第8話「フォルス」
*
アタイが転生してから一番最初の記憶は、電気による強烈な痛みだった。
「ったく、高い金払ってあのテロリスト共を雇ったというのに…っ!
役立たず共めがっ!!」
直後、電気で痺れて朦朧としていたアタイの肉体に、鞭による鋭い痛みが走った。
思わず声が出そうになったが、電気によって声帯が麻痺していたせいか、声が全く出なかった。
結果的に、その時声が出なかったのは良かったと言える。
何せ、今のアタイは魂の無いクローンサイボーグのハズだから、痛みを覚えるハズがなく、当然命令以外で口を開くことも出来ないからだ。
そう、今のアタイは、キュウシュウ国の国防長官、シロック・アソウの秘密私設兵器の一つ、クローンサイボーグNo.4、フォルス、通称“死神”と呼ばれる全身武器に改造された、サイボーグ兵器なのだ。
そして、前世のアタイもまた“死神”と呼ばれた、半魔人の魔術師であり、霊能力者だった。
アタイは“電流発生装置”となっている首輪と、大事なところが丸見えのボンテージ衣装だけの姿で、両手足を広げられて、X字型の磔台に磔にされた状態で、シロックに鞭打ちされている。
魂が無い、ただの兵器だった頃の記憶、いや記録と言った方が正しいかもしれない、その記録は脳にしっかりと刻み込まれていて、今のアタイがどういう状況になっているのかはだいたい察しがついた。
アタイがヨウ博士のクローンであるゼロという男に作られた、ゼロにとっては妹に当たるクローン個体の一人だったが、この肉体には当初魂が宿らず、ただの失敗作の一つとして処分される予定だったが、ゼロのほんの気紛れというか、好奇心というか、せっかく作ったのに勿体ない、何か再利用出来ないか、という発想から、魂の宿らなかった個体にAIチップを仕込み、アンドロイド型サイボーグ兵器として改造された。
そうして作られた、ツヴァイス、フィフス、アハトン、そしてアタイことフォルスの4人は、ゼロの研究の出資者であるシロックの私設兵器として売られたのだ。
売られてからしばらくの間、アタイの身体はずっとシロックの被虐趣味によって弄ばれてきた。
一方的なSMプレイ。
奴はひたすらアタイの身体を虐め続け、その欲望の捌け口としてきた。
今日のプレイは特に酷かった。
テロ組織“レジスタス”を利用した自身の地位向上を目論んだシロックだったが、突然現れた少女達によってあっさりと“レジスタス”が鎮圧されてしまい、自らの計画が水の泡となってしまったことによる苛立ち、そのせいでアタイへの攻めが激しくなっていた。
いつもより出力強めの電流攻め、そのせいで動かないハズの心臓が動き始め、こうしてアタイ、デスの魂が宿ってしまったわけだ。
後に、“新人類教”の教祖であるジョウゴが言っていたことだが、アタイの前世の宿敵であるサウ、現世での名はヨウイチと言ったか、彼がこの世界にやって来たことが、アタイがこの世界に転生するトリガーとなり、そのタイミングでフォルスの心臓が鼓動を始めたことで、この身体にアタイの転生した魂が宿ったということらしいが、そんなことはどうでもいい。
やっとアタイの手で愛しい彼を殺すことが出来る…!
*
前世において“デス”と呼ばれていたアタイの本名はイーディス・ミルヴァートン、何世代か前に魔人と交配した霊能力者の血筋に生まれた半魔人だ(しかし、厳密には1/2どころではないくらいに魔人の血は薄まっていたが)。
ここまで血が薄まれば、普通は半魔人と言えど、魔力はほとんど無く、まともに魔術も使えないし、外見上も普通の人間と変わらないのだが、アタイの場合は先祖帰りのせいで、魔力も十分にあり、そして魔人の特徴である角と尻尾が生えていた(翼だけは存在しなかった)。
しかし、何故か魔術は使うことが出来なかった。
その見た目のせいで両親はアタイのことを不気味がり、アタイを施設に預けて何処かへと行ってしまった。
そうして預けられた施設では、その角と尻尾のせいで虐められていた。
特に男子連中は、アタイのその尻尾がどこからどうやって生えているのかが気になるらしく、よくアタイを裸にしてはその尻尾を弄っていた。
そんな日々が何年も続いたある日、いつものように尻尾を虐めていた男達は思春期を迎え、とうとうアタイの身体に欲情を抑えきれず、アタイをレイプしようとしてきた。
裸を見られることは我慢出来ても、さすがにその行為だけは我慢出来ず、アタイは施設内を逃げ惑い、最後に逃げ込んだキッチンで手に入れた果物ナイフで、襲ってきた男達を刺したことで殺人未遂犯となり、少年院へと送られた。
そこでの生活も悲惨だった。
アタイの見た目が魔人に近いせいで、まともな人間として扱ってもらえず、尻尾の先端を切られた挙げ句、大人の男達の気晴らしにと、裸にされてオナニープレイを強要させられるなどの辱しめられる日々を送っていた。
そうして数年が経ち、14歳となったアタイの身体は女性としてそれなりに育っていたため、アタイは見せ物から、性奴隷へとランクアップされたらしい。
今までは遠巻きにアタイのソロプレイを見るだけだった男達が、数人がかりでアタイの身体を押さえ付け、とうとうアタイの初めては奪われてしまった。
そうして毎日のように複数の男達からレイプされ続けている内に、アタイは何も考えられないように、いや、何も考えないようになっていった。
そんなある時、ほとんど無意識下のアタイをレイプ中の太った男の腹が、何故か風船のように見えてきて、その風船がどんどん膨らみ、爆発するイメージが脳内に浮かんできた。
すると、その脳内イメージ通りに、男の腹がどんどん膨らんでいき、最後には男の腹が破裂し、男は死んだ。
しかし、何故か血液はわずかしか噴出しておらず、そのほとんどが、まるで気化したかのように消失していたのだ。
それが、アタイの霊能力『状態変化』であるということに気付いた時、アタイの意識は覚醒した。
その後アタイは、少年院にいたアタイをレイプした男達全員の血液を気体に変えて爆殺した後、牢屋の壁を液体に変えて溶かしてから、少年院を脱走。
行く宛もなく山の中を走って逃げていた時に彼女、“シス”と出会ったのだ。
*
その時のアタイの姿は、少年院から脱走することに夢中で、服なんかも着る暇なく、裸のまま山の中をがむしゃらに走り回っていたので、至るところ傷だらけで、精神的にもかなりボロボロの状態だった。
「ニャニャっ!?君、どうしたのニャ!?そんなにボロボロで!?」
「…うるさいっ、アタイに近付くんじゃねぇっ!!」
「だ、だけど…っ、」
生まれてきて今日まで、アタイにとってアタイ以外の人間は全て敵だった。
だから、いきなり目の前に現れたこの人間も殺してやる、そう思いながら、その人間を視界に収めた時に、ドクン!と、心臓が強く鼓動したのを感じた。
この人間の女は、よく見れば頭からはネコのような耳と、お尻からはネコのような尻尾が生えていたが、背中には魔人の羽が生えている。
「“妖猫”…?いや、“妖猫”と魔人のハーフ、か…?」
「う、うん、そうだニャ。
…君は、魔人みたいだけど、でも霊力を感じるから、半魔人なのかニャ?」
「アタイが、霊能力者だって、分かるのか…?」
「うん、だって…、」
不意にアタイに近付いてきたその女は、アタイの顔を優しく両手で掴むと、アタイの唇にキスをしてきた。
「…っ!?んんっ!?」
「ん……っ!」
すると、アタイの左手の薬指の付け根が熱くなり、そこに指輪が現れた。
「…ぷはっ……、やっぱり、君とウチは“相棒”だったニャ♪」
唇同士が離れ、アタイの目に入ってきたのは、その女の首に、先程は確かに無かった、アタイの指に現れた指輪と同じデザインの首輪が現れていた。
霊能力者と妖獣の間で結ばれる“相棒”契約が、アタイとその女の間で結ばれたのだった。
「そうだ、自己紹介がまだだったニャ。
ウチの名前はイシス・モラン、よろしくニャ♪」
「あ、アタイは、……、」
そこで、アタイは張り詰めていた気が抜けたのか、意識を失ってしまった。
*
気が付けば、アタイは真っ暗闇にいた。
…ああ、そうだ、今のアタイはクローンサイボーグNo.4、フォルス。
シロックの奴に散々虐められ、満足したのか、今アタイは待機用の空き部屋に放置されている状態だ。
と、今の状況を確認したところで、突然アタイの頭と尻の付け根辺りから強烈な痛みを感じた。
「…うっ、ぐぁっ!?な、なんだ…!?」
右手で頭を押さえると、そこから、にょきっと、角が生えてきたではないか。
そして同時に、尻の付け根からも魔人の尻尾(ただし矢印のような形の先端が無い)が生えてきた。
「これは…?なんで急に…?」
今のアタイの肉体は、普通の人類のもののハズだが…?
と、アタイの脳にDLされていた知識の中に思い当たるものがあった。
アタイ達の身体をサイボーグ化する際に使用された“バイオヴァリアブルメタル”は、魂の記憶によってその形を、本来あるべき形に変えて、その肉体に定着する性質がある。
実際に、クローンサイボーグNo.10のテンダーには魔人だった頃の魂が宿り、その肉体は魔人のものへと変化したという。
つまりは、アタイの半魔人としての魂が“バイオヴァリアブルメタル”に影響して、魔人の角と尻尾を生やした、というわけか。
こいつはマズイな…
今はまだこの身体に魂が宿ったことがシロックにバレるわけにはいかない。
ヨウイチに復讐するための準備が必要だ。
そのための戦力と設備には心当たりがある。
一つはゼロの研究所がある竜眼島。
もう一つは何かあった時のための予備施設である海底研究所。
状況次第だが、竜眼島の研究所は、恐らく近い内にヨウイチによって破壊されるだろう(その辺りのヨウイチ達やゼロの動きの情報も仕入れる必要がある)。
となれば、海底研究所を占拠するのが妥当か。
しかし、その場所はゼロとシロックしか知らない。
だから、今はまだシロックの側にいて情報を集めなければならない。
そのためには、アタイは魂無きアンドロイド型サイボーグのままでなければならない。
だから、アタイは生えてきた角と尻尾を無理矢理引きちぎった。
「ぐっ…、あ゛あ゛ぁああああっ!?!?」
かなりの痛みと出血があったが、サイボーグとしての能力“自己修復機能”により、すぐに傷は塞がった。
問題は、再び角と尻尾が生えてこないか、ということだったが、その辺りは自らの意思でどうとでもなるようだった(ただ、気を付けてないと、“バイオヴァリアブルメタル”が、肉体の魂に合った正しい姿に“自己修復”しようとするため、勝手に角と尻尾が生えてきてしまう)。
後は、引きちぎった角と尻尾、そして周囲に飛び散った血液を霊能力『状態変化』で気化させて証拠隠滅した。
それからの数日は、とにかく耐える数日だった。
シロックに裸体を曝し、サディスティックな奴の趣味にひたすら耐えるという屈辱の日々。
だが、そんな日々もようやく終わりの時が来た。
予想通り、竜眼島の研究所はゼロと共に消滅し、いよいよ追い詰められたシロックは、アタイ以外のクローンサイボーグ達を捨て駒にして、海底研究所へと向かった。
その向かう直前に、アタイ達を追ってきたヨウイチと出会ったが、間違いない、やっぱりアイツはアタイの宿敵、サウだ。
思わず素を出してしまったが、まぁ、挨拶代わりとしてはちょうど良かったかもな。
そして、シロックの誘導でゼロの海底研究所へと辿り着いたアタイは、速攻でヤツを殺した。
「ふぅ、ようやく元の姿に戻れるな」
シロックが死んだのを確認し、アタイは元の半魔人としての姿に戻った。
さて、残る問題はゼロだな。
奴は竜眼島の研究所の自爆と同時に、その意識と記憶をクローンNo.11、レイブンの身体にDLしているハズだ(シロックがそんな事を言っていたのを聞いたことがある。だからこそ、アタイ以外のクローンサイボーグ兵器を犠牲にしてまで、ゼロと合流するためにこの海底研究所まで逃げてきたのだ)。
レイブンはサイボーグとしての改造を受けていない生身の身体だから、不意をつければ殺すことも容易いだろうが、奴はアタイ達の首輪の“電流発生装置”で、アタイ達を力ずくで支配することが出来る。
とりあえずは奴に従うフリをしておいて、この海底研究所に眠る他のクローンサイボーグ姉妹達を目覚めさせ、彼女らをどうにかしてアタイの支配下に置き、ゼロを殺すタイミングを見図るのが一番か…
というようなことを考えていたタイミングで、恐らくは目覚めたばかりであろうクローンNo.11、レイブンの身体に自らの知識と記憶をDLしたゼロと鉢合わせした。
目覚めたばかりと判断したのは、奴がまだ一糸纏わぬ姿だったからだ。
理由は分からないが、竜眼島爆発から、奴が目覚めるまでに数時間のタイムラグがあったようだ。
だが、このタイムラグはアタイにとって好都合だ。
「やぁ、久し振り、と言えばいいのかな、ゼロ、いや、今は“レイブン”と呼ぶべきかな?」
「貴様…っ、フォルス!?
フォルス、何故お前がシロックを…!?
いや、それよりも何故お前に魂があるんだ!?」
ゼロは、アタイの角と尻尾を見て、この肉体に魂が宿ったことをすぐに理解したようだ。
「シロックの悪趣味とストレス発散のために、この身体は色々とイジメられててね、
ある日、長時間の電流拷問を受けていた時、この“フォルス”の身体の心臓が動き始め、それでアタイの魂が転生出来たのさ。
それから、アタイは魂が宿ったことを隠すために、ずっと角と尻尾を隠し続け、奴に従ってるフリをし続けていたのさ」
「何のために?」
「アンタと同じさ、ゼロ。
アタイの目的は、アタイの手でサウ、今はヨウイチと名乗ってるあの男を殺すことさ」
「なるほど、さしずめ、君は前世で余程彼のことを憎んでいたと見えるな。
ヨウイチへの強い愛故に転生してきた他の姉妹達と違い、
君はヨウイチへの強い憎悪故に転生してきた、といったところか」
「ま、そういうことになるのかね?
理由はどうあれ、ヨウイチを殺すためにシロックに従ったフリをし続けたアタイは、ようやくこの海底研究所に来ることが出来た。
後は、用無しとなったシロックを始末して、アタイの手駒となるクローン姉妹達を目覚めさせる。
それから…、」
そして、アタイは右手の“フィンガーミサイル”をゼロに向けた。
「ゼロ、あんたの存在も邪魔だから消させてもらうよ」
「まぁ、待て。
俺達の目的は一致しているハズだ。
であれば、俺の知識は有用だと思うが?
俺の知識と、フォルスの兵器としての能力、これが合わされば向かうところ敵無しだと思うが?」
「白々しいことを…!
あんたが存在していたら、アタイ達はこの首輪とボンテージ服のせいで自由に動けねぇだろが」
「ちっ…!」
ゼロは背後のカプセル室に逃げ込もうとしたが、それより早くアタイの“フィンガーミサイル”が火を吹き、奴の左目と心臓を電気的に動かすためのチョーカー型デバイスを吹き飛ばした。
「ぐっ…ぁあ゛ああああああ゛っ!?!?」
奴は左目を抑えながら床に倒れ混み、そのまま意識を失ったようだ。
「ははは!呆気ないもんだねぇ!!
これでアタイの邪魔をする者はもういない!!
後は残りの姉妹達を目覚めさせ、ヨウイチをこの手で殺すだけだっ!!」
アタイは床に倒れたゼロをその場に放置し、他の姉妹達の眠るカプセル室へと向かった。
*
アタイがカプセル室へと向かう扉を開いて先へ進むと、通路には二人の裸同然の少女がいた。
「…おや、もうすでに目覚めている個体がいたのか」
「あなたは、サイボーグNo.4、フォルスですね?」
「何故、あなたがここにいるのですか?」
さて、ここはどう答えるべきかな?
「それは、竜眼島の研究所が敵に襲撃されて無くなったから、ここに逃げてきたのさ」
アタイがそう言うと、彼女達(首輪の錠前の数字から、トゥエニとフィフティーナだと分かった)は、アタイを同じ仲間のクローンサイボーグと認識したらしく、特に警戒することもなくアタイに近付いてきた。
このまますんなり仲間になってくれれば、なんて甘い期待を抱いたが、二人はアタイの右手を見て、“フィンガーミサイル”が使われたことに気付いたか、一定の距離をとって立ち止まり、アタイに尋ねた。
「フォルス、先程の銃声ですが、あれはあなたの仕業ですか?」
「そうだが、それが何か?」
「では、その“フィンガーミサイル”で、何を撃ったのですか?」
「ふふ、さて、誰だと思う…?」
「まさか、ゼロ様を…!?」
「やはり、起動時にゼロがマスター登録されているか…
仕方がない、勿体無いがお前達は破壊するしかないな」
一度マスター登録されると、上書きが出来ないからな(アタイ達を作ったらゼロか、ヨウイチなら可能かもしれないが)、勿体無いが二人を仲間にするのは諦めざるを得ないようだ。
アタイは右手を二人に向け、“フィンガーミサイル”を放った。
二人は避けようとしたが、二人が並んで立つことが出来る程度の狭い通路のせいで、完全に避けきることが出来ず、二人の肩や腕に銃弾がヒットする。
しかし、痛みを感じないアンドロイド型サイボーグである二人がその程度で止まるハズもなく、血を流しながらもアタイの方へ向かって来て、攻撃をしようとしたが、それを予測していたアタイは、左腕の“レーザーソード”を起動させ、二人の間を縫うように駆け抜けながら二人の身体を切り裂いてやった。
「遅いよ」
二人と背中合わせとなる形になると、アタイの背後で二人の身体が倒れる音がした。
チラリと視線を後ろに向けると、二人の身体から血が噴き出しているのが見えた。
「ただのアンドロイドなら、その程度じゃ痛くも痒くも無いだろうが、
アンドロイド型サイボーグなら、その体内を流れる人工血液が尽きてしまえばその活動を停止する。
自己修復機能が間に合うのを祈ることだね」
アタイは左腕に浴びた返り血を床に向けて払いながら、残る二人のサイボーグ、サティスとフォティスの眠る部屋へと入るために、その扉に手をかけた時、背後から予想だにしていなかった声が聞こえてきた。
「トゥエニ!フィフティーナ!!」
その声に振り向いたアタイの目に入ってきたのは、データ室の方からやって来たレイブンが、血まみれになって倒れているトゥエニとフィフティーナに駆け寄る姿だった。
まさか、あの状態からゼロが復活しただと…!?
くそっ、奴の身体は生身のハズじゃなかったのか!?
「まだ動けたのか、ゼロ…っ!」
アタイは内心の動揺を奴に悟られぬように、口を開いた。
「フォルス!よくも二人を…っ!妹達をこんな目に合わせたな…っ!!」
「その妹達を兵器として改造し、愛玩道具として可愛がっていたお前がよく言うな…」
「うるさいっ!黙れっ!!」
「それに、妹達と言っても遺伝子上そうなだけで、魂的には全くの赤の他人だ。
第一、その二人にはその魂すらないじゃないか?」
「うるさい、うるさいっ!!
それでも…!!こいつらは、オレが…、ゼロが生み出してしまった、大切な“家族”なんだ…!!」
どうも様子がおかしい…
ゼロがそんなことを言うハズが無い。
アタイらを武器か、さもなくば鑑賞物としてしか見ていなかった奴の口から“家族”なんて言葉が出てくるハズが無い…
まさかとは思うが、奴の身体に、全く別の人間の魂が宿ったのか…!?
そう思い、奴をよくよく見れると、アタイの魂がざわつくのを感じた。
この感じ……、アタイは、奴を知っている……!?
「…お前、ゼロじゃないな!?
その中に入ってるのは誰だ!?」
奴はアタイの問に答えることなく、気付けば、奴がアタイの目の前に立っていて、アタイの身体を思いっきり殴り飛ばしていた。
「ガッ…!?」
アタイは狭い通路の端の壁に叩き付けられた。
この力…っ、到底生身の身体で出せる力じゃ無いぞ…!?
これはまさか……!?
「この力…!『身体強化』の霊能力…!」
そうだ、この感じ…!前世で覚えがある…!
ヨウイチと一緒にいた、もう一人の霊能力者、
「まさか、お前はツキヤ、なのか…!?」
「オレのことを知ってるのか…!?
いや、そうか…、その先端が千切れた特徴的な魔人の尻尾は、デス、お前なのか!?」
やはりそうか!
はははっ!まさか、まさか、まさかっ!!
ツキヤまでこの世界に転生してくるとはっ!!
しかも、アタイと同じクローンの肉体にっ!!
こんな偶然があるなんてなっ!!
いや、これはアタイ達にとっては必然、運命なのかもしれないな…!
「ふふ、あはははは!!
そうか、まさかアンタまで転生してくるなんてな!!
ということは、やっぱりアンタもアイツのことが大好きだったってことか、ツキヤ、いや、ツキヨちゃん?」
アタイはわざと本名の方を強調して言ってやった。
ツキヤは、何故かツキヨという女のくせに、男のフリをしてヨウイチ(サウ)の側に常にいた。
何の理由があってそんなことをしていたのか分からなかったが、今なら少しは分かる気がするな…♪
「うっ、うるせぇっ!!
そんなことは今はどうだっていいだろが!!
それより、これ以上オレの妹達に手を出すって言うなら、」
レイブンは顔を真っ赤にしながら啖呵を切っているが、奴の力だけではアタイに敵わないことは前世の頃から分かっているハズだ。
それを思い知らせるためにも、アタイは前世の頃に得意だった技を使うことにした。
「どうするって?」
アタイは両手を前に出し、空中に無数の氷の塊を出現させた。
「なっ…!?」
「おいおい、忘れたとは言わないよね?
アタイの、“死神”としての能力を?」
半魔人として魔力を持って生まれた霊能力者のアタイのオリジナル魔術、水の魔術である『アクアショット』を霊能力『状態変化』で氷に変換して放つ『アイスショット』。
それをアタイは連続でレイブン達に向けて放った。
「さぁ、避けられるものなら避けてみな!
まぁ、避けたら後ろにいる二人に当たるだけなんだけどな!」
「クソっ!!」
レイブンは『身体強化』で出来るだけ身体の防御力を上げて『アイスショット』を迎え撃とうとしたようだ。
しかし、いくら防御力を上げたところで、生身の、一糸纏わぬ姿の今の奴では、ただではすまないだろう。
勝ちを確信したアタイだったが、直後、無数の氷の塊は奴の背後から飛んできた無数の雷の矢によって全て相殺されたのだ。
「え…!?」
「な、何っ!?」
同時に驚くアタイとレイブン。
レイブンの背後を見ると、そこには血まみれになりながらも、必死に立ち上がるトゥエニとフィフティーナの姿があった。
まさか、あの二人もまだ動けたとは…!
いや、あの二人の身体にもまたレイブンと同じように、転生した魂が宿ったのか…っ!?
「トゥエニ!?フィフティーナ!?
お前達、大丈夫なのか!?それに、その姿…!?」
よく見れば、トゥエニからは魔人の角と尻尾が、フィフティーナからは鬼のような角が生えていた。
「まさか、この土壇場でその二人にも魂が宿るとはな…ッ!!
それに、その姿は魔人と“鬼人”か?」
ということは、先程の雷の矢は、トゥエニが雷の魔術で、フィフティーナが雷の呪術で放ったもの、ということか。
しかし、亜人である“鬼人”の魂とは珍しい。
アタイ達の元いた世界には存在せず、別の世界に住む人間種として知識だけはあったが、実物を見るのは初めてだな。
「はぁはぁ、ゼロ様を…、」
「傷付けるのは、許さないんだから…っ!!」
二人はふらつきながらも必死に倒れないよう踏ん張っている。
レイブンはそんな二人に駆け寄り、二人を両肩で支えた。
「お前達無茶をするな!」
「ですが…、あのままでは、ゼロ様が危ないと…、思いましたので…」
「まだ、目覚めたばかりで記憶が曖昧だけど…、ゼロ姉ちゃを、助けなきゃって、思ったの…!」
「二人とも…、」
やれやれ、なかなかに感動的なシチュエーションだが、すっかりアタイの存在が無視されちまってるな…
アタイは三人に向けて右手を前に出し、その掌の先に通路の幅とほぼ同じ長さの直径の、巨大な円錐状の氷の塊を出現させながら声をかけた。
「おーい、アタイのこと忘れてもらっちゃ困るんだけどー?」
その声に、ようやくこちらを向いた三人は、巨大な『アイスショット』を目にして絶望的な表情を浮かべた。
ははっ!いいね、その表情っ!!
「一応最後に聞いておくけど、三人はアタイの下部になるつもりは無いんだよね?」
「ああ…!」
「ええ、我にとって仕えるべき主は、ゼロ様…、と偉大なる【吸血騎】であるあの方のみ」
「オイラだって!ゼロ姉ちゃと、【吸血騎】であるヨウ兄ちゃ以外には従うつもりないもん!!」
ふむ、ヨウ兄ちゃ、と言ったか。
名前が似てるだけの別人の可能性もあるが…、
「だよね、そっちの二人も、その身体に転生した以上は、アイツの前世の関係者で間違いないだろうし、
それなら、大好きなアイツを殺す手伝いをしてくれるわけがないよな。
本当に残念だけど、君達とはこれでお別れだ、さようなら」
アタイは巨大な氷の塊をレイブン達に向けて放った。
*
結果、アタイの放った氷の塊は誰もいない床に突き刺さった。
「消えた…?
『転移魔術』か?いや、魔力の流れは感じなかった…
となると、超能力による『テレポート』…?」
アタイは三人が先程まで確かにいた場所まで歩いていき、三人の姿が間違いなく消えていることを確認した。
「…ふふ、まぁ、いいか。
懸念は残るが、それより今は邪魔者がいなくなったことを喜ぼう。
早速、アタイの計画の第一段階を進めるとしようじゃないか」
ちなみにアタイも超能力が使える。
前世では使えなかった能力だが、元々魂の無かったこの肉体に魂が宿り、その後に何度も死にかける程の電流を受けたことで、脳が刺激され、超能力が覚醒したらしい(と、後にジョウゴが推察していた)。
アタイの超能力は『物質転移』、自分以外の人や物、そして場所を具体的にイメージすることで、自由自在にその人や物を『転移』させることが出来る。
勿論、アタイが知識として正確にその人や物、転移させる場所をイメージ出来なきゃこの能力は使えない。
自分を転移させられないのが欠点と言えば欠点だが、アタイ自身は『転移魔術』を使えるので、魔法陣を書く手間さえかければそこまで問題ではないだろう。
閑話休題。
海底研究所に一人だけとなったアタイは、サティスとフォティスの眠るカプセル室に入り、二人を起動させた。
「…サイボーグNo.13、サティス、起動開始しました」
「…サイボーグNo.14、フォティス、起動開始しました」
ボンテージ衣装のみを纏ったサティスとフォティスがカプセルの中から起き上がった。
「ふふ、お早う、二人とも」
「…あなたは、サイボーグNo.4、フォルス」
「…マスター認証、確認。
以後、サイボーグNo.4、フォルス様をマスターとして登録致します」
「ああ、アタイがお前達のマスターだ。
よろしく頼むぞ」
「「了解しました、マイマスター」」
よし、とりあえずは優秀な駒が二人手に入ったな。
さて、ここからどうするか。
出来ればもう少し駒を増やしたいが…
そういや、データ室を挟んだ向かい側の実験室に、まだ未完成のクローン個体がいるんだったか?
とりあえずは、そいつを完成させてみるか。
*
クローンサイボーグNo.16、ゼクスティーナは実験室の、培養液の入ったカプセルの中に入れられていた。
その身体には、すでに彼女を従わせるためのボンテージ服や首輪が付けられており、見た感じはほぼ完成形に見えたが、内部の改造などがまだ完了していないようだった。
「…しかし、それもあと数時間で完了するようだな。
ゼロの奴、予め自分がレイブンの身体にDLされることを見越して作っていやがったな?」
まぁ、奴がどこまで計算していたのかは分からないが、ゼクスティーナはありがたくアタイが利用させてもらおう。
改造そのものは、培養液の中で“バイオヴァリアブルメタル”がプログラム通りに勝手に成長していくので、アタイは完成するまで数時間眺めているだけで良かった。
そして数時間後、完成したゼクスティーナを培養液の中から取り出し、起動させた。
「…サイボーグNo.16、ゼクスティーナ、起動開始しました。
…あなたは、サイボーグNo.4、フォルス。
…マスター認証、確認。
以後、サイボーグNo.4、フォルス様をマスターとして登録致します」
これで駒が三人。
少々心もとない気がしなくも無いが、ヨウイチにとって妹となる彼女らは、間違いなく奴の弱点となるだろう。
そう考えれば三人でも十分と言えるのではないか?
…いや、確かにコイツらは妹だが、魂が無い。
であれば、守るべき姉妹としての優先度は低くなり、転生した姉妹達を守るためなら、コイツらは切り捨てられるのでは?
事実、シロックの屋敷でアタイらが逃げるための時間稼ぎに使われたクローンサイボーグ達からのその後の通信が入っていないことから、少なくともアイツらはヨウイチ、もしくは姉妹達によって起動停止させられたのだろう。
であれば、コイツらにも何かしらの魂を転生させてやることが出来れば…、
「そのサイボーグ達に、魂を転生させて差し上げましょうか?」
その時、突然実験室にアタイ以外の何者かの声がした。
いや、この声はシロックの声だ。
だが、奴は死んだハズ!?
振り向いたアタイの目に入ってきたのは、確かにシロックだった。
アタイが“フィンガーミサイル”で撃ち抜いた傷は完全に塞がっており(服にだけ穴が開いた状態だ)、先程まで死んでいたのが嘘のような状態だった。
まさか、シロックが蘇ったとは思えない。
となれば、奴の肉体に何者かの魂が宿った…?
「…アンタ、何者だい?」
アタイはいつでも“フィンガーミサイル”を撃てる状態で、奴にそう尋ねた。
「そう警戒なさらずとも大丈夫です。
私はあなたの味方ですから」
「自分を味方だって言う奴ほど怪しいもんだがね」
「まぁ、確かにその通りかもしれませんね。
では、味方である証拠に、報酬の先払いを」
「報酬、だと…?それは一体、」
アタイが質問する間も無く、奴は指をパチンと鳴らした。
すると、アタイの背後で同じくいつでも攻撃できるよう待機していたサティスが、アタイの命令無しに口を開いた。
「…んニャ?ウチは一体ニャにを…?
って…、ニャニャがぁああっ!?頭がっ!?お尻がっ!?背中が痛いニャあ゛ぁあああああっ!?!?」
サティスが命令無しに口を開いたこと以上に、その特徴的な喋り方に驚いたアタイは、目の前の脅威も忘れて振り向いた。
すると、そこにはネコのような耳と尻尾、そして背中からは魔人の翼を生やしたサティスの姿があった。
アタイと目が合ったサティスは、その懐かしい口調でこう言った。
「あ…、い、イーディスちゃん…?
イーディスちゃんニャの!?」
ああ、この感じ…、間違いない!
今、サティスの肉体に転生したこの魂の正体は、前世の我が“相棒”、イシスだ………!




