第2話「アハトン」
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ヨウ君のお母様から受け取った“異世界転移魔法陣”を、“ワールドシルヴァネア”のクルセイド研究所へ設置するために、私ことマイカと、メイコちゃん、そしてナナカちゃんの三人は一度クルセイド研究所へと帰って来た。
私達が出てきたのは、クルセイド研究所一階の玄関広間だった。
恐らく“異世界転移魔法陣”の出口がここに設定されているのだろう。
ならば、この広間に魔法陣を設置して入口と出口を一緒にすれば分かりやすいかなということで、部屋の隅に魔法陣を設置した。
ついでに、クルセイド第2研究所やムツミちゃんの家に転移するための“転移魔法陣”も地下室からこちらへ移動させることにした。
元々セキュリティ面を考えて地下に設置していたのだが、そもそもセキュリティに関してはショウちゃんの襲撃以来、並の人間では突破出来ないくらいには強化されていて、“転移魔法陣”を地下に置いておく意味はあまり無かったわけだから、この際に“異世界転移魔法陣”とまとめて置いておいた方がいいだろうという判断だ。
「うん、こんなとこかな」
「あ、そういえばこの“転移魔法陣”の改良はどうするんだろ?」
「あ!そういえば!」
メイコちゃんに言われて、“転移魔法陣”の改良をお母様に頼んだのを忘れていた。
今のままでは、魔法陣を起動させるのに魔力を注ぎ込む必要があり、そのためにモモコちゃんかユエちゃんといった魔人の子の協力が必要だったんだけど、お母様から頂いた“異世界転移魔法陣”は、私達家族が魔法陣に乗ると、自動でカナンちゃんから魔力が転送されてきて起動するというシステムになっている。
そのシステムをこの“転移魔法陣”にも組み込みたいのだが、今この場にいるのは魔術に詳しくない者達ばかりで、魔法陣の改良が出来ない。
さて、どうしたものかと考えていたところへ、私達のいた広間にもう一人現れた。
「良かった、皆いたわね」
「あ、お母様っ!!」
現れたのは、なんとヨウ君のお母様だった。
「かあ様、どうしてここに?」
「それは、マイカちゃんの言ってた“転移魔法陣”の改良をしておこうと思ってね」
「あら、なんというタイミング!
ちょうど私達もその話をしていたんですよ」
「そうだったのね。
じゃあ、早速だけど、その“転移魔法陣”というのは何処に?」
「これだよ!」
「よろしくお願いします」
メイコちゃんとナナカちゃんがそれぞれ第2研究所行きの魔法陣とムツミさんの家行きの魔法陣を持ってきた。
「ふむ、なかなか良くできた魔法陣ね。
それじゃあ、これに家族が乗ると同時に起動するための術式と、カナンちゃんからの魔力供給の術式、そして家族以外には反応しないようにするための術式を組み込んで……、」
お母様が魔法陣をさらさらと書き換えていく。
私には見ていても何が変わったのかサッパリ分からなかったが、見る人が見れば非常に複雑で、真似の出来ない非常に高度な術式が組み込まれているらしい。
「はい、出来たわ」
「えっ、早っ!?」
「じゃあ、試運転も兼ねて、まずは第2研究所へ行きましょうか?
第2研究所にある魔法陣も書き換えなきゃいけないし。
それと、もう一人の息子、ムツキ君にも会いたいしね」
「あ、はい、分かりました!」
「では第2研究所へ参りましょう」
そうして私達はクルセイド第2研究所へと“転移魔法陣”で向かった。
*
クルセイド第2研究所の地上居住部の一室へと出た私達は、そこから地下へと移動し、“転移魔法陣”の改良を行った。
それから、別室にいるムツキ君達に会いに行った。
今、この第2研究所に残っているのは、ムツキ君とムツキ君ハーレムの五人の女の子達、そして気を失ったまま眠り続けているアハトンちゃんの七人だ。
アスカちゃんは、学校へ向かったらしく、すでにいなかった(国防に関する裏表の仕事から学業まで普通にこなすアスカちゃんって何気に物凄い超人なのでは?)。
私達が部屋へ入ると、アハトンちゃんの眠るベッド側で待機していたムツキ君が立ち上がり、挨拶してくれた。
「あ、姉さん達、お帰りなさい!
それと、そちらのお姉さんは?」
「あら、お姉さんだなんて、嬉しいこと言ってくれるわね♪」
「ムツキ君、この方はヨウ君とカズヒちゃんのお母様でハルエ・フジワラさん、
つまりは私達の新しいお母様、ということよ」
「お、お母さんっ!?」
「ふふ、そういうこと、よろしくね、ムツキ君♪」
そう言ってお母様はムツキ君を抱き締めた。
「それで、そちらの女の子達がムツキ君のお嫁さん達?」
お母様に視線を向けられた女の子達が、少し緊張した面持ちで順番に名乗っていった。
「初めまして、お義母様!
私はムツミ・ルッキーナと申します!」
「あ、アタイはエリカ・ハントって言います!
よろしくお願いしますっ!」
「私はー、ルリナ・ホルンですー」
「わたしはミナ・ヴィルム、これからよろしくお願い申し上げる、母君殿」
「あ、えっと、私なミホ・モトサカって言います!
今後ともよろしくお願い致します!!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。
ふふ、それにしても、年上のお姉さん五人のハーレムとは、なかなかやるじゃない、ムツキ君、いや、六人、と言うべき、かな?」
そこでお母様は、未だ眠ったままのアハトンちゃんへと視線を移した。
「…出来れば彼女にも挨拶をしておきたかったけど、それはまたの機会にしましょう。
さて、じゃあ、最後にムツミちゃんの家の“転移魔法陣”を改良しなくちゃいけないから、ムツミちゃん、悪いけど少しだけ付いてきてもらえるかしら?」
「あ、はい、分かりました!」
「じゃあ、マイカちゃん、後は任せるわね。
それからムツキ君、皆のこと、必ず幸せにしてあげるのよ?」
「分かりました、お母様」
「はい!お母さん!」
「いい返事です。では」
そう言ってお母様は、ムツミちゃんと一緒に“転移魔法陣”でムツミちゃんの家へと向かっていった。
ちなみに、“転移魔法陣”や“異世界転移魔法陣”を起動出来る“家族”には、ムツキ君ハーレムのメンバーも含まれているようだ。
それから、しばらくの間、ムツキ君達と今朝のこと(フォルスちゃん達に新しい名前が付いたことなど)を話していると、ムツミちゃんが帰って来た。
「ただいま」
「あ、お帰りなさいムツミさん、早かったですね?
お母さんは?」
「お義母様は、魔法陣を改良すると、“ワールドアクア”へ帰って行きました、これから仕事だそうで。
あ、それと、ムツキ君だけでなく、私達の分の養育費なんかも払うとお義母様がおっしゃってくれてたんですけど…」
あ、やっぱりそういう話が出たんだ!
「ええっ!?アタイらの分まで!?」
「いやー、ムツキ君やアハトンちゃんのなら分かるけどー、
私らは現状赤の他人でしょー?」
「将来的には弟君の妻になるとはいえ、現時点でそこまでしてもらうわけにはいかないだろう?」
「そうだよねー?
それに私達にも第3小隊としてお給金が支給されるから、そこまでお金に困ることはないだろうし…」
「ええ、私もそう言って断ったんだけど、息子の将来のお嫁さんなら娘も同じだからって…」
「というか、わたし達27人分に加えてムツキ君達のお金まで出すって、
お父さんとお母さん、どんなお仕事してるんだろ…?」
メイコちゃんの言う通り、謎が深まるばかりだわ…
「ま、まぁ、お母様がそう言うのなら、お言葉に甘えてはどうかしら?」
「まぁ、お金はあって困るものではないし、
使わない分は貯めておけば、いざお義母様達が困った時に返せるしね」
「そうだね。
出来れば僕もアルバイトとかしてお金稼ぎたいし」
「ん?ムツキはアルバイトとかしたいのか?
でも、お金は小隊からの給料で十分じゃねぇか?」
「えっと、給料は皆との生活費に充てたくて。
アルバイトは、個人的なお小遣いというか…、」
「なんだ、お小遣いならわたしがいくらでもやるぞ?
わたしのお金は全て弟君のものだからな」
「い、いえ、それだとダメなんです!
僕自身で稼いだお金じゃないと、その…、皆さんへのプレゼントとか買いたいので…」
「あー、なるほどねー。
確かにそれはー、私達が関与すべきではないねー」
「ふふ♪そっか、そっか♪
ムツキ君も色々考えてくれてるんだね、ありがと♪」
「いやー、見せつけてくれますねー」
「そうねー♪」
「ムツキ君も立派に男の子ですね」
ムツキ君達の仲睦まじい様子を、微笑ましく見つめる私達。
と、その時、ベッドに寝ていたアハトンちゃんに動きがあった。
「……んんっ…、こ、ここ…、は……?」
「あ、アハトン姉さん!目が覚めたの!?」
「あ…、む、ムツキ!?
そうだ、お、俺はお前に…っ!」
「うん、でももう大丈夫だよ、姉さん!
右腕は今修理中だけど、この通り、身体の方はぴんぴんしてるから!」
「あ…、ムツキ…、ごめんな…
俺のせいで…、俺は…、ムツキを……、あの時も、俺のせいでムツキを…、」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん、僕はお姉ちゃん(・・・・・)のこと恨んでなんか無いから。
僕は、今でもお姉ちゃんのこと、大好きだよ」
「…っ!む、ムツキぃいいいいいっ!!」
泣きながらムツキ君に抱き付くアハトンちゃん。
しばらくそっとしておいてあげた方がいいわね。
そして、そのまま数分経過し、それなりに落ち着いたのか、アハトンちゃんがムツキ君から離れ、口を開いた。
「…それで、これから俺はどうなるんだ?
“新人類教”のメンバーとして、逮捕されるのか?」
「多分、そんなことにはならないと思うよ?」
アハトンちゃんの質問に即答するムツキ君。
「は?いや、だって俺はテロ組織の元メンバーだぞ?
全くのお咎め無しとはいかねぇだろ?」
「ムツキ君の言ったことは本当よ?
アハトンちゃん、あなたは無罪放免…、とまではいかないけど、私達と一緒に暮らしていくことになるわ」
「ま、ある意味では監視みたいなもんではあるけど、窮屈な思いはさせねぇさ」
「何たって、アハトンちゃんは私達の新しい家族、ムツキ君ハーレムの新メンバーだからね!」
「あ、は、はぁっ!?お、俺がムツキのハーレムメンバー!?
な、なんだってそんな話に!?」
「いや、だってアハトン君は弟君のことが好きだろう?」
「え、い、いや、そ、それ、は…っ!」
「ほらほらー、素直になりたまえよー」
「お姉ちゃん…?」
ムツキ君の上目遣いに、アハトンちゃんの心臓が撃ち抜かれる音が聞こえた。
「…あ、ああ、認めるよ…、俺は、ムツキのことが、弟のことが好きだ!
でも、俺は男で…、」
「おいおい、今更何言ってんだ?」
「君のその胸に付いている無駄にデカい脂肪の塊は何かね?」
ミナちゃんに言われて、自らの胸に手を触れるアハトンちゃん。
「胸って……、ああっ!?なんだこりゃ!?お、俺の胸におっぱいが!?」
余程混乱してるのか、シルヴァ語がおかしくなってるアハトンちゃん。
続けて自らの股間に手を当てるアハトンちゃん。
「な、無い…っ!?それにこの感触…!
ま、まさか、俺、女になってるのか!?!?」
ようやく自身の身体に変化が起きていることに気付いたアハトンちゃんに、私達は起こった事実を話して聞かせた。
*
「う、嘘だろ…、本当に、俺は女の子に…?
それに、ムツキは、本当に俺の弟の、ムツキの転生者…?」
「それに関しては、完全な記憶が戻ったわけじゃないので、まだはっきりとは…」
「でも、僕は姉さんの記憶を見ました。
姉さんの記憶と同時に、ムツキ君の想いも…
だから、僕が姉さんを好きだというこの想いは、僕だけのものじゃない、前世のムツキだった時からずっと想い続けてきたものだって、思えるんです」
「そ、そんな、はっきり好きだなんて……
だけど、俺はそんなムツキを裏切ったんだ…
裏切って死なせてしまった…
それでも、俺のことをまだ好きだと言えるのか?」
「はい」
真っ直ぐな瞳でアハトンちゃんを見つめるムツキ君。
その瞳に、顔を真っ赤にしたアハトンちゃんは、横になって布団を被り、その顔を隠してしまった。
「す、少し、俺に時間をくれないか…?
色々と、整理したい……」
「はい、分かりました。
じゃあ、僕達は隣の部屋で待ってますので」
私達は、アハトンちゃんを残して退室した。
「じゃあ、アハトンちゃんのこと、後はムツキ君達に任せても大丈夫?」
「ええ、任せて下さい」
「うん、頑張ってね!」
「はい!」
アハトンちゃんのことに関して、もう私達で何か出来ることはないだろう。
そう判断した私達は、その場にムツキ君達を残してクルセイド研究所へと戻り、そこから“ワールドフラワレス”のイツキちゃんの屋敷へと戻るのでした。




