第14話「“シスターズアルカディア”VS魔王軍⑤」
*
思い出すのは、前世の記憶。
ここ“ワールドシルヴァネア”とは違う世界、“ワールドフラワレス”、フラウ王国の王国騎士団の副団長を務めていたボク、ミラ・ターナーと、兄さまの前世であるイチロー・ローザス副団長、そしてその姉であり、サクヤ姉さまの前世でもある王国騎士団団長サク・ローザス。
王国騎士団史上最強の団長と副団長と呼ばれていたローザス姉弟、そんな二人に憧れと秘かな恋心を抱いていたボク。
そんなボクたちは、その日、突如現れた植物型の魔獣“ビランテ”と戦っていた。
他の団員たちが次々に倒れていき、とうとう戦えるのがボク達三人だけとなってしまった。
だけど、そんな絶望的な状況においても、兄さま達は諦めずに戦い続け、次第にビランテを追い詰めていった。
このままいけば勝てる!
そう思ったボクは、油断し、ビランテの触手に右足を掴まれ、宙に吊るされてしまった。
『しまっ…!?』
『ミラーーッ!!』
ビランテの薔薇のような見た目の顔が真ん中から真っ二つに開き、巨大な顎となり、触手で捕らえたミボクを飲み込もうとした。
もうダメだ…、ボクは、ここまでか……
そう諦めた時、姉さまがボクを捕えていた触手を、精霊剣“マリンセイバーロッド”で切り裂いた。
そして、触手から解放されたボクを左手で抱き抱え、着地した姉さま。
『ミラちゃん、無事?』
『は、はい……、あっ、団長、後ろッ!!』
ボクを助けてくれた団長の背中越しに、先端に牙を生やした人間を丸呑みできるほど巨大な触手が迫ってきているのが見えた。
『え?』
『二人共、危ないっ!!』
それに気づいた兄さまが、ボク達を助けようと駆け出しているのが横目に見えた。
だけど、タイミング的に、間に合わないだろう。
今度こそ万事休すかと、思ったその時、姉さまが予想外な行動に出た。
『イッ君、ミラちゃんをお願い…!!』
『団長!?』
『姉ちゃん!?』
姉さまは兄さまの方へボクを放り投げると、そのまま自身は、背後から迫る巨大な触手に頭から飲み込まれてしまった。
『団長ーーーーーッ!!』
『姉ちゃーーーーーーんッ!!』
姉さまを取り込んだビランテは、やがてその姿を変えていき、全身から触手を生やした姉さまの姿へと進化を遂げた。
『だ…、団長の姿になるなんて…』
『ちくしょう、ふざけやがってぇええええええッ!!
俺の姉ちゃんを返せぇえええええええええええッ!!』
そこからは、あまり思い出したくない記憶だ。
“氷の精霊術師”だった兄さまの術で、姉さまの姿をしたビランテを封印することに成功した兄さま。
最愛の姉の姿をした相手を封印しなければならなかった兄さまの怒りと悲しみと絶望、そして、そんな兄さまを抱きしめることしか出来なかった無力な自分……
*
「さっさと、このボクに殺されなさいっ!!」
“ワールドシルヴァネア”のホクヨウ県モジ市サルハミ地区に現れたビランテ、いや、“ビランテローザンヌ”を相手にして、ボクは、怒りに我を忘れていた。
姉さまを奪ったビランテへと、無力だった自分への怒り。
だが、転生した今のボクはあの時とは違う。
あの時よりも、遥かに強くなった。
だから、今こそ、あの時の復讐を果たす!
「やぁあああっ!!
雷の精よ、集え!『サンダーアロー』!『サンダーアロー』!『サンダーアロー』!!」
ボクは、特に得意とする『サンダーアロー』を移動しながら連続で放ち、ビランテローザンヌを攻撃する。
『サンダーアロー』は精霊力の消費が比較的少なく、ピンポイントで相手の急所などを狙い撃つことが出来る術だが、その威力自体が低いので、一般的には牽制目的などで使われることが多い。
しかし、術の精度を上げればその限りではない。
『何度も何度も…!その程度の術では我が身体に傷一つ…、何ッ!?』
10メートル程の巨大な薔薇のような花の木、その幹の中心部にまるで寄生するかのように生えている魔人、ローザンヌが驚きの表情を浮かべた。
何故なら、ボクの放った『サンダーアロー』は、幹を貫き、貫いた箇所が黒焦げで再生しなくなっていたからだ。
「精霊力を収束させて、一撃の威力を上げる。
そして、組織を完全に焼き切ってしまえば、再生も難しくなる、そうだよね?」
冷静さを失ってはいたが、その程度のことは考えていた。
一気に焼き付くすのはボクには無理でも、少しずつ削っていけば、やがては核に近付き、撃破出来る!
「その為に磨き上げたボクの術、思い知れ!
雷の精よ、集え!『ミリオンサンダーアロー』っ!!」
同時に数百の雷の矢を放ち、操るボクのオリジナル術。
この術は、同時に複数の標的を狙い撃つことが出来る代わりに、術を放っている間は、その操作に集中するために他の動きが出来ず、無防備になってしまうという欠点があるが、ビランテローザンヌ自体が大きく移動するようなタイプの敵ではないため、欠点はほとんど欠点とならないだろう。
さらに、転生して以前より強くなった今のボクは、術を操る精度が増しているため、的確に相手の弱所を見抜いて狙い撃つことが出来る!
『うっ…、うぉおおおおっ!?!?』
そして、それは狙い通りで、巨大な薔薇の木であるビランテローザンヌは、その場から動くことが出来ず、かろうじてその触手でいくつの矢を打ち消すことは出来たが、ほとんどの矢はまともに当たり、勢いよく燃え上がっていく。
「いける…!今のボクの力なら!!
千の雷精よ、集え!」
勝利を確信したボクは、トドメの一撃を放とうとするが、
「…精霊力が集まらない!?しまった、精霊力がもう…!?」
そこで、ボクはこの世界が“ワールドシルヴァネア”で、自然界に存在する精霊力の総量そのものが少ない世界であることを思い出した。
普段はその辺りを意識して精霊術を扱うのだが、冷静さを欠いていたボクは、すっかりそのことを失念していた。
『ハハハハハッ!!さっきまでの勢いはどうした!?』
ビランテローザンヌが、勝ち誇ったかのように高笑いをあげながら、再生させた触手を伸ばしてくる。
「っ!?触手がもう再生して…っ!?」
いつの間にか、ビランテローザンヌを燃やしていた火は消えていて、ほとんどの幹や触手が再生していた。
その再生力の早さに驚愕するボクだったが、今はこの向かってくる触手に対応しなければならない。
だが、ボクのサイボーグとしての能力に、戦闘向きの能力はほとんど無いため、両足の“ジェット噴射”で空を飛んで、触手の軌道から避けるくらいしか出来ない。
『フハハハハハッ!!いつまでも避けきれると思うなよ!?』
「くぅ…っ!?」
四方八方から襲い来る触手に、ボクはついに追い詰められ、最早万事休すかと思ったその時、ボクを捕らえようとした触手が目の前でバラバラに切り裂かれていった。
『何ッ!?』
「ボクもいること…、忘れないで欲しい」
「モモコちゃん!?」
ボクに迫っていたビランテローザンヌの触手は、モモコちゃんの両腕に装備された“電磁ソード”によって、見事にバラバラにされていく。
そうだ、今のボクには頼もしい双子の妹がいるんだ…!
*
「まったく…、いくら仇だからって、暴走し過ぎ…」
「うぐっ…、ごめんなさい…
そ、それより、モモコちゃんの両腕、いつの間に“電磁ソード”に改造したの?」
ボクは助けてもらったモモコちゃんに謝罪しつつも、気になったことを尋ねた。
確か、モモコちゃんの右腕は“アームドリル”で、左腕には“アームマシンガン”が装備されていたハズで、“電磁ソード”は取り外し式のものが右足太ももに収納されていただけで、両腕に装備するタイプの“電磁ソード”は組み込まれていなかったハズだけど…
「ん…、それは、おいおい…
今は…、出来るだけ、アイツから…離れて」
「分かった!」
モモコちゃんに言われた通り、ボクは“ジェット噴射”を起動して、距離を取ろうとする。
『おっと、逃さんぞッ!?』
そうはさせじとビランテローザンヌの触手が、再びボク達を捕らえようと迫ってくる。
すると、モモコちゃんがボクを庇うように空中で静止し、その場で襲い来る触手を斬り刻んでいく。
「ミライだけ、先に行って…!」
「えっ、でも、」
『大丈夫…、ボクを信じて』
最後のセリフだけ、何故か脳波通信で送られてきたのが気になったが、ボクはモモコちゃんの言葉を信じて、ビランテローザンヌの触手が届かない場所まで移動する。
『モモコちゃん、とりあえず離れたけど、一人で大丈夫…?』
ボクはモモコちゃんに脳波通信で話しかけた。
『問題無い…、というより、あのまま…、あの場に留まっていたら、ミライがもっと危険だった…』
『それはどういう意味?』
『話せば、長くなる…、だから、“加速装置”を…』
『分かった』
“加速装置”は、“高速移動”のようなただ単に早く行動するだけの装置じゃなく、脳の思考も加速させる。
故に、こうした戦況下で、味方同士の作戦会議を行う際なんかにも有効な手段と言える。
ボクが“加速装置”を起動すると、周囲の時が静止したかのような静寂が訪れる。
少し離れた所では、ビランテローザンヌを相手に戦うモモコちゃんの姿があったが、こちらも静止画のように止まって見える。
…あれ?モモコちゃんは“加速装置”を使ってない?
この状況だと、ボクとモモコちゃんとでは通信が出来ないのでは?
「大丈夫…、問題無い」
「…え?」
と、突然ボクの隣からモモコちゃんの声が聞こえたので、横を向くと、そこにモモコちゃんがいたので驚いた。
「ええっ!?」
咄嗟に、ボクは視線を元に戻すが、そこには、未だ静止したままのビランテローザンヌと戦うモモコちゃんの姿があった。
「えええええっ!?どどど、どういうこと!?モモコちゃんが二人いる!?!?」
「それも含めて…、説明する」
そこで、モモコちゃんから事の経緯が説明された。
*
話は数日前まで遡る。
ボク達の上司である、表向きの肩書は国防兵団第3小隊の隊長、裏向きの肩書は国防兵団第0小隊の隊長を務めているアスカ・イェーガさん率いる、第0小隊の調査員達が、関門海峡の海底に作られたゼロの海底研究所に潜入し、その中からサルベージされたデータに、“パーフェクトテンダー化計画”というものがあったらしい。
“テンダー”というのは、クローンサイボーグNo.10、つまりはモモコちゃんのことだが、その計画書によると、モモコちゃんは、もう一人のテンダーと同時運用することを最終段階としていた、らしい。
「もう一人のテンダー、ってどういうこと?モモコちゃんがもう一人いた、ってこと?」
「ボクは、一人…
だから…、正確には、ボクを模して作られた…、アンドロイド、のこと…」
「アンドロイド!?」
さらに詳しく聞くと、もう一人のテンダーは、モモコちゃんと全く同一規格だが、100%“バイオヴァリアブルメタル”で作られたアンドロイドで、脳の部分に埋め込まれたAIで動く完全自律型のアンドロイド(つまりはナナカ姉さまに近い存在)だが、その一方で、モモコちゃんの脳と完全にリンクしていて、視覚や聴覚、記憶などが完全に共有されており、さらにはモモコちゃんの指示でテンダーを動かすことも可能ならば、逆にテンダーの意思を受けてモモコちゃんが動くこともあるという。
「すごく…、大雑把に言えば、ボクが…、二人いて、バラバラに思考して…、バラバラに動くこともあれば、同時に思考して…、同時に動くこともある、って感じ…」
「な…、そ、そんなことボク一言も聞いてなかったよ!?
えっと、じゃ、じゃあ、最初にボクと出撃したモモコちゃんは!?」
「テンダーの方…」
「じゃあ、今戦ってるのはテンダーちゃん?」
「そう…、ボクは、二人より少し前に…、『転移』魔術で、ここに来て…、ヤツの核を、探ってた…」
そうだ、ここサルハミ地区へ来る際、ボクとモモコちゃんは、クルセイド研究所から一度クルセイド第2研究所へと“転移魔法陣”を使って移動し、そこから外に出て、両足に仕込まれた“ジェット噴射”で空を飛んでやって来た。
今思えば、モモコちゃんの『転移』魔術を使えば、クルセイド研究所から、ここまで一瞬で来られたハズだったのだ。
それが出来なかったのは、あの時のモモコちゃんがテンダーちゃんで、彼女はモモコちゃんとは違って魔術が使えないのだ。
そう、モモコちゃんとテンダーちゃんの大きな違いは、魔人か、そうでないか、という点。
魔人でなければ魔力は持たず、魔術も使えない。
テンダーちゃんは、あくまでモモコちゃんを元に作られたアンドロイドであるため、当然魔力を持っているハズがない。
その、当の魔人であるモモコちゃんは、魔獣の弱点とも言える核の位置を見抜くことが出来る。
そこだけ、魔力の色が濃いとか、光って見えるとか、人によって感じ方は様々らしい。
しかし、核を探すには、じっくり時間をかけて観察する必要があるそうだ。
そのために、ボク達より早く現場にやって来て、ボクとテンダーちゃんが気をそらしている間に、核を見つける、という作戦だったらしい。
「でも…、まさか、ミライが…、あそこまで、暴走するとは…、思ってなかった」
「それは…、ごめんなさい……
でも、じゃあ、なんでボクにテンダーちゃんのこと教えてくれなかったの?」
「敵を騙すには…、まず、味方から…、って言うし」
「まぁ…、言いたいことは分かったよ。
それで、これからどうするの?核の位置は分かってるんだよね?」
「うん…、今、データを送る…」
モモコちゃんからの脳波通信で、ボクの脳内に直接、ビランテローザンヌの核の位置が送られてきた。
それによると、ビランテローザンヌの核は、全部で10存在するらしい。
「結構な数だね。
確か、核は全部同時に破壊しないといけないんだったよね?」
「そう…、一つでも、タイミングがズレると…、再生されちゃう。
それと…、さらに厄介なのは、ビランテローザンヌの…、能力」
「ビランテローザンヌの能力…」
そこでボクは、以前サクヤ姉さまから聞いた、ビランテローザンヌの話を思い出す。
ビランテローザンヌは、ビランテと一体化した六魔皇ビランテのことで、通常種のビランテより進化した魔獣といえる存在。
その能力は、自身のビランテ核を体内で分裂させて増やすだけでなく、全く新たなビランテ核を作り出し、そこから単体のビランテを産み出すことも出来るそうで、その生み出されたビランテによって、前世のサクヤ姉さまは吸収され、一体化して、ビランテサクヤとして前世のボク達の前に立ちはだかり、兄さまの手によって封印された。
さらに、そうして生み出されたビランテが吸収した生物の能力を、ビランテローザンヌ自身にフィードバック出来るらしい。
これにより様々な術を扱えるようになったそうだが、肝心の本体であるビランテローザンヌは、兄さま達と魔王“ヤミ”との戦いの際に、セイラちゃんとサクヤ姉さまに滅ぼされた、とののこと。
なので、今ボク達が戦っているのは、そのビランテローザンヌから生み出された、彼自身のコピーということになるのだろう。
何故、そんな奴がここにいるのか分からないが、『召喚』によって、この場に召喚されたということは、何かしらの経緯があって、魔王軍幹部の【魔獣使い】ジャイビットの“使い魔”とされたのであろう。
その辺の経緯に関しては興味が無いので割愛する。
「少なくとも…、ミライが暴走していたのは、過去の恨み…、というだけでなく、奴が吸収した能力によるもの…」
「え!?」
「奴が…、常に周囲に撒き散らしている、微小の粒子…、花粉のようなものが、ミライの体内に取り込まれ…、精神を追い込み、正常な思考や…、判断を、出来なくさせていた…」
「そ、そうだったの!?
でも、元のビランテにはそんな能力…、そうか、だから吸収した能力!」
「うん…、恐らく、“ガモス”とか…、“バルフォン”なんかの、蝶系の魔獣の…、能力、だと思われる…」
「となると、他にも厄介な能力を持ってる可能性がある、ってことだね?」
「そう。
幸い、核の分裂自体は…、一度の分裂に、時間がかかるから…、今すぐ核が増えて、倒し辛くなる…、ということは無い、と思う…」
「なら、短期決戦で決めるのが一番ってことだね?」
「そう。
厄介な能力を使わせず…、核を増やされる前に、一気に核を破壊して…、倒す」
ビランテローザンヌの能力は確かに厄介ではあるが、“加速装置”を使えるボクらが有利なのは間違いない。
このまま、“加速装置”を起動したまま、ビランテローザンヌの核を同時に狙い撃てば問題なく倒せるハズ、と思っていたのだが、
『“加速装置”は、すでに対策済みだ』
「え…!?」
声がしたかと思った直後、ボク達の“加速装置”のリミッターが働き、“加速装置”が緊急停止させられた。
「ど、どういう…、」
「ミライ!モモコっ!!」
「え!?」
「きゃあっ!?」
テンダーちゃんの叫び声がしたかと思うと、突然、ビランテローザンヌの触手がボク達に向かって伸びてきたのだ。
突然の出来事に、対処出来なかったボクとモモコちゃんは、あっさりと触手に捕まってしまった。
見れば、もう一つの触手にテンダーちゃんが捕らえられているのが目に入った。
「ご、ごめん、モモコ…!警告が、遅れた…!」
「ううん…、テンダーのせいじゃない…
“加速装置”で、一時的にテンダーとの通信が…、出来ない状態だったから、仕方ない…」
“加速装置”使用中は、“加速装置”を使用している者同士でしか脳波通信が出来なくなる(“タキオン粒子”の影響で使用者と非使用者では、脳の処理度が異なる)ため、いくらモモコちゃんとテンダーちゃんで視覚や思考が共有されているといっても、この不測の事態には対処出来なかったわけだ。
『いやいや、しかしまさか!!
二人ではなく三人いたとはな!しかも、俺の“混乱鱗粉”が効かなかったところをみると、さっきまで戦っていたヤツは機械仕掛けか、あるいは肉体の大半が機械タイプのサイボーグといったところか?』
ボク達を触手で捕えたビランテローザンヌは、余裕の笑みを浮かべている。
「くっ…!?一体何故、どうやってボク達の“加速装置”を無効化したの!?」
『その種明かしをわざわざしてやるとでも?』
いやらしく笑いながら、ボク達を締め付ける力を強くしていくビランテローザンヌ。
「きゃあああっ!?!?」
「あ…、うぐっ…!?!?」
「ミライ…!モモコ…っ!」
『ハハハハッ!!どうした!?我が触手から逃れられんか!?』
どんどん締め付けが強くなり、ボクの意識が朦朧としていく…
ヤツが“加速装置”を無効化した方法は、恐らく“タキオン粒子”を何らかの方法で過剰活性させたのだろう。
“タキオン粒子”が無理矢理に過剰活性させられたことで、“加速装置”の暴走を防ぐため、ボク達の“加速装置”に備え付けられているリミッターが自動で働き、“加速装置”が強制停止させられた、というようなところだろう。
だが、それが分かったところで、今は意味が無い…!
何とか、この触手から抜け出さないと…!
『ハハハハ!足掻いても無駄だ!!
一度捕らえたら、離さない我が触手から逃れる術などない!
このままキサマ達を我が体内に吸収して、我が力の糧としてやるぞ!』
「そうは、させない…!モモコ!」
「…うん、分かった!お願い…、テンダー!」
「了解…!
“加速装置”、リミッター解除…!
“タキオン粒子”、過剰活性化状態以降…!
『“加速装置”オーバードライブ』…っ!!」
すると、テンダーちゃんの身体が、キィーン!という甲高い音と共に、肩や腰、太ももなどに仕込まれていたシャッターが開き、そこから水蒸気と共に異常な熱が放出され始めた。
『なッ…、何をしているッ!?』
「“加速装置”は、使えなくなったわけじゃない…
ただ…、人体に危険が及ぶ可能性があるから、リミッターが働いただけ…」
つまり、アンドロイドであるテンダーちゃんなら、ボク達の身体では耐えきれない“加速装置”の限界のさらに限界を超えた“加速装置”のオーバードライブが使用可能、ということだ。
“加速装置”をオーバードライブさせたテンダーちゃんは、強引に自身を捕らえていた触手を引き千切ると、次にボクとモモコちゃんを捕らえていた触手をも引き千切った。
さらに、テンダーちゃんは“加速装置”をオーバードライブさせたまま、ビランテローザンヌの幹から触手から、ありとあらゆる箇所をあっという間に斬り刻んでいく。
『グォあァアアアアアアッ!?!?』
それは、ビランテローザンヌの回復速度を完全に上回っており、ビランテローザンヌは見るも無惨にバラバラになっていく。
だけど、核を破壊するまでヤツが死ぬことは無く、現に今も少しずつその体を再生させていっている。
そしてしばらくして、“加速装置”のオーバードライブを解除したテンダーちゃんが、ボク達の前に戻って来た。
「ヤツの、“混乱鱗粉”を発生させる器官と…、“タキオン粒子”を過剰活性化させていたと思われる、特殊音波を発生させる器官を…、一時的にではあるけど、無力化した…」
「了解。
じゃあ、それら器官が…、再生される前に、」
「「核を叩く…!」」
モモコちゃんとテンダーちゃんが頷きあい、ビランテローザンヌへと向かって行く。
一方で、ボクの方も準備にかかることにした。
この辺りの連携は、ボクとモモコちゃんでも、特に何も言わずとも出来る。
ボクはモモコちゃん達の意図を組んで、精霊術の詠唱の準備に入った。
*
ボクとテンダーは、すでに再生しかけているビランテローザンヌの核を破壊すべく、“加速装置”を発動した。
ボクの能力は、基本的に接近戦をメインとしている。
それは、魔術にしても、サイボーグの能力としてもだ(飛び道具が無いわけではないが)。
一方、テンダーの方は、近接戦闘も遠距離攻撃も出来るよう作られている。
なので、必然的に、核を狙う役目としてはテンダーに負担がかかることになる。
「問題ない、ボクは…、モモコをサポートするために、作られたから…」
“パーフェクトテンダー化計画”、それはボク自身も知らされていなかった、ボク達を作ったゼロの秘密の計画。
No.10までのクローンサイボーグの中では、No.4ことフォルスに次いで改造箇所が多かったというのと、電気を操る魔力持ちだったせいか、ボクの脳とアンドロイドのAIをリンクさせるのにうってつけだったからなのだろうか、理由は分からないが、ともかく、ゼロはサイボーグのボクともう一人のテンダーをリンクさせることで、より完璧な戦士を作ろうと計画していたようだ。
結果的に、ゼロはもう一人のテンダーを作らなかったようだが、その計画書自体は残っていて、それをサルベージしたアスカさん達から渡され、暗号で書かれた内容の解読と、アンドロイドのテンダーをわずか2、3日で完成させたマイカ姉さまや兄さま達には驚かされる(しかもボク達には内緒で、だ。兄さまは他の姉妹達との交流もしてたハズなのに、一体どのようにしてそれだけの時間を作ったのかは永遠の謎だが)。
それはともかく、家族を守るための新たな戦力として、アンドロイドのテンダーは誕生したわけだ。
そして、今日が初陣、ほぼぶっつけ本番(事前に皆に内緒でテストプレイはしていたけど)。
いきなり“加速装置”のオーバードライブなんか使って、かなり彼女の身体には限界が来ている。
これ以上長引けば、テンダーの身体はオーバーヒートして、自壊してしまう恐れがある。
魂が存在しないアンドロイドだからといって、彼女の生命が失われていいわけがない…!
「だから…、この一撃で、終わらせる…!」
ボクとテンダーの脳波をリンクさせ、ビランテローザンヌの核の位置を共有し、即座に互いが狙う核の最適解を導き出す。
「“レーザーファンネル”、射出&起動…!」
テンダーが、背中から“レーザーファンネル”を九つ射出し、10個ある核の内、九個の核に狙いを定める。
そして、残る一つの核に、ボクはポインターを合わせると、右足に雷の魔力を収束させる。
「“レーザーファンネル”、ファイアっ!!」
「『サンダーキック』っ!!」
テンダーのファンネルから放たれたレーザー光線と、ボクが放ったキックが、ビランテローザンヌの核に同時に着弾し、“加速装置”の解除と共に、ビランテローザンヌが爆発四散する。
だが、ここで油断はしない。
ボクは、ビランテローザンヌが死ぬ間際に、新たに生み出した一つの核を種子にして、体外に排出したのを確認した。
「ミライっ!!」
「了解っ!!」
仕上げは、ミライに任せる…!
*
モモコちゃんとテンダーちゃんが、ビランテローザンヌの核を破壊しようとしている時、ボクはビランテローザンヌの悪あがきに備えて、準備をしていた。
サクヤ姉さまを吸収したビランテは、兄さまに封印される直前、一つの核を種子にして、体外に排出し、生き延びた。
結果として、サクヤ姉さまは“ビランテサク”として蘇生し、兄さまと“使い魔”契約することで、ビランテの核を抑え込んで、今のサクヤ姉さまがある。
そして今回も、ビランテローザンヌはそうした悪あがきをして生き延びる可能性がある。
定かではないが、魔王城において、サクヤ姉さまとセイラちゃんに倒されたハズのビランテローザンヌがコピーを残して生き延びていたのも、同じような方法だったのではないか?
「兄さまの加護、使わせてもらいます!
来れ千の氷精!」
ボクは、一日に一度だけ使える兄さまの加護を使って、氷の精霊術を唱える。
氷の精霊術、その最強クラスの術。
千の精霊力を集めて放つその術を使うためには、精霊力を集めるための時間が必要となる。
「くっ…、やっぱり扱い慣れてない精霊力だから、少しキツい…、かも…!?」
ボクの周囲に集まってくる氷の精霊達。
氷の精霊力を扱うのは、当然ながら初めてのため、記憶の中にある、前世の兄さまの戦い方を思い出しながら、精霊力を収束させていく。
しばらくして、ビランテローザンヌの核が破壊され、爆発四散した。
直後、“加速装置”を解除したモモコちゃんから合図があった。
「ミライっ!!」
「了解っ!!」
モモコちゃんから脳波通信で、爆炎の中を飛んで、この場から逃げようとするビランテローザンヌの、新たに生み出された核の入った種子の映像が送られてきた。
ボクは、その種子にロックオンすると、詠唱の最後の部分を唱えた。
「集いし千の氷精よ、我が力となりて敵を凍て!
『ブリズドスクエア』っ!!」
周囲一体を丸ごと凍らせるかのごとき冷気がビランテローザンヌの核を宿した種子を包み込み、完全に凍らせ、封印することに成功した。
この氷は、術者が死のうとも、永久に溶けることは無い。
サクヤ姉さまを吸収したビランテを封印した時は、念には念を入れて北極の氷の中に沈めたけれど。
「ふぅ〜…、なんとかなったわね……」
「お疲れ様、ミライ…!」
近付いてきたモモコとハイタッチを交わし、健闘を称えあう。
一方、今回の戦いの功労者であるテンダーちゃんは、
「体内の疑似血液、危険温度領域…、オーバーヒートの危険ありのため、スリープモードに移行…」
そう言いながら、全身のフィルターから大量の水蒸気を発生させながら、スリープモードに入り、一時的にその機能を停止した。
「テンダー…、ありがとう」
「テンダーちゃんが頑張ってくれたおかげで、ボク達は大きなダメージもなく、アイツを倒すことが出来たよ」
テンダーちゃんの“加速装置”のオーバードライブという、チート中のチートで、ビランテローザンヌの厄介な能力のほとんどを一瞬で(物理的に)無効化してくれなければ、ここまで余裕の勝利は無かっただろう。
そもそも、勝てたかどうかも怪しい。
少なくともボクだけでは、“混乱鱗粉”だけでアウトだっただろう。
「とりあえず…、戻ろうか、ミライ」
「そうだね。
早く戻って、テンダーちゃんをゆっくり休ませてあげなきゃね」
ボク達は氷漬けにしたビランテローザンヌの種子を忘れずに回収し、モモコちゃんの『転移』魔術でクルセイド研究所へと戻るのだった。




