第10話「キメラクローン」
*
主にジョウゴが主体となって、“新人類教”の超能力者を増やすための自爆テロ活動が行われている最中、アタイは製薬会社の地下研究施設で、新たなクローン姉妹、クローンNo.17、ゼブンティーナの作成を行っていた。
その目的は一つ、ヨウイチの“相棒”であった“妖犬”の魂を転生させるための肉体を準備するためだ。
海底研究所から持ち帰ったデータなどと一緒に、アタイ達のオリジナルであるマコとモカの遺伝子サンプルがあったため、それを元に純粋なクローンを作成することにした。
成長促進剤などを使用して、約二週間弱でゼブンティーナの肉体は16歳の肉体にまで成長した。
肉体の完成まではまだ少しかかるようだったが、魂だけはその状態でも転生させられるようだったので、事前にジョウゴに頼んで“妖犬”サキの魂を転生させておいた。
「ああ、やはりこの身体は美しくて可愛いな…
それに、犬耳と尻尾もモフモフで気持ち良さそうだ。
ふふ、早くコイツをアタイの新たな“隷獣”に加えたい…!」
アタイが培養液入りのカプセルに入ったゼブンティーナの美しい裸身を眺めながらうっとりしていると、そこへジョウゴが現れた。
「今よろしいですかな、フォルス殿?」
「何かあったのか、ジョウゴ?」
「実はあなた方に頼みたいことがありまして」
ジョウゴの頼みとは、ドライン達が現在拠点にしているクルセイド研究所に保管されているであろうクローンサイボーグ個体のNo.2とNo.8を回収して欲しいということだった。
「ツヴァイスとアハトン?
何故その二体なのだ?フィフスは必要無いのか?」
「出来ればフィフスも回収していただけるのなら有難いですが、
今はまず男の肉体が必要なのです」
「そうか、なるほど、“新人類教”の超能力者の魂を定着させるためか。
確かに、“新人類教”にはほぼ男しかいないからな…」
男の魂を定着させるには男の肉体の方が好都合、というわけだ(フィフスは女の肉体だからな)。
ただ、性別の違う肉体に定着させられないわけではないらしいが、それも相性次第では安定せず魂が弾かれてしまう可能性もあるため、出来るだけ魂と肉体の性別は合わせた方がいいらしい。
「しかし、クルセイド研究所には忍び込むにしても、そう簡単にはいかないだろう。
第一、研究所内部の構造も不明確だし、その何処に彼らの肉体が保管されているかも分からないから、『転移魔術』や『物質転移』で直接保管場所に潜入することも出来んぞ?」
「ええ、分かってます。なので、直接正面から乗り込むというのはどうでしょう?」
「何か作戦があるのか?」
「はい、実は…、」
ジョウゴの作戦は至ってシンプルだった。
先日、一人の超能力者の男を転生させたことがあったが、その男の目的がクローンサイボーグの一人、ゼッツの恋人であるムツミを手に入れることだった。
そして本日、その男は自らの能力を駆使してついにムツミを手に入れ、彼が根城としているオオカワ橋のマンションにいるという。
そこへムツミを取り返すために、ドライン達が向かい、クルセイド研究所には現在誰もいない状態だという。
「ですから、『転移魔術』を使えるサティス殿をクルセイド研究所に向かわせ、ツヴァイスとアハトン、可能ならばフィフスの肉体を回収してきて貰いたいのです。
その間、フォルス殿達はドライン達の足止めをしていただければなお完璧かと」
「なるほど、了解した。
駒は多い方がいいからな、早速その作戦とやらを実行しよう」
そうしてアタイとフォティス、ゼクスティーナはオオカワ橋のマンションへと向かったのだが、そこにレイブン達がいたのは予想外だったが、フォティスとゼクスティーナが想定通り彼女らのウィークポイントとして動いてくれたのを確認できたのは十分な収穫だった。
イシスの方も、テンダーとの交戦が少しあったものの、無事ツヴァイスとアハトンの肉体を回収して戻って来たので、今回の作戦は成功と言っていいだろう。
欲を言えば、フィフスも回収して、その肉体にイリスの魂を転生させたかったのだがな…
それはともかくとして、回収したツヴァイスとアハトンの肉体をジョウゴに渡し(転生させる魂に関してはジョウゴに任せた)、アタイ達は完成間近のゼブンティーナの元へと戻った。
*
イーディスに連れられて、私達、イザヨイとイシスとカリナは、そろそろ完成が間近だというクローンNo.17、ゼブンティーナの元へとやって来た。
ゼブンティーナの肉体はオリジナルの遺伝子サンプルから作られた(内蔵武器なども一切搭載されておらず、成長促進剤の使用による影響で壊死した一部臓器や皮膚を“バイオヴァリアブルメタル”で補っただけの)純粋なクローンで、遺伝子的にオリジナルとは三つ子、いや、ミライやモモコも含めれば五つ子の関係となる。
その肉体にはすでにかつて私達と仲間だった“妖犬”のサキという少女の魂が宿っていて、その頭からは犬耳が、お尻からは犬の尻尾が生えていた。
「さて、いよいよ完成だ!
新たなクローン姉妹、No.17、ゼブンティーナ!
ふふ、ゼクスティーナも楽しみだろう?
かつての友だったサキが、お前と同じアタイの“隷獣”となるのが…!」
「やっぱり、サキもあなたの“隷獣”にするのね…?」
「ああ、当然だ。
新しい家族だ、いざとなった時に“隷獣”契約があれば、コイツを守れるからな」
「イーディス…」
ここ最近になり、表向きにはあくまで駒扱いしているが、私達姉妹しかいない場所では、イーディスは私達のことを家族と呼ぶようになっていた。
恐らく本人としては無意識なのだろうが、イシス曰く「少しずつ昔のイーディスちゃんに戻ってる」とのこと。
私は、敵としてのイーディスしか知らないから凄く違和感だけど、彼女の過去を聞いてしまうと納得という感じもする。
本来彼女は、とても優しい女の子なのだろう。
彼女の愛撫も、なんだかんだで気持ちがいいし…
って、違う違う!今はそんなこと思い出してる場合じゃ、
「さぁ、完成だ!新しい姉妹の誕生だ!!」
イーディスのその声に我に帰った私は、カプセルから培養液が排出されていき、完全に無くなると、カプセルの扉が開いた。
すると、サキの閉じていた瞳が開き、いきなりイーディスに向かって襲い掛かった!
「覚悟しろ、“死神”っ!!」
「何っ!?」
「イーディスちゃん!?」
サキに覆い被せられた状態のイーディスを、イシスが助けに入ろうとするが、サキが風を纏わせ手刀の形にした右手をイーディスの首筋に、そして左手の掌をイシスに向けてその掌の前に雷球を出現させて二人の動きを止めた。
“妖犬”であるサキは“風雷の妖術使い”で、その得意技は、同時にいくつもの雷と風の妖術を使い分けることだ。
「動かないで。
この脳にDLされた知識から状況は分かってる。
“シス”、それ以上動けば右手の『風刃拳』が“死神”の首を切り裂く。
“死神”、今すぐイザヨイちゃんとの“隷獣”契約を解除しなければ『爆雷球』が“シス”を黒焦げにする」
「“シス”には手を出すな。
ゼクスティーナとの“隷獣”契約を破棄させたいなら、アタイの首をその『風刃拳』とやらで切断すればいい。
そうすれば、術者の死と共に“隷獣”契約も破棄される」
「いっ、イーディスちゃん!!」
「イーディス様!」
サキの脅しに全く怯む様子のないイーディスに、逆に脅してる側のサキの方がたじろいだ。
「い、いいのか!?
ボクがこの手を動かせば本当に首が飛ぶんだぞ!?
アンタには目的があったんじゃないのか!?」
「…何を躊躇っているんだ、ゼブンティーナ?
本気でアタイの首を斬るつもりが無いなら、」
イーディスがサキの右手を掴もうとしたその直前、突如、サキの正面、つまりは研究室の入口扉の方から、“レーザーガン”によるレーザー光線が同時に十本程、扉を貫通して発射され、その全てがサキの身体を貫いた。
「きゃああああああああっ!?」
レーザー光線に貫かれたサキは、そのままの勢いで先程まで入っていたカプセルの方まで吹き飛ばされ、カプセルに叩き付けられた状態で、全身から血を流しながら倒れ込んだ。
「サっ、」
「ゼブンティーナっ!?」
私が駆け付けるよりも早くイーディスがサキに駆け寄っていた。
「おい、大丈夫か、ゼブンティーナ!?」
「うっ…、で、“死神”…、あなた……、」
「もういい、喋るな!
お前の身体はほぼ生身だから、“自己修復機能”がほとんど働いていないんだ!
だから、今すぐ培養液の中に戻して“バイオヴァリアブルメタル”で、」
「やれやれ、ご主人様に牙を向けるとは、躾のなってない犬だな」
その時、扉の向こうから男の声が聞こえてきた。
「だ、誰ニャ!?」
イシスとフォティスが戦闘態勢を取り、警戒しながら扉の方へと視線を向けた。
すると、穴の空いた扉をゆっくりと開けながら中に入ってきたのは、“レーザーガン”を持った二人の男とジョウゴの三人。
「お、お前達は…!?」
「改めて初めまして、と言っておこうか。
俺の名はクローンサイボーグNo.2、ツヴァイス、前世の名はカオル・ヴィンヤード6世だ、以後よろしく頼むぜ?」
*
カオルと名乗った男、その身体は間違いなく私達と同じクローンサイボーグのツヴァイスに違いなかった。
どうやら、ジョウゴがカオルという男の魂をツヴァイスに転生させたようだ。
それから、もう一人の少年の方も同じくクローンサイボーグのNo.8、アハトンだと紹介された。
こちらは一言も発せず、前世が何者なのかという説明も無かったが、間違いなく何者かの魂が宿った状態であることが感じられた。
そして、まず間違いなくこの二人が、“レーザーガン”でサキを撃った犯人で間違いない。
私はそのことで文句を言おうとしたが、またも私より早くイーディスが口を開いた。
「てめぇら、よくもアタイの大切な妹を傷物にしてくれたな…
覚悟は出来てるんだろうな?」
これ程までの殺気を放つイーディスを、私は初めて見た。
前世での戦争時においてさえ、ここまでの殺気を感じたことはなかった。
「おっと、これは心外だな。
俺は大切なボスであるアンタを駄犬の牙から守ってやっただけだというのに」
「駄犬だと…!?てめぇ、それ以上アタイの妹を、」
「フォルス殿?
その子、ゼブンティーナはあくまであなたの“隷獣”であり、ヨウイチへの復讐のための駒でしかないハズですよ?
そこまで肩入れをする義理は無いのでは?」
「そ、それは…、」
ジョウゴ達の前で、サキのことをハッキリ妹だと言ってしまったことに気付いたイーディスは、一瞬「しまった」という顔を見せたが、すぐにいつもの調子に戻り、こう続けた。
「とにかくだ、コイツは大切な駒であることには違いない。
今からコイツの修理をするからてめぇらはこの部屋から、」
「そうだ、修理するならちょうどいい!
その犬を使って人体実験を行いたいのだが、いいだろうか?」
「人体実験、だと…?」
カオルの発言に、さらに怒りを顕にするイーディスだったが、イーディスが何かをする前にジョウゴが口を挟んだ。
「実はこのカオル殿は、前世は“ワールドフラワレス”という世界の出身で、
そこで魔獣と魔獣や、魔獣と人間の合成獣を作成していたそうなんだ」
「魔獣と人間の合成獣、だと…?
そいつはまさか、ヨウイチの姉のサクヤや、妹のハルカのこと、か…!?」
私達は直接彼女達に会ったことは無いが、海底研究所に残されていたゼロのデータファイルの中に、二人の記載があった。
パラレルワールドにおけるヨウイチの前世の姉妹、姉のサクヤと妹のハルカ。
二人は確か精霊術師であり、敵の人体実験によって魔獣の核をその身体に埋め込まれた合成獣である、と。
「ほぉ、あの二人のことを知っていたか。
そう、俺が発見した最初にして天然物の合成獣であるサクヤと、我が嫁でありながら裏切りやがった憎きビッチ、ハルカ!
ああ、だがハルカは最後に俺の合成獣理論を完成させてくれた実験体でもあるから一応の恩もあるか」
「…まぁ、そんなことはどうでもいい。
俺がこうしてこの世界に転生したからには、あの男、ヨウイチへの復讐は完璧なものにしなければならない。
そのための“キメラクローン”のNo.00に、そのゼブンティーナは選ばれたのだ!!」
“キメラクローン”のプロトタイプですって!?
さすがにそれだけは絶対にさせない!
「そんなことさせるわけがっ、」
私はカオルに向けて、妖術を放とうとしたが、いつの間にか私の背後に回り込んでいたアハトンが、私の首に両腕を回して締め上げてきたのだ。
「かは…っ!?」
「余計なことは、させない…」
首を絞められ息が出来なくなり、私の意識が次第に遠退いていく………
「おっと、お前達はそいつみたいに抵抗しないよな?
何せ、その犬は、お前達にとっては、………、」
それ以上カオルの台詞を聞くことが出来ず、私の意識は完全に無くなっていった………
*
「おっと、お前達はそいつみたいに抵抗しないよな?
何せ、その犬は、お前達にとっては、単なる駒に過ぎないのだろう?
駒は戦わせるためにあるんだ、より強いキメラクローンへと改造することの何が悪い?」
「や、やめろ!
分かったから、それ以上妹達に手を出すな!!」
アハトンに絞め落とされて失禁しながら気絶したゼクスティーナを目の当たりにして、アタイは思わずそう叫んでいた。
「やれやれ、また妹達、ですか…
フォルス殿も随分と家族思いになったものですね」
ジョウゴが心底失望したというような表情でアタイを見つめる。
「そ、そんなことはない!アタイは、」
「でしたら、早くそちらのゼブンティーナをカオル殿に渡して下さい。
きっと立派なキメラクローンとして再生されますよ?」
「ぐっ…、そ、それは……、」
「ボクなら、大丈夫だから…」
「ゼブンティーナ…!?」
アタイの腕の中で、息も絶え絶えながらそう言って微笑むゼブンティーナ。
「だが、魔獣の核なんか埋め込まれたら、お前はその魔獣に意識を乗っ取られる可能性があるんだぞ!?
そうなったら、」
「そうなったら…、イーディスちゃんがボクと“隷獣”契約して…、助けてくれるんでしょ?」
「そ、それは…、」
確かに、ゼロの残したデータファイルにはハッキリとしたことは書かれていなかったが、合成獣となったサクヤやハルカは自我を持って暴走していなかったという。
彼女らの写った映像を見る限り、どうやら“使い魔”契約によって、普段はその魔力を押さえ込まれているような感じだったが…
「だ、から、大丈夫…、だよ…」
「し、しかし…、」
「ボクは…、今のイーディスちゃんを、信じる…から……」
「ゼブンティーナ……」
「さて、話はまとまったかな?
いい加減そろそろ実験に取りかからなければ、その犬の命が尽きてしまうぞ?
ああ、でもそうなってしまってもジョウゴ氏によって再び転生させれば良いだけか」
「…ちっ、分かった!さっさと始めてくれ!」
「い、いいのニャ?イーディスちゃん…?」
「ああ、このまま押し問答していてはゼブンティーナの体力が持たん。
それに、合成獣改造を断れば、お前達がどうなるか分からんからな…
さすがに、カオルとアハトンのサイボーグ以外の能力が分からん以上は下手に動けん…」
「…分かったのニャ」
それから、カオルの指示の元、ゼブンティーナの合成獣化改造が行われた。
再び培養液の満たされたカプセルに入れられたゼブンティーナに、いくつものチューブが接続されていく。
「さて、まず普通の人間に魔獣の核を埋め込むだけでは合成獣は完成せず、
核の暴走によって肉体が食われ、消滅してしまう。
ただ、魔人の場合は直接魔獣の核を埋め込んでも暴走せず、問題なく合成獣魔人が完成するというデータもあるため、魔力を持った人間であるならボス、アンタのような“半魔人”でも、」
「能書きはいいから、さっさと始めな」
「言われなくとも。
ではまず、魔力を持たない人間が魔獣の核に食われて消滅しないようにするため、この“一度人間を吸収したビランテ細胞”、通称“BS細胞”を、ゼブンティーナに注入する」
そう言ってカオルが機械を操作し、チューブから投入された“BS細胞”とやらがゼブンティーナの身体に入っていく。
すると、突然カプセル内のゼブンティーナが目を見開いて苦しみ始めた。
『ん゛んっ!?ん゛んんんんっ!?!?』
「なっ!?お、おい、何があったんだ!?」
「…ふむ、こいつは想定外だ」
「何だとっ!?」
「あ゛あ゛ぁあああああああッ!?!?」
直後、カプセルを割って中から飛び出してきたゼクスティーナ。
その身体の至るところから煙が出ており、皮膚や内蔵の一部が溶けて無くなっていってるではないか!
「おいカオル!これは一体どうなってるんだ!?」
「ふむ、どうやら“SB細胞”と“バイオヴァリアブルメタル”の相性が悪いようだな」
「な、なんだと…!?」
「これはいいデータになるな…
“BS細胞”と“バイオヴァリアブルメタル”が結合すると、お互いの細胞が補食し合い、対消滅してしまうというわけか。
ふむ、となればキメラクローンを作成するには、初期胚の段階で“BS細胞”を…、ぶつぶつ…」
「そんなことはどうだっていい!
ゼブンティーナはどうなるんだ!?」
「残念ながら、最早“バイオヴァリアブルメタル”による細胞の蘇生は不可能だろうな。
よって、キメラクローンNo.00は失敗、破棄するしかない」
「破棄、だと…!?てんめぇ…、」
「落ち着くニャ、イーディスちゃん!!
“バイオヴァリアブルメタル”が使えなくても、旧式の生体金属を使って失われた臓器や皮膚を作って移植すればいいのニャ!!
そうすれば、少なくともサキちゃんは助かるのニャ!!」
「くそっ…!とりあえずこっから先はアタイらだけの問題だ!
お前達はここから出て行け!!」
「やれやれ…、ま、キメラクローンに出来ない以上、最早No.00には用が無いので、こっちから立ち去らせてもらうがな」
そう言ってカオルがさっさと部屋を出て行くとそれに続いてアハトンとジョウゴも出て行った。
「イーディスちゃん!早くサキちゃんをこのチェックマシンに!」
「ああ、分かった!
それとフォティスはゼクスティーナの方を頼む!
彼女にも何かあればもう一台のチェックマシンを起動して、ゼクスティーナを手当てするんだ!」
「わっ、分かったよ!」
フォティスの返答に、一瞬違和感を感じたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
アタイはイシスが準備したサイボーグの身体に異常が無いかを確認するためのチェックマシンにサキを寝かせ、サキの溶け落ちた身体の部位を生体金属で補うための準備を始めた。
生体金属は、“バイオヴァリアブルメタル”が一般に使用されるようになる前から使われていた義体作成用の特殊金属で、“バイオヴァリアブルメタル”とは違って大量生産に向き、コストも格段に低く抑えられるため、未だに広く使われている。
しかし、“バイオヴァリアブルメタル”のように誰にでも使用出来る(拒絶反応が起きない)ということはなく、その人の体質によっては拒絶反応が起こり、使用出来ないというパターンも多い。
アタイ達はゼロの海底研究所にあったデータから、“バイオヴァリアブルメタル”が一部地域の山中などにある“黒い岩”から分離生成することで、“バイオヴァリアブルメタル”を大量生産出来る上にコストもほぼかからないため、逆に生体金属を使う機会が無いのだが、万が一の予備品として備えていたのだが、早速使う時が来たようだ。
アタイはチェックマシンのタッチモニターに写るゼブンティーナの全身図を見て、溶けて欠けた身体の部位に一つずつタッチしていき、最後にコンソールのエンターキーを押した。
するとタッチモニターには、
○これらの部位を
・バイオヴァリアブルメタルで補う
・生体金属で補う
という二択の選択肢が現れたので、アタイは下の“・生体金属で補う”をタッチした。
すると、タッチモニターの表示が切り替わり、
○生体金属による修復を行います
という文字が現れ、ゼブンティーナの肉体の治療が始まった。
「これで、大丈夫なんだよな…?ゼブンティーナは、助かるんだよな…!?」
「イーディスちゃん、落ち着くニャ、大丈夫だから、ね?」
「あ、ああ……」
「フォルス様、イザヨイちゃ…、いえ、ゼクスティーナの方は無事のようです」
「そうか、良かった……
そういや、フォティス、お前、洗脳が解けているな?」
「え…、あ、そ、それは…!」
「ご、ごめんニャ、ゼブンティーナちゃんのことで頭がいっぱいで、ウチの“ナノマシン制御”機能が一時的にストップしてたのニャ!
今すぐ再起動させて、」
「いや、いい。もう、止めにしよう…」
「ニャ?」
「え?」
「もう、無理だ…
今のアタイにはもう出来ないよ…、大切な…、愛する皆を駒にして、
愛する姉妹達と戦わせるなんてことは…っ!!」
もう、認めるしかない。
アタイは、ここにいる姉妹の皆が好きだ!!
それに、他の姉妹達のことも、レイブンのことも好きなんだ!!
そして、ヨウイチのことも…、
そうだ、前世の頃から、アタイは好きだったんだ、サウのことが…!!
*
やりたくもない殺人行為。
だが、それをしなければアタイの大切な家族、イシスとイリスが政府の連中に酷い目にあわされる。
だから殺すしかなかった、顔も名前も知らない敵国の兵士を。
それが戦争、一部の頭のおかしな連中が私利私欲のためだけに、自らの手を汚さずに大量殺人を行う行為。
アタイは、その戦争の中で我を失ったかのように、ひたすらに人を殺し続けていた。
いや、我を失わなければ、まともな意識では人殺しなんて出来るわけがなかったから。
そんな中で、アタイは知らず知らずに求めていたんだと思う。
アタイや、家族たちを救ってくれるヒーローを。
あるいは、アタイを殺して自由にしてくれる、愛しい人を……
そうして、アタイは出会ったのだ。
唯一アタイを殺してくれそうな相手に、アタイを愛してくれそうな人に……
「くっ…、アタイもここまでか…
アンタ、そんな成りしてめちゃくちゃ強いんだな…」
「そいつはどうも、というかお前の方こそめちゃくちゃ強かったぞ?
それに、“死神”なんて呼ばれてるからどんな屈強な男が現れるのかと思ったら、
めちゃくちゃ美人でカワイくておっぱい大きい女の子が出てきたから、むしろそっちの方に驚かされたな」
「おっぱ…!?い、いや、それよりも誰が美人で可愛いだって!?
こ、こんな、汚れた人殺しの女の何処が…!?」
「お前が美人でなかったら、世界中の女性の九割以上が美人じゃなくなっちまうよ。
それに、これは戦争だ。
殺さなければ自分が殺される世界だ、そんな世界で人殺し云々は、」
「違う、そうじゃない!
アタイは、戦争とか関係なく人を…、それに、この身体だって、もう処女ではないし…」
「処女かどうかまではさすがに知らん…
ともかく、アンタが美人でカワイくておっぱいの大きい女の子であることには変わりがない、自信を持て」
「…で、これからどうすんだ?」
「ん?どうするって?」
「そんな美人で可愛くてお…、おっぱいの大きい女を負かしたんだ。
これからアンタは…、アタイをどうする気だ?」
「別に?どうもしないが」
「…は?」
「だから別にどうもしないって」
「いやっ…、はぁ!?おまっ、どうもしないって…、今は戦争中だぞ!?
そんでアタイはお前の敵だ!敵は殺して当たり前だろ!?
いや、女であるアタイなら捕虜にでもして性処理奴隷にするとか色々使い道あんだろうが!?」
「ん~、そうは言われてもな…
“死神”が男だった場合には容赦なく殺していたんだが、君は美人でカワイくておっぱいが大きい女の子だったからな…
男女差別だって怒られるかもしれないが、俺には女の子を殺すつもりは無い、というか殺せないよ」
「だっ、だったらせめてアタイを犯せっ!!」
「いや、なんでそうなる…」
「アタイはアンタに負けたんだ!このままおめおめと帰れるわけないだろっ!?
アンタ、アタイのこの身体に欲情してるだろ!?アタイの中に今すぐ挿入れたいだろ!?だったらアタイを犯せよっ!
無様な敗者であるアタイを、アンタの手で…、いやアンタのそのチ○ポで…っ!」
「…確かに、アンタは美人でカワイくておっぱいが大きくて魅力的な女の子だが、俺がアンタを犯すことはないよ」
「アタイが処女じゃないからか!?」
「処女であっても犯すことはない」
「なんでだよ…、アタイは、アンタにだったら……、」
「俺はな、シスコンなんだよ」
「………は?」
「俺には故郷に残してきた宇宙一カワイくてカワイイ妹が待ってるんだ。
俺は妹を愛しているし、妹も俺のことを愛してくれている。
だから、他にどれだけ美人でカワイくておっぱいの大きい女の子がいようとも、妹以外を抱く気はないんだ」
「いや、え…?」
「ま、そんなわけだから、ごめんな?」
「はっ…、はぁああああああああああ!?!?」
結局、アイツはマジでこの敵であるアタイを殺すでも捕虜にして犯すでもなく、その場にアタイを放置して去って行きやがった…
ようやく、アタイをこの地獄から解放してくれるヒーローに出会えたと思ったのに…
アタイを殺してくれる、愛しい人に出会えたと思ったのに…
いや、それ以上に、
「そ、そんなバカな…、アタイの魅力が…、アイツの妹に負けた……!?」
アタイは、アタイの身体が男達にとってとても性的に見えることを知っている。
これまでアタイを犯してきた男共は皆、アタイのこの身体に骨抜きになっていた。
そういったことに興味の無かった男でさえ、アタイのこの身体を見て性欲を高ぶらせ襲わざるを得ない程に、アタイの身体は男共を魅了し続けてきたのだ。
そのアタイの身体を見て、アイツは襲い掛かることすらしなかった…!
アイツの妹がどれだけ可愛いかは知らん。
だが、血の繋がったアイツの妹に負けたというのが、アタイは納得できなかった…!
「屈辱的だ!!今度こそ、アイツにアタイを犯させてやるっ!!
だからイシス、イリス、アタイをもっと男好みの、魅力的な女にしてくれっ!!」
「…イーディスちゃんは何を言ってるのニャ?」
「はぁ…、全くイーディスも変な性癖に目覚めたものね…」
それからのアタイは、戦に出るのが、楽しみになっていた。
戦うのはアイツだけ、他の敵兵士なんて全く目に入らなかった。
たまに、アイツの代わりにツキヤと名乗る男装の女とその“相棒”である“妖狐”の女や、アイツの“相棒”の“妖犬”がアタイの相手をすることがあったが、邪魔で邪魔で仕方がなかった。
「てめぇら雑魚じゃアタイの相手にはならねぇんだよっ!!
アイツを、サウを連れて来い!!
これは、アイツがアタイをヤるか、アタイがアイツをヤるかの勝負なんだよっ!!」
「サウは今別の重要なポイントで作戦遂行中だ」
「だから、ここから先には通させないよっ!!」
「それに、ボク達だってご主人様程じゃないけど、結構強いよ?」
彼女らの言う通り、確かにサウ以外の三人もかなりの手練れだった。
アタイ達も三人いたのだが、それでも互角に持ち込むのが精一杯で、ほとんどが返り討ちにあっていた。
「ちくしょうっ!!アタイは、アイツとヤりたいのに!!
アイツに…、アイツの……、」
アタイの頭の中は、もうアイツのことでいっぱいだった。
アイツに犯されるのを妄想しては、戦場であるにも関わらず、一人で自慰に耽る毎日。
こんな想いは初めてだった。
初めて、男に犯されたいと思った。
いや、出来るなら、愛されて、求められたいと思った。
「サウ…、アタイはお前のモノになりたいよ……」
人を殺すことしか出来なかったアタイが、初めて愛した男。
だけど、そんな想いは、当然運命の神様に許されるはずがなく、アタイは終戦直前に、政府の人間に裏切られ、敗戦条件を緩くするためのスケープゴートとして、処刑されることになる。
コイツらの命令で人殺しをし、最後にはコイツらの都合でコイツらに殺されて…
アタイの人生は、一体何だったんだろう……?
たまたま魔人の血が濃く出てしまったせいで親から捨てられ、周りからは奇異な目で見られ、男共からはオナホール同然に扱われ、国のエライ連中からは都合のいい殺人兵器として扱われた挙句、全ての罪を背負わされてゴミ同然に処刑されて…
アタイハ、ナンノタメニウマレテ、ナンノタメニイキテキタンダ………?
―――アンタが美人でカワイくておっぱいの大きい女の子であることには変わりがない、自信を持て
「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
死の直前、アタイの脳を満たしたのは、激しい憎悪と、愛しいアイツに会いたいという想いだった…
*
「…ああ、そうだよ、アタイはアイツらのことを恨んでたんじゃなかったんだ。
アタイが、本当に憎んでいたのは、アタイを捨てた両親や、アタイを犯した男共や、アタイを都合のいい兵器として利用した国の連中だった…!
それが、死の直前にアイツへの想いと一緒になって、ぐちゃぐちゃになって…」
アハトンに締め落とされて気絶していた私が目を覚ますと、目の前でイーディスが涙を流しながら自分の本当の想いを告白していた。
イシスの言っていた通りだ、やっぱり、イーディスは本当は優しい女の子で、彼のことが好きなただの女の子だったんだ、私達と同じように。
本当に、あのシスコン糞野郎ってば、どんだけモテてるのよ、腹が立つわね…
「…ん?ってことはちょっと待って、あの時、私達の前で
『アイツがアタイをヤるか、アタイがアイツをヤるかの勝負』
って言ってた時の“ヤる”って、“殺る”じゃなくて、“犯る”って意味だったの!?」
「あニャ?イザヨイちゃん目が覚めたのニャ?」
「おはよう、イザヨイちゃん」
「あ、うん、おはよう、イシスにフォティス…って、私をイザヨイって呼ぶってことは今のサティスはカリナ、なのね?」
「うん、そうだよ」
カリナへの洗脳が解けてるってことは、今のイーディスにはもう復讐の意思は無くなった…、ってことなのかな?
「ああ、ゼクスティーナ、いや、イザヨイ…
君には謝らなくちゃいけない…、あんなに酷いことをして、本当に申し訳なかった…っ!」
そう言ってイーディスは土下座をした。
「まっ、待って、頭をあげて!確かに、色々と恥ずかしい思いはしたけど、私はあなたのことを恨んでなんかないから!
むしろ、サキのこと、助けてくれたんでしょ?ありがとね」
「…いや、サキはまだ治療中で、助かるかどうかはまだ、」
「大丈夫、サキってばしぶとい子だから、あのくらいじゃくたばらないよ。
だから心配しないで、ね?」
「イザヨイ…、ああ、すまない……」
「それよりフォルス様、いや、イーディスお姉ちゃんって呼ばせてもらうけど、いいかな?」
「フォティ、いや、カリナ、アタイのことを“姉”と呼んでくれるのか?」
「当然でしょ?イーディスお姉ちゃんだって、ぼく達のことを“妹”って言ってくれたじゃん?」
「あ…、ああ、ありがとう、カリナ…!」
「それで、これからどうするの?
今からジョウゴ達を倒してレイヤお姉ちゃん達と合流するの?」
「……そうだな、そうしたいところだが、今はまずサキの治癒待ちだな。
サキの傷が治って、動けるようになるのを確認したら、ここから出よう。
もう、アイツらに手を貸す理由は無くなったからな」
「カオルと、アハトンはどうするのニャ?」
「出来ればここで始末していきたいが、カオルは底が知れないし、アハトンはそれ以上に不気味だ。
ここは無理をせずに、まずはレイヤ達との合流を最優先に考えた方がいいだろう。
それに、カリナもイザヨイも早く彼女らに会いたいだろう?」
「そ、それは…、まぁ…」
「う、うん…」
「うん、じゃあとりあえずの方針として、サキの回復を待ち、回復次第ここから逃走する。
それまでの間は極力これまで通り振舞おう、ヤツらにこちらの意思を知られたくないからな。
だからカリナは洗脳されたフリを続けてくれ、イザヨイも、その、心苦しいが、」
「うん、大丈夫、このまま、裸のままでいろ、ってことだよね?」
「あ、ああ…、本当にスマナイ…」
「ううん、別にいいよ。その代わり…、今夜は、たっぷり私のこと、可愛がってよね♪」
「あ…、ああ、それなら任せろ!たっぷり可愛がってやるからな!」
「ええ、楽しみにしてるわ♪」
「イーディスちゃん、元のイーディスちゃんに戻って本当に良かったのニャ…」
イシスの目には涙が浮かんでいた。
とりあえず、問題はまだ残っているけど最大の問題であったイーディスのことは何とかなったみたい。
これであとはサキが回復して目を覚ましてさえくれれば、あとは何とかなる、なんてその時は呑気に思っていたのだけど、本当の悪意は私達の知らない所で着実に大きくなっていた……




