第9話「魔獣出現」
*
6月21日の金曜日、それは突然現れた。
“ワールドシルヴァネア”においては、これまで出現記録の無かった魔獣が出現したのだ。
現れたのは、狛犬のような見た目をした“シーザー”という魔獣で、そいつはクマモトに出現した。
それに対し、主にクマモトを拠点に活動しているキュウシュウ国国防兵団第5小隊がこれの迎撃にあたり、無事に撃退されたらしい。
この話はその日のニュースにもなる程にセンセーショナルだった。
何せ、この世界において魔獣(ニュースでは怪獣と呼ばれていたが)の存在はこれまで未確認であり、空想科学、フィクションの世界の中の話でしかなかったからだ。
そして、当然と言うべきか、その日の夜にアスカさんがクルセイド研究所にやって来て、ボク達に相談を持ち掛けてきた。
ちなみに、今この場にはボクとモモコちゃん、マコト姉さま、モトコ姉さま、マイカ姉さま、メイコちゃん、そしてナナカ姉さまがいる。
「まずは怪獣、いや正式には魔獣だったか、彼らのことについて君達に詳しく聞きたい」
「了解。では…、まず、魔獣とは何か…、から、説明する…」
そう言ってモモコちゃんの説明が始まった。
その内のいくつは、ボクにとっては以前にも聞いたことがある内容だったが、今一度確認のためにも整理しておきたいと思う。
まず、魔獣というのは本来は“ワールドダークネス”にのみ生息する固有種だった。
体内に魔人と同じ魔力を持ち、その魔力を体内で変換させて魔術を放つ仕組みは魔人とほとんど変わらない。
そうした魔獣が“ワールドダークネス”以外の世界に出現する理由はいくつかある。
①魔人が“使い魔”として召喚する場合。
②召喚された“使い魔”が何かの事情で野生化し、そこで繁殖した場合。繁殖方法は、魔獣によって異なるため、一匹だけであっても増殖する場合があるそうだ。
③その世界で自然発生する魔力“マナ”が一時的に大量発生した時に、魔獣が生み出される場合。この仕組みに関してはよく分かっておらず、その世界にとっての異物であるマナを除去するための自浄作用として魔獣を生み出すとされる説や、マナが大量発生することで、その発生区域が一時的に“ワールドダークネス”の空間と繋がり、そこから魔獣を呼び出すのではないか、とする説などがある、らしい。
こうした現象は、“ワールドフラワレス”の他、例えば“ワールドブラディ”や“ワールドジュウラン”などといった世界にて、確認されている。
そして、このマナの大量発生によって出現する魔獣は、その場所ごとに決まっていたり、完全にランダムだったりと、その法則そのものもよく分かっていないという。
「なるほど、魔獣に関してはなんとなく理解した。
しかし、この世界、君達的に言えば“ワールドシルヴァネア”だったか、
この世界にはこれまで魔獣などという生物は確認されていなかった。
それが何故、今日急に現れたのだ?」
「理由は、分からない…
そもそも、この世界では…、マナは、発生していなかった…
そして、魔人の侵略も無かった…
だから、魔獣も存在しなかった…」
「ちなみに、何故魔人達はこの世界を侵略しなかったのか、分かるかい?」
「そもそも、魔人が…、異世界を侵略する理由は、自分達の居住区域の拡大のため…。
この世界、“ワールドシルヴァネア”は…、戦争中心の世界。
故に、この世界を手に入れても…、将来性がない、勝利のために…、払う犠牲に、釣り合わないから…」
「なるほどね、確かにその通りなのだろう。
では、話は戻るが、そんな我々の世界に、何故突然魔獣が現れたのだろう?」
「この世界にも、マナが発生した…?」
「あるいは、魔人が攻めてきたとか?」
メイコちゃんがそう言うと、モモコちゃんが首を傾げた。
「それは、考えにくい…
さっきも言ったけど、この世界を攻めても…、魔人に、メリットは無い…」
「だとしたら、何故急に魔獣が現れたんだろう?
やっぱり、自然発生したマナのせいなのかな?」
「ちなみに、マナが発生する原因とかって分かってたりするのかしら?」
ボクの疑問に合わせる形でマイカ姉さまがモモコちゃんに質問をした。
「マナが発生する、ハッキリとした原因は…、分からない、けど…、主に、魔人が侵略した世界で…、起こっていることから、その因果関係は…、否定出来ない、と思う…」
「なるほど、ね…」
アスカさんが何やら複雑そうな顔をしながら頷いた。
「あ…、もしやモモコやユエ達の転生と関係ある、とか!?」
マコト姉さまがそんなことを言った。
確かに、魔人であるモモコちゃんやユエちゃん達がこの世界に転生したことと関係があるかも?なんてボクも(そして恐らくはアスカさんも)一瞬考えはしたけど…
そんなマコト姉さまのうっかり発言を叱るように、モトカ姉さまがマコト姉さまを睨み付けた。
「姉ちゃ~ん?本気でそんなこと思ってる~?」
「え?あ…!いや、別にモモコ達が悪いって言ってるんじゃないよ!?
ただ、その、可能性の話として…、」
「うん、分かってる…」
勿論、マコト姉さまに悪気が無いのは分かっている。
なので、モモコちゃんもそのことに対して目くじらを立てるようなことはしなかった。
「可能性の話として、ボク達魔人が…、この世界に、転生してきたことと…、魔獣の出現の、因果関係は…、否定出来ない」
「で、でも…、」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ、ミライちゃん。
原因がハッキリしない以上、これ以上の議論は、現時点で意味がないだろう。
とりあえず、今後魔獣が出現した場合、我々第3小隊が動くこともある、ということを念頭に置いておいて欲しい」
「「「「「了解!」」」」」
こうして、その日は解散となった。
*
翌日の土曜日の午後、再び魔獣が出現した。
今度はオオイタに魔獣“パラサウロ”、サガに魔獣“バラギラス”が同時に出現したらしい。
パラサウロというのは、頭がとさか状に尖っていて、口は嘴のような形状をした二足歩行の魔獣で、バラギラスは、背中に無数のトゲの生えた甲羅を持ち、鼻の頭からも2メートルはあろうかという長い角の生えた四足歩行の魔獣だ。
パラサウロはオオイタを拠点としている第7小隊が、バラギラスはサガを拠点としている第4小隊が撃破した。
昨日のシーザーといい、今回の二体の魔獣といい、それほど強力な魔獣ではないとはいえ、あっさりと倒せてしまっているこの世界の軍は何気にスゴいと思う。
しかし、ここまで連続して、しかも別の場所に魔獣が出現するというのは、“ワールドフラワレス”で前世を過ごしたボクにとってもあまり経験の無いことだ。
そこに、何者かの意思を感じざるを得なかった。
今日は、マイカ姉さまとナナカ姉さまが“ワールドアクア”で兄さまに呼ばれて不在だった代わりに、ユエちゃんとユナちゃんとヒナちゃんが会議に加わっていた。
「確率的に考えて、マナの大量発生による出現というのはあり得ないですね」
単刀直入にユエちゃんがそう言った。
魔人でもあり、サイボーグとしての超計算能力を持ったユエちゃんがそう言うのなら間違いは無いのだろう。
「我の仮説として、マナというのは、死んだ魔獣の体内の残存魔力が、死骸の分解と共に空気中に溶け込んだものと考えています。
そして、それらが風などの影響で流され、ある一定の箇所にとどまった結果がマナの大量発生現象であり、それが故にある程度決まった場所で決まった魔獣が出現するのではないかと考えます」
「なるほど…!ユエの考え方、一理ある…!」
「恐縮です、とはいえ、あくまでも仮説なので正確なところは分かりませんが」
「その仮説、時間のある時に…、ぜひ、検証したい…!」
モモコちゃんは前世において魔術の研究なんかをやっていたようだから、こういう話には興味があるのだろう。
そういう意味でもユエちゃんとは気が合うかもしれない。
「んー、オイラにはなんだかよく分かんないけど、ともかく今この世界に発生している魔獣は、マナによるものじゃない、ってことでオッケー?」
「ええ、ヒナの言う通りです」
「となると、考えられる可能性は一つしかない、ってことだよね?」
ユナちゃんが言う通り、ボク達は全員一つの答えを導き出していた。
「この世界に悪い魔人がやって来て、魔獣達を召喚して暴れさせている…!」
その目的が何なのかまでは、この時点では分からなかったけど、“ワールドアクア”でマイカ姉さまとナナカ姉さまが、兄さま達から聞いた情報で、はっきりとした。
「魔人達の狙いは…、ボク達“シスターズアルカディア”、ってこと…!?」
こうして、ボク達と“魔王”を巡る戦いの幕が上がろうとしていた………




