第3話「Sister's War After Side②」
*
「きゃあああっ!?」
フィフスが投げた巨大な岩を後ろにジャンプして避けるナインス。
だがその直後に、フィフスはその巨大な岩を殴って破壊した。
砕かれた岩の破片と共に、突っ込んでくるフィフス。
「くっ…、この怪力お姉ちゃんめっ!“加速装置”っ!!」
ナインスは“加速装置”を起動し、飛んでくる岩の破片を避けつつ、フィフスの最後に回り込み、フィフスを背中から羽交い締めにした。
「フィフス姉ちゃん、ごめんねっ!」
ナインスは、加速状態のまま、フィフスにバックドロップをしかけた。
通常では、非力なナインスが怪力に特化したフィフスを掴んで投げるという芸当は出来ないが、加速状態ならば、加速による運動エネルギーが乗るため、ナインスであってもフィフスを掴み、投げることは可能だ。
おまけに、裸同然のボンテージ服を着たフィフスの皮膚を摩擦熱が焼き、火傷をも負わせる。
『ぐっ、ぐううううっ…!?』
地面にうつ伏せに倒れたフィフスに、ナインスは馬乗りとなり、右太ももに収納していたハンドガンを取り出し、出力を“電撃”に合わせ、フィフスに向けて放った。
「…お休みなさい、フィフス姉ちゃん」
『ぐっ、がぁあああああああああっ!?!?!?』
全身に電流が流れ、脳に埋め込まれていたAIチップが破壊され、フィフスは機能を停止した。
「フィフス姉ちゃん…」
ナインスは、機能を停止したフィフスを仰向けにし、膝枕をするように抱き抱えた。
そこへハルカとゼブンがやって来た。
「ナインスも無事終わったみたいね」
「…うん」
「ナインス、落ち込んでも仕方がないわ。
彼女達は意思のない人形として悪い奴等に操られていたの。
だから、こうして眠らせてあげることが彼女達にとって、」
「…フィフス姉ちゃんのおっぱい、大きくてとても柔らかい♪」
「……ナインス」
「ねぇ、フィフス姉ちゃん達もゼブン姉ちゃんみたいに蘇らせてあげること出来るかな?」
「それは、アタシには分からないわね。
そもそも、ゼブン姉ぇが蘇生したのだって、奇跡に近い確率だったみたいだし…」
ゼブンもフィフス達と同じように魂の無い、AIチップによって動くアンドロイド型サイボーグだった。
そしてマコトとモトカによってAIチップが破壊され、そのまま眠りにつくハズだったのだが、ひょんな偶然から全身に超過電流が流れ、一時的に自己修復機能が作動し、その結果破壊された脳が修復され、その修復された脳によって自己修復機能が作動して、AIチップも修復され、奇跡的に復活した、という経緯がある。
「彼女達も、私が蘇生した時のように超過電流を流せば蘇生する可能性はありますが、
電力が足りなくても自己修復機能は作動しませんし、電力が多すぎれば自己修復機能そのものを破壊しかねません」
「ゼブン姉ぇの時は、マコトが機械の操作を間違った結果、本当に偶然自己修復機能を起動することが出来たのね…」
「他には、もっと確実な方法って無いのかな?」
「彼女達を蘇生、というより再起動させるだけならば、脳のAIチップを交換するだけで良いと思います」
「だけど、人の生死をそんな簡単にアタシ達で判断してもいいのかな?」
「そ、それは…」
「…フィフス姉ぇ達のことは、皆でしっかりと話し合おう。
それで、どうするかを決めるべきだと思う。
アタシ達“家族”が納得出来る形で、ね」
「うん、分かったよ。
それまでにわたしも、どうするのが一番なのか、しっかりと考えておくね」
「ええ、それがいいわ」
ハルカ達は、フィフス達をその場で寝かせると、残るフォルスとヨウイチの帰りを待つのだった。
*
ヨウイチがシロック長官の屋敷に入ると、そこには突入した兵士達の死体がいくつも横たわっていた。
彼らの死因は様々のようで、ある者は切り裂かれていたり、ある者は銃弾で蜂の巣にされたりしていた。
「くっ…!」
ヨウイチは彼らに心の中でお悔やみを言うと、死体の続く先へと進んでいった。
「…行き止まり?」
だが、ヨウイチが行き着いたのは廊下の突き当たりだった。
ヨウイチは何処かに隠し通路でもあるのかと左右の壁や天井、床を観察した。
すると、死体から流れ出た血が、床の一部で不自然に途切れているのに気付いた。
「この下か!
雷の精よ、集え!『サンダーアロー』!!」
ヨウイチは雷の矢を床に放つと、床に巨大な穴が空き、その先に地下へと続く隠し階段が現れた。
ヨウイチは隠し階段を駆け降りていくと、次第に潮の香りがしてきた。
「まさか、この先は海に繋がってるのか!?」
果たして、ヨウイチの予想通り、隠し階段の先は海中へと繋がっており、巨大な空洞となった場所に、シロック長官はいざという時の脱出用の潜水艇を用意していたのだ。
ヨウイチがシロック長官を見つけた時には、すでに長官は潜水艇に乗り込もうとしており、その殿をボンテージ姿のフォルスが守っているところだった。
「待て、シロック!それにフォルス!!」
「ちぃっ、イェーガの兵士め、もうここまで辿り着いたか…、
だがもう遅い、フォルス、奴を殺せ!!」
『了解』
フォルスはシロック長官の命令を受けて、無表情のまま両手をヨウイチに向けると、その10本の指から小型ミサイルを発射した。
「ちぃっ、フォルス!
俺達は“家族”だ!
そんな理不尽な命令から、俺が助けてやる!
雷の精よ、集え!『スピリット』!」
ヨウイチは“雷化”して、フォルスの“指ミサイル”を全て避けると、フォルスの背後に回り込み、羽交い締めにした。
「フォルス、すぐに楽にしてやるからな」
ヨウイチは、自らの意思を持たないハズのフォルスの胸を掴み、フォルスの体内に電流を流そうとしたが、
「アタイの胸に勝手に触れてくれるなよ、サウ、いや、今の名はヨウイチ、と言ったか」
「な…、に…っ!?」
一瞬、フォルスが邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、直後、全身に禍々しい魔力が宿り、フォルスの胸を掴んでいたヨウイチの手が凍り付き始めた。
「うわぁあああああっ!?」
ヨウイチはフォルスから咄嗟に離れ、凍り付いた手を電撃で溶かした。
「よくやったぞフォルス!
こちらの発進準備は整った!さぁ、お前も早く潜水艇に乗り込め!」
『了解』
再び無表情に戻ったフォルスは、潜水艇の入口へと向かった。
ヨウイチは、潜水艇へと入っていくフォルスに向かって声をかけた。
「フォルス!!お前にも前世の魂があるのか!?
それにさっきの魔力は、まさか…、まさかお前は…!?」
潜水艇から顔だけを出したフォルスは、ヨウイチの方に視線を向けると、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、聞こえない声で何か言葉を呟いて潜水艇へと入っていった。
その後、潜水艇は海中へと潜っていき、その姿を消した。
「フォルス…!」
『殺したい程に愛してるよ、ヨウイチ』
ヨウイチは、そう呟いたフォルスの正体に、心当たりがあった…
*
「…という経緯で、残念ながらフォルスとシロックには逃げられてしまった、というわけだ」
兄さまの話はそこで終わった。
フォルスちゃんのことは残念だけど、シロックを追っていればいつかは再会出来るだろう。
彼女も同じ“家族”として、きっと助けてあげる。
「それで、兄さまはツヴァイス兄さま達をどうするつもりなの?」
「それを皆で話し合おうと思ってな。
俺個人の意見としては、何らかの形で、彼らは蘇らせてあげたいと思ってる。
ナナカ姉ちゃんのように、俺達の新しい“家族”となってくれるなら嬉しいとは思ってる」
「ですがお兄様、ナナカお姉様の時は、本来であればあのまま荼毘に付すつもりでした。
お姉様が蘇生されたのは本当に偶然の結果です」
「じゃあイツキちゃんは三人はこのまま弔うべきだって考えなの?」
「…勿論、生き返って欲しいというのがわたくしの本音です。
しかし、わたくし達の我儘で、これ以上彼らを振り回してしまっていいものなのかと…」
「難しい問題よね…
ちなみに、仮に蘇生させるとして、どういう風になるのかしら?
具体的には彼らの記憶とか」
「それは、ナナカ姉ちゃんのように電撃を与えてAIチップを自己修復させるか、AIチップごと入れ替えるか、
あるいは別の方法で新しい魂を与えて、生体アンドロイドではなくサイボーグとして蘇生させるか。
いずれにしても、操られていた間の記憶はナナカ姉ちゃんのように無くなっていると思うけど…」
「待って下さい、兄さん!
別の方法で新しい魂を与える、ってそんな方法あるんですか!?」
「いや、少なくとも俺は知らない。
だけど、この世界以外にもパラレルワールドはたくさんある。
その世界の中には、俺達の知らない技術でそういうことが出来る世界もあるかもしれない。
俺達が魔王ヤミを倒し、“異世界転移魔術”を使えるようになれば、そういう世界を探す旅に出るのも一つの手だとは思う」
“異世界転移魔術”、それは魔法陣に莫大な魔力を注ぎ込むことで、パラレルワールドをも転移することを可能とする魔術なんだけど、今の兄さま達は、魔王ヤミを倒すまではその魔術を使用することが出来ないようになってるみたい。
「その技術がもしあったとすれば、ナナカ姉ちゃんにも魂を与えることが出来るかもしれないってこと!?」
「そればかりはなんとも言えないな。
恐らくは問題ないとは思うけど、魂の形によっては記憶や知識はそのままに、性格なんかは変わってしまうかもしれない」
「魂の形によっては?」
「それって~、ジョウゴ氏の“魂転生論”のこと~?」
「ああ、
『人の知識や記憶、人格は魂に宿り、肉体にはその知識と記憶だけが残る。
だから、自らの魂を別の身体に移すことで、
元の人間の知識と記憶と人格を持ったまま、新たな肉体の知識と記憶を共有し、
人類は無限に知識と記憶をアップデートさせ続けることが出来る』
実際に、俺は転生する度にこの魂に新たな肉体や知識を蓄え続けた結果、今の俺となったわけだ。
つまり何が言いたいかと言うと、人格は肉体ではなく魂に依存するものだから、ナナカ姉ちゃんの中に何かしらの魂が宿れば人格が変わるかもしれない、ということだな」
「結局、どうするのが一番いいんだろう…?」
「最終的には、私たちの我儘で決めてしまってもいいんじゃないかしら?」
「マイカ姉さま、それはどういう意味?」
「結局、この問題に正解なんてないと思うの。
彼らの思いを聞こうにも、それは不可能だし。
それなら、生きてる私達が、彼らにどうなって欲しいか、つまりは私達の我儘で決めてしまうのが一番なんじゃないかって」
「マイカちゃんの言う通りなのかも。
仮に、私達の選択が間違いだって神様に言われたとしても、そんなの関係ない、
家族の長女として、このサクヤ姉ちゃんが許します!」
「…そうだな、よし、それなら最終判断をしよう。
皆の素直な気持ちで答えて欲しい。
彼らをどんな形であれ蘇らせたいと思う人は手をあげて欲しい」
結果、満場一致で三人の蘇生は決まった。
しかし、その方法に関しては、もう少し時間をかけて一番良い方法を決めたいということで、とりあえず三人の身体は、もうしばらくの間コールドスリープさせておくことになった。




