幕間「from “SideA”」
*
「うわぁあああああああっ!?」
「ひぇええええええええっ!?」
突然周囲が真っ白な世界に包まれたかと思えば、その直後には重力に引っ張られるように落下していき、ボクことマコトと双子の妹のモトカは何処かの部屋の床に叩き付けられた。
「あ痛たた…」
「ん~…、ここは、どこ~?」
幸い叩き付けられたと言っても、実際の痛みはそれ程でもなく、ボクは状況確認のために周囲を見回した。
「あれ?まさか、ここって…、」
「クルセイド研究所~…、なの~?」
モトカの言う通り、ここはクルセイド研究所の一室、以前は会議などで使われていたが、兄さん達が転生してからは姉妹達の居間として使っていた部屋だ。
「なんで、ここに…?
ボク達はさっきまで魔王ヤミと戦っていたハズ、だよね?」
そう、ボク達は先程まで“ワールドダークネス”にある魔王城で、魔王ヤミとの最後の戦いに挑んでいた。
そして、兄さんが魔王ヤミにとどめのキックを放った直後、世界が真っ白に包まれて…、
「そうだ!兄さんは!?
それに他の皆は!?」
「少なくとも~、この部屋にはいないみたいだね~…」
「一体何がどうなって…、ってこれ!?」
立ち上がり、テーブルの上に視線を向けると、テーブルの腕に見覚えのある腕が置かれているのに気付いた。
「これ~、兄ちゃんの右腕の義手、だよね~?」
「う、うん、間違いない、と思う。
だけど何でこんな所に?兄さんは近くにいるの?」
「ん~…、とりあえず~、この世界に残ったマイカ姉ちゃん達に聞いてみようか~」
「そうか!確かにそれが早いかも!」
と、ちょうどそのタイミングで、部屋の中にマイクのような物を使った声が聞こえた。
『そこにいるのは何者ですか!?』
「その声は、マイカ姉さん!?」
『えっ!?あ、ま、まさかマコトちゃんとモトカちゃんなの!?』
やはり声の主はマイカ姉さんのようだ。
『嘘っ!?いつの間にこっちの世界に帰って来てたの!?
というか、どうやってクルセイド研究所に!?セキュリティは!?』
「とりあえず~、落ち着いて、マイカ姉ちゃ~ん」
『あ、そ、そうね、ごめんなさい、取り乱しちゃったわ』
「とりあえずこっちも色々聞きたいことがあるけど、その前にマイカ姉さん達は今何処にいるの?」
『えーっと、話せば色々と長くなるんだけど、私は今クルセイド第2研究所にいるの』
「だ、第2研究所!?」
『そう、だから、マコトちゃん達にもこっちに来てもらいたいんだけど…、ちょっと待ってね、地下の“転移魔法陣”は魔力の扱えるモモコちゃんかユエちゃんがいないと起動出来ないから二人を、』
と、そこへマイカ姉さんとは別の声がマイク(どうやら天井の監視カメラの横にスピーカーがあり、そこから声が出ているようだ)から聞こえてきた。
『いや、待ってくれ。
二人にはそこで待機しておいて欲しい』
「あ!その声はアスカさんですか?」
『ああ、そうだ、久し振りだね、マコトちゃんに、モトカちゃん』
『あの、アスカちゃん?待機ってどういうこと?』
『いやね、二人は作戦の切札として待機しておいてもらおうかと思ってね。
そういえば、ヨウイチ君や他の姉妹達はいないのかい?』
「いえ、この部屋にいるのはボク達だけで…」
「その感じだと~、そっちにも兄ちゃん達はいないんだね~?」
『ええ、こっちは勿論、そっちの建物内にも、あと建物周囲、具体的には半径50メートル圏内にもヨウ君達の反応はないわね』
「そんなことまで分かるんですか!?」
『その辺の説明も含めて、これからそちらのPC宛に、君達がこの世界を旅立ってから今日までに起きたことと、
今日これからミライちゃん達が行う作戦内容に関する情報を暗号メッセージにして送るから確認しておいて欲しい。
それから、君達が帰還したことはミライちゃん達には伏せておく。
出来るだけ君達の存在は隠しておきたいからね。
この会話も、連中に聞かれていることは無いだろうが、念のためこれ以上の会話は止めた方がいいだろう。
以降の連絡は脳波通信で行おうと思うが、これも特殊なチャンネルで行う。
その周波数も一緒に暗号メッセージに載せておくから、周波数を合わせたらまた連絡して欲しい』
「分かりました!」
「了解~」
それからボク達はPCのある部屋に行き、メッセージが届いているのを確認すると、一旦PCをオフラインにしてから(そんなことしなくても、この研究所のネットワークに侵入出来る者はいないと思うけど、念のため)暗号解読ソフトを起動して、そのメッセージを確認した。
そして、ボク達が旅立ってから今日までに何があったのかを大まかに知ることが出来た。
「新しい姉妹達の存在に“新人類教”、か…」
「結構厄介なことになってるみたいだね~」
それからさらにメッセージを読み進めていき、今日これから行われる作戦と、先程アスカさんの言っていた極秘に脳波通信を行うための特殊チャンネル用周波数を確認した。
ボクとモトカは、早速その特殊チャンネルを拾えるように脳波通信の周波数を合わせ、アスカさんと連絡を取り合おうとしたところで、研究所の外がにわかに騒がしくなったのが聞こえた(ミライのような“聴覚強化”とまではいかないが、ある程度遠くまでの音を聞き取れるだけの聴覚改造はされている)。
「今の…!」
「うん、間違いないよ!!」
『二人とも、聞こえてるかい?』
と、その時ちょうどアスカさんからの脳波通信が入った。
『はい、聞こえてます』
『良かった、この特殊チャンネルによる通信であれば傍聴される危険性はほぼ無いからね。
ところで、今夜の作戦について話す前に、君達も気付いているかな?』
『はい、研究所の外、ですよね?』
『ああ、やはり気付いていたね。
まずは彼女達を出迎えてあげるといい』
『分かりました!!』
アスカさんに言われるが否や、ボク達は急いで玄関まで行き、扉のロックを解除して、外にいた皆を出迎えた。
「皆っ!!」
「マコトさんにモトカさん!」
「良かった、二人とも無事だったのね!」
「皆こそ~、無事で良かったよ~」
外にいたのは、ボク達の大切な姉妹の皆、イツキとハルカとサクヤ姉さん、キョウカとリン、そしてカナン姉さんと、もう一人、“ワールドアイラン”で“喫茶妖獣メイド”を経営していた店長であり、六魔皇の一人でもあったダイダロさんだった。
「あれ~、そういえばセイラちゃんやツキヒちゃん、それに肝心の兄ちゃんとカズヒちゃんもいないみたいだけど~?」
「ということは、やっぱりこの世界にもアニぃ達はいない、ってことね?」
「うん、少なくともボクらや、マイカ姉さん達も兄さん達のことは知らないみたいだった」
「まぁ、予想はしておりましたけどね」
「とりあえず~、中に入ろっか~
そっちの話も聞きたいし~、それにこっちも今夜山場みたいだし~」
「にゃ~、なんだか嫌な事件の予感がするにゃ…」
「私も中に入って構わんかの?」
「あ、はい!」
ダイダロさんを含めて七人を研究所内に入れ、ボク達は居間の方へと向かうのだった。
*
まず最初に、他の姉妹達の話を聞いたのだが、どうやら皆ボク達同様、それぞれ元いた世界に転移させられていたらしい。
より具体的には、イツキとハルカとサクヤ姉さんは“ワールドフラワレス”のイツキの屋敷に三人揃って、カナン姉さんとキョウカとリンは三人揃ってカナン姉さんとリンが住んでいた屋敷に転移させられたようだ。
カナン姉さん達は、その屋敷でダイダロさんに出迎えられ、事情を知らされたという。
ダイダロさんが言うには、魔王ヤミが倒されたことで、ボク達にかけられていた【次元航行者】としての術が解けると、それぞれの世界へと送り返されるようになっていたらしい。
だから、恐らくセイラは“ワールドブラディ”に、ツキヒは“ワールドカシミウラ”に、そして兄さんとカズヒは“ワールドアクア”に転移しているハズ、とのこと。
そこで、カナン姉さんがその無限の魔力で『異世界転移魔術』用の魔法陣を起動し、他の姉妹達を集めて行くことになり、まず“ワールドフラワレス”に転移してイツキ達と合流した。
その後、“ワールドシルヴァネア”、つまりこの世界に来ようとしたのだが、カナン姉さんはこの世界に来たことが無いため、魔方陣に書き込むべき世界の座標が分からず転移出来ないとなったところへ、ダイダロさんが手伝いに入り、無事この世界へ来られた、ということのようだった。
「それでダイダロさんも一緒だったんですね?」
「ああ、それに、皆にも直接会って魔王様の件で礼をしておきたかったのでな」
「ところで、マイカお姉様やミライさん達はどちらに?」
「その件に関しては~、このアスカさんから届いたメッセージを~、確認してもらった方が早いかも~?」
モトカがプリントアウトした先程のメッセージを、皆に配っていった。
「…なんと、そのようなことになっていたのですか!?」
「しかも、姉妹奪還作戦決行が今日の深夜って、ものすごいタイミングじゃない!」
「それで、作戦の切札としてマコちゃん達を使いたいから、皆には内緒で事を進めてる、ってことね?」
「まぁ、そんな感じかな。
具体的にはこれからアスカさんから指示があるとは思うけど」
「それなら、自分達も協力したいぞ!」
「リンだって、ねーねー達のお手伝いしたいにゃ!」
「わたくしも同意見ですわ。
それに、そういう作戦行為であるなら、『影移動』が使えるセイラさんはかなりうってつけなのでは?」
確かに。
状況次第ではあるけど、セイラの能力はかなり有効そうだ。
「となると、一刻も早くセイラちゃん達とも合流する必要があるわね」
「よし、分かった!
じゃあ、わたしはこれからセイラちゃんとツキヒちゃんを迎えに行ってくるよ!」
「であれば、私がヨウイチ君達を迎えに行こう。
“ワールドアクア”に行けるのは現状私だけだからね」
そうして、カナン姉さんとダイダロさんが“異世界転移魔法陣”を使って、それぞれの世界へ兄さん達を迎えに行くために転移していった。
*
「あなた達の姉妹がピンチらしいのよ。
だから、今すぐ“ワールドシルヴァネア”へ行って、姉妹達を助けに行ってあげて」
「「ええっ!?」」
“ワールドアクア”の病院で目覚めた俺とカズヒは、病室に現れた父さんと母さん(その正体は六魔皇のアポロニアとアルテスだった)から、いきなりそんなことを言われた。
「姉妹達って、まさかマイカ姉ちゃん達のこと?」
「ええ、マコトちゃんとモトカちゃんのクローン姉妹達のことよ」
「マイカお姉ちゃん達がピンチって、一体“ワールドシルヴァネア”で何が?」
「ま、その辺の説明は“ワールドシルヴァネア”に着いてから、マコトちゃん達から直接聞いてくれ。
というわけで、ダイダロさん、二人の事頼むぜ?」
父さんがそう言うと、いつからいたのか、“ワールドアイラン”でお世話になった六魔皇が一人、ダイダロさんが二人の後ろに立っていた。
「だ、ダイダロさんまでいるの!?」
「ああ、カナン君はこの世界の座標を知らないから『転移』魔術でこの世界へ来られないからの、私が代わりに君達を迎えに来たのだよ」
「その口振りだと、少なくともカナン姉ちゃんは無事みたいですね」
「心配はいらぬよ、他の姉妹達も皆元気でおるよ。
セイラ君とツキヒ君は、ちょうど今カナン君が迎えに行っておるから分からんが、間違いなく無事じゃろう」
「ダイダロさんがそう言うなら間違いはないでしょうね」
「うむ、では早速で悪いが“ワールドシルヴァネア”へ向かうぞ?」
そう言うと、床に“異世界転移魔方陣”が描かれ、そこへ莫大な魔力が流れていくのが分かった。
通常、“異世界転移魔方陣”を起動するには数十人規模の魔術師の魔力が必要なのだが、それをたった一人で起動出来るダイダロさんは、改めてとんでもない魔術師なのだと思い知らされた。
「ひぇ~、相っ変わらずとんでもねぇ魔力だなー、ダイダロさん?」
「何、私にはこの程度しか能が無いからの。
ところで、お主らも来るのか?」
「いや、行きてぇのは山々だが、いきなり病室から二人がいなくなりゃ問題だろ?
だからその辺の対応を、な」
「ヨミ様からの加護はもうありませんから、『認識改編』の魔術は使えませんし」
「それもそうか、何、安心せい、お主らの子供達は強いからの、信じて待っておるがよい」
「おう!」
「じゃあ、再会して早々だけど、行ってらっしゃい、二人とも」
「ああ、行ってくるよ」
「父さん、後でカナンお姉ちゃんとリンちゃんにはちゃんと謝っておいてよ?」
「お、おう、勿論だぜ!
…俺、今度こそリンちゃんに殺されるかな……?」
「大丈夫よ、骨は集めて戸ノ上山に撒いておいてあげるから」
「か、母~さ~ん!!」
そんなこんなで、俺たちはダイダロさんと共に“ワールドシルヴァネア”へと転移するのだった。
*
“ワールドシルヴァネア”にて、俺達家族は感動の再会を果たした(と言っても、時間的にはほんの数時間ぶりなのだが)。
それから俺の無くなっていた右腕も無事見つかり、右腕の装着作業を進めながら(動作チェックなど含めて数時間程度はかかる)、アスカさんからの指示をマコト達の脳波通信を介して聞いていた。
しかし、まさか本当にクローンNo.11以降のクローン姉妹が作られていて、しかも、それらの身体に転生した魂が前世の俺の関係者達、というのを聞いた時はさすがに驚いた。
恐らく、俺の魂とその姉妹達の魂にかけられた魔王ヤミの『転生』魔術、その魔術の余波が俺と姉妹達だけでなく、俺と深く関わった周りの人物の魂、より正確には、俺に対して恋愛感情を抱いた少女達の魂にも影響した、のだろう(正直、俺が他の女子に好かれていたという実感は無いのだが、リンから聞いたツキヤやサキ、イザヨイの話を聞く限り、意外と前世の俺はモテていたのだろう、自分で言うのもなんだが)。
そして、それら転生した魂が、俺と深い繋がりのあるクローン、つまり前世における俺の妹達であるマコトとモトカのクローンの身体と共鳴(肉体と魂の波長が合うというのだろうか?)し、あるいは、そこにジョウゴの超能力的な介入があったのかもしれないが、結果として、俺のことが好きなクローン姉妹達が俺の知らないところで誕生していた。
そして今、その姉妹達が二つに分かれてしまっているという。
一つは、マイカ姉ちゃん達とクローンNo.11、レイブンことレイヤ(何と彼女こそツキヤ、もといツキヨの転生体だというから驚きだ)達サイド。
もう一つは、クローンサイボーグNo.4、フォルスことイーディス達と彼女に操られたイザヨイ達サイド。
そして、イーディスの背後にはまず間違いなく、俺がこの世界でヨウ博士と呼ばれていた時に、俺と研究成果で競い合い、俺に敗れて学会から消えた後、超能力者として覚醒して“新人類教”という超能力者集団を率いて、テロ事件を引き起こしたこともあるジョウゴがいるのは間違いない。
イーディスやイシスの真意は分からないが、少なくとも、イーディスに無理矢理従わされているイザヨイとカリナは助けなければならない。
そして、出来ればイーディス達とも、せっかく兄妹として転生したのだから、和解して仲良くしたい(元々、戦争という状況下で敵対していただけで、俺の方からすればイーディス達に恨みなどは全く無いのだ)。
そんな作戦の切札として、マコトとモトカ、そして俺達他の家族も参加することになったのだが、この件を知るのはアスカさんとマイカ姉ちゃんだけで、ミライやレイヤ達はそもそも俺達がこの世界に帰って来ていることを知らされていない。
正直、今すぐにでもマイカ姉ちゃんやミライ達、そしてレイヤ達に直接会いたい気持ちはあったが、敵を騙すにはまず味方からと言うように、俺達がこの世界に来ていることはミライ達には知られない方がいいのだろう。
というのも、敵側に複数の超能力を使えるジョウゴがいることを考えれば、敵本拠地へ襲撃するミライ達の思考を読むような能力を持っていたとしてもおかしくなく、そうなれば多勢に無勢と連中が考え、ミライ達の襲撃を待たずに雲隠れする恐れもある(現状俺達を除いたお互いの戦力は拮抗している、もしくは自分達のが勝っている、と連中が考えているから、ミライ達をあえて迎え撃つような行動を取っているのだろうから)。
そうなれば、イザヨイ達を助け出すことは難しくなる。
もどかしい思いもあるが、確実を期すためにも、策は二重にも三重にも張っておくのがベストなのだろう。
そうして、いよいよミライ達の襲撃作戦が開始された。
その様子は、随時アスカさんからの脳波通信を受けるマコトとモトカから聞き、俺達はいつでも動けるよう待機していた。
ちなみに、アスカさんは秘かにレイヤやミライの戦闘スーツの裏側に仕込ませた超小型発信器で直接現場の様子を確認しているらしい。
勿論、俺達が動かずに事が済むことがベストなのだが…
そして、とうとうその時が来てしまった。
『ミライちゃん達がピンチだ、今すぐ助けに行ってあげて欲しい』
ああ、今すぐ行くさ。
待ってろよ、皆!!




