第6話「裏切り②」
*
“サン”と名乗った少女と、隣の二人の少女がホールの床へと降りてきて、オレ達の前に立った。
現在、カオルの持っていたリモコン、首輪のスイッチにより、全身に電流を流されたミライとイザヨイ、メイコ、そしてイーディスは気絶して床に倒れている。
だから、今動けるのは首輪の無いオレことレイヤとサキだけということになる。
一方、相手側にはカオルと新たに現れたサンを含む少女達三人と、ジョウゴの五人だ。
人数的にも戦力的にも圧倒的不利な状況に追い込まれてしまったオレ達。
…せめて、ここにいる姉妹達だけでも逃がすことが出来ればいいがと、オレは頭をフル回転させて考える。
「さて、ではあらためて自己紹介しておこうか。
オレの名はキメラクローンNo.3、“サン”だ。
女の身体になってはいるが、元の魂はゼロ、君達クローンシスターズを完成させた張本人だ」
そう言うとサンは、次に、オレから向かって左側の少女、頭から犬耳が生え、全身には濃緑色の鱗と、その鱗で覆われた巨大な尻尾が生えており、服は一切身につけておらず、胸の中心には何かの機械が埋め込まれていた少女の方を向いた。
「彼女はキメラクローンNo.01、ゼロワンだ。
顔を見ても分かる通り、彼女はそこにいるプロトゼロの遺伝子から作られた純粋クローンだ。
つまりは、オリジナルの純粋クローンということにもなるな。
ただ、少しばかり違うのはプロトゼロの“妖犬”としての遺伝子に加え、魔獣“ジラス”の核を組み込んだ合成獣という点だな。
そのジラスの核がそのまま自我、魂となって肉体に定着している。
胸の機械は後付けの冷却装置でね、ジラスの体内熱核暴走を抑えるために埋め込んでいる。
ここまでに何か質問はあるかい、レイブン?」
オレのこの身体は、元々ゼロのバックアップボディとして、脳に埋め込まれたチップに、ゼロの死ぬまでの全ての知識と記憶がDLされている。
何故、ゼロが女の身体であるレイブンをバックアップボディに選んだのかは、この身体が“バイオヴァリアブルメタル”無しに完成された完璧なクローン体だったからだ。
クローンを作成する際に使用される成長促進剤などの影響で、クローンの体には何かしらの欠陥があり、それらを“バイオヴァリアブルメタル”で補っている。
“バイオヴァリアブルメタル”を使わずに完全な生身の肉体として完成したのは、No.1のアインスことマイカ姉さんと、No.11のレイブンだけだった。
その内、マイカ姉さんには魂が宿った完全体クローンで、レイブンには魂が宿らなかったため、ゼロが自らの新しい器として利用しようと考えたのだ。
それはともかく、サンはそんなオレに対して、ゼロワンの身体のことを聞いてもいないのに詳しく説明してくれた。
「何故、そこまで丁寧に説明してくれたんだ?」
「何、オレ達はお前達のことをよく知っているが、
お前達はオレ達のことを知らないというのは少し不公平だと思っただけさ」
「随分と余裕だな」
「まぁね、この状況だからな。
それに、元オレの肉体に対して、色々と思うところもあるしな」
続いてサンは、左手に握っていたチェーン状のリードを引き、そのリードに繋がったオレから向かって右側の少女を引っ張った。
「ん…っ!」
一瞬苦しげな表情を見せたその少女もまた服を着ておらず、その身体には猫耳と猫の尻尾があり、背中からは美しい蝶のような羽が生えていた。
「そしてこっちはキメラクローンNo.02、ゼロツーだ。
彼女はサティスの純粋クローン、つまりは“妖猫”と魔人のハーフとなる。
その肉体に蝶型の魔獣“ガモス”の核を組み込んだ合成獣だ。
この身体には、フォルスとサティスの妹であるイリスの魂を転生させてみたのだが、ガモスの核による自我と競合してね、色々大変だったが、カオルの研究データより魔獣の核を抑え込む方法を発見し、今はこうして“イリス”としての自我及び前世の記憶をもって完成したわけだ」
「い、イリス…、だと…!?」
“イリス”の名を聞いて、意識を取り戻したのか、先程まで痺れて動けなかったイーディスが、よろよろと震えながらも膝立ちの状態になった。
「ほう、最大レベルの電流を流したからしばらく目覚めないかと思ったが、さすがはイーディス、
余程シロックの奴に可愛がられていたとみえる」
イーディスは魂が覚醒する前から、買い主であるシロックの被虐趣味によって、ことあるごとに身体に電流を流され続けていた。
そのため、電流に対してわずかながらに耐性が出来ていたのかもしれない。
「うるさいっ、黙れ!
今はそんなことより、イリスと言ったな!?
本当にそいつ、ゼロツーの中にはイリスの魂が入っているのか!?」
「ゼロツー、答えてあげろ」
サンがゼロツーの首輪から伸びるリードを引くと、ゼロツーは苦しげな表情を見せながら、ゆっくりと答えた。
「わ、分かりました、ご主人様…
はい、私の中には、イリスの魂が入ってます…
イーディス姉さん、こんな形で再会するとは思ってなかったけど…、久し振り、だね?」
「…本当に、イリス、なのか……?」
「うん…
イシス姉さんの腹違いの妹の、イリス・モリアーティ。
姉さん達を殺そうとして返り討ちにあって、イシス姉さんの“奴隷”として仕えることになって…、
最初は屈辱だったけど、でも、命を狙った私に対して、二人がとても優しくしてくれて…、
次第に、こんなのんびりとした生活もいいな、って思い始めて……、幸せ、だった…、のに……、」
そう語るゼロツー、イリスの瞳からは涙が溢れていた。
そんなイリスに対し、再びリードを引いて、それ以上語るのを防ぐサン。
「さ、もういいだろう。
彼女が転生したイリスだということは信じてくれたか?
まぁ、信じなくともこちらとしては問題ないがな」
「いや、信じるさ。
妹の言葉を信じられなきゃ、姉だって胸を張って言えないからな」
そう言いながら、イーディスはふらふらとしながらも立ち上がり、覚悟を決めた表情をした。
「何にせよ、助けなきゃいけない妹が一人増えただけだ。
ゼロワンとイリスは返してもらうぞ!」
そしてイーディスがパチンと指を鳴らした。
「『人体転移』!」
イーディスの超能力『人体転移』は、自分以外の任意の人間を任意の場所に転移させられるという能力だ。
『人体転移』によって、イーディス以外の姉妹がイシス達の元に転移され、それを確認するのと同時にイシスの『“相棒”召喚』でイーディスを転移させるという手はず、なのだが、
「…!?何故だ!?『人体転移』が発動しない!?」
何故か、オレ達はその場に留まったままだった。
困惑するオレ達の様子を二階の突き出しから見ていたジョウゴが口を開いた。
「残念でしたね。
今、この空間内ではあなた達の能力は一切使えませんよ?」
「なんだと…!?」
「信じられないのなら、レイブンさんも試してみてはどうです?」
言われるがままに、オレは『テレポート』を使ってみるが、能力は発動しなかった。
「ジョウゴ!キサマ何をした!?」
「何、ただ私の超能力『超能力封じ』を使用したまでですよ」
「『超能力封じ』だって…!?」
「はい、これはある一定の密閉空間内において、任意の人物の能力を封じるという能力でしてね、
屋外などでは全く使えない能力なのですが、こういった密室内においてはそれなりに重宝する能力なのです。
さらに言えば、外部からこの空間内に対する能力使用も出来なくなります。
今は、対象の人物をあなた方クローンシスターズに設定していますから、当然サティスさんの『“相棒”召喚』なんかも使えなくなってます。
ちなみに、『超能力封じ』という能力名ではありますが、その他の能力、霊能力や呪術、精霊術、魔術、妖術、錬成術なども封じる効果があるんですよ」
「そ、そんなバカな!?」
そう言いながらサキが妖術を発動させようとするが、やはり発動しなかった。
同様にイーディスも魔術と霊能力を発動させようとするが、やはり発動しないようだった。
作戦の要であった能力が使用出来ないとなり、絶望するオレ達に、さらに追い討ちをかけるようにサンが続ける。
「ああ、ちなみにイリスはオレの“奴隷”となっているため、『“奴隷”召喚』で呼び戻せるから、どちらにせよこのままではイリスは助けられないぞ?」
「ちっくしょう…!」
「ははははは!!いい顔だな、お前達!!
その絶望した顔が見たかったんだよ!!」
憎たらしいカオルの声が、さらにオレ達に突き刺さる。
「あとな、ジョウゴさんの能力は任意の人物に対して働くわけで、」
そう言いながらカオルは“ギラド”化した右手の爪に雷を纏わせ、オレ達に襲いかかってくる。
「オレ達はその対象外に設定されてるから能力は使い放題ってわけだ!!」
カオルの右手の爪を真剣白羽取りの要領で受け止めるイーディスだったが、受け止めると同時に全身に電気が走る。
「ぐぅうううううっ…!?」
「はははは!オレの『エレキクロゥ』を素手で受け止めればそうなるのは当然だろ?
ついでに、首輪のスイッチも入れてやろう」
カオルが、痺れて動けなくなったイーディスの頭を自らの右手で掴みあげ、次に左手でスイッチを操作し、イーディスの全身にさらに電流を流した。
「ぐっ…ぎゃああああああああああっ!?!?」
「くそっ、もう止めろっ!!」
「カオルぅうううううっ!!」
オレとサキが止めに入ろうとしたが、オレの目の前にはサンが、サキの前にはゼロワンがそれぞれ立ちはだかった。
「おっと、行かせないぞ?」
「くそっ!そこをどけ!」
「まぁ、そう言うな。
オレとお前の仲じゃないか、もっとよくその身体を見せてくれよ」
「なっ、やめろ!?」
サンは両手でオレの両手首を掴み、オレの両手首を交差させ、左手にてまとめて掴み代えると、そのまま左手一本でオレの身体を高く持ち上げた。
「くっ、離せっ!!」
オレは必死に抵抗しようとするが、能力が封じられてしまった以上、オレの『身体強化』も使えない今、オレはごく普通の少女でしかない。
「やはりこの身体は美しいな…
それだけに、右目の傷が惜しい。
この傷をつけたのは、フォルスだな?」
「それが、どうした…!?」
「フォルスには、後でお仕置きをせねばならんな…
それはそれとして、レイブン、お前もオレのモノになれ、その美しい身体は、オレの最高の観賞品として、一生大事にしてやる」
「そんなの…、断るに決まってるだろ!」
「勘違いするなよ?お前に拒否権はない」
直後、オレの全身に電流が走った。
「がっ!?あぁあああああああああっ!?!?」
「生身の身体にはなかなかに効くだろう?
オレのキメラクローンとしての能力『エレキショック』は?」
そして、全身が痺れて意識が朦朧とするオレの身体に、手を触れるサン。
「かつてはこの身体に入ることを望んだオレだが、
やはり、直接全体を観賞しながら愛でる方が断然いいな」
そう言いながら、右手でオレの胸や股間などを触っていく。
「…あっ、くっ……、や、やめ……!」
「ふふ、本当に素晴らしい身体だ…
オレが作ったクローンの中でも最高傑作だよ、お前は…!」
「くっ……、あぁあああああああああっ!?!?」
再び『エレキショック』による電流が流され、オレの意識はそこで途絶えるのだった……
*
「プロトゼロ、あなた達は、裏切者、だから、殺し、ます」
イーディスを助けに行こうとしたボクの前に、ボクと瓜二つの顔を持つ少女、ゼロワンちゃんが立ちはだかった。
「確かに裏切者だけど、でもそれはゼロワンちゃん達を助けるためなの!
だから、」
ボクが最後まで言葉を言う前に、ゼロワンちゃんがその大きな尻尾でボクを殴ろうとしてきたので、ボクは咄嗟に後ろに大きくジャンプして避けた。
だけど、避けた所へ今度はゼロワンの口から『放射熱線』が放たれ、ボクはそれをまともに食らい、ホールの壁へと叩きつけられてしまった。
「きゃあぁあああっ!?」
「裏切者は、倒し、ます」
壁にめり込んだボクに向かって、ゼロワンちゃんが“妖犬”化させた右手の爪に風を纏わせて襲いかかってくる。
「『風刃、爪』」
ゼロワンちゃんの爪が、ボクの左の脇腹へと突き刺さる。
「かは…っ!?」
「とどめ、です」
そう言いながら“妖犬”化させた左手の爪に雷を纏わせたゼロワンちゃんが、その爪をボク目掛けて振り下ろす。
「『雷撃、爪』」
脇腹の痛みから意識が飛びそうになるボクだったけど、唇を噛んで無理矢理に気合いを入れて、ボクはゼロワンちゃんの振り下ろした左手の手首を掴んだ。
『雷撃爪』を放つ直前だから当然、その手首にも雷が纏われていて、掴んだ瞬間に全身に電気が走ったけど、それも気合いで耐えた。
そして、ゼロワンちゃんの手首をぐいっと引っ張り、ゼロワンちゃんの肩に手を回すようにして、顔を無理矢理近付けた。
うん、こうして見るとやっぱり可愛いな、って言うと自画自賛みたくなっちゃうけど、そうじゃなくて。
サンが言うには、ゼロワンちゃんには魔獣ジラスの核が埋め込まれていて、その核の意識が、ゼロワンちゃんの魂として定着している。
つまり、ざっくり言えば、ゼロワンちゃんは魔獣ジラスの人間態、という感じだろうか。
でも、そんなゼロワンちゃんであっても、ボクの“妹”であることに代わりはなく、とても愛おしく思える。
前世ではそんなことなかった(というか一人っ子だったから当然だ)けど、今のボクは立派なシスコンになってしまったようだ。
「な、にを…?」
「ゼロワンちゃん、ボクは、君のことを助けたい、だって、君のことが、大好きだから」
ボクは、そっとゼロワンちゃんの唇にキスをした。
「ふ…、ふわ…!?」
「ふふ、ゼロワンちゃん、照れてる?照れてる顔もカワイイよ?」
そう言ってボクはもう一度キスをした。
今度はもっと長く優しく…
「ふ…、ふわわ…、な、なに、を…!?
どうして、唇同士を、近付けた!?これに、何の意味、が?
は!?ま、まさか、毒!?」
「ゼロワンちゃん、キス、知らないの?」
「キ、ス…?魚?」
「そうじゃなくて、キスはね、好きな人同士が、その愛を確かめるために口と口を近付ける行為なんだよ?」
「す、好きな、人同士…!?
に、人間は、そんなことを、するのか?
というか、ボクは、別に、君のこと、なんて…」
「君、じゃなくて、姉たん、って呼んで?」
「ね、姉、たん…?」
つい、欲望駄々漏れで“姉たん”なんて呼ばせてしまったが、……イイね!
「そう、ボクは、君の姉たん、だよ」
「姉、たん……
だ、だとしても、姉妹同士であ、愛を確かめ合う、なんて…、」
「ボク達姉妹の中では、普通のこと、だよ?」
そう言って、三度ゼロワンちゃんの唇を奪うボク。
もう、この想いは止められない。
ゼロワンちゃんが愛しい。
まだ生まれたばかりの、人間の常識を知らないこの娘を、守ってあげたい……
「ふ…、ふわわわ…」
「ゼロワンちゃん、ボク達と、一緒に行こう。
ボク達姉妹と、一緒に…」
「ね、姉たん…」
と、そこでボクの体力が尽きた。
さ、さすがに、気合いで腹部の傷を誤魔化すのも、もう…、限界みたいだ……
「え…!?あ…、ね、姉たん!?姉たん!?し、しっかりしてよ、姉たん!
ボクの、このドキドキしてる、心臓は、どうしたら治まるの!?
ねぇ、教えてよ!姉たん!!」
「それは、ね……、ゼロワンちゃんも…、ボクのことが……、好き、ってこと、だよ……」
そうしてボクの意識は途切れるのだった……
*
「姉妹愛ってのは…、いいものだな」
プロトゼロとゼロワンのそんなやり取りを見ていたオレ、サンは、無意識の内にそんなことを呟いていた。
オレが、姉妹愛を羨ましがるだなんて…、どうかしてしまったようだ。
恐らく、元々男であるオレが女の身体に転生したことで、感情面にバグが生じているのだろう。
この辺りは時間のある時に調べて修復しておかねばならんな。
余計な感情は、時に致命的なエラーとなってミスをおかす原因となる。
かつて、ヨウイチと戦った時に、勝利を確信して慢心したように。
とはいえ、芸術品を愛でる感性というのは大事だとも思っている。
先程とは矛盾しているようだが、美しいモノを見れば心が豊かになる。
偉大な知識や発見は、そうした豊かな心から生まれるものだと思っている。
そうして生まれたモノから新たな芸術作品を生み出す正の循環こそが、オレの求める最高の環境だ。
今、オレの手元にある芸術作品は、ガモスとの合成獣であるゼロツー。
彼女はオレが直接作ったモノではないが、オレの能力で“奴隷”とし、所有権を奴らに認めさせた作品だ。
彼女の背中のガモスの羽と、頭から生えた猫耳、それらは“バイオヴァリアブルメタル”製ではない美しさがあり、とても気に入っている。
そして、オレがゼロだった頃に生み出した最高傑作二つの内の一つ、レイブン。
“バイオヴァリアブルメタル”が一切使用されていない完璧な素体と、美しい曲線が描く肉体美は、まさに芸術品に相応しい出来だった。
なのに、その芸術品に傷を付けた奴がいる。
オレが作った中では最も醜い、“バイオヴァリアブルメタル”だらけの人形、フォルス。
奴には戦闘兵器としての価値しかないため、シロックに早々に売り渡したが、まさか魂が転生してシロックを裏切り、あまつさえ、オレの芸術品に傷を付けやがった。
彼女には、それ相応の罰を与えなければならない。
そんなことを考えていると、二階の突き出しから無粋な男が無粋な命令を下してきた。
「何をしているんですか、サン殿?
今がクローン達を回収するチャンスではないですか?
早くそいつらを回収して、洗脳するなり再改造するなりして、我々の忠実なる下部として、我らが宿敵たるヨウ博士に復讐しようではないですか!!」
オレは誰かに命令されるのがあまり好きじゃない。
カワイイ愛玩動物から「もっと苛めてください」などと命じられれば、喜んでその命に応じるが、男の、上から目線の命令には極力従うつもりはない。
おまけに、中身は違うかもしれないが、外身はあのシロックのものだ。
あの顔で命令されるのは、余計に虫酸が走る。
ここまでは、レイブンを取り戻すために、従うフリをしてきたが、もうそれもいいだろう。
今こそ、裏切りの時、だ。
「ああ、そうだな。
だが、こいつらを回収する前に、一つ用事を思い出した」
「用事、ですか?」
オレはその場にゼロツーと気絶したレイブンを残し、ジャンプしてジョウゴのいる二階の突き出しへと戻った。
「何かありましたか?」
「ああ、大事な用事が、ね」
そしてオレは、胸に埋め込まれた金色の丸い水晶、“竜の涙”に右手を触れ、その能力の一つを使った。
「ジョウゴ、キサマの回収、という大事な用事を、な」
「な、なんですっ…、」
直後、金色の光が“竜の涙”から放たれ、その光に飲み込まれたジョウゴが、オレの胸の“竜の涙”の中へと吸い込まれていった。
「なっ…!?サン!?キサマ、何をした!?」
下のホールから、フォルスの頭を掴んだままのカオルが驚愕の声をあげた。
まぁ、当然の反応だろうな。
「これは“竜の涙”に備わっている共通能力の一つでね、対象の人間や動物なんかをこの中に封印することが出来るんだ」
「ふ、封印だって…!?」
「そう。
しかも、ただ封印するだけじゃない。
元々そのモノが持っていた能力を自分のものとして使用することが出来るんだ。
ただし、さすがにサイボーグ系の能力まではコピー出来ないようだがな。
また、封印したモノを長期保存したり、意識だけを残してオレと一体化することも可能と、まぁ色々応用も出来たりするわけだ」
「な…、そ、そんな能力が、その“竜の涙”に…?
だが、ハゼスさんはそんなこと言ってなかったが…?」
魔人“ハゼス”、カオルに合成獣の生成方法と、その技術を教えたはぐれ者の魔人で、オレ達キメラクローンを作り、そしてこのオレに“竜の涙”を埋め込んだ張本人だ。
ハゼスがオレに“竜の涙”を埋め込んだのは、ほんの気紛れだったらしい。
彼は“ワールドブラディ”を旅している時に、たまたま“竜の涙”の一つを発見したが、それが“竜神”の鱗であることと、全てを集めなければ願いが叶わないということだけは知っていたが、それ以外のことは興味の対象外でもあって、何も知らなかった。
ただ、捨てるのも勿体無いからと取っておいた物を、今回のキメラクローン作成に辺り、なんとなく使ってみた、ということのようだ。
そもそもが“竜神”の鱗であることから、“竜の涙”を埋め込むことで、“竜神”の性質を持ったキメラクローンが誕生するのではないか、というハゼスの目論みだったが、それがオレにとって都合のいい形で作用した。
“竜の涙”には、全てを揃えると願いが叶うという噂があり、そのことは“ワールドブラディ”に住む人間や、直接“竜の涙”に関わった人間であれば誰も知っている。
だがそれ以外に、“竜の涙”には共通能力と、固有能力が存在しているが、こちらはほとんど知られていない。
共通能力とは、どの“竜の涙”にも備わっている能力で、『身体強化』や『物質封印』というのがある。
固有能力とは、一つ一つの“竜の涙”に個別に備わった能力で、元々の“竜神”の力が分割されて、それぞれに宿っているようだ。
では、何故“竜の涙”の能力がほとんど誰にも知られていないのか?
それは、ただ持っているだけでは一切の効果が無い、ただの石だからだ。
“竜の涙”の能力を使用するためには、それを外科的手術や、超常的な力などで、直接自らに取り込む必要があるのだ(ただし、普通に口から飲み込むだけでは意味がなく、その場合はただ排泄されるだけ)。
要するに、“竜の涙”と完全に一体化する必要があるのだ。
ハゼスはゼロワンとゼロツーを完成させた後、“妖狐”の肉体をベースに作ったゼロスリーを合成獣化する際に、魔獣ではなく、“竜の涙”を直接ゼロスリーの身体に埋め込んだ。
そして、そこへオレの魂が転生したことで、ゼロスリーはサンとして完成した。
目覚める際に、“竜の涙”の持つ“竜神”の記憶から、先程の“竜の涙”に関する知識を知り、手始めにハゼスを封印した。
その結果、オレは魔力を得て魔術を使えるようになった。
その魔力でゼロツーを“奴隷”とした(ジョウゴ達には漠然と“竜の涙”の能力だと説明しておいた)。
ハゼスが消えたことをジョウゴ達は疑問に思わなかったのは、そもそもハゼスが滅多に人前に出てこない存在だからだ。
おかげで、“竜の涙”に関する知識はオレが一人占め出来た。
ちなみに余談だが、オレの身体の素になったのはゼクスティーナの体細胞で、本来は普通の“妖狐”だったのだが、“竜の涙”による影響か、上位種である“九尾”へと進化していた(そのような力があるかどうかは“竜の涙”の保有記憶には無かったが、そもそもほとんど前例が無いことだろうしな)。
ということを、下で焦るカオルにかいつまんで説明した。
ただ、カオルとしては“竜の涙”のことより、自身も封印されるのではないかということを心配しているようだ。
「ああ、安心していい。
お前はまだ利用できそうだから封印する気はない」
「そ、そうか…」
それに、封印しても利用出来そうな能力はギラドの力くらいだが、あれは取り込めば厄介なことになる、そんな予感があり、出来れば取り込みたくない、というのが本音だった。
そんなやり取りをしていると、カオルに頭を掴まれたまま電流を流され続けていたフォルスが口を開いた。
「…なんだか分からんが、こっちとしては、敵が減って助かるぜ……!」
「ちっ、お前、まだ意識が、」
「カオルとサン…、てめぇらをまとめて吹き飛ばすっ!!」
すると、フォルスは両手をカオルの腰に回して抱き抱えると、両足裏の“ジェット噴射”を起動し(『超能力封じ』ではサイボーグ能力までは封じられない)、オレのいる二階の突き出しまで飛んできた。
「キサマっ、何をする!?」
「カオル、サン!アタイと一緒に死ねっ!!」
なるほど、フォルスは自身の体内に仕込まれた“自爆装置”を起動しようとしているわけか。
確かに、この距離で“自爆装置”を起動すれば、オレもカオルもただでは済まないな。
だが、
「忘れたか、フォルス?お前を作ったのはこのオレだぞ?」
オレは、自爆寸前のフォルスの胸の下辺りに腕を突き刺した。
「ガハ…ッ!?」
盛大に吐血するフォルスをよそに、オレは体内に突き刺した手を動かして、フォルスの中の“自爆装置”を手動で操作し、“自爆装置”を無効化して腕を抜き取った。
「あっ…、がっ…、て、めぇ……っ!!」
だが、まだ諦めきれていないのか、フォルスはカオルの腰に回していた腕をほどき、右手の“フィンガーミサイル”と、左腕の“レーザーソード”をオレ達に向けてくる。
「やれやれ、全身武器というのは厄介だな」
そこでオレは、オレの“竜の涙”の持つ固有能力を使うことにした。
オレの持つ“竜の涙”の固有能力、それは『竜神化』。
肉体を“竜神”とすることが出来るこの能力は、それなりに身体への負荷も大きいが、身体の一部だけを変化させることも出来、一部だけならばそこまでの負荷は無い。
オレは右手だけを“竜神”の爪へと変化させ、その爪でもって、フォルスの右手首から先と、左手の肘から先を切り落とした。
「ぐっ!?ぎゃああああああああっ!?!?」
大量の人工血液を飛び散らせながら、フォルスはその場に前のめりに崩れ落ちた。
「いっ、イーディス姉さん!!」
下にいたゼロツーが、こちらへ飛んでこようとするが、オレは“奴隷”契約を通じて命じた。
「ゼロツーは、まずその場にいるレイブンを回収してから戻って来い」
「あ…っ!?くっ……、わ、かり、ました……」
ゼロツーは悔しげな表情を見せながらも、オレの命令に従ってレイブンを回収し、二階の突き出しへと戻ってきた。
さて、後はフォルスだが、胸部の穴と両手の傷は、自己修復機能によって塞がりはじめており、出血はすでに止まっていた。
とはいえ、失った腕を丸ごと再生する程の機能ではないため、あくまでも応急処置的なものだ。
また、両手を失ったことで、彼女の“使い魔”契約や“隷獣”契約が失われたようだ。
“主人輪”はどちらかの手の指に装着されるものだから、手が身体から切り離され、身体からの魔力供給が断たれると、“主人輪”の効果は失われ、契約も破棄されるというわけだ。
ま、そんなことより、フォルスにはオレの最高傑作であるレイブンを傷付けた罰を与えなくてはな。
「レイブンは右目を潰されたから…、そうだな、フォルスには左目で償ってもらおう」
「ご、ご主人様!?何を、」
オレは、フォルスを心配そうに見つめるゼロツーを無視して、意識を失っているフォルスの頭を掴み、その左目を右手の爪で抉り出した。
「ぎっ…、ぎゃああああああああっ!?!?」
「やっ、やめてぇええええっ!!」
痛みにより目を覚ましたフォルスの叫びと、絶望するゼロツーの叫びが重なった。
「まぁ、これくらいで許してやるか。
…さて、少し遊びすぎたようだな。
カオルはフォルスを、ゼロツーはレイブンを回収して、オレに掴まれ」
「な、何だって?
しかし、まだ他のクローン達が…!」
「奴らは一旦諦めろ」
「しかし…、せめてジラスの合成獣のゼロワンだけでも、」
「ゼロワンはオレの魔力でもってしても“使い魔”契約や“奴隷”契約、“隷獣”契約のどれも出来なかった。
首輪を付けられない奴を傍に置いておく気はない
それに、もうすぐ奴らがここにやって来る、さすがに現状戦力で奴らと事を構えても勝ち目は薄いだろう」
「奴ら…?ま、まさか!?」
吸収したジョウゴの超能力『遠距離盗聴』を使って、念のため周辺の警戒を行っていたオレは、こちらに向かってきている存在に気が付いた。
と、直後、ホールの床に半径5メートル程の大きな“転移魔方陣”が現れ、そこから奴らが現れた。
11人の少女達と、一人の少年。
半分程は初めて見る顔だが、後の半分はよく知った顔だ。
その中の少年が、怒りに満ちた表情でこちらを見上げてきた。
「俺達の姉妹を返してもらいに来たぜ?」
「やぁ、久し振りだな、ヨウイチ、そしてその姉妹達、“シスターズアルカディア”の諸君っ!!」




