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シスターズアルカディアSideB-Brand new Sisters-  作者: 藤本零二
第3章~Chimera Clone Sisters~
35/58

第5話「裏切り①」

*


「あ…、なっ……、し、しまっ…!

 こんな、ここまでするつもりは……!

 ムツキぃいいいいいいっ!!」



 ムツキの腕を何らかの方法で吹き飛ばしたアハトンは、涙を流して叫びながら、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。



「え、な…、何が…?」



 呆然とするボクことモモコだったけど、今ボクは脇腹にドリルの穴が空いた(現在、自己修復機能により再生はしているが)サティス改めイシスを膝枕してるところだったから、動けない。

 後ろ向きに倒れるムツキと、崩れ落ちたまま、どうやら意識を失ったようなアハトン。


 なんとか二人を助けられないかと思っていたところへ、頼もしい二人の妹達が現れた。



「おーい、モモコ姉ちゃ!!」


「イシスちゃん、無事…、ってお、お腹に穴が!?」


「あ…、えっと、こっちは…、大丈夫、だから…、二人はそっちの二人を…」


「二人って…、わぁっ!?む、ムツキ君の腕が!?」


「アハトンまで気絶してるけど、どういう状況!?」



 ヒナと、フォティス改めカリナ姉妹が間に合ってくれて助かった…

 とりあえず二人に簡単に事情を説明しつつ、ヒナはムツキの様子を、カリナにはアハトンの様子を見てもらうことにした。



「うん、ムツキ君の方は無事、とは言い難いけど、自己修復機能が働いて傷口からの止血はされてるっぽい。

 呼吸も心拍も正常に戻りつつあるから、命に関わるってことはなさそう!」


「そう、良かった…」



 ムツキの方はなんとかなりそうだ。

 一方のアハトンの方だけど、こっちには予想外の事態が起きていた。



「ひょっ、ひょええええっ!?」


「カリナ姉ちゃ、何そんな変な声出してるの?

 アハトン君は大丈夫そう?」


「おっ…、」


「お?」


「おっぱいがある!!」


「?何言ってるのカリナ姉ちゃ、男の子にだっておっぱいくらい、」


「違うの!!おっきいの!女の子のおっぱいなの!

 逆に男の子のおち…、あ、アレがないんだよ!!」


「ほぇ?」


「何を言ってるのか…、分からない…」


「つまり、アハトン君がアハトンちゃんになってるんだよ!!」



 …ちょっと理解出来ないことが起きているようだ。

 と、そのタイミングでサティスちゃんが意識を取り戻した。



「痛たた…、モモコちゃん、ドリルはさすがに無いニャ、ドリルは…

 ウチがサイボーグじゃなかったら死んでたニャ…」


「サイボーグじゃなくても…、魔人と“妖猫ようびょう”の生命力なら、大丈夫だと判断した…

 それに、こういうのは…、本気でやらないと、()()だってバレてしまう…」


「ま…、その通りなんだけどニャ…、っと、それより、カリナちゃん達も来てたんだね、

 じゃあ、とりあえずウチは()()通りに、モモコちゃんと地上に出るから、」


「そ、それより!!アハトン君がアハトンちゃんに!!」


「?ニャにを言ってるのニャ?」



 ボクがイシスを肩で支えながら、アハトンの元へ行くと、……確かに、さっきまでは間違いなく男の子だったアハトンの胸が大きく育っている…

 それに、失礼かとは思いながらもズボンをめくって股間を確めてみると、



「…本当だ、無い……」


「でしょでしょ!?」


「ど、どーなってるの…?」


「理由は分からないけど…、“バイオヴァリアブルメタル”の、影響だと思う…

 “バイオヴァリアブルメタル”は、その人の魂の影響を受けて…、変化するから…、ボク達みたいに…」


「あ、そういうことニャ?

 つまり、アハトンに転生した魂は、女の子だったってことニャ?」


「でも、それなら転生した時点で女の子になってなきゃおかしくない?」


「うーん…、確かにそれは…、」


「今は、そんなこと気にしてる場合じゃない…

 ()()を少し、変更しなきゃ…」


「そ、そうだニャ!

 本当はウチとモモコちゃんが地上に戻って、皆にはイーディスちゃん達を助けてもらいたかったんだけど、

 ヒナちゃんはムツキ君を、カリナちゃんはアハトン君、いやアハトンちゃん?を連れて地上に戻って欲しいニャ。

 イーディスちゃんにはウチが脳波通信でそう伝えるから、急いで地上へ出るのニャ!」


 

 こうしてボク達六人は、もと来た道を戻るのだった。




*


 エレベーターを上がった先で待っていたユエと合流したボク達は、ユエに事情と、これからの()()を説明した。



「…なるほど、そのためにサティス、いえ、イシスさんを倒して連れ出したフリをしている、と」


「うん…、だから、ボク達と他の皆…、ムツキハーレムのメンバー全員、ここから撤退する…」


「了解しました。

 モモコ姉上様の言う()()が上手くいけば、確かに我らがここに残っている意味は最早ありません。

 むしろ、確実を期すためにも我らはここから撤退すべきでしょう」


「うん…、正直、心配な点もある…

 だけど今は、ミライやイーディス達を…、信じて待つ…!」


「了解しました、ではナナカ姉上様達に撤退の指示を…、っと、今マイカ姉上様から脳波通信が……、え!?」



 その時、いつもクールなユエの表情が驚愕の色に染まった。



「マイカ姉や、から…?何て…?」


「…モモコ姉上様、大変です!!

 い、今クルセイド研究所の方に……、………!」


「…え!?」



 マイカ姉やからの報せに、ボクも驚かされる。

 まさか、このタイミングで……!


 


*


「あ、あまり見ないで…、ツキヤ…、ううん、今は、レイヤ、だっけ…?」


「イザヨイ…、今すぐ助けてやるからな!」



 今、オレことレイヤの目の前には、かつて(前世)の“相棒パートナー”だった“妖狐ようこ”の少女、イザヨイの魂が宿ったクローンサイボーグNo.16、ゼクスティーナが、大事な所が丸出しのボンテージ服以外何も着ていない姿で立っている。

 その首には、“16”と書かれた錠前付きの首輪(電流発生装置)とは別に、トゲトゲのスタッズと金属製のリードが付けられた“隷属輪リング”があった。


 イザヨイは、フォルスの“隷獣”として無理矢理従わされているのだろう。

 なんとか“隷獣”契約を破棄させる必要がある。

 そのためには、“隷獣”契約を上書きする“相棒パートナー”契約をするのが一番手っ取り早いだろう。



 オレは霊能力『身体強化』で、足の筋力を高め、床を蹴ると、一瞬でイザヨイの背後に回り込み、その首筋へ手刀を叩き込もうとした。

 しかし、イザヨイは“妖狐ようこ”化した右腕でオレの手刀をガードすると、体をひねりながら、“妖狐ようこ”化した右足を蹴り上げて、オレの左肩へハイキックを放つ。

 咄嗟に『身体強化』した左腕でイザヨイの蹴りをガードしたが、今度は炎と雷を纏わせたイザヨイの左拳が、オレの胸へ打ち込まれた。



「『炎雷拳えんらいけん』ッ!!」


「ぐぅ…っ!?」



 イザヨイの『炎雷拳えんらいけん』をまともに受けたオレは、後方へと勢いよく吹き飛ばされる。

 イザヨイは床を蹴り、今度は右手の爪に炎、左手の爪に雷を纏わせながらさらに追撃してくる。



 オレは空中で回転しながら体勢を整え、後方の壁に両足から()()すると、そのまま壁を蹴ってイザヨイにカウンターを仕掛ける。



「うおおおおっ!!」


「『炎撃爪えんげきそう』!『雷撃爪らいげきそう』!」



 オレは『身体強化』した右手のパンチでイザヨイの『雷撃爪らいげきそう』は相殺したが、『炎撃爪えんげきそう』はオレの左肩に直撃した。

 並の弾丸程度なら弾くだけの性能をもつ戦闘スーツを貫くとは、さすがだな、イザヨイ…!


 自身の爪がオレの左肩を傷付け、そこから血が盛大に噴き出す様を見て、申し訳なさそうな表情をし、目を閉じて謝罪の言葉を紡ぐイザヨイ。



「ごめんなさいっ!!私っ、」


「いや、これでいいんだ、狙い通り、ってね」


「…え?」



 オレの左肩に刺さったままのイザヨイの右腕を、オレは痛みを堪えながら左手で掴む。



「…あっ、」



 さらに、『雷撃爪らいげきそう』を相殺した右手で、そのままイザヨイの左手を掴むと、オレは『身体強化』で身体中の筋力を底上げし、強引にイザヨイを床へ押し倒し、動けなくした。



「うっ、あ…、れ、レイ…っ、」


「イザヨイ、もう一度オレの“相棒パートナー”として契約してくれっ!!」


「んぐっ!?」



 オレは多少強引だとは思いながら、イザヨイの唇を奪った。

 そして、オレの中の霊力をイザヨイの中に流し込む。

 同時に、イザヨイの中から妖力がオレの中に流れ込んでくるのが分かった。

 

 それからオレの左手の薬指に“主人輪マスターリング”が現れた感覚があった。

 これで、“相棒パートナー”契約は完了だ。

 お互いの魂と魂、心と心で結ばれた“相棒パートナー”契約は、無理矢理に結ばされた“隷獣”契約よりも強く、本来ならばこの時点で“隷獣”契約は破棄されるハズだった。


 なのに、オレが唇を離してイザヨイの首を見ると、フォルスとの“隷獣”契約の証である“隷属輪リング”が消えていなかった。



「なっ…!?そんな馬鹿な!?

 なんで“隷獣”契約が上書きされていない!?」


「あっ、あのね、レイヤっ!聞いて欲しいの!!これはね、」



 イザヨイが何かを言おうとした時、何処かからかオレ達目掛けて風の刃が飛んできたので、オレは咄嗟にイザヨイを庇うように、彼女の上に覆い被さった。


 風の刃はオレの背中の上を通り過ぎ、そのまま床を傷付けながら消えていった。



「今のは『風刃爪ふうじんそう』か…?」


「ご名答、久し振りだね、ツキヤ君、まさか、こんな形で再会することになるとは思わなかったけどね」


「お、お前は…!?」



 オレが顔を上げると、目の前には機械で補われたらしき犬耳をつけた少女が立っていた。

 いや、犬耳だけじゃなく、全身の至るところが剥き出しの機械で補われているその少女の顔は、やはりオレ達とそっくりで、彼女もまたクローンの一人なのだろうと思われた。

 しかし、それ以上に、彼女の中に転生した少女の正体に、俺は驚いていた。

 オレの前世の名を知る“妖犬ようけん”の少女で、心当たりのある娘は、一人しかいなかった。



「お前は、サキ、なのか?」


「うん、そうだよ、ボクの前世の名前はサキ。

 だけど、今のボクはキメラクローンNo.00、プロトゼロ、だよ。

 そして、フォルス様の忠実な“隷獣”、ってところかな?」



 そう名乗ったのは、ヨウイチ(サウ)のかつての“相棒パートナー”であった、“妖犬ようけん”のサキ。

 しかし、今の彼女の首にはスタッズの付いた“隷属輪リング”が巻かれており、言う通り、フォルスの“隷獣”となっているのだろう。


 オレが立ち上がるのを待っていたのか、立ち上がると同時にサキは両手に雷を纏わせて構えた。



「本当は、こんな形で君と戦いたくは無かったんだけど、

 ご主人様からの命令は絶対だからね、悪く思わないでね?」


「待て!その前に教えてくれ!

 キメラクローンってのは何なんだ!?」


「ありきたりだけど、その辺はボクに勝ってから聞き出してよね!」



 サキが一歩を踏み出し、拳がオレへ向けて振るわれた。



「『雷撃拳らいげきけん』!」



 サキの攻撃は、その雷を纏った拳によるものだけではなく、全身に纏った風の妖力による高速移動能力が厄介だ。

 ただでさえ、雷速の拳を避けるのも一苦労なのだが、その上風の力も上乗せされているため、『身体強化』で動きや動体視力なんかを強化しているオレでも五回に三回は直撃を食らう。

 この圧倒的速さによる手数の多さ、これこそが風と雷の力を操る“風雷の妖術使い”たる“妖犬ようけん”の強みだ。


 普通なら、その手数の多さで押しきられてしまうところだろうが、オレは『身体強化』で防御力も上げているため、なんとかサキからの攻撃に耐えきれている。

 そんな防戦一方となるオレの脳に、“相棒パートナー”となったイザヨイからのテレパシーが送られてきた。



『ねぇ、レイヤ、聞こえてる?』



 “相棒パートナー”となった二人の間には霊力と妖力の繋がりが出来、その異なる力の繋がりを通じて、お互いに離れた所でもテレパシーによる意志疎通が可能となるのだ。



『イザヨイか、どうしたんだ、急にテレパシーなんか… 』


『うん、今の内にレイヤに話しておこうと思って』


『それは、今でないとダメなことか?』


『うん、とても大事なことだから。

 サキも私も、本当は操られてないの、()()のために、わざとレイヤ達と敵対してるフリをしてるだけなの』


『…詳しく聞かせてもらおうか』



 オレはサキの攻撃を防ぎながら、イザヨイからのテレパシーを聞いた。

 オレがテレパシーでイザヨイの話を聞いている間、ほんのわずかだが、サキからの攻撃が弱くなったように感じる(おかげで、テレパシーを聞く方に意識をより多く割くことが出来るようになった)。

 どうやら、サキ達がフォルスに操られて攻撃しているのではなく、自らの意思で攻撃しているというのは本当のようだ。



『…そうか、フォルス、いや、イーディスは本当は優しい子でヨウイチ(サウ)のことを……

 ったく、あのシスコンはどんだけの女をたらしこんでんだよ!

 それでいて無自覚とかラノベの主人公かよ!』


『まぁ、その件に関しては私も色々思うことはあるけど…

 ともかく、イーディスは私達にしたことを後悔してるの。

 それで今は私達や、新たに作られているキメラクローンNo.01、ゼロワンのことも助けようとしてる。

 そのためにも、今ここでツヴァイス、カオルやジョウゴを倒す必要があるの、だから、』


『ああ、分かったよ、その()()に乗ろう。

 …にしても、変だとは思ったんだよな、“相棒パートナー”契約したのに、“隷獣”契約が破棄されないなんて。

 だけど、イーディスとイザヨイの間に信頼関係、お互いを想う愛があるんなら納得だ。

 お互いに納得しての契約であるなら、“相棒パートナー”契約と“隷獣”契約は同時に成立する、ってわけだ』


『…あ、改めて言われると恥ずかしいけど、そういうこと』



 となれば、オレ達姉妹の本当の敵は、今メイコと戦っているツヴァイスことカオルと、“新人類教”教祖であるジョウゴ、ってわけだ。


 そして、イザヨイによれば、フォルスことイーディスと戦っているミライには、イーディスの方から脳波通信でミライに直接()()のことを伝えるようになっている、とのこと。



 オレは視線でサキと合図を取りながら(オレの脳には脳波通信用のチップが埋め込まれていないからサキとの直接の通信が出来ない)、チラリとミライ達の方へ視線を向けた。




*


『…というわけだ。

 散々ここまで自分勝手に君達を傷付けておいて、今更何を言ってるんだと思うかもしれないが、信じて欲しい。

 アタイは、イザヨイやサキ、そらに新たに生まれようとしているゼロワンのことを、助けたいんだ、だから…!』



 突然、目の前で戦っている少女、クローンサイボーグNo.4、フォルス、ううん、今はイーディスちゃんと呼ぼう、そのイーディスちゃんからボク、ミライの脳に直接脳波通信を通じて話しかけられるなんて思いもしなかった。

 しかも、その内容がボク達への謝罪と、ジョウゴと、ツヴァイスことカオル主導による新たなクローンであるキメラクローンの製造計画、その最初の犠牲者であるプロトゼロことサキちゃん(チラリと横目でレイヤちゃんの方へ視線を向けると、身体の一部を機械で補われた犬耳の少女と戦っていたけど、彼女がサキちゃんなのだろう)と、予定では今日完成しているハズというゼロワンちゃん、そして、彼女達を含めた()()を助けるために手を貸して欲しい、ということだった。


 表向きはジョウゴ達の目を欺くために本気で戦うフリをしながら、ボクはイーディスちゃんから()()内容を聞いた。



 まず、今メイコちゃんと戦っているカオルを、不意をついてボク達全員で襲い、倒す。

 肉体としてはボク達の兄に当たる彼だけど、中身はボク達の(クローンではない)姉妹であるサクヤ姉さまを利用し、ハルカちゃんを合成獣キメラに改造したカオル(糞野郎)であるため、同情の余地なく殺すべきだろうというイーディスちゃんの意見にボクも賛成だ。


 そして、この地下施設の最奥へと向かい、改造手術を受けているハズのゼロワンちゃんを救出する。

 ジョウゴに関しては、倒すのがベストだが、彼の持つ超能力が未だ未知数のため、無理はしない。

 あくまでも、姉妹の救出が最優先だ。

 脱出方法に関しては、レイヤちゃんの超能力『テレポート』がベストだが、レイヤちゃんの『テレポート』は皆が手などを繋いで物理的に繋がっていないと全員の転移が出来ない。

 もし、全員が繋がれる状況に無い場合、イーディスちゃんの超能力『人体転移』でイーディスちゃん以外の姉妹達を一度転移させ(『人体転移』は触れることなく、自分以外の任意の人物を同時に任意の場所に転移させられるらしい)、イーディスちゃん本人はすでに地上に出ているサティスことイシスちゃんの『“相棒パートナー”召喚』で脱出する(『転移魔術』を起動するより早いらしい)という計画らしい。



『…どうだろうか、アタイのこと、信じてくれるか?

 いや、今だけは信じて欲しい!

 脱出した後、どんな罰でも受ける覚悟は出来てる!だから、』


『そんなの信じるに決まってるでしょ?

 ボク達は姉妹なんだから!』


『そうか、ありがとう、ミライ』


『お礼なら、皆で無事に脱出出来てから聞くわ。

 とりあえず、まずはカオルをぶっ倒すわよ!』


『…ああ!』



 こうして、ボク達はイーディスちゃん達の“新人類教”裏切り計画&姉妹救出大作戦を決行するのだった。




*


「ははははっ!!どうした、どうした、ナインス!?キサマの実力はその程度か!?」


「わたしをその名で呼ばないで!今のわたしの名前はメイコよ!」



 わたしことメイコは、武器となる“レーザーガン”をツヴァイスことカオル目掛けて放つが、カオルは両手足に備え付けられた“ジェットエンジン”を利用してすばしっこく上下左右に逃げ回る。

 クローンサイボーグNo.2、ツヴァイスは空中戦闘に特化されたサイボーグだ。

 超高速飛行を可能とするための、空気抵抗を軽減する人工皮膚と戦闘スーツ、そして障害物を避けるために必要な動体視力と、計算能力などが備わっている。

 それらの能力を利用すれば、“レーザーガン”の軌道を計算して避けることなど容易いだろう。


 おまけに、



「スキありだ!せあっ!!」



 カオルは超能力者としても覚醒しており、その能力『気流操作』で上昇気流を起こし、わたしは空中へと放り投げられた。



「くっ!?」



 そして、上昇気流によって巻き上げられたわたしの頭上に、ジェット噴射で飛び上がったカオルが現れ、かかと落としを食らわせてきた。



「そらっ!落ちやがれっ!!」


「それならっ!“加速装置”起動!」



 カオルのかかと落としを食らう直前、わたしは左手のバングルを操作し、“加速装置”を起動した。

 いくらカオルが超高速で移動出来るとしても、“加速装置”の速度には追い付けない。


 わたしは上昇気流の中から抜け出して床に着地すると、空中で右足を上げたまま止まったように見えるカオル目掛けて“レーザーガン”を放った。

 加速状態から放たれたレーザーを避ける術などない、ハズだった。


 しかし、次の瞬間、カオルの全身にスパークのような火花が散ったかと思うと、カオルは一瞬でその場から姿を消し、わたしの背後に移動していた。


 わたしは咄嗟に背後に振り向き、カオルから離れるように後方へと思いっきりジャンプしながら、“レーザーガン”をカオルに向けた。

 しかし、その時に見えたカオルの姿に驚いたわたしは、“レーザーガン”の引き金を引くことが出来なかった。



「なっ、そ、その姿は…!?」


「ははは!驚いたか、ナインス?

 俺のこの姿にっ!!」



 カオルの全身(恐らくスーツの下も含めて)は、金色の鱗で覆われていて、背中からは金色の翼、両手からは鋭い爪が伸びているその姿は、まるで、“ギラド”化したハルカ姉ちゃんみたいだった。



「どうだ、これこそが今の俺の真の姿、“ギラドカオルMark2”だ!

 ギラドのコアをこの身体に定着させるのに苦労したんだぞ?

 そもそもギラドのコア自体が利かん坊で、前世の俺はあっさりとそのコアに意識を乗っ取られてしまったという失敗があってな、おまけに、この身体に使われている“バイオヴァリアブルメタル”と魔獣のコアとの相性が最悪で、互いに食い合ってしまうという欠点があった。

 しかし、逆に言えばそれらのマイナスさえクリアしてしまえば、俺は最強の身体と能力を手に入れることが出来るというわけだ!

 いやはや、そういう意味では失敗作に終わったNo.00(プロトゼロ)も実に役に立ってくれたよ、彼女のデータを分析して、……、おかげで、……、とはいえ、それでもまだ成功率は五分五分だったが、……、しかし、結局のところ、前世において一度“ギラド”化してたのが、……、というのが我が師ハゼスの説で、……、」



 なんか急に色々と語りだしたカオル。

 言ってることのほとんどは意味が分からなかったけど、おかげでいい感じに時間が稼げた。


 というのも、ちょうどカオルが語り始めたタイミングで、ミライ姉ちゃんから脳波通信があり、フォルスことイーディスさん達のことや、今チラリとカオルの話の中に出てきたプロトゼロことサキさん達のことを知り、これからタイミングを見計らってカオルを倒し、もう一人の新しい妹、ゼロワンちゃんを助けに行く、という作戦を聞けたからだ。



『で、どうするの?

 総攻撃仕掛けるなら今が一番のチャンスな気がするけど…』


『そうだね、“ギラド”化出来たというのが厄介だけど、ボク達六人で一気に攻めればさすがに抵抗は出来ないハズ』


『だよね、じゃあ、わたしが正面から突っ込むから、ミライ姉ちゃん達はタイミングを合わせて!』


『了解!』



 なおも気持ちよく一人語りするカオルに、わたしは突撃するタイミングをはかろうとした。



「…と、さすがに語りすぎたな。

 ん?ひょっとしてまだこの俺と戦うつもりか、ナインス?

 いい加減諦めて、俺の嫁兼実験動物ペットになる覚悟を決めたらどうだ?

 お前のサイボーグとしての能力は“加速装置”だけだろう?

 “加速装置”だけでは、今のこの俺に勝ち目は無いと、いい加減理解したまえ」


「“加速装置”だけじゃない」


「何…?」


「わたしには、もう一つ武器がある」


「それは…、何だ?」



 わたしは、両足で床を力強く踏み込み、カオル目掛けて突っ込んでいく。



「それは…、勇気だよ!!」



 わたしが駆け出したのと同時に、今までお互いに戦っていたレイヤ姉ちゃんとサキ姉ちゃんとイザヨイ姉ちゃん、そしてミライ姉ちゃんとイーディス姉ちゃんがカオルの左右や背後、上空から同時多発的に攻撃を仕掛けた。



「やぁああああっ!!」


「雷の精よ、集え!『サンダーアロー』!!」


「『雷撃拳らいげきけん』!『風迅拳ふうじんけん』!」


「『雷撃爪らいげきそう』!『炎撃爪えんげきそう』!」


「『アクアショット』!『アイスボゥル』!」


「はぁあああああっ!!」



 完全にカオルの不意はつけたハズだった。

 それに、いくらツヴァイスとしての能力やギラドの能力で反射神経が常人離れしていようと、これだけの波状攻撃全てに対応出来るハズがない、そう思っていたのだが、



「残念、お前達の()()なんて、とっくにお見通しなんだよね」



 次の瞬間、



「「「「きゃあぁあああああああああっ!?!?」」」」



 突然、わたしとミライ姉ちゃんとイーディス姉ちゃんとイザヨイ姉ちゃんの首輪(電流発生装置)から強烈な電流が全身に流れ、わたしはわけの分からないまま、その場に倒れ、気絶してしまったのだ…




*


「「「「きゃあぁあああああああああっ!?!?」」」」


「イザヨイ!?ミライ!?メイコ!?」


「イーディスちゃん!?」



 メイコの突撃と共に、オレ達はタイミングを合わせてカオルに攻撃を仕掛けたのだが、その直後、イザヨイとミライとメイコとイーディスの首に付けられた首輪(電流発生装置)から電流が流れ、四人は痙攣しながらその場に崩れ落ちた。


 そのため、カオルを狙っていた四人の攻撃は、狙いがそれてカオルには当たらなかった。

 そして、当のカオルはサキの攻撃だけを避けると、背後から殴りかかろうとしていたオレの方に向かってきて、カウンターのパンチを放った。



「くっ…!?」



 咄嗟にオレは足を止め、両腕をクロスさせてカオルのパンチを受け止めながら、ダメージを軽減させるために背後へと飛んだ。



「っと、仕留め損ねたか…

 『身体強化』しか能の無いレイブンならば、今の一撃で殺れると思ったんだがな」


「おあいにく様だったな…

 それより、何故あんたが電流発生装置を起動させられるんだ?

 あれの起動方法はゼロと、その知識をDLダウンロードされたオレしか知らないハズだ」



 厳密には、超天才児であったというヨウ博士、つまり現世のヨウイチと、そのヨウ博士のかつての助手で同程度の知能を持っていたというマイ・イェーガ博士、つまり現世のマイカ姉さんも起動方法は分かるだろうが、今はそこは置いておく。



「そうだな、さすがに俺の知識を持ってしても、ゼロの作った首輪の構造を理解することは出来ず、

 このリモコンも作ることは出来なかった」



 そう言いながらカオルは電流発生装置のリモコンを右手に持ち、こう続けた。



「だから、作ってもらったのさ、首輪を作った張本人、()()にな」


「な、なんだって…!?」




 今、こいつは()()にリモコンを作ってもらったと言ったか!?

 そんはバカな!?だって、ゼロは間違いなく死んだハズだ!

 だからこそ、オレの、このレイブン(クローンNo.11)の身体にゼロの死ぬまでの記憶がDLダウンロードされて起動したわけで…



「ま、まさか…!?」



「そう、そのまさかだよ」



 その声は、先程カオル達が現れたホールの奥の二階に当たる部分からホール内側に突き出した2、3メートル四方のスペースから聞こえてきた。


 見上げると、そこには三人の少女と、彼女らから数歩離れて一人の男(見た目はシロックだが、中身はジョウゴなのだろう)が立っていた。


 オレから向かって左側の少女は、頭から犬耳が生え、全身には濃緑色の鱗と、その鱗で覆われた巨大な尻尾が生えており、服は一切身につけておらず、胸の中心には何かの機械が埋め込まれていた。

 顔はサキと瓜二つであることから、彼女がサキ、プロトゼロの遺伝子から作られたキメラクローンNo.01、ゼロワンなのだろう。


 そして右側の少女は、猫耳と猫の尻尾があり、その顔はイシスと似ていたが、背中からは美しい蝶のような羽が生えていた。

 服はやはり着ておらず、首にはスタッズの付いた“隷属輪リング”と、その“隷属輪リング”に付けられたチェーン状のリード、そのリードの先端は真ん中の少女が握っていた。

 

 その真ん中の少女は、頭から狐耳、お尻からは九本の狐の尾が生えており、背中には魔人のものとは違う、金色の翼(カオルの背中に生えたギラドの翼に似ているが、この少女の翼にはちょうど三角形の頂点となる部分から鋭いカギ爪が伸びていた)が生えていて、その顔はどことなく今のイザヨイを思わせるが、鋭くつり上がった瞳と、チラリと唇から覗く八重歯がイザヨイとは違っており、彼女の獰猛な性格を思わせた。

 胸の谷間と、身体の正面、下乳から股関のV字ラインの少し上辺りまでがばっくりと開いた際どいレオタードのような衣装を身に纏っており、胸の谷間部分には、自身の背中から生える翼の装飾が施された金色の丸い水晶が埋め込まれていた。


 声は、その三人の少女の内の真ん中にいた一人から発せられたようだ。

 

 

「久し振りだな、我がクローン姉妹ペット達、

 いや、厳密にはレイブン以降の姉妹ペットとは初顔合わせになるかな?」


「やっぱり、お前は…!」


「ふふ、かつてゼロと名乗っていたオレだが、

 せっかく新たな身体に魂ごと転生出来たのだから、名前も新たに生まれ変わろうと思ってね。

 そう、今のオレの名はキメラクローンNo.03、“サン”だ!」

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