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シスターズアルカディアSideB-Brand new Sisters-  作者: 藤本零二
第3章~Chimera Clone Sisters~
38/58

第7話「反撃」

*



「了解しました、ではナナカ姉上様達に撤退の指示を…、っと、今マイカ姉上様から脳波通信が……、え!?」


「マイカ姉や、から…?何て…?」



 ボクことモモコと、イシス、それからムツキを背負ったヒナと、アハトンを背負ったカリナと共に地下から戻ってきたところで、ユエとこれからのことを話していた時、ユエの脳波通信にマイカ姉やから連絡が入った。

 その内容とは、



「…モモコ姉上様、大変です!!

 い、今クルセイド研究所の方にヨウ様が、ヨウイチ兄上様達が帰って来たと!」


「…え!?」



 と驚いたのとほぼ同時、ボク達の脳波通信に、懐かしい声が聞こえてきた。



『ただいま、モモコ、ムツキ。

 それと久し振り、アリナ(ユエ)、カリナ、サリナ(ヒナ)、イシス。

 もっと話したいけど、ミライ達を助けてすぐに戻るから、クルセイド第2研究所の方で待っていてくれ!』


「うん、お帰り…、兄や!

 それと…、いってらっしゃい!」

 


 そう言ってボクは、他の六人と、製薬会社にいるムツキハーレムやナナカ姉やと共に製薬会社を脱出し、クルセイド第2研究所へ戻るのだった。




*


 俺はアスカさんから送られてきた、ミライ達の今いる場所データを元に“転移魔方陣”を作成し、それをカナン姉ちゃんの魔力を使って起動し、直接ジョウゴ、いや、奴は今キメラクローンNo.03、自らをサンと名乗ったゼロの転生体に吸収されたんだったか、そのサンのいる場所へと直接転移した。


 今、サン達のいる空間は、サンが吸収したジョウゴの超能力『超能力封じ(アンチサイキック)』によって、任意の人物の能力を封じられているらしく、そのせいでサイボーグ由来を除くあらゆる能力が使えなくなっているらしい。

 おまけに、外部からこの空間内に対する能力使用も出来なくなっていて、モモコの『転移』魔術でも直接彼女らの場所に行くことは出来ない。


 だが、アスカさんの作戦で、俺達がこの世界にいることは連中に知られておらず、俺達は能力の対象外になっている。

 そのため、カナン姉ちゃんの発動した『転移』魔術は普通に起動し、奴らの元に直接来ることが出来た。



 俺達がその場に着いて、まず目に入ったのは、胸と失った左目と両腕から大量の血を流すフォルスことイーディスと、意識を失っているレイヤを抱えたキメラクローンの少女(どうやら彼女が前世のイリスらしい)、そして気絶したミライとイザヨイ、メイコ、そして負傷したサキとゼロワンの姉妹達。


 そして、そんな彼女達を見下ろすサンと、ツヴァイスことカオルの転生体。



 ここまでの状況は把握していたが、実際に傷付いた妹達を見ると、怒りがこみ上げてくる。

 俺は、怒りを抑えながら冷静に告げた。



「俺達の姉妹を返してもらいに来たぜ?」


「やぁ、久し振りだな、ヨウイチ、そしてその姉妹達、“シスターズアルカディア”の諸君っ!!

 ヨウイチには借りがあるから、今すぐにでも相手をしてやりたいが、あいにくとお前達をもてなす準備はしていなかったのでね、ここは惜しいがすぐにでも退散させてもらうよ?」



 そう言いながら、今にも『テレポート』で逃走しようとするサン。

 対し、俺は「作戦通りに」と姉妹達にだけ聞こえる声で告げた。


 その声で、イツキとサクヤ姉ちゃんとリンがイーディスを抱えて逃げようとするカオルへ、そして俺とマコトはサンの方へと向かっていった。



 まずは、サンとイリスの“奴隷”契約を破棄させる。

 そうでなければ、イリスを助けたとしても、サンによる『“奴隷”召喚』ですぐにでも取り返されてしまう。

 だから、狙うはサンの右手の人差し指にハマる“主人輪マスターリング”!



「じゃあな、ヨウイチと“シスターズアルカディア”の諸君」



 サンが『テレポート』を発動しようとする。



「逃がすかぁっ!!」



 “加速装置”でサンへと近付いたマコトが、サンへ強烈なパンチを食らわせようとする。

 超能力を発動させるにはある程度の集中力が必要だ。

 特に『テレポート』等の、転移場所や転移するものを指定して発動させる能力の場合、わずかにでも時間が必要となる。

 そのわずかな時間をマコトは狙った。



「ふんっ!」


「うわっ!?」



 だが、マコトのパンチを受け止めたサンは、その勢いのままにマコトを背後へと投げ飛ばす。

 “加速装置”の勢いもあって、マコトは盛大に背後の壁へとめり込んでしまう。


 その様子を見ながら、余裕の笑みで再び『テレポート』を発動させようとするサン。



「じゃあ、今度こそサヨナラだ、諸君」


「させると思うてか?『世界ヲ(ホーリー・)変エル力(ファンタズム)』」

 


 だが、その直前に、詠唱を終えていたセイラの光の呪術、『世界ヲ(ホーリー・)変エル力(ファンタズム)』が発動し、俺達のいた地下室が別の空間(ただし、地下室の構造そのものは変わらず、見た目の変化はほとんどない空間)へと変わった。


 その結果、サンの『テレポート』が発動しなかった。



「何…っ!?」


「お主はもうここから“逃げられん”ぞ?」



 『世界ヲ(ホーリー・)変エル力(ファンタズム)』は文字通り、切り取った空間内の世界をセイラの思う通りに変えられるという、ある意味チートな術だ。

 しかし、この術を使うための呪力を集めるのにかなりの時間がかかる上に、非常に長い詠唱まで必要なのが欠点だが、予めここへ転移する前から詠唱しておくことでその問題を回避し、俺達に有利な状況を作り上げることに成功した。



「くそっ!ならば、イリス、オレの盾となれ!!」


「うぐっ…!?きゃあぁっ!?」



 『テレポート』出来ないと分かったサンは、イリスの首に付けられた“隷属輪リング”から伸びたチェーン状のリードを引いて、そのまま俺に向かってイリスを投げつけてきた。


 向かってくるイリスを俺は顔面で受け止めた。



「むぎゅっ!?」


「きゃっ!?」



 一糸纏わぬイリスの身体、具体的にはイリスの双丘おっぱいが俺の顔に押し当てられる。


 こんな状況だが、その柔らかさと程よい弾力のある感触、そして妹特有の香りが鼻腔いっぱいに広がり、ああ、やっぱり姉妹のおっぱいは最高だぜっ!!


 俺はイリスの胸に顔を押し付けたまま、両腕でイリスを抱き締めた。



「あんっ…♪ちょっ、ヨウ…!?

 この状況でなに、を…っ、ひゃぁん!?」


「ま、待て、イリス!このまま動かないでくれ!」


「動くなって言われても…、」



「『超電磁加速砲ハイパーレールガン』、ファイヤ~ッ!!」



 直後、俺達の真横を電磁加速を受けた超光速の弾丸が飛んで行き、サンの右掌を吹き飛ばした。



「ぎゃああああっ!?」



 サンの右掌が吹き飛んだことで、イリスの首に巻かれていた“隷属輪リング”が消失し、二人の間の“奴隷”契約が解除された。



「あ…、私の“隷属輪リング”が…!」


「だから動くなって言っただろ?」



 俺はイリスを抱き締めたまま、『超電磁加速砲ハイパーレールガン』を放ったばかりのモトカの隣へと着地した。



「それは分かった、けど…、んん…っ!

 いい加減、私の胸から顔、離してくれない?」


「おっと、すまん、あまりにも気持ち良すぎて…」


「兄ちゃ~ん、役得だね~♪」


「だ、か、ら!!いい加減離せっての!!」



 と、イリスが自身の頭を振りかぶって、イリスの胸の谷間に顔を押し付ける俺の頭へ、



 ゴチンッ!!



「へごちんッ!?痛っ!?イリス、お前、頭物理的に固すぎ…っ!!」


「うるさいっ!!」



 顔を真っ赤にしたイリスに頭を思いっきり頭突きされた俺はイリスから離れると、すでに気絶したミライ達を『物質転移』の超能力でクルセイド第2研究所へ移動させたカズヒと、カズヒの超能力使用中の護衛として待機していたハルカとツキヒ、カナン姉ちゃんの元へと連れていった。


 しかし、妹に本気で抵抗されたのは初めてなので少しショックだ……



「じゃあ、イリスのことも頼むな…、ぐすっ…」


「了解!って、何泣いてるのさアニぃ…」


「ねぇ、ヨウ君?こんな状況やのに妹のおっぱい堪能できてどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」


「い、いや、あれは不可抗力で、」


「イリスちゃん!!あたしにもおっぱい枕して!!」


「あっ、ちょ!?いきなり何なのこの子っ!?ひゃあぁああん!?」


「カズヒちゃん!今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!!」


「ったく、バカズヒは…っ!」




 やれやれ、全く緊張感の無いカズヒだ。

 カズヒのドタドタを尻目に、然り気無くツキヒ姉ちゃんからの追求の目から解放された俺は、再びサンへと向き直る。



「くそ…、俺の“奴隷ペット”をよくも…!

 こうなったら、せめてレイブンだけでも、」



 サンが自身の足下に視線を向けるが、そこには確かに先程まで倒れていたハズのレイヤがいなくなっていた。



「なっ…、い、いない!?」


「レイヤなら、すでにカズヒの『物質転移』で研究所の方へ送らせてもらったぞ?」



 俺達の攻防の間、イリスの手から離れて床に寝かされていたレイヤを、カズヒは『物質転移』でクルセイド第2研究所へと送っていた。

 カズヒの能力は、元々任意の物質を手元に移動させるか、手元から任意の場所に移動させることしか出来なかったが、キスによるパワーアップで、その制約が無くなり、自由自在に物質を移動させることが出来るようになっていた。

 ただし、意識のある人間や動物は移動出来ないのと、地面や壁などに固定されているものは移動出来ない、という制約だけは残っている。


 セイラの能力も大概チートだが、今回の作戦においてはカズヒがまさに大活躍していると言えるだろう。



 さて、残る姉妹は、イツキとサクヤ姉ちゃんとリンを相手に戦っているカオルに抱き抱えられたままのイーディスだけだが、



(…やっぱり駄目だ……)



 カズヒが俺達にだけ聞こえるくらいの小声で言う。



(どうしたカズヒ?イーディスを早く第2研究所の方に、)


(やってるんだけど、出来ないんだよ…)


(何だって!?)



 それはつまり、まだイーディスには意識がある、ということか…?


 こちらの思考を読んだか、あるいは地獄耳系の超能力でもあるのか、サンがチャンスとばかりに口を開く。



「オレに構っていていいのか、ヨウイチ?

 お前の大切な妹、まだ意識があるのだろう?早く助けに行ってやらなくていいのか?」



 チラと横目で見れば、カオルを相手にするイツキとサクヤ姉ちゃんとリンは、イーディスを盾にされてカオルを攻撃出来ないでいた。



「このっ!!いい加減にイーディスさんを離しなさい!!」


「だからさっきから言っているだろう、愛しの我が嫁よ。

 お前が素直に俺のモノ(ペット)になれば、コイツは返してやると!

 ついでに、そっちの実験素材モルモットも返してもらえるとありがたいんだがね?」


「誰がアンタなんかに…!!」


「その通りですわ!!」


「お前、さっきから言動がキモいのにゃ!」



 カオルはかつて“ワールドフラワレス”においてイツキの婚約者を勝手に名乗っていたり、“ビランテ化”したサクヤ姉ちゃんの細胞を利用して、合成獣キメラ実験を繰り返し、ハルカの身体を改造した糞野郎。

 その糞野郎が、俺とそっくりな顔(肉体年齢は18歳前後で俺よりは少し大人びてはいるが)になってより一層憎たらしい。

 出来れば今すぐにでも焼き尽くしたいが、優先すべきは姉妹の救助だ。

 サンも放置はしておけないが、ここはイツキ達の加勢に行った方がいいだろう。



「ここは任せた、モトカ、セイラ、そしてマコト!」


「おっけ~!」


「うむ、任せるのじゃ」


「了解だよ、兄さんっ!!」



 俺がカオルの方へ向かうのとほぼ同時に、マコトが壁を蹴って、サンの背後から襲いかかる。



「ふん、そんな攻撃、」


「“動くな”!!」


「ちぃっ!?」



 セイラの一言に動きを止められたサン。

 そのサンの背中に、マコトの飛び蹴りが炸裂する。



「がっ!?」



 マコトに蹴られたサンは、二階の突き出しから飛び出し、自由落下していく。

 そこを狙い撃つように、モトカが左手の“狙撃銃”から弾丸を放つ。



「『超電磁加速砲ハイパーレールガン』ファイヤ~ッ!!」


「おのれ…っ!!」



 空中で避けられないサンは、咄嗟に九本の尻尾を身体の前に出し、『超電磁加速砲ハイパーレールガン』を受ける盾としたことで、かろうじて直撃は避けたが、その代償として九本の内五本の尻尾が真ん中から消し飛ぶ。



「くそっ、自慢の尻尾が…っ!」



 悪態をつきながら床へと着地したサン。



「今じゃ、キョウカお姉ちゃまっ!!」


『コォオオオオオオオオオオンッ!!』


「なっ…!?いつの間にオレの後ろにっ!?」



 セイラの合図と同時に、サンの背後にいた『“九尾きゅうび”化』したキョウカが、炎と雷を纏わせた爪でサンの背中を切り裂く。



「ぐはぁあっ!?」



 背中を切り裂かれたサンは大量の血飛沫をあげながら、床を転がっていく。



「どうやら上手くいったようじゃの」


『スゴいぞ、セイラ!!

 自分ずっとあそこにいたのに、本当に気付かれなかったぞ!!』



 そう、実はキョウカはずっとその場で待機していたのだ。

 しかし、セイラの『世界ヲ(ホーリー・)変エル力(ファンタズム)』で、サンからは“キョウカの姿や存在が感じられなく”なっていたため、サンは『“九尾きゅうび”化』したキョウカに気付けなかったのだ。



 ボロボロになったサンの元へと近付くセイラ。



「さて、さすがのお主でも、わらわのこの空間では何も出来まい?

 大人しく降参するのであれば、姉妹のよしみとして、命だけは助けてやっても良いのじゃぞ?」


「…なるほど、確かに今のこの状況ではオレに勝ち目はないな、完敗だよ」



 素直に敗北を認めるサン。

 しかし、その表情からは未だ余裕が見られた。



「だが、危険を冒してでもお前達が来るのを待って良かったよ」


「…どういう意味じゃ?」


「お前達がこの世界に帰って来ていることは、お前達がここへ転移してくる直前に気付いたが、

 その瞬間に、お前達が転移する直前に逃げることも出来た、ということだよ。

 それでも、あえてこの場に残った理由はただ一つ、お前達姉妹の力を確かめることだ」


「なんじゃと?」


「全員の能力を把握することは出来なかったが、少なくとも一番厄介だと思われる【吸血姫きゅうけつき】、お前の力はよく分かったよ」


「そうか、それは何よりじゃ。

 それで、わらわの力を理解した以上、降参してくれるのじゃよな?」


「そうだな、今、この時点では、な」



 そう言うと、サンは両手を上げて降参のポーズをする。



「だけど、残念、時間だ」



 と、その時、サンの左手に変化が起きた。

 左手の人差し指が一瞬揺らいだかと思うと、そこには先程までは確かに無かったハズの指輪がはめられていたのだ。



「なっ!?“主人輪マスターリング”じゃと!?」


『いや、違うぞ!?

 その指輪は霊能力者と妖獣が“相棒パートナー”契約した際に付けられる“相棒輪パートナーリング”だぞ!?』


「ご名答さ。

 …というわけで、この空間の外でオレの愛しき“相棒パートナー”が待っているんでな、これで失礼させてもらうよ」


「あっ!?ま、待っ、」



 その瞬間、『“相棒パートナー”召喚』によって、空間の外で待つというサンの“相棒パートナー”に召喚される形で、サンはその空間から姿を消した。



「くっ…、しまったのじゃ!

 確かにサンにはこの空間から“逃げられない”よう縛りをかけておったが、

 この空間外からの召喚に対しては何も対策をしておらんかった…!」


『で、でも、さっきまで確かに指輪なんて見えなかったのに、なんで急に現れたの!?』


「見逃していた~、とか?」


「いや、それはないと思うよ?ボクにも見えなかったし…」



 セイラの傍に集まったキョウカとモトカとマコトが、サンの左手の人指し指に突然現れた“相棒輪パートナーリング”についての疑問を口にする。



「恐らく超能力か何かの一つではないかのぅ…?

 『不可視化』とか、そんな感じの能力を奴が使っておって、この場以外に、奴の仲間がおることを伏せておきたかったのじゃろう…

 してやられたわい…」



 恐らく、サン側の切札として、こことは別の場所にサンの“相棒パートナー”である妖獣がいたのだろう。

 不足の事態が起きた際に、いつでも『“相棒パートナー”召喚』で逃げられるように。

 連絡が取れなくなった時のために、特定の時間を決めておいて、その時間になっても、サンが戻って来なければ、『“相棒パートナー”召喚』を使うよう指示していたのだろう。


 まんまとサンには逃げられてしまったが、最大の目的である妹達の救出にはほぼ成功している。

 サンはこのまま野放しにはしておけないが、そのことは後々考えればいい。



 さて、後はカオルの問題とイーディスだけだ。




*


 サンの相手をマコト達に任せた俺は、イツキとサクヤ姉ちゃんとリンと対峙するカオルの元へと向かった。



「まずはイーディスを助ける!

 雷の精よ、集え!『スピリット』!」



 “雷化”の精霊術を唱えた俺は、常人の反応を超える速度でカオルへと近付き、イーディスを抱える左腕にパンチを食らわせようとしたが、



「おっと!」



 俺の攻撃に反応したカオルが左腕を上げて、イーディスを盾にしてきた。



「くそっ!?」



 イーディスにパンチが当たる直前で拳を引く俺。

 そこに付け入るように、身体を90度曲げてこちらへ振り向いたカオルが『“ギラド”化』させた右腕の爪で俺の心臓を貫こうとしてきた。



「『エレキシールド』!!」



 咄嗟に雷の盾を張り、カオルの爪を受け止める俺。

 なんとか攻撃は防げたが、直後に雷の精霊力が切れ『スピリット』が解除された。



「ちっ…、『“ギラド”化』を使いこなせるようになったみたいだな?」


「ああ、お陰様でな」



 『“ギラド”化』することで超感覚が使えるようになり、“雷化”した俺の速さにも反応出来た、というわけだ。



「しかし、本当にお前達姉兄弟妹(きょうだい)はお人好しだな?

 こいつ(イーディス)は、お前(ヨウイチ)の前世の敵で、転生してからもお前達を殺そうとしてたんだぞ?

 そんな奴を庇おうとするなんてな」


「確かに、これまでは色々とあったが、そんなのこれからの俺達には関係無い」



 『“ギラド”化』した右手から、電撃を放つカオル。

 その電撃を横に飛んで避ける俺。



「今のイーディスは、俺の大切な妹だ!だから助ける!!」



 その声が合図になったのかどうか分からないが、カオルの左腕に抱えられていたイーディスの右腕が動き、切断された右腕の断面部をカオルの左脇腹に当てた。



「スキあり、だぜ…、カオル…!」


「な、何っ!?イーディス、貴様まだ意識がっ、」


「『状態、変化』…、血液よ、沸騰しろ…っ!!」



 イーディスの霊能力『状態変化』により、カオルの体内の血液が沸騰して気体となり、その膨張によって血管が破裂し、全身から血飛沫をあげながら爆発するカオル。



「ガァアアアアアアアアッ!?!?」



 だが、それでも強靭な生命力と再生力を持ったギラドの細胞のおかげで、致命傷を免れたカオル。



「このクソ女がぁああああっ!!」



 キレたカオルが、俺の方へ向けてイーディスを放り投げてきた。

 俺はイーディスを優しく受け止めると、即座に全力でバックステップしてその場から離れた。



「イーディスさんを、離しましたわね?」



 俺がその場から離れた瞬間、カオルに絶対零度の殺意が浴びせられる。



「しっ、しまっ、」



「千の炎精よ、集え!!『インフェルノバースト』ッ!!」


「『風刃乱舞ふうじんらんぶ』だにゃっ!!」



 イツキの炎の精霊術と、リンの風の妖術が、カオルにとどめを刺す。



「うぎゃああああああああっ!?」



 カオルを中心に大爆発を起こした。

 これが元の製薬会社地下室であれば大惨事だっただろうが、幸いセイラの『世界ヲ(ホーリー・)変エル力(ファンタズム)』によって、別空間に作り替えられていたため、元の製薬会社地下室は無傷で済んだ(念のため、サクヤ姉ちゃんが水の精霊術『ウォーターシュート』で炎を沈下していたが)。



 カオルの生死も気になるが、今はそれよりイーディスの方だ。

 

 俺は血の気を失ったままのイーディスに声をかける。



「おい、イーディス!しっかりしろ!!」


「…へへ、最後に、なんとか一矢報いてやったぜ……」


「イーディス…!」


「そうだ、ヨウ…、お前には謝らないと、な……

 色々と、すまなかったな…

 アタイの記憶の混乱のせいで…、アンタや、姉妹達に、迷惑をかけちまった…」


「もう済んだことだ、気にするな」



 話しながら俺は光の精霊術『ホーリーヒール』をかけているが、穴の開いた胸と失われた両手と左目が治ることはなく、止血もサイボーグとしての自己修復機能によって行われているため、『ホーリーヒール』はほとんど無意味だというのは分かっている。

 だが、生命力が低下して今にも命の灯火が消えそうなイーディスに対して、何もせずにはいられなかった。



「あぁ、でも…、最期にアンタに会えて、良かったよ…」


「バカ野郎!最期なんて、」


「なぁ、ヨウ…、どうやら、アタイは、アンタのことが……、」



「好き、だったみたいだ……」



 そう言うと、イーディスが顔を近付けてきて、俺の唇にキスをした。



「イーディス…!」


「じゃあな、ヨウ、いや、ヨウイチ…、イシス達のこと、よろしく頼む、な……」



 そこでイーディスは気を失った。

 イーディスの心臓の鼓動が弱まっているのを感じる。

 このままでは、本当にイーディスは死んでしまう…!



「ちくしょう、こんな形で死なせてたまるかよ!!

 せっかく、兄妹きょうだいとして戦争の終わった世界で再会出来たんだ!!

 それを、こんな形で終わらせてたまるか!!」



 俺はどんな形であってもイーディスには生きていて欲しいと思った。

 だから、禁断の手を使うことにした。



 俺は意識を集中させ、ありったけの呪力を体内に吸収した。

 そうすることで、俺の“吸血鬼ヴァンパイア”としての魂と肉体をリンクさせ、人間だった肉体を“吸血鬼ヴァンパイア”の肉体へと一時的に変化させた。


 “吸血鬼ヴァンパイア”の肉体となったことで使える、“吸血鬼ヴァンパイア”としての固有能力、『“使途”化』。

 “吸血鬼ヴァンパイア”の()()()()()()()()ことで、相手を“吸血鬼ヴァンパイア”の眷属“使途”に変化させる能力だ。


 “使途”となった人間は、“吸血鬼ヴァンパイア”同様、強靭な生命力と再生力を得て、不老不死に近い存在となる。

 そして、人間としての能力を残したまま、“吸血鬼ヴァンパイア”と同じ炎の呪術も扱えるようになる(この場合の人間は、亜人や妖獣、魔人なども含む)。

 ただ、“使途”にもいくつかのバリエーションがあり、それは血を与えた“吸血鬼ヴァンパイア”の意思によって変わる。

 例えば、“吸血鬼ヴァンパイア”同様、自身の血を与えることで“使途”の“使途”を無限に増やし続けることの出来る“使途”や、血を与えた“吸血鬼ヴァンパイア”が何らかの影響で死を迎えた際に、その魂が転生するための器として存在する“使途”だったり、あるいは血を与えた“吸血鬼ヴァンパイア”とは完全に独立した存在として生きる“使途”だったりと、様々である。



 俺はイーディスにただ生きていて欲しい。

 そのために彼女を“使途”へと変えて、その強靭な生命力で死の淵から救いだす。

 そのためだけに彼女を“使途”とする。


 俺は、長く伸びた犬歯を彼女の首筋に突き立て、“吸血鬼ヴァンパイア”の血をイーディスの対内に流し込んだ。



「…んっ……!?あぁああああっ!?」



 “吸血鬼ヴァンパイア”の血が体内に入ったことで、イーディスの身体が作り替えられていく。

 と言っても、見た目の変化としては犬歯が伸びるくらいで、サイボーグとして改造された身体はそのままだし、穴の開いた胸と失われた両手と左目はそのままだ(切り傷程度の傷ならば自動で治るが、失われた肉体の完全再生は本人が意識しなければ出来ない)。



 しかし、強靭な生命力を得たイーディスの体力は見る間に回復していき、再び目を開いた。



「あ、あれ…?アタイ、死んだんじゃ…?」


「良かった、イーディス…っ!!」



 俺はイーディスを思いっきり抱き締めた。



「おわっ!?ちょ、急に抱き付くなよ!?痛っ…!?」


「あ、す、すまん、怪我はそのままだったな」


「痛てて…、っていうかアタイどうなったんだ?

 こんな、身体はボロボロなのに、なんでこんなに元気なんだ…?」


「俺がイーディスを“吸血鬼ヴァンパイア”の眷属“使途”に変えたからだ」


「ヴァっ、“吸血鬼ヴァンパイア”ぁあああ!?

 アタイ、吸血鬼になっちまったのか!?

 っていうかそもそもヨウは吸血鬼だったのか!?」


「あれ、カリナから聞いてないのか?

 お前、カリナのご主人様だったんだろ?」


「い、いや、カリナのことは、記憶を消して操ってただけで…、あいつの過去とか、その時のお前の前世のことまでは…」


「そっか、まぁいいや。

 ともかく、“吸血鬼ヴァンパイア”としての生命力を得た今のお前なら、胸と両腕と左目くらいはすぐに再生出来るハズだから」


「そ、そうなのか…?」


「ああ、意識を集中させて、周囲の呪力を感じ取り、傷付いた箇所に呪力を練り込む感じで」


「こ、こうか…?」



 すると、イーディスの穴の開いた胸と両腕が瞬く間に再生した。



「す、すげぇ、本当に再生した…!」


「元の身体の情報を元に再生させる能力だから、サイボーグとしての能力もそのままなんだけどな」


「そっか、いや、これはこれでいいよ、これが今のアタイの身体だからな」


「それより、左目は再生させないのか?」


「ああ、これか?これはこのままでいい。

 これは、アタイがレイヤの右目を奪っちまった罰として、そのままにしておくよ」


「レイヤはそんなこと気にしないと思うけどな?」


「ああ、だろうな。だけど、これだけは譲れねぇ、アタイの罪の証として、アタイなりのケジメだ」


「そっか、イーディスがそう言うなら」


「もうお話は済みましたか?」



 そこへイツキ達がやって来た。



「ああ、もう大丈夫だ」



 まず俺が立ち上がり、イーディスに手を貸して立ち上がらせた。

 そこへ、カズヒが超能力で取り寄せたと思われる服(“働いたら負け”と筆文字で書かれた白いTシャツだ)を着たイリスが駆け寄ってきた。

 ちなみに当のカズヒのあたまには大きなたんこぶが出来ていたが、本人はとても満足そうな表情をしていた。



「イーディス姉さんっ!!」


「イリス…っ!」



 イーディスの胸に飛び込むイリス。



「良かった…!イーディス姉さんが無事で本当に良かったよぉ…!!」


「ああ、すまないな、心配かけて。

 それと、また会えて嬉しいよ、イリス…」


「イーディス姉さ…、っ、うわぁああああああああん!!」



 イーディスの胸に顔を預けて泣きじゃくるイリスの頭を優しく撫でるイーディス。

 イーディスが変わってしまったのは、戦争と、戦争を起こした汚い大人達のせいで、本当のイーディスはとても姉妹想いの優しい女の子だったんだな…



 ひとまず二人のことはそっとしておこう。



「それで、カオルは?」


「骨も残らず燃やし尽くした…、と言いたいところですが、恐らくは逃げられたかと」


「何故そう思う?」


「これはあくまでわたくしの感覚の問題なので、断言は出来ませんが、手応えが無かった、と言いますか…」


「にゃ~、リンもそんな感じなのにゃ…

 こう、デザートを食べようとして直前に床に落としちゃった、みたいな、そんなモヤモヤした感じがあるのにゃ…」


「私も、消火した際に死体の燃えた後の匂いというか、そういうのが無かったから、嫌な感じが残ってるのよね…」



 リンとサクヤ姉ちゃんも同じ意見のようだ。

 しかし、ここはまだセイラの『世界ヲ(ホーリー・)変エル力(ファンタズム)』によって、ここから外部へは誰も“逃げられない”空間になっているハズだが…



「恐らくカオルとやらも、サンと同じような方法を使ったのじゃろう」



 そこへサンと戦っていたセイラ達も合流した。

 そしてセイラ達から、サンが『“使い魔”召喚』によって逃げられたことを告げられた。



「……と、わけじゃ」


「では、カオルも霊能力者だったと?」


「いや、魔力で妖獣を従わせる“隷獣”契約の場合でも、妖獣側から“主人マスター”を召喚出来るすべがあったハズだ」


いずれにせよ、二人に逃げられたのはわらわの失態じゃ、本当に申し訳ない」


「いや、セイラが悪い訳じゃない、二人に逃げられたのは俺の見通しの悪さによるものだ。

 それに、最優先事項であった姉妹達の救出には成功している。

 今はそれだけで十分だ」


「だけど兄さん、二人が外に待機させていた“相棒パートナー”、もしくは“隷獣”は……、」


「ボク達の~、クローン…、って可能性もあるのでは~?」



 マコトとモトカの表情が曇る。

 これ以上、自分達の姉妹達クローンが敵に利用されてしまうのが悔しくて悲しい、そういった思いでいるのだろう。

 俺も同じ思いだ。

 元は、(ヨウ博士)の天才的頭脳を再現しようとして始められたクローン計画だ。



 俺のせいで悲しむ姉妹達が生まれるというのは……、



「ま、今は考えても仕方がないでしょ!

 サンとカオルの二人はいずれぶっ倒す!ってことで、今はあたし達の再会と初めましてを祝おうよ!ね?」



 暗くなりかけたところへ、カズヒの明るく前向きな声が響いたことで、その場の空気が変わった。



「そうやね、アイツらの元におるかもしれん姉妹達のことも心配やけど、少なくとも利用されとるうちは殺されることはないやろうし、

 アイツらの性格からしても、そういうことは絶対せんやろうし」


「そうね。

 もし、本当にアタシ達の知らない姉妹クローン達がいるのなら、いずれ絶対に助け出す!」


「その通りよ!だから今はわたし達のいるべき場所へ帰りましょう」


「うんうん!自分も早く帰って、新しく出来たお姉ぇ達とお話したいぞ!!」



 カズヒの言葉を受けて、ツキヒとハルカ、カナン姉ちゃんとキョウカの言葉が続く。



「ええ、では帰りましょう、わたくし達の家族の待つ場所へ」



 こうして、大団円、とまではいかないものの、クローン姉妹を巡る事件はひとまずの結末を迎えるのだった。

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