幕間「魔人ハゼス」
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その日、とある施設において生きたまま氷漬けにされて封印されていたジョウゴの脳に、何者かが語り掛けてきた。
―――ようやく見つけたよ、ジョウゴさん
(私の脳に直接語り掛けるあなたは誰です…?)
―――我が名はハゼス、魔人ハゼスだ
(魔人、ですって…?)
―――おっとそうか、この世界に魔人は攻め込んでいないから、君に魔人と言っても分からないかな?
(いえ、存在としては知っています。
この世界以外の、パラレルワールドに存在する人間のことですね?
“あの世”にてそういった者達の魂を見ましたので、その存在は知っていましたが、
こうしてお会いしたのはあなたが初めてですね。
いや、この状態をお会いしていると表現するのが果たして正しいのかどうかは分かりませんが)
―――それなら問題ない、もうすぐ会うことになるだろうからな
(もうすぐ?しかし、今の私はこうして封印された状態。
意識はあっても、自害出来ないから他の肉体に魂を転生させることも出来ない。
そんな私にどうやって?)
―――それは、こうするんだ
次の瞬間、施設の電源全てが落ちたことで、ジョウゴを生きたまま氷漬けにしていた装置への電力供給が一瞬断たれた。
すぐに自家発電に切り替えられたが、一瞬でも電力供給が断たれたというだけで致命的だった。
ジョウゴを生かさぬよう殺さぬよう緻密に温度管理されていた冷凍カプセルの温度がほんのわずかに下がったことで、ジョウゴの魂が入っていた肉体は死を迎えた。
その直後、ジョウゴは新たな肉体に転生を果たしていた。
「ふむ、どうやら氷の牢獄から抜け出ることが出来たようですが、ここは一体何処で誰の身体に入ったのでしょうか?」
「ここはゼロっていうヨウ博士のクローンにしてヨウ博士と同等の知能を持った男が作った海底研究所で、今君が新たに転生した肉体はシロックとかいうケチな政治家の肉体さ。
ま、その辺の詳しい事情はその男の脳に入ってるだろうから確認してみてくれ」
そうジョウゴに言ったのは、頭に角と背中に羽、そして尻尾の生えた明らかに魔人と分かる男だった。
「あなたが魔人ハゼス、ですか?」
「ああ、そうだ。改めて初めまして、ジョウゴさん、我こそ魔人ハゼス。
魔獣と他生物の合成獣研究に人生を費やしてきた、はぐれ研究員の魔人さ」
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ジョウゴはシロックの脳からヨウイチやクローン姉妹に関することなどの情報を全て確認し、改めて魔人ハゼスに語り掛けた。
ちなみに、一つ扉の向こうではフォルスとレイブンが戦っている。
「今がどういう状況かは理解しました。
それで?私を復活させて何をさせるつもりでしょうか?」
「さっきも言ったが、我は魔王ヤミの支配を受けぬ代わりに一切の助けもしないという契約の元、
あらゆるパラレルワールドを巡って、合成獣研究を行ってきた。
その研究の末、これまでに、錬成術という術で生物同士を合成させて合成獣を作るという手法や、
【吸血姫】に滅ぼされた“食人鬼”という亜人の“食べた生物の能力を自らのものにする”という呪術による手法を応用した合成獣作成法などを完成させてきた。
そして、今新たな合成獣作成の手法として、科学による方法を模索している所なんだ」
「科学、ですか?」
「ああ。
“ワールドフラワレス”というパラレルワールドでその手法を実験していたのだが、実験を手伝って貰っていた我が助手、カオル君が殺されてしまってね。
理論が完成した直後だっただけに、非情に惜しく、何とかしたいと思っていた時に、そう言えばこの世界には魂を転生させることの出来る超能力者がいたことを思い出し、あなたを復活させたというわけだよ」
「ということは、つまり私にそのカオル氏という男を転生させてくれと、こういうわけですか?」
「ああ、そういうことだ。
もちろん、タダでとは言わない。
合成獣作成のためのデータや必要な素材を全て提供するし、
何なら、君の復讐の手助けをしてもいい、魔人ヤミと関わらない範囲で、だけどね」
「ふむ…、転生させてあげたいのは山々ですが、少し問題が」
「問題とは?」
「普通、魂は“あの世”に行くと同時に浄化され、記憶が消されてしまいます。
そうなると、魂の個体判別が難しくなり、そのカオル氏の魂をピンポイントで見つけられるかどうか…
大雑把に人類か亜人か魔人か妖獣か、くらいの区別くらいしか出来なくなります。
さらに時間が経てばそう言った人種の区別すらつかなくなります」
「それなら問題は無いと思うぞ?」
「と、言いますと?」
「カオルは最後に魔獣ギラドの核を自らに取り込んでいた。
魔獣と人間の合成獣の魂、となればその他有象無象の魂とは区別がつくのではないか?」
「…なるほど、試しに探してみましょうか」
ジョウゴが目を瞑り、超能力『魂転生』で自らの魂を一時的に“あの世”へと飛ばし、そこに漂う無限の魂の中からカオルらしき魂を見つけ出した。
「ふむ、あなたの言った通り、普通の人間とは明らかに違う、歪な形の魂を見つけました。
これがカオル氏かどうかは分かりませんが。
それと、この魂には何か魂の情報を保存するための膜がありますね。
まるで、魂を保存するために作られる“ポーション”の膜のような何かが…」
ジョウゴもハゼスも知らないことだったが、カオルの魂を包んでいた膜は、ヨウイチやイツキの魂にかけられた魔王ヤミによる魔術的呪いが感染したもので、カオルの場合、ヨウイチやイツキ、ハルカ達への激しい憎悪、あるいはイツキやハルカへの狂気的な愛情からその呪いに感染したものだった。
「そうか、その膜ってのはよく分からんが、カオル君は転生させられそうか?
出来れば記憶や知識も残ってたらありがたいんだが、最悪その辺は後付けでどうとでもなるだろうし」
「この膜が私の想像通りのものなら、記憶も知識も魂に残っている可能性が高いですね」
「おお!そいつは僥倖!
ちなみに、その『魂転生』は今すぐじゃなきゃダメか?
時間が経つと消えちまうみたいなことはあるか?」
「この膜がどれほど長期間魂を保持していられるかが分からないので、なんとも言えませんが、
出来れば一ケ月以内とかには『魂転生』を行った方が確実でしょうね」
「そうか。
じゃあ、我儘ばっか言って申し訳ないが、その魂をヨウ博士のクローンの身体のどれかに入れて欲しいんだ。
と言っても、男の個体で残ってるのが二体、だったか?それくらいしかないから、そのどっちかになるんだが」
「それには何か理由が?」
「特に理由があるわけじゃないが、ヨウ博士と対抗するためにも、カオル君には精霊術や魔術だけでなく、サイボーグ兵士としての能力もあった方がいいかと思っただけでね。
まあ、難しそうならその辺の適当な死体に魂を転生してくれてもいい」
「…分かりました、やり方はこちらに任せてもらっても?」
「ああ、勿論そのつもりだ。
我は基本的に表舞台には出ていきたくない主義でね、カオル君さえ転生させてくれるなら、手段に関してとやかく言うつもりはないよ。
…っと、そろそろフォルスちゃんがやって来る頃かな?
彼女に我が姿を見られるのは都合が悪いのでね、この辺りで一旦お暇させてもらうよ」
そう言うとハゼスは一瞬にして姿を消した。
ハゼスの姿が消えてからしばらくして、フォルスが未完成であるゼクスティーナを完成させるためにジョウゴのいるデータ室を素通りして実験室へと向かって行った。
ジョウゴはその間に、カオルをツヴァイスの肉体に転生させるための作戦を練っていた。
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ジョウゴが作戦通りにカオルをツヴァイスの肉体に転生させると、二人の前に再びハゼスが現れた。
ハゼスはカオルの復活を心の底から喜び、再び彼と組んで魔獣と人間の合成獣生成実験が出来ることを感謝した。
「今のところ“BS細胞”を予め投与することで、魔獣の核を人類の肉体に埋め込むことが可能となることが分かった。
魔人に関してはそもそも“BS細胞”すら必要ないことも、魔王ヤミ直属の幹部である六魔皇の一人、ローザンヌの研究によって分かっている。
後はその他の人種、亜人や妖獣といった人間に対してはどうなのかというデータが欲しいのだ。
幸い、この世界には“バイオヴァリアブルメタル”によってその細胞が亜人や妖獣に変化したクローン人間がいる。
そこで、カオル君にはそいつらを直接使って、あるいはそれらの遺伝子サンプルを使って、データの検証を行ってもらいたいのだ」
「了解しました、ハゼスさん。
では、手始めに、もうすぐ完成するゼブンティーナを実験動物にしましょう。
彼女は、“妖犬”ということですから、新たなデータが得られると思います」
「ああ、その辺りはカオル君に任せよう。
おっと、そうだ、最後にもう一つ朗報だ、新しい魔獣の素材が手に入りそうなんだ」
「新しい魔獣の素材?
しかし、現時点ですでに宇宙魔獣であるギラドの細胞も含めたほぼ全ての魔獣の細胞が揃っていますが…、
あっ、ま、まさか…っ!?」
「ああ、そうだ、かのギラドですらその圧倒的力でねじ伏せたと言われる、地上最強にして最凶の魔獣、」
「“ジラス”の細胞が近々手に入る予定だ」




