺うと…………
「ダンキチ号よ」
即断である。全員の案が即座に却下である。オーナー権限で。
「リリー。ダンキチって、もしかして……」
「ええ竜哉。スガワラの名前よ」
ブンタでもタカスエでもミチザネでもなかったことに、俺は胸を撫で下ろした。
いや、タカスエやミチザネがトラックを知っているはずもないが。
「まぁ、名前は名前として! 乾杯だ! カンパーイ!」
「「「「イエーイ」」」」
バッシャーン!
巨大旅客客船の進水式よろしく、ワインの瓶をボイラーにぶつけて祝うフランチェスカ、
既に赤ら顔のメンバーたち、更に勢いよく祝杯を煽った。
☆
皆がトラックを肴に宴会を繰り広げる中、
料理は得意なので、俺は酒のツマミをちょちょいと作っていたのだが……
「なんだなんだ、竜哉~、呑んでるか? せっかくのおめでたい席なのに、呑んでないのか~?」
「呑んでるよフランチェスカ、ほら」
嘘である。
もはや酒の席での粗相は絶対に犯せないので、アルコールなど厳禁である。
彼女に見せたのはビールっぽい麦茶だ。色だけ見れば分からんだろ、酔っぱらい相手なら。
飲み会における下戸の常套手段だが……背に腹は代えられない。
もう俺は失敗しないと誓った身、酒で迷惑はかけられない。
「な~んだよ~このヌルいビールは? 竜哉~」
そりゃビールなんて冷たい方が美味いに決まっているが、近代以前は、ビールと言えば常温のエールビールだろう?
「異邦人はバカだなぁ……ビールは冷やして呑むもんだ~」
は? 冷蔵庫もない世界人が何言ってんの? そんなの冬以外無理に決まってるだろ?
「ふふふ……無知な異邦人に教えてやろう」
酔っ払いフランチェスカ、熱帯魚の水槽的な飼育ボックスから青いポリンを取り出して……
バシャーン!
工房、裏庭の池にポリンを投げ込んだ。
「よぉーし、みんな危ないから近づくなよ~」
「危ない? 何が?」
意味も分からぬまま、遠巻きに池を眺めていると、
「セイッ!」
弓を構えたフランチェスカ、池のポリンを撃ち抜いた。
すると――――
バリバリバリバリ!
飛び散ったポリンが、池一面を凍らせてしまった!
「すげぇ……」
こんなこと出来るのか、青いポリンは!
「これがアイシクルポリンの正しい使い方だよ、竜哉ク~ン!」
☆
「カーッ!!!!」
この一杯のために生きている!
贅沢に氷をブッ込んだ氷水、そこで冷やしたビールの味は格別だった!
まさか異世界に来て、こんなに美味いビールが飲めるとは! 思ってもいなかった!
「実に美味そうに呑むでござるな、竜哉殿」
キンキンに冷えてる異世界ビールを試飲していると、鍛冶屋のルーシーが声を掛けてきた。
「いやいや、これもルーシー殿のご精励の賜でござるよ、ニンニン」
「いや、拙者の力など……」
「ご謙遜召されるな。このトラック、ちょっと頭のおかしいオーダーを実現できたのも、ルーシーのフレームのお陰。掛け値なしに、キミの職人技は価値のある仕事さ」
「ただ拙者は……ご先祖様の名を汚さぬよう、必死に仕上げただけで……錬金術師殿のお力添えがなくば、このようなものは仕上げられなかったでござるよ」
なんと謙虚な忍者……いや、刀鍛冶か。
「そもそも我がエインズワース工房は、由緒ある聖剣の刀鍛冶なのに、若輩者の女が跡継ぎになったというだけで、古くからの旦那衆も離れて……今では、細々と農具の修理を請け負って糊口を凌いでいるような状態なのに……」
「ルーシー……」
「そんな拙者に、このような大きな仕事を任せて下さった! 錬金術師と竜哉殿には、まったく頭が上がらねぇ! 感謝しきれないほど感謝してるだ!」
「そうか……」
よかった。キミでよかったよ、この仕事を任せたのは。
これも酒の力だろうか?
祝杯の多幸感に酔わされたせいだろうか?
僕はルーシーを抱き締め、心から達成感を分かち合った。
☆ ☆ ☆
心で留めておけばよかったのに。
なぜ、留めておかなかった? なぁ淡口達哉?




