1-10 錬金術師、悪魔の錬金術師だった
異世界の住民はトラックを知らない=交通事故が頻発しかねない問題を解決するため、
あーでもないこーでもないと、試行錯誤する竜哉とリリー。
錬金術師のフランチェスカは「悪役令嬢なんだから、掟破りの残虐ファイトでいいじゃないか?」と二人を唆すが……
フランチェスカ・フランケンシュタインはタコ踊りを始めた。
この錬金術師、極めて合理主義的思考の持ち主である。
何事に於いても、理に適った答を採用するし、他人にもそれを求める。
なので――論理の齟齬が起きるとバグるのだ。
しかも相手が悪い。
リアンベルテ・リリー・リリエンタールは彼女のパトロンである。
決して逆らってはならない、世界で唯一の人である。
パトロンが白といえば黒でも白。決して不興を買うことは許されない。
それがパトロンとアーティストの関係性なのだ。
と理解してるからこそバグる。
言いたいことと言えないことがコンフリクトを起こして、どうしようもなくなる。
その結果としてのタコ踊りである。
「はっ!」
どうしたフランチェスカ?
マドンナのVougeみたいなポーズで一時停止した、急に。
「これだ……!」
なんだなんだ?
異世界の運転免許=殺人許可証問題を解決する妙案が浮かんだ、とでも?
「発想の転換だよ竜哉!」
「へ?」
「現状『トラックとは何か?』を周知できていない以上、どうしたって人を轢いてしまう」
肯定したくないが、その通りである。
「ならもう、それを前提に考えてみては?」
「は?」
「何を言ってんのフランチェスカ?」
ぶつかるのは仕方ないから、その時々で考えよう、ってバードストライクじゃないんだから……
「あれだよ、あれ! 竜哉、リリエンタール嬢様!」
フランチェスカは試作一号機の舳先を指した。
そこには再びエネルギーを使い果たして、切り干し大根のようにシナシナになっている吸血鬼がぶら下がっていたのだが……
「あれを積むんだよ車内に!」
「えー????」
「普段は棺の中に収めて、外から鍵を掛けておけばいい! で、事故った時に取り出して、轢かれた人の血を吸わせるの!」
「な……んだと?」
「吸血鬼にガッツリと血を吸わせれば、吸われた方も吸血鬼になるじゃん!」
「……!」
「これなら、いくら轢いても死人は出ない! 不死性を付与した上で、我がトラックで病院へ搬送してあげればいいのだから!」
「あのぉフランチェスカさん……? 吸血鬼って医者に診てもらえる?」
「ああ、まずは教会が先か。聖水治療で、不死性を克服した…………話もある(※小声)」
言葉が出ない。
「どうよ? このフランチェスカ発案――【殺さなければ殺したことにはならない作戦】!」
こ、こいつ悪魔かな?
人の顔した悪魔では?
僕とリアンベルテ――真顔で絶句である。
「吸血鬼を救急救命要員として同乗させれば、野盗山賊に襲われた時も安心よ! 取り敢えずトラックで轢いた上で吸血させれば、殺さないで無力化できる。そして吸血鬼が飲みきれない分は、冷凍パックで保存、富裕層向けの医院に輸血用パックとして売却しましょ!」
「…………」
「まさに一石二鳥! これは素晴らしいビジネスの予感! あたし天才か!」
やっぱりこの錬金術師、悪魔では?
顔を見合わせた俺とリリー、天を仰ぎ、頭を抱えた。
「そんなんダメに決まってんだろ……」
「ですわよ……」